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残念ながら、僕達は  作者: 桜油
一部二章『ロスト』
22/67

2−10

こんにちは。

2章後日談です。


では、どうぞ。

『『ロスト』。

『破壊』の力を所有する中学生相当と思われる少年、一条凱と、『不老不死』の体質をもつ、『汐宮宥』を自称する女性の共謀で生じた事件である。

汐宮の供述によれば、一条は集落にて『忌み子』として虐待を日常的に受けており、唯一心を開いていた対象・汐宮宥が傷つけられている姿を目撃して以降、『破壊』の力が暴走。

集落を滅ぼした後も彼は情緒不安定であり、汐宮がメンタルケアをしていたものの定期的に暴走するため、汐宮がせめて被害を最小限にしようと『結界』魔術で範囲を限定していたと説明。

尚、汐宮自身も結界内で犠牲者の死体を使役して人を襲っており、その理由は説明がなかった。

追加で現場や素性を調査したものの、一条は戸籍登録がなく、汐宮も死亡届が提出されていた為、詳細や真偽は不明。

また、『ポルターガイスト』と同様に第三者の魔術、彼ら自身の魔術や『異常性』、その他あらゆる科学技術でも事実再現性はないものと推測。

本件は両者を『JoHN』幹部の志瑞空が終了処分して以降、『ロスト』は発生しなくなった為解決している。

また情報が得られ次第、加筆修正する予定である。

担当者:七世飛鳥』


ふう。取り敢えずはこんなもんかな。

飛鳥は一息ついて、ITレンズの画面を一旦閉じた。

『ポルターガイスト』のときは何もわからないまま解決してしまったから、情報収集に奔走していた。しかし、今回は汐宮のおかげもあってか、報告書の作成はなかなかに順調である。

今回は『恩人』について有力な情報が得られなかったが、今こうして役に立っているし、今後も続けていこう。そんな決意を改めて固めた。

犯人にバカ正直に聞くのは情報収集ではないと霧乃なら突っ込みそうだが、悲しい哉、飛鳥のそんな思考回路を知る者はいない。


それに。今回、なんと志瑞からも話を聞けたのだ。


数刻前、志瑞が一条に『釘を刺した』後。

識名は「あー終わった終わったー。ほな、うちは他にも仕事あるから帰るわ。霧ちゃんには適当に報告書送っとくけど、あんたらもちゃんと提出するんやで」と颯爽にその場を後にしていた。

志瑞も特に感慨もなさそうにその場を去ろうとする中、飛鳥は気になることがいくつかあって。


「ちょっと、志瑞」


飛鳥がそう呼び止めると、志瑞はすぐ振り返った。


「どうしたんだい、飛鳥ちゃん」

「この後は予定あるの?」

「特に無いけど、どうしたの?」


こてん、と首を傾げる志瑞。空々しいし胡散臭いこと極まりない。

嘘を言われたり、はぐらかされたりするんじゃないか、なんて不安が襲ってくる。

だが、嘘でもはぐらかされてもすっとぼけられても、情報は情報だ。


「いくつか質問があって。帰り、私を送るついでにちょっと付き合ってよ」


そういった思いから飛鳥はそんな頼み事をした。

桜坂市内だから護衛は本来不要なのだが……どうかな?

胸がばくばくと激しく鼓動するのを感じて、緊張が強くなっていく。堪らず、きゅうっと目を強く瞑った。

志瑞が暫く豆鉄砲をあてられたような表情だったのだが、あまりにも返事がなくて不思議に感じた飛鳥がふと目を開くと、志瑞は満面の、花が咲いたような笑みを浮かべた。

え。そんなふうに笑えたんだ、この人。

呆気にとられる飛鳥の手を両手で包むように握った志瑞は、今までの空々しい笑みがまるで嘘のように、本当に心が踊っているような有り様だ。

心做しか周辺の空気がほわほわしているようにも感じられる。


「付き合う?え、つまり一緒に帰ろうって誘ってくれたの?飛鳥ちゃんが?え、勿論!一緒に帰ろう!」


きゃー!なんて言って喜ぶその姿は、年相応、否、それよりも子供っぽくみえる。

今まで胡散臭くて不気味な雰囲気を発していた、巷で『魔術師殺し』だの『這い寄る混沌』だの言われている人と同一人物とは全く思えない態度だ。

しかし、こうも全身で喜ばれるとむず痒いし照れくさい。


「あー、鬱陶しい。了解ってことだよね?ほら、ならさっさと出発するよ。報告書、今日中にあげちゃいたいから」


手ではたはたと顔を仰ぎながら帰路に着く。

識名が避難指示を解いたのか、わらわらと人が出てきて賑やかになっていく街中だ。志瑞に不幸体質を発揮されては質問ができないので、飛鳥が先導しつつ志瑞の手を強引に引いていく。

志瑞はもやしみたいにひょろひょろとしている。非力でもあり、こんなんで護衛が務まるのだろうか。

いや、今のところ立派に護衛の仕事を果たしてくれている。『ポルターガイスト』の件では飛鳥への攻撃を防いだし、今回も飛鳥に危険が及ばないようにしてくれた。

識名さんのせいで死ぬかと思ったけど。

閑話休題。

何度彼を見ても明らかに手ぶらだ。一体、お世辞にも体格が良いとは言えないこの貧相な体のどこから巨大な釘を取り出しているのか、甚だ不思議で仕方がない。

もっとも、そのへんは聞いたところではぐらかされるのが目に見えている。

別のことでも聞こうっと。

最初はジャブ程度に、飛鳥もある程度察しがついていることの確認から入った。


「まず。『結界』って結局魔術だったんでしょ。何で『やっぱり駄目だ』って言ったの?」

「たしかに、あれは魔術だから『無かったことにする』こと自体は出来たね」

「うん」

「けれど、『結界』こそが『ロスト』の範囲を限定するためのもので、壊したら最後、範囲が広がって呑み込まれかねない。勿論杞憂かもしれないけど、そのリスクを考慮したら『駄目だ』と考えたわけだ」


飛鳥の問いに、志瑞はすらすらと回答を述べる。飛鳥の予想通りだった。

だが、ここまではただの確認。飛鳥は深堀りをした。


「じゃあ、結界に対して釘をめっちゃ刺しまくってたのって何をしてたの?」

「『ロスト』の効果を無かったことにできないかなって。まあ『取り返しがつかない』類みたいで無駄だったけど」

「あと、『結界』って所詮ただの魔術でしょ?『破壊』が異常性か『ポルターガイスト』案件なのかは置いといて、魔術で上塗りできるような代物なの?」


その質問に、「あれ。飛鳥ちゃん、そんなこと知ってたんだ」と志瑞は驚いていた。

現海や霧乃から聞いたことがあった程度でその原理はよく理解できていないのだが、「まあね」とドヤ顔しておいた。

志瑞は特にそれに反応を示すでもなく、「ええっと、それはね、」と回答し始めた。


「魔術はある工夫をすれば『異常性』を一時的に上回って物理法則に干渉できるらしいよ。僕は出来ないけど」

「へー」


汐宮は『ある工夫』を魔術式に施していたということだろうか。

『ある工夫』の詳細も興味があるが、他にも確認したいことはある。飛鳥は一先ず別の話題へと切り替えた。


「わかった。じゃあ、次の質問。私と識名さんと合流する前ってどうしてたの?」


これもなんとなく予想はできているが、一応聞いておきたかったのだ。

そして、これもまた飛鳥の予想通りの回答だった。


「うん。まあ、お察しの通り。一条凱と交戦してたよ」

「ふーん。どんな感じの戦闘だったの?」

「最初、出会って早々とありったけの破壊の弾幕をぶつけられたから吃驚したよね」

「はあ」

「取り敢えず『釘を差した』までは良かったけど、傷の概念を壊されちゃって。その時点でなかなかだったけど、更に死の概念まで壊したんだよ?イカれてるよね」

「……ウン」


志瑞にだけは言われたくないと思う。

呆れ気味に見つめる飛鳥に構わず、志瑞は続けた。


「仕方ないから、関節をなかったことにして動きを封じようと思ったんだ」

「凄く唐突だね???」


かなり過程が吹っ飛んだ説明に飛鳥は思わずそう突っ込んだ。

志瑞は少し困ったように頬を掻いて、補足し始めた。


「いやあ。これはちゃんと考えた結果だよ?制御ができないだけなら兎も角、『汐宮ちゃんと自分以外の全人類が消えていなくなればいい』という明確な目的を持って『力』を振るっている。説得は困難で、生かして捕らえても『破壊』の力で脱走されるのが目に見えている。そして、死の概念を破壊したことにより殺して止めることすらできない。そんな相手、飛鳥ちゃんはどう止める?」

「えっと……」


諦めさせるしか無いような気がする。

そんな飛鳥の心を読んだかのように、「そう、」と志瑞は頷いた。


「力ずくで心を折るのさ。相手のトラウマや深層心理に土足で踏み入って、しっちゃかめっちゃかに掻き回して、『釘を刺す』」

「……」

「まず、磔にでもしてやろうと思った結果がアレだよ」

「はあ」

「しかし、どうも諦めが悪い。それでプラン変更。『結界』の件から、共犯者、相棒に近しい立場の人がいると察しはついていたから、それらしい人を探して『釘を刺す』ことにした」


識名ちゃんたちが既に交戦していたのは予想外だったけど、と志瑞はそれで説明を締め括った。

他にもまだまだ突っ込みたいことはあったが、もうそろそろ目的地も近い。

飛鳥は、次の質問に移った。これが本命で、これを聞くためだけに今までは確認作業に近いことをしていたのだ。


「『ようさん』って誰?」

「……聴こえちゃってたかぁ」


して、志瑞はまた頬を掻いた。

今度は心底返答に窮している様子だ。深入りしすぎたか。


「そんなに答えづらいなら、」

「いや。飛鳥ちゃんからの質問だし、少しだけ」


しかし、飛鳥が答えなくて良いのだと話す前に、志瑞は少し真剣味が増した表情で飛鳥を見てそう言った。

まさか、少しだけでも答えてもらえるとは。意外すぎて固まる飛鳥だが、志瑞は余裕がないのか待つことなく口を開いた。


「『ようさん』を倒したいんだ。僕じゃ勝てないから、その戦力探しをしている。残念ながら、今のところ大した戦力は集まっていないけど」


飛鳥ちゃんの護衛を引き受けたのも、僕がこの依頼を選んだのだって、それが理由で。

でも、その問題の『ようさん』の詳細は話せない。


そこまで一気に説明して、「今のところ話せるのはこれだけだよ。ごめんね?」なんて言われてしまった。

呆けていた飛鳥は、まさかの志瑞からの謝罪に、「いやいやいやいや、そんなに教えてくれるとか想定外だから!」と慌てて手をブンブンと振った。

脳内では今された説明を必死にメモしている。大忙しだ。

今も尚しゅんとした様子の志瑞。今まで、何故か、飛鳥と帰れる事実に浮かれていた様子だっただけに居た堪れなく「あ、えっと、」と必死に慰めの言葉を探す。


「あ、ほら、その。今まで受けた依頼は私も都合良かったし?割とウィンウィンだから?むしろ安心したっていうか?」

「あっそうなんだ。じゃあ安心!」


そしてようやっと見つけたー強ち嘘、建前とも言えないー言葉を口にした飛鳥に、志瑞はぎゅんっと表情を切り替えて、先程もみた屈託の無い笑顔で胸を撫で下ろした。

……もしかして:泣き真似。

食えない性格というか、いつも通り、私の知る『志瑞空』で安心したというか。

無駄に気を遣って損したような気分だった。

そんなこんな話していたら、寮の前までたどり着いて。

すこし名残惜しそうにしながら、じゃ、なんて手を振る志瑞に、飛鳥は最後の質問をした。


「最後に。『評議会』を潰した人の顔、見たこと無い?」


以前は『『評議会』を潰した魔術師って知ってる?』と尋ねて、すっとぼけられてしまった。

その反応に、知らないわけ無いだろ使えないな、なんて腹を立てていたものだが、よくよく考えると、潰したのは何も『魔術師』とは限らないと気付いた。

『異常性』所有者かもしれないし、一般人かもしれないじゃないか。

もしそうだった場合、『『評議会』を潰した魔術師』なんて存在しないのだから、すっとぼけられても仕方がない。

そういったわけで。

今度こそははっきり回答を貰うため、万が一にも揚げ足を取られないように文章を考えに考え抜いての質問であった。

実際、志瑞は少し考え込んでいる様子。

きっと、人相をどう説明するか悩んでいる間に違いない。そう期待していた飛鳥。

そして、回答は。


「さあ?」

「少しでもアンタに期待した私がバカでしたサヨウナラ!」


うん。桜乃さんに聞いたほうがやっぱり早いね。

翌日にでも桜乃さんを探そうと決意した瞬間であった。

これで2章は終わり。

3章は来月公開予定ですので、よろしくお願いします。


2章アフタートークは来週の予定です。


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