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残念ながら、僕達は  作者: 桜油
一部三章『水無月クロニクル』
25/67

3−3

こんにちは。

風邪症状が一週間続いてて辛いです。

風邪をひいた時はいつも熱が出ないけど、そのかわり症状が長引くんです。

今の職場は人手を考えると簡単に休めないので、これを幸いに出勤していますが。


それはさておき、最新話です。どうぞ。

「……これが『恩人』さんとの出会い。どうですか、何か心当たりはありましたか?」


飛鳥は追憶をそこで締めて、桜乃に問いかける。

神妙な顔で聞いていた彼は、飛鳥のその質問にハッと我に返ったように彼女を見た、

少し考え込んでいたが、またも眉を下げていた。


「あー、その。とても素敵で感動的な出会いではあると思うが、自分にはやはり答えられそうにない」

「そうですか……」


桜乃の返答に飛鳥は「まあ仕方ないか」と妥協していた。

ここまで話を聞いてくれただけありがたいことだというのも理由の一つだが。


「大丈夫ですよ。駄目で元々でしたし」

「だが、しかし」

「顔も名前も覚えてないとか、人を探すうえで致命的ですし」


飛鳥がそう慰めて、そこでようやっと桜乃が顔を上げた。

まだ申し訳ない、という色を残しながら、しかし『これ以上謝ったところで謝罪を彼女が受け取ることはないだろう』と顔に書いているような表情だ。

裏の人間にしてはあまりにわかりやすい。飛鳥は思わず吹き出しそうになるのを抑える。


「そういえば、何故顔、名前など覚えていないんだ?」

「そうなんですよ。本当、『恩人』さんは困った人ですよね」


桜乃の質問に、飛鳥はそう苦笑を浮かべた。

恐らく、飛鳥の記憶を消したのだろうと思っている。

だがどうして消したのか、どうやって記憶を消したのか。それがわからないことには上手く説明できない。

あれは胡蝶の夢だったのでは、と自分の記憶すら疑ってしまいそうになる。本当、困った人だ。


飛鳥からろくな回答は出ないと察したのか、桜乃は別の質問へと切り替えた。


「最初の質問に戻そう。どうしてそこまで『恩人』を探しているんだ?」

「ああ、たしかに」


まだ明確に返答をしていなかったように思う。

とはいっても、飛鳥の中での答えは一つ。ゆっくり、それをなぞるように、言葉を紡いだ。


「『ずっと一緒にいてあげる』。その約束を果たすためです」

「……それだけ?」

「それだけって失敬な!」


桜乃の反応に飛鳥は憤慨した様子で捲し立てる。


「他にも理由なんてたくさんありますよ。私のこの記憶が本物だって確かめたい会いたいもっと『彼』のことを知りたい感謝を伝えたい『彼』に恩返ししたい。だけどそれを全部まとめるなら『二人ぼっち』の約束のためになるんです」

「お、おう」

「最早これは『一緒にいたい』なんてちゃちなモンではありません。言うなればこれは『どんな辛い世界の闇の中でさえもついていく』ってことです。『彼』がどういうつもりで私の記憶を消そうが私は私のエゴを貫く所存です。わかったら二度と私の覚悟を軽視しないでください。さもなくば処すぞ」

「わかった。わかったからからそのドスが効いた声で凄みながら詰め寄ってくるのを止めてくれ」

「ん、よろしい」


飛鳥は満足して頷き引き下がった。

霧乃や現海にもこうして話していたのだが、同じような反応をしていたのでその度にこうして凄んだものだ。懐かしい。

飛鳥は『恩人』強火担だった。そのあまりもの覚悟ガンギマリの様相に、『触れてはならない禁忌』のような扱いを霧乃や現海にされていることは露知らず。

それはさておき。

桜乃は冷や汗を流していたのをハンカチで拭いて、「それなら、自分にも考えがある」と口を開いた。


「『預言者』というのを知っているだろうか」

「『預言者』?なにそれ」


飛鳥はこてん、と首を傾げる。

全く聞いた覚えがない言葉だ。


「『陰成室』室長さんの二つ名だ」

「えっ、本当に知らないんですけど!?初耳ですよ!?」


桜乃の説明に飛鳥はぎょっと目を剥いた。

『陰成室』。全ての魔術式のスクロールや魔術に関する論文データを管理している魔術組織だ。

永世中立を掲げているが、『軍』『協会』『JoHN』に対しては友好的な態度であることもあり、同盟組織として扱う場合が殆ど。

その関係で飛鳥も『JoHN』全権代行の専属秘書として『陰成室』を訪ねることも少なからず。取引の承認者として当然『陰成室』全権代行という文字を目にすることだってある。

また、『陰成室』はその活動内容から、様々な組織と広く関わることになる。飛鳥も、『恩人』について何か情報を知らないだろうか、と目をつけていただけあって、霧乃に色々話を聞いていた。

もっとも、何故かこれに関しては霧乃の口が重く、『御厨調』という名前と、栗色のセミロングに桃色のインナーカラーが入っているということ、霧乃と同年代であるということくらいしか分からなかったが。


目を白黒させる飛鳥に構わず、桜乃は続けた。


「『ありとあらゆる全てに対して答えを得られる』から『預言者』。未来さえも言い当てられるらしい」

「はあ……」

「もっとも、彼女は情報屋としての活動をしていないから、聞いたところで望んだ答えを得られる保証はないが。聞いてみるのも手じゃないか?」


そんなに評判だったら、確かに聞いてみるのもありか。

そう思いつつも、「でも、」と躊躇してしまうのは……唯一その御厨調という人と繋がれそうな伝手の霧乃が、『陰成室』室長について聞いた瞬間にとんでもなく重たい雰囲気を放つから。

会うのも躊躇われるのに、紹介して、など誰が言えたものだろう。

でも聞きたい。『恩人』に会いたい。


うーん、と頭を悩ませる飛鳥に、救いの手が差し伸べられた。


「よかったら自分が取り次ごう」

「いいんですか?」

「ああ。自分が紹介しておいて放置するのも、蛇の生殺しだろう。何、個人的な伝手があるから取り次ぐのは容易いことだ」


そう提案してくる桜乃が、飛鳥には天使に見えた。


「……それとも、お困りではなかったか」

「いや、お困りです!」

「それもそうか。……お、返事きた。スケジュールの都合で来月にしか会えないようだが、それで良いか?」

「もう連絡ついたんですか!?いつの間に!というか来月に会えるって予想してたより早い!?」


あまりにも衝撃が多すぎて終始叫びっぱなしの飛鳥は、慌ててスケジュールアプリを開いて予定を入力していく。

7月末。朝10時に新央市の『陰成室』本部のラウンジに集合、受付嬢に『桜乃』の名前でアポイントをとっていると伝えること。仔細は御厨か桜乃まで。

トントン拍子で予定が決まっていった。

しかし、『陰成室』ともなれば『国際魔術連合』『軍』に次いで多忙な魔術組織のはずだが……『国際魔術連合』所属とは言えど下っ端の魔術師一人からの誘いにそんなホイホイと乗っかれるんだろうか。

もしや詐欺にあっているのでは?と半信半疑になって、飛鳥は恐る恐る口を開いた。


「え、っと、桜乃サン?そんなあっさり予定空けられるもんなんですか?」

「まあ、色々あってだな。さっきも言った通り、仕事ではなく個人の伝手だ」

「そんなもんなんですか……」

「そんなことより」


訝しむ飛鳥を遮るように、桜乃は話題を切り替える。


「最近『ロスト』を解決したらしいじゃないか」

「それは、そうですけど」

「自分としてはそちらの話も聞いてみたい」

「桜乃。そろそろ業務に戻ってくれると嬉しいのだが」


今度は桜乃の言葉を遮る形で店主がそう声をかけた。

たしかに、気づけば客の入りが増えている。一人では上手く客も回らないだろう。

やべ、夢中になりすぎた、なんて桜乃が呟き、慌てて席を立つ。


「話の続きはまた今度だな。君も早く帰り給え、お待ちのお客様がいらっしゃるようだからな」

「え、あ、はい」


促されるままに飛鳥は会計を済ませ外に出る。

見送りもほどほどに店へ戻っていく桜乃をぼんやり見て、ふと思った。


「あ、桜乃さんの連絡先知らないや」


聞きに戻るべきか少し考え、やがて『JoHN』のほうへ踵を返した。


「ま、いっか。また此処に来ればいいんだし」


『ソーサリータクト』にまた足繁く通うことが決定した瞬間である。

店主が聞いたら「やめてくれ」とげんなりした様子で止めそうだが、悲しい哉、また明日からも入り浸る予定であることは飛鳥のみぞ知ることであった。

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