3−4
こんにちは。
次は志瑞空と七世飛鳥の親睦回?です。
では、どうぞ。
6月下旬。
今日も今日とて暇を持て余している飛鳥はいつものように『ソーサリータクト』に足を運ぶ。
店主が「いらっしゃいませ。いつものですね、後でお持ちします」と言って裏へ下がっていくのを後目に、飛鳥はきょろきょろと桜乃の姿を探す。しかしどこにも見つからず、肩を落とした。
桜乃とはいつでも店で会える。そう思って素直に帰ったのが仇となったか、桜乃とは一向に会えずにいた。
バイトを辞めたのかと思ったが、店主は『店員のシフト事情を客には言えない』の一点張りだ。
もう『ロスト』の補足情報については諦めるしかないのかな。
内心ため息をつきながら席を探していると、「飛鳥」と聞き馴染んだ声で名を呼ばれた。
振り返ると、霧乃が手を振っている。こっちに来い、と誘っているらしい。
「霧乃ちゃんも来てたんだ」
その席に駆け寄った飛鳥に「まあね。仕事が一段落したから、彼と一緒にティータイムと洒落込んでいるところさ」と霧乃が奥にいる志瑞を指した。
志瑞が「やあ、飛鳥ちゃん」とひらひら手を振るのに「ん。おつかれ」と返しつつ霧乃の向かいに腰をかけると、霧乃は豆鉄砲を撃たれた鳩のような表情で飛鳥と志瑞を見比べた。
普通にしているだけなのにそんな顔されるとは甚だ心外だ。飛鳥はぶすくれた。
「何よ、もう」
「いや、何。随分と打ち解けたみたいじゃないか」
「別に。普通でしょ」
「そのはずはない。最初は私からの命令を破って単独行動をするほど毛嫌いしてただろう?」
「さすがにそんなこと」
ないはず、と言いかけて、思い出す。
『ポルターガイスト』の件では確かに、『こんな胡散臭くて不気味な奴と一緒に行動など気が知れない』と思って独りで行動していたような。
「ほら、変わっただろう?」
飛鳥の心を読んだように霧乃がそう笑う。飛鳥はぷいっとそっぽを向いて、「まあ。志瑞のことは少しくらい認めてやらんでもないって思ったし」と呟く。
志瑞は特に変わらずニコニコしている。霧乃は微笑ましそうに飛鳥と志瑞を見つめていたが、「ああそうそう」と思い立ったように口を開く。
「最近飛鳥はここに通い詰めているらしいな」
「ここしか行くとこ知らないし……」
もじもじと指を弄りながら、飛鳥は気まずげにそう返した。
アホみたいに『ソーサリータクト』に通ってしまっているという自覚がある飛鳥だが、伊達に桜坂市で数年生活していたわけではなく、地理はよく把握できているという自負がある。
桜坂市には遊園地、動物園、桜坂駅広場、ショッピングモールと色々な娯楽施設が充実していて、商店街があることも相俟っていつも人の往来が激しい。
桜坂駅広場やショッピングモールでは様々なアーティストがゲリラライブを開催している。遊園地や動物園では様々な劇団がショーを開催している。
舞月財閥が運営、出資していることも、有名人、芸能人を出演させられる理由の一つではあるが、やはり世界一と名高い劇団『STELLA』が桜坂市のイベントに割と参加することも魅力なのだろう。
劇団『STELLA』。志瑞司が桜坂学院の同期3人とともに立ち上げ、創立から100年経った今でも高い評価を受けている劇団である。
『STELLA』が参加するイベントは百万単位での動員が見込める。当然、同じイベントに参加すればそれだけの売名効果と利益が手に入るし、『STELLA』との絡みをアピールすれば更に注目を浴びるだろう。
『STELLA』が推すなら。『STELLA』が宣伝するなら。『STELLA』が勧めるなら。
裏の界隈での発言力トップが『国際魔術連合』、財界での発言力トップが舞月財閥ならば、『STELLA』は芸能界や表の界隈での発言力トップである。そう言えるほどに影響力のある団体である。
……閑話休題。
それほどまでに桜坂市の魅力を知っていて、それでも飛鳥が『ソーサリータクト』にしか行かない理由は至極単純。
せっかくなら『恩人』と一緒に行きたい、そんな感情。
ここしか行くところを知らないのではなく、ここ以外は自分独りや霧乃などの友人と一緒というのは勿体ないような気がするというのが正確であった。
さて、そんな飛鳥の内心などいざ知らず、霧乃は「まあ、この店もなかなか良いとは思うのだが」と何故か誇らしげに話し始めた。
「なんせ、私の先祖も常連だったらしい。かの偉大な設立者、城月怜と真白唯笑だな。つまり私の曽祖父母にあたる人たちだが、頻繁にここでデートしていたと聞く」
「はあ。たしかにいい雰囲気だと思いますけど」
飛鳥としては、ここで『恩人』と食事するには味気ないような気がする。
霧乃は続ける。
「それに、そんじょそこらのファミレスと違って居心地が良い。私も仕事に追われていなければ日中をここで過ごしたって良いのだが」
「店主が聞いたら『お前もか』ってなりそうだね。というか、実際にそういう顔してるや」
志瑞がホラと指した先をちらっと見れば、なるほど確かに『ブルータス、お前もか』と打ち拉がれるような顔をしている。
うん。私のせいだね、居心地良すぎるのが良くないと思うよ。
飛鳥の内心はともかく。
霧乃は「冗談さ。半分」と笑顔で話し、店主が『残り半分は???』と言いたげに霧乃を凝視しているのを無視して「だけどね」と話を転換した。
「どうせ暇なのだろう?少しくらい色々巡ってみたらどうだ」
霧乃からの思わぬ提案に、飛鳥はぽかんとした。
「単独行動は駄目じゃなかったっけ」
「志瑞を連れて行けば解決するじゃないか」
「いや、あの、」
最初は『恩人』と一緒に行きたいんです、とはなかなか言えない。
なんというか恥ずかしいような気がするし、言ったら絶対霧乃に揶揄われるという謎の自信があった。
志瑞はあまり嫌悪をにじませていない……どころか、まさかこの話の流れで志瑞の名前が出るとは思っていなかったのか、今まで集中して食べていたコーヒーゼリーを口の中から零して茫然としているし……。
せめて食べ続けてくれれば、彼は聞いていないものと見做すこともできたのに。うう。
霧乃は暫く飛鳥を見ていたが、合点がいったらしい。「ああ、なるほど。察した」と呟いた後に飛鳥の耳元へ口を近づけて囁いた。
「……愛しの『恩人』サマをエスコートするための予行演習と思えばいいだろう?」
「〜〜〜っ!?」
もしかして:私の考えていることは筒抜け。
「バカ、マジでバカ」と慌てて否定してみるも馬の耳に念仏らしい。霧乃は「ははあ。やはりと言ったところか」とニチャニチャしていた。
これでは分が悪い。飛鳥は、「と、とにかく!志瑞だって私と出かけるくらいなら仕事さっさとしたいよね?ね!?」と今度は志瑞の感情を理由に断ろうと必死だ。
しかし飛鳥は失念していた。『ロスト』からの帰投の際もそうだが、志瑞は、飛鳥との仕事以外での時間は願ってもないことなのだ。
「ほら、志瑞もなんとか言いなさいよ!」と必死だった飛鳥がここで初めて志瑞を見て目を剥いた。ニコニコなまま涙をブワッと流している。
「え、嘘、そんなに嫌がられるのは流石に心外……」
若干ショックを受けた飛鳥だったが、正気に戻った。
いや、心外でもないじゃん。寧ろ好都合だと。
「ほら霧乃ちゃん、こいつを出汁になんかしたって誰も喜ばない」
「ありがとう霧乃ちゃん!君には感謝してもし足りない!」
「……あれ?」
そこでようやく、飛鳥は先日一緒に帰ろうと提案した際の彼の反応を思い出した。
ああそうだった。なんかよくわかんないけど、コイツは私といると何か喜んでるんだった。うん、本当になんでだろう。好かれるような態度はほぼしてなかったように思うけど。
心当たりのない好意を向けられて頭が痛いが、霧乃は飛鳥を待ってくれるはずもなく、「ならば決定だな。二人でどこか出かけてくるんだ。諸々は私が手配しよう」と勝手に話を進めていく。
「あー!ちょっと待って、まだ納得してないから!」と手をブンブンと振って否定する飛鳥に、霧乃は「じゃあ何が不満なんだ」と話の腰を折られて不機嫌そうである。
あまり待ってくれなさそうな態度が、より一層焦燥感を駆り立てる。
えーっと、えーっと。
「ほら、私秘書業で忙しいから」
「はは、面白い冗談を言うじゃないか。日夜ここに入り浸っているくせに忙しいとは」
「そ、それは」
「まあよしんばそうだとして。巡回だって『JoHN』の業務の一つだから文句言わずやれ」
「でも、遊園地とか広場とかでしょ?遊んでるようなもんじゃん!」
「問題ない。初期構成員はパトロールしながら食べ歩きをしていたという記録が遺っている」
「問題大アリだよ!?」
「それはそれで地域住民との触れ合いになる。ほら、立派な仕事の一つだろう?」
「うう」
いよいよ否定材料がなくなってしまった飛鳥がなんとか捻り出そうと唸っているが、霧乃は「最後に、」と総括に入った。
「彼の期待を裏切るつもりかな?」
「は、」
霧乃が指した方向を見れば、そこには目をきらきらと輝かせた志瑞がいる。
……狡いなあ、と飛鳥は思った。
だって、そんな目で見られたら断れないじゃないか。
はあ、と深くため息をついて、飛鳥は項垂れるように頷くのだった。
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