3−1
ご無沙汰しております。
3章は小話集のような何かになっております。
最初は七世飛鳥についてです。
では、どうぞ。
『ロスト』を解決してから数週間後。
飛鳥は暇を持て余していた。
『ポルターガイスト』解決後もそうだったが、霧乃の業務スケジュールの都合上、志瑞が飛鳥に四六時中張り付くというわけにはいかない。志瑞は霧乃から回されたタスクを消化する必要があり、それがなかなかの量だから、多忙になってしまう。
時間を作れても、霧乃からの緊急の招集に応える必要がある以上、飛鳥と話はできても、共に『依頼』対応に赴いて護衛するというのは厳しい。
志瑞が一通り消化してまとまった時間を確保して、それでようやく飛鳥と『依頼』に関して打ち合わせが出来るのだ。
今は彼がタスクを消化している期間。秘書業務以外での単独行動を禁じられている飛鳥は、秘書としての仕事込みでも時間が余りすぎていた。
他の趣味を探そうにも、ゲームは以前飛鳥がパチンコ店での情報収集をしたせいか、霧乃に『教育に宜しくない』と取り上げられてしまった。読書は仕事をしているような気分になって落ち着かないし、運動しようにも、人外じみた身体能力を持つ飛鳥が悪目立ちしない場所などない。
魔術の勉強は霧乃や識名、現海のスケジュールに都合がつかない。体術の勉強も同様。
さらに追い打ちをかけるように、イベントが盛んな桜坂市といえど、梅雨入りした今はめぼしいものがない。次はどうしても地域の夏祭りや花火大会と少し先の話になってしまう。
故に。
急募:暇つぶしの方法。
こんな感じで、脳内でスレッドを立てられそうな程に退屈で飛鳥の思考は溶けていた。
部屋に引き篭るのも気が引けて、なんとはなしに『ソーサリータクト』に入店したものの……さて、これからどうしようか。
今日も今日とて時間をどう潰したものかと頭を悩ませている飛鳥。
そんな彼女に店員さんが近づいてくる。
恐らく注文を取りに来たのだろう。
ここ最近通いつめているから、飛鳥の顔を見るだけで『またかコイツ』といいたげな表情で、彼女がいつも頼んでいるマンゴーラッシーを何も聞かずとも運んでくるのが常なのだが……そういえば、今日はまだ運ばれてきていない。
じゃあ、今日は違う店員さんなのか。
そう思い至った飛鳥が注文を伝えようと店員へ視線を向けると。
「あ、ああ!?桜乃さん!?桜乃さんじゃないですか!」
桜乃為心ー八遠町で『ポルターガイスト』に対処していた時に会った間抜けな魔術師ーが店員をしていた。
「どうしたんですか桜乃さん!とうとう『国際魔術連合』クビになったんですか!?」
「会って早々に君は失礼だな!?」
桜乃はぎょっと目を剥いて、「いやクビとかじゃないから!普通に余裕でクビになってないから!」とよく分からない弁明をする。
なんだ。クビじゃないのか。
いや、じゃあなんでこんな辺鄙な……いや、辺鄙ではないけれど、バーの店員なんかしてるのか。
「というか、何故に自分のことを知っているんだ!何やつ!?」
「いやいや、八遠町でお会いしたじゃないですか。一言二言……たしか、個人情報設定の話しましたよね」
続けて問われた質問に飛鳥がそう答える。
桜乃はうーん、と少し……否、しばらく記憶を掘り返すように明後日の方向を見やり、やがて、ああ、と声を上げながら手槌をついた。
「ああ、方向まで教えてくれた親切な少女か!勿論覚えているとも!忘れるまで忘れないがモットーなものでなぁ!」
「……」
嘘ばっかりだ。アレは完全に忘れていた反応である。
そもそも『忘れるまで忘れない』ってなんだ。ふざけているのか。
ツッコミどころ満載の桜乃の発言。なんとか咀嚼し、喉まで出かかった言葉を抑え込んで、飛鳥は「ああ、はい」と頷いた。
「『国際魔術連合』の仕事はどうしたんですか?」
「休みを頂いているからな。バイトでもしているところだ」
「バイト……」
『国際魔術連合』は世界最大規模の魔術組織。所属するだけで将来安泰と噂されるほどのビッグネームだが……やはり何処でも同じように、上に上がらなければ給料はしょっぱいということか。
「世知辛い世の中ですね……」
「とんでもない誤解をされている?!いや、これはだな!情報収集の一環として組織からちゃんと許可を得て、」
「分かってますよ。男たるもの、やっぱり給料とかは見栄を張りたいですよね」
「何もわかってないッ!」
飛鳥からの同情的視線に桜乃がムキになって否定したが、意外と思い込みが激しい飛鳥には暖簾に腕押し。
「お疲れのようですね」
「君のせいだが!?」
「バイト休まれては……ああ、金欠だから休みたくても休めない……ってコト!?」
「……ああ、もうそういうことでいいや」
結果、桜乃は諦めて退散した。
結局注文を聞かれてない事に首を傾げた飛鳥だったが、店主に聞いたらしく、数分後にはマンゴーラッシーを運んできた。
もう片手にコーヒーを持っている。
「へい、お待ち」
「嫌ですねぇ桜乃さん。知ってます?ここは居酒屋じゃないんですよ」
「君は顔見知りだし、丁寧な接客など労力の無駄だ!」
「えっ酷い」
飛鳥がブーブーと文句垂れている間に、飛沫が跳ねるくらいには雑にマンゴーラッシーを置いた桜乃がどっかりと相席しだした。
「……えっと?今はバイト中なんじゃ、」
「店主に『いつも来てて余程暇なんだろうから相手してこい』と頼まれてな。あっさりといつもの注文が分かる辺りもそうだが、普段どれだけ入り浸ってるんだ?」
「多分、6時間くらい?」
「ネカフェ難民の真似事か。ならば、注文はどれくらい頼んでいる?」
「マンゴーラッシー一杯とケーキ一つだけ」
「ああ、店主が哀れだな。聞いた限り迷惑客でしかないぞ」
これは店主に恩を売れそうだ、と桜乃が少しやる気を見せていた。浮かべているのは苦笑いであったが。
「しかし、よく覚えていたな。少し話しただけだろう?」
「いやあ。流石に個人情報垂れ流し、方向音痴、ついでに記憶力もポンコツな『国際魔術連合』なんて忘れませんよ」
「……それもそうか?」
自分で納得するんだ、と内心突っ込みながら、飛鳥は続けた。
「それに、識名さんから聞きましたよ。なんだかんだ『幹部』候補生らしいじゃないですか」
飛鳥の言葉に桜乃は「あー」と少し困ったように頭を掻いた。
「自分は正直どうでも良いが、そういうことらしいな」
「え、なんで?給料アップのチャンスなのに勿体ないです!」
「……下っ端のほうが時間に融通がきくんだ」
狐につままれたような顔の桜乃のその言葉に、識名のスケジュールを思い浮かべる。
月月火水木金金といった感じでろくな休日がなく、寝る暇すら惜しむ、まさに社畜の鑑な彼女。
なるほど、確かに幹部では動きにくい場面もあるか。
「ああ、納得しました」
「そうか……」
どこか複雑そうな表情を浮かべる桜乃に飛鳥が首を傾げたが、次の瞬間、ハッと思い出す。
そういえば桜乃さんに聞きたいことがあったんだった!
どんなに間抜けでも『国際魔術連合』所属の出世株。『評議会』を潰すような実力者の情報くらい持っていても可笑しくない。
その実力者こそが飛鳥が会いたくて仕方がない『恩人』。
「桜乃さん」
「どうした?」
「教えて欲しいことがあるんです」
「なんだ、言ってみろ」
今まで揶揄っていた飛鳥が態度を一変させて神妙な顔で尋ねるから、桜乃も切り替えて真面目に聞く体勢に入った。
「私、探してる人がいるんです」
「ふむ。特徴はどうだ」
「あ、顔とか、声とか、名前は分からないです」
「なんだそれは」
少し呆れつつも「なら、経歴は?まさか分からないとは言わないだろうな」と続きを促す桜乃。その好意に甘えて、飛鳥は唯一知っている情報を提示した。
「『評議会』を機能停止させた人です」
「……なるほど?」
桜乃は視線を斜め上に逸らして暫く考え込んだ様子だったが、やがて飛鳥へと視線を戻し、少し申し訳なさそうな表情で口を開いた。
「すまない。自分のクリアランスでその情報は確認できなさそうだ」
「そうですか……」
やっぱり、そんなすごい人になるとトップシークレットなんだ。
そうなんじゃないかと思ってこそいたが、それでも落胆を隠せない。
飛鳥が肩を落としていると、桜乃は「力になれなくてすまない」と再度謝る。
「いえ、半ば予想していたことですから」
「情報屋を雇うことは出来ないのか?プロに探ってもらえばいいだろう」
彼の提案に首を横に振った。
宛がないのもそうだが、それとは別に理由がある。
「私から記憶を消して去るくらいです。よほどの事情があるだろうし、探るのはちょっと」
「だが、こうして周りに聞き込んでいるくらいだ。それこそ、ほぼ赤の他人に等しい自分にまで」
「う、」
そう言われると弱い。
確かにその通りだ。他人からの情報など真偽が確かではない。普通なら情報屋に報酬を支払うか、せめて身内に聞くべきなのだろう。
だが、それに縋ってでも、飛鳥は再会したい。
「そこまで躍起になっているとは、君にも込み入った事情があるんじゃないか」
「それは、そうですけど……私の我儘と言われたらそこまでですよ?」
「我儘だろうと関係ない。皆がみんな『組織』の為だけに動いている訳では無いからな」
それはそう。
飛鳥が内心そう思っていると、桜乃は「そうだ、」とさらに口を開いた。
「その人とどう出会ったのか、どうしてそんなに必死に探しているのか。是非、自分に聞かせてくれないか?」
「えっ」
「為人が分かれば、少しは分かることもあるやもしれない。物は試しだと思うが、どうだろう?」
桜乃の提案は目から鱗であった。
そうか、現海さんや識名さん、霧乃には散々聞かせている話でも、無関係の第三者視点から聞けばまた何か分かるかもしれないのか。
もしかしたら三人とも飛鳥に情報を伏せようと示し合わせているかもしれないし。名案かもしれない。
だが。
「えっと、絶対長話になりますよ?時間は大丈夫ですか?」
「問題ない。君の暇つぶしにもちょうど良いし、一石二鳥だな」
飛鳥が遠慮気味に懸念点を述べたが、桜乃はそう笑う。
そこまで言われてしまっては断る理由もなく。
桜乃のありがたい提案に飛鳥は乗っかることにして語り始めた。
飛鳥の『オリジン』、『生きる理由』そのものを。
明日から飛鳥の過去が語られます。
評価、ブックマーク、感想などいただけますと幸いです。




