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残念ながら、僕達は  作者: 桜油
一部二章『ロスト』
16/67

2−4

こんにちは。

今日から仕事再開です。


では、どうぞ。

「うちの予測では、今回の『ロスト』の範囲は、桜坂市の公立高校『入月(いりす)高校』を中心とした半径5キロ圏内。桜坂学院がギリギリ範囲内やな。分かりやすいランドマークやし、結界の出現の観測と結界そのものの調査をする為に、スタート地点を桜坂学院の正門前に指定したんやけど……この様子やとビンゴやね」

「桜坂駅に待ち合わせ場所を指定したのは?」

「規制がちゃんとできてるか見たかったんよ。おかげで何の憂いもなく暴れられるわ」

「じゃあ、なんで私にはその辺秘密にしてたんですか?最初聞いた時は教えてくれなかったと思いますけど」

「気分や」

「……」


気分で情報を秘匿されるのもたまったものではない。

それを最初から知ってさえいれば、『こんな都市部の中央で!?』と肝を冷やさずに済んだものだが。

偏頭痛を気持ち感じながら、飛鳥は「それで、」と話を切りかえた。


「今は何してるんですか?」

「見て分からへん?どう見ても、このけったいな結界を『無かったこと』に出来ひんか志瑞はんに試してもろてるとこやん」


そう言われて、飛鳥は改めて志瑞の動きを見た。

そして、暫く観察を続けて。


うん、さっぱり分からない。何してんのこの人。

匙を投げた。


「傍から見たら釘を只管滅多刺しにしてるようにしか見えませんけど?」

「何言うてん。他のものも巻き込まへんようイメージを絞る為に釘で刺しとるやん。加減を考えんのやったら、ホンマはあんなん要らへんで」

「へー」


よく意味がわからないなりに、飛鳥は識名の言葉の意味を考えてみた。


志瑞の異常性『呵責』。『負』を引き寄せ、相手に押し付ける力。

それに指向性を持たせる為に釘を使用していて、釘が無ければ飛鳥たちがその力の余波を受ける可能性がある、ということだろうか。

なるほど、納得である。

しかし、まだ疑問は残っていた。


「ところで、何で釘なんですか?」

「知らへん。言葉遊びちゃうの?『釘で刺す』ってよく使うやん」

「釘はどこから取り出してるんですか?」

「……謎やね」

「……さいですか」


そこがある意味一番気になるのに。

飛鳥は何度目か分からないため息をしつつ肩を竦めた。


話している間に、志瑞はこちらへと歩を進めていた。


「やっぱり駄目みたいだね」

「予想はしとったけど、やっぱり取り返しがつかへんのか。残念。……せめて時間制限とか無くせへん?」

「やってみてもいいけど……多分、時間が永遠に進まなくなるね。それでもいいかい?」

「却下。しゃーなし、正々堂々挑んだるわ」


話し終えると、「じゃ、また後で落ち合おうぜ」とヒラヒラ手を振りながら、志瑞が先に結界内部へ侵入した。


「別行動ですか?」

「単独の方が本気でやりやすいやろ。それよりも、ウチらは調査に専念するで」

「はぐれたらどうするんです?」

「安心しぃ。ウチらは時間に余裕を持って撤収するし、アイツは死んでも死なへん死なへん」

「はぁ。まあ確かに、しぶとさだけは一丁前って感じですもんね……致命傷受けてもしれっと復活してるし。彼奴って残機でもあるんですか?」

「じゃ、ウチらも行くでー」

「あっ、ちょっと!」


識名にやや遅れて飛鳥が結界の中へ足を踏み入れる。

特に景色が変わった様子は無く、平常時の桜坂学院が見える。しかし、どこか空間が歪んでいるように感じられた。

空はどこか妙に青く、黒い風がないているような音が響いている。校舎の影は少し滲んでいた。


「時間に余裕はあんま無いからサクサク探索するで。はぐれたら責任とられへんから、死んでもウチに付いてくるようにな」

「は、はい」


そうは言われても、あまりにもおどろおどろしい雰囲気についキョロキョロ、オドオドと挙動不審になる飛鳥の腕を引っ張るように識名が先導していく。

しかし、あまり時間が経たないうちに識名が唐突に立ち止まった。周りの観察に意識が集中していた飛鳥はそれに気づかず、思わずぶつかった。


しまった。識名さんに怒られる。

飛鳥が識名の様子を窺うが、識名は前方を強く睨みつけていた。飛鳥が識名にぶつかったことなどどうでもいいようだ。


「タチ悪いわぁ」


そう独り言ちて舌打ちした識名に「どうしたの?」と飛鳥が視線を追えば、続々と何者かの姿が現れている。

老若男女問わず出現しているその人達は、共通して識名や桜乃と同じ『国際魔術連合』の制服を着用していた。


「識名さん。私たちの援護のために人を呼んでたんですか?」

「そんな訳あらへん。だって、志瑞はんの邪魔になるだけやんか」

「うーん。確かに?じゃあ何で、」

「桜乃以外の先遣隊の面々や。どうも、ここで殉職した魔術師を仲間に引き入れとるっぽいわ」


ほんま、タチ悪いで。いい性格しとるわ。

忌々しげに呟いて顔を顰めた識名に、飛鳥は改めてそちらを観察してみる。

生気をまるで感じられない青白い肌。目の焦点はどこにも合わず虚ろだ。

ぼそぼそと何かを喋っている者もいるが、「ハナガ、サイタ」「ああいうおくすなゆ」「ろれきちた」など、意味のない言葉ばかりだ。

なるほど確かにとても生者とは思えない。死後、誰かにゾンビのように操られていると考えるほうが自然だろう。


識名が「しゃーないわ。うちも腐っても上司やしな。弔ったる」と溜息混じりに零し、指を鳴らす。

瞬間、周囲に夥しい数の魔術式が展開された。

飛鳥も見たことがある。魔術師の戦闘に必須とも言える頻発魔術『魔装』だ。それも略式ー瞬時に展開、起動できるように改良されているものである。

魔術式の中央から魔力でできた槍が生成され、天から雨のように降り注ぐ。正確にゾンビの真上に魔術式が設置され、寸分違わずゾンビの大群の脳天目掛けて自由落下をする槍がずれることもなく、命中してはゾンビが串刺しになって動きを止めていた。

そして、あっという間に、ゾンビは誰も動かなくなった。普通なら致命傷、ゾンビらしく再生能力が高かったとしても、自我も知性も感じられないあの様子では串刺しから抜け出す手段も思いつかないだろう。明らかに戦闘不能だ。


「す、すごい」


思わず感嘆を零す飛鳥だったが、ふと疑問が浮かんだ。


「先遣隊も、ゾンビに襲われたんでしょうか」

「せやろか。うちみたいな凡人がこんなあっさり倒せるんやで?苦戦する要素ないやろ」

「それは分かんないけど……」


識名さんみたいな凡人いてたまるか。飛鳥は呆れたが、あまり魔術師のレベルとかわからないので強く突っ込めなかった。

気を取り直して、飛鳥は思いつく限りの可能性を列挙し始めた。


「パッと見たら一般人だったから手を出しにくかったとか?」

「明らかゾンビやで。躊躇する理由あらへんあらへん」

「疲れていたとか」

「入っていきなり出てきたのに消耗も何も無いやん」

「んー……怪我してたんですかね」

「やから、入ったら早速登場したのにそんな訳、」


飛鳥の言葉を悉く否定していく識名だったが、急に言葉を止めた。

首を傾げる飛鳥に構わず識名は暫く思考に耽っていたが、やがて顔を上げた。


「いや、ありえへん話でもないか」

「え、そうなんですか???」


まさか自分の言葉に肯定が返ってくると思っていなかった飛鳥は、思わず目を白黒させた。

「何や自分、根拠もなしに当てずっぽうでもの言うてたんか」と呆れたようにジト目で飛鳥を見た識名は、咳払いをして引き締まった表情に変わった。


「ええか?さっきはゾンビが出てきた。ほんで、ゾンビはここで死んだ人を再利用しよる感じやろ?」

「そうですね」

「でも、あんなんやったら、そこそこ腕のある魔術師やったらあっさり撃退できると思うねん。知性もない、自我もない、なんなら動きもトロかったしな」

「はあ」


そういうものなんだろうか?

イマイチ解せなかった飛鳥だが、ここで問答しても話は前に進まない。

自己評価最低な識名の物差しで話をされても説得力が無いが、一旦その疑念は置いておいて、曖昧に頷いておいた。


「これなら脱出は容易かったはずやで。けど、実際はちゃう。先遣隊が桜乃と廃人以外誰も帰ってこんかった」

「……」

「それだけやない。他にも色々、魔術師が侵入したことくらいあるさかい、誰も生きて帰れた人がおらんのがむっちゃ違和感やったんよ」

「……つまり」

「まだ特定はできひんけど、二つ、可能性がある」


ごくり、と飛鳥は息を呑んだ。

識名も、ひと呼吸置いて、また『魔装』の魔術式を展開しながら口を開いた。


「一つ。今回は『主役』がお二人様かもしれん。……一つ、」

『ろれきちた』


識名の脇から斬撃が飛んできた。

飛鳥が身構えた瞬間、がぎん!と鈍い音を立ててその斬撃はあさっての方向へ軌道を変えて消えていった。

いつの間にか、識名が魔力でできた剣で斬撃を斬り払ったらしい。


「どうも、本番はここかららしいで?」


大量の魔術式を再度展開しながら、識名はそう締め括った。

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