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残念ながら、僕達は  作者: 桜油
一部三章『水無月クロニクル』
28/67

3−6

こんにちは。

昨日の続きです、どうぞ。

意気揚々とジェットコースターに搭乗してから3時間後。

すっかり正午をまわってしまった時間帯、飛鳥はジェットコースターの出口でげっそりと肩を落としていた。

理由は簡単。


「ジェットコースターが止まるとか聞いてない……」


機材トラブルでジェットコースターが途中で停止してしまい、そのまま3時間ジェットコースターで過ごさざるを得なかったからである。

最初は良かった。徐々に、ジリジリと上へ登っていくジェットコースターに揺られながら、下る時には嘸かし爽快感が得られるだろうと心を躍らせたものだった。

しかし、よりによってその頂点、下るその直前で止まってしまうとは想像だにしていなかったのだ。

高所故の風の強さ、絶景が霞むほどの恐怖心に只管3時間耐えたかと思えば、いきなりグンと、とんでもない速度で下っていく機体。

『志瑞のビビった顔を見る』なんて目的を達成する余裕もあるはずがなく、「ぎゃああああああああああ!?」と全く女性らしからぬ声を出してしまった。

それどころか、スタッフかシステムかは分からないがいつの間にか撮影していたらしい絶叫シーンの画像では、最早言葉ではとても言い表せないほどに不細工な顔をしていた。

マジでいらないお節介。黒歴史でしかない。今すぐ消してほしい。


しかもだ。

志瑞はとんでもない裏切りをしやがったのだ。

飛鳥は鬼の形相で志瑞を睨みつける。全く心当たりがなさそうに首を傾げる彼に構わず、飛鳥はビシィッ!と指を指した。


「志瑞、なんで全然ビビってないわけ?苦手なんじゃなかったの!?」


そう。『志瑞実はジェットコースター苦手説』は、反証を以て覆されたのだ。

飛鳥の黒歴史になっている絶叫シーン画像。飛鳥の隣に座っているはずの志瑞は、平常通りの表情で。

本当、彼はとんでもない裏切りをしてくれたというか、なぜあんなにジェットコースターに乗るのを拒んだのかよくわからないままだ。


飛鳥の迷推理、言いがかりに志瑞は眉を少し下げた。


「いや、苦手じゃないよ。乗る前にも説明したけど、遊園地、本当に行ったことないんだ」

「それは確かにそう言ったけど……えっ、嘘じゃないの!?」

「ひどいなあ。僕は嘘をついたことはないはずなんだけど」


酷く心外そうに肩を竦めた彼に飛鳥は「嘘だッ!」と更に凄んだ。

だって、『評議会』にいたくせに『恩人』についてはぐらかすし。知らないわけないのに『さあ?』じゃないでしょ。

今もぶすくれている飛鳥に彼は「それも嘘ではないんだけどなあ」と頭を掻いて苦笑を浮かべる。

だが、すぐに咳払いをして「で、どうする?」と問いかけてきた。


「どうするって……次のアトラクションを何にするかってこと?」

「いや。これからも僕を連れて行くのかなって」


志瑞からの返答に、思わず飛鳥は「はあ?」と声を漏らす。

彼は続けた。


「僕さえ乗らなかったら、きっと普通に楽しんで、今頃は他のアトラクションを遊べていたはずだよ」

「そんなわけ、」

「あるよ。だって僕は『呵責』……『マイナス』を引き寄せるからね」


そう言って、彼はいろんな遊具を見渡す。釣られて飛鳥も辺りを見回す。

多くの乗客が利用しているが、何のトラブルもなくアトラクションを楽しんでいる。

たしかにそうだ。あの舞月財閥が手掛けるテーマパーク、そんな早々に不運に見舞われるなんて、天文学的確率だろう。

それを偶然ではなく必然になるほどに引き寄せられる。志瑞の『呵責』、『不幸体質』とはそういうもの。

彼が乗らなければ、あの乗客たちと同様に普通にアトラクションを満喫できる。そう考えたから、志瑞はこうまで遠慮しているのか。


「なるほど?一理あるかも。志瑞、すっごい不幸体質だし」

「うん」


飛鳥が頷いてみせると、志瑞は頷いた。

その笑みはいつもと変わらずヘラヘラしているように見える。なんとも胡散臭い、軽薄なソレだ。


……けれど、やっぱりどこか寂しそうだから。

昔、『人外の自分はここで大人しく死んでおくべき』と殻に引きこもっていた自分自身を思い出すから。


「だから、飛鳥ちゃんは一人で」

「志瑞、次はこっちに一緒に乗ろう」


だから、飛鳥は志瑞の手をまた引いた。

彼の目が大きく見開く。酷く驚いた様子で飛鳥をみる。

ソレを見て、飛鳥はいたずらが成功した子どものように笑った。


「飛鳥ちゃん?」

「トラブルとか関係ないし。そんなに言うなら、いっそそれごと楽しんでやるっての」


戸惑ったように飛鳥を呼ぶ志瑞に、立ち止まることなく、アトラクションへと歩を進めながら飛鳥は答えた。

息を呑むような音が聞こえたが、彼がどんな表情をしていたのかは飛鳥には分からない。

ただ、確かめる理由もない。

そのまま目的のアトラクションーメリーゴーランドの前に辿り着いて飛鳥は振り返った。彼はメリーゴーランドも初めてなのだろうか、目を輝かせているようにも見えた。

そうであればいいと思う。遊園地は飛鳥も初めてだが、楽しまないと損だろう。


「全部のアトラクションを制覇するんだから。覚悟しといてよね」


そう言って、意気揚々とメリーゴーランドに乗り込んだ。


……そして、予想通りトラブル続きだった。


メリーゴーランドでは、なぜか全然止まる気配が無くて30分足止めを食らった。


「ちょっと、何で止まんないの!?」

「いい曲だねえ。これをじっくり聴けるなんて、逆に幸運かもしれないぜ?」

「落ち着きすぎ!少しは焦りなさいよ!?」


ウォータースライダーでは、水がかかりすぎて全身びしょ濡れ。『ITレンズ』の換装機能を使う羽目になった。


「服装……さっきと同じじゃ代わり映えしないし……でも、遊園地だからカジュアル目にしたいし……これとか?いやいや柄じゃないし。気合入りすぎだし。でもなあ……そっちはなあ……」

「まだかかりそうかい?」

「うっさい!」

「?」


空中ブランコでは志瑞と飛鳥のチェーンが絡んでしまった。


「何がどうなって絡まってんの!?物理法則の膝が笑ってるレベルで絶対おかしい!」

「これが『呵責』だよ」

「ドヤ顔してないで解くの手伝って!?」


お化け屋敷では、飛鳥が志瑞のパーカーのフードを引っ張ることで首を意図せず締めて絞殺未遂する悲しい事件が起きた。


「志瑞!アンタ護衛でしょ?ちゃんと守ってよね!前衛よろしく!」

「うん、まあいいけど……、あ、後ろから来た」

「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

「かはッ……!?」

「いやああああああああ!!!」

「…………ッ」


なお、出口で。


「はあ……はあ……疲れた……」

「こっちは死ぬかと思った……」

「お疲れ様です、お楽しみいただけましたでしょうか」

「いやあああああああああああああ!?」

「がッ!?」

「……あ、スタッフさんか。もう、驚かせないでよ」

「申し訳ございません。それより、その、お連れ様は大丈夫でしょうか……?」

「え、……あ、ああ、志瑞!?無事!?傷は浅いから!」

「僕の体質知ってるでしょ。心配しなくていいけどその不吉な言い方は止めてほしいかな」

「ええ……?」


スタッフの登場に驚いた飛鳥が志瑞の首の骨を圧し折ってしまい、志瑞が死を無かったことにするという事故も起きていた。


他にフリーフォールでは、何故か速く上昇して遅く下降するような仕様に変わってしまった。

コーヒーカップでは飛鳥達の乗ったカップだけ異様に早くて、遠心力で志瑞だけが遠くへ吹っ飛んでしまう事故があったー飛鳥は腕力でしがみついて事無きを得たー。

バイキングでは機材トラブルこそ無かったものの、飛鳥が酔ってしまって嘔吐してしまい、再度『換装機能』を使用した。

キッチンカーに寄れば料理がちょうど材料が切れてしまい、スタッフに声をかけて風船を貰おうにも、なぜかアーチェリーの矢がどこからともなく飛んできてすぐ割れる。


挙句の果てに、観覧車ではまたもや頂上付近で停止し、かれこれ一時間は閉じ込められている。

なんて既視感。具体的にはジェットコースターで似たような経験したなあ。

飛鳥が遠い目をしていると、花火の音が聞こえる。

外を眺めたら、花火が上がっていて、遠目に見えるステージがキラキラと色んな色に輝いている。魔術式も微かに見えるのは、飛鳥の視力の賜物だろう。

時間を確認すれば、もう20時。19時半から始まっていたであろう『STELLA』ショーもクライマックスなのか。

閉園時間も近い。それまでに帰れたらいいけど、とため息をつく飛鳥の横で、志瑞は肩身が狭そうというか、ひどく申し訳なさそうな様子で口を開く。


「飛鳥ちゃん、ごめんね」

「うん?」

「僕がこんなだから、今日一日は台無しだ」

「……」


飛鳥は彼の言葉に一日を思い返す。

トラブルばっかり。たしかに散々といえばそのとおりだろう。

……だが、不思議なことに、憤慨するような感情は微塵も湧いてこなかった。

黙っている飛鳥に彼がついに頭を下げ始めたが、飛鳥は無理やり顔をあげさせ、頬を抓った。


「い、いひゃいよ、あひゅひゃひゃん」

「しつこい。そりゃあ問題だらけだったけど、私が志瑞を誘ったのはそのへんもちゃんと考えたうえでのことだから。それで良いの」

「ひょえ?」

「それに、なんだかんだ楽しめたんだから、謝んないでよ」


本音を伝えたら、志瑞は今日一番呆けた顔になった。

飛鳥が頬を離し「それとも何。志瑞は楽しくなかったの?」と問えば「いや、そんなことない」と即答された。

あまりにもブンブンと必死に首を縦に振るものだから、おかしくって笑えてくる。

「なら、よろしい」と飛鳥が返した後、少し沈黙が流れた。

ただ、花火の音だけが観覧車のゴンドラの中を満たしていた。

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