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残念ながら、僕達は  作者: 桜油
一部二章『ロスト』
15/67

2−3

こんにちは。

お盆休みが終わってしまいますね……

夏休みが続く学生さんが羨ましいです。


では、どうぞ。

朝、桜坂駅。

飛鳥が言われた通りの時間にそこに到着した時には既に、志瑞と識名は到着していた。


「今回は遅れなかったんだ?」

「せやね。今日は遅れるのはアカンから、うちが送ったわ」

「護衛される『護衛』って変なの」

「手厳しいね」


飛鳥の一言に志瑞は変わらず微笑したままであった。

ああは言ったが、飛鳥も志瑞の不幸体質に対応できる人員は必要だと思っている。『不死身』だとしても、あの密度で生じる不幸に一つ一つ対応していては時間が無駄だ。

彼と出会った日やその後の日常生活での様子を思い浮かべ、飛鳥はそれ以上言及せずに「で?こっからどうすんの?」と指示を仰いだ。


「目的地まで向かうよ」

「ああ。電車を利用するってこと?」

「いや、徒歩やね」

「……駅に集まる理由は?」

「秘密や」「秘密だ」


憎らしいほど息のあった返事だ。

そのままどこかへ向かって歩き始めた二人を、はっとして飛鳥は少し早足で追いかける。

難なく追いついて、識名、志瑞、飛鳥の順に横並びで歩いていくが、会話がなく沈黙が痛い。識名と志瑞の会話から『ロスト』について情報を集められないかと思ったが、必要なことは既に話し終えているようだ。

ならばと飛鳥は話題を振った。


「志瑞は識名さんと前から知り合いなの?」

「そうだね。識名ちゃんからよく情報を買い取っているよ」

「うちの太客や、おかげでがっぽり儲かっとる。それに、あんちゃんと顧客契約しとるってだけで厄介な輩は寄り付かんし、万が一トラブルがあっても脅しとしては有力やね」

「そんなにですか?」

「せや。志瑞って色んな魔術組織をぶっ潰しとるからな。それも阿漕な商売しとるとこだけ。此奴を知らんのは余程の潜りか一般人だけやから、その程度ならうちでも叩きのめせるっちゅうわけや」

「ふーん?」


志瑞の名前を借りなくても、識名の実力なら十分塵払いが出来ると思うけど。まあ、手間を嫌った結果なのかもしれない。


「志瑞としてはどうなの?」

「識名ちゃんは正確性も価格も速度も優秀だからね。そんな彼女の営業妨害をする人には『釘を刺す』必要があると思うよ」

「へー。ちなみにどんな情報を普段仕入れてるの?」

「厄介な魔術師とか、悪質な魔術組織の情報が殆どや。『依頼』や『案件』対応に使う情報も最近は頼まれるで」

「なるほど」


それで、彼自身の『呵責』を活かした戦法も相俟って『魔術師殺し』『這い寄る混沌』と呼ばれると。

飛鳥が一人納得し、「じゃあ、今回も識名さんが情報を仕入れたんですか?」と尋ねれば、「概ね正解やな」と返ってきた。


(おおむ)ね?」


首を傾げた飛鳥に、志瑞が補足をした。


「正確には、識名ちゃんが仕入れた情報から、次の発生地点と発生時刻を特定したんだけどね」

「え、特定できるものなの?」

「法則性はあったからね……っと、着いたね」

「え、近」


歩き始めてわずか10分。

まさかの到着に飛鳥がそう声を漏らして視線をやれば、桜坂学院の正門前だった。


「……ここ?」

「せや」

「……何で?」

「何でも何も知らへん。過去の事例から推測した法則性に則っただけやし」


呆然と疑問を呟く飛鳥に、淡々と他人事のように識名が返す。

だが、飛鳥は現実を受け止めきれていない。「いやいや、ありえないでしょ」とぼやいた。


だって、桜坂学院は桜坂市の中央に近い立地だ。

桜坂駅から徒歩10分。『軍』や『JoHN』本部ともそう遠くないし、商店街も、住宅街だって目と鼻の間くらいの距離にある。

そもそも桜坂市には舞月財閥の本社がある影響で、首都ほどではないが、地方都市を充分に上回るほどの人口がある街だ。

人の出入りは激しい、多くの人が集まるこの土地の中央部で『ロスト』が発生したら、一体どれだけの犠牲が生じるだろう?

不幸中の幸いと言うべきか、パッと見では人がいないように思うが、校舎の中には沢山の部活動生がいるかもしれない。


背筋が凍る思いの飛鳥だが、志瑞や識名は至って冷静だ。


「うちが分かっとる情報をここで七世にも共有するで。ちゃんと聞いといてな」


識名がそう言って話し始めた内容を、飛鳥は必死に手元のメモに書き残していった。


発生時刻や発生場所は、素数やフィボナッチ数列、アルファベットなど高校生以上の知識があれば法則性を見い出せたこと。

『国際魔術連合』もこの現象を重く受け止めていて、既に何人か先遣隊やドローンなどを送り込んでいること。

その尽くが失敗。無事帰還した者は二人しかいないこと。

そのうち一人も、長期間の精神的な療養が必要。全く話ができる状態ではないこと。

残った一人にアンケートを実施したが、あまり芳しい結果を得られず、『死者に背を向けてはならない』『タイムリミットは数時間程度』ということしか分からなかったこと。


「よく生き延びましたね、その人」

「逃げに徹してたらしいわ。もう一人を連れ帰ってくれたのもあって勇者のような扱いやね。本人は逃げてただけやって謙遜しよるけど、情報持ち帰ってくれる方が偉いやん?」


識名が志瑞の方に目配せしながらそういうが、志瑞は「へぇ、確かにそりゃ凄いねぇ」と流していた。

識名は「どの口でそれ言うねん」と苦笑を浮かべる。

飛鳥も、志瑞が『評議会』にいた頃はその脅威的な生還率が厄介だったという話を以前現海から聞いていたので、呆れ気味に彼を見ていたが、飛鳥からの視線にも何処吹く風であった。

その後、志瑞から識名に視線を戻した飛鳥は「その生き残りって誰なんですか?」と興味本位で尋ねた。


「んー、まあええか。幹部候補になっとるし、近いうちに顔を合わせることもあるやろ」


それに対して少し逡巡した様子の識名はそう一人で納得してから名前を出した。


桜乃為心(はるのいしん)って奴やで」

「え!」


あの『プライバシー設定全ミス』とかいう『社会の窓全開』レベルの恥を晒しながら八遠町を突っ走ってた方向音痴の男が!?!?

飛鳥は本人が聞いたら心外だと思うような思い出し方をしていた。


「なんや、知っとるんか」

「知ってるも何も、最近出会したんです。……あれが実力者には全く見えないんですけど」

「何言うてんの?むしろ下っ端の中ではいっちゃん幹部に近い奴やで。油断ならんよ、彼奴は」

「えー……?」


識名の意外と高めの評価と以前見た姿が全く結びつかず、飛鳥は困惑していた。

識名は説明を付け加える。


「最近『連合』に入ってきた新人やけど、実力は確か、地頭も良いことは優秀な業績が証明しとる。人柄も問題あらへん。時々抜けとるとこあるけど、致命的なもんやないし、それは愛嬌やって解釈しよる人もおるで。定例会議で毎回名前が上がっとるくらいには今後を期待されとるホープ……幹部候補筆頭やね」

「でも、下っ端だって言ってましたけど」

「それはホンマや。話題には上がるんやけど、一歩惜しいからなかなか上がってこれへん」

「なんで?」


飛鳥の問いに、「そりゃ、決まっとるやん」と識名が答えようとしたところで、バチッ、と稲妻が走る。


飛鳥がハッとして、その稲妻が走ってきた方向を視線で辿れば、ドーム型の、見るからに悍ましい様相の結界が出来ていた。識名は平然とそれを見つめ、志瑞も特に表情を変えることなくその結界を見ている。


「……始まったね」

「せやね。……志瑞」

「何かな?識名ちゃん」

「思いっきり暴れていいで」


結界から目を離すことなく会話していた志瑞は、同じく結界を見ながら放たれた識名の言葉に、思わずと言った様子で彼女を見た。


「おいおい識名ちゃん。そりゃ確かに好きにしていいなら気が楽だけど、真昼間だぜ?部活をしている生徒も教師もわんさかいる以上、巻き添えにはできないよ」

「大丈夫や。うちを誰だと思っとんの?根回しぐらい簡単にできるし、お守りも朝飯前や」


それを聞いて、飛鳥は合点がいった。

正門から見る限りは人気がなかった。偶々であって校舎内には人が沢山いるだろうと思っていたが、識名は『国際魔術連合』幹部。魔術師の界隈では高い地位に坐す権力者だ。特定の時間帯に、私立の高校の一つを立ち入り禁止にするくらいは訳ない。

しかも、桜坂学院は舞月財閥が運営している。舞月財閥は独自の情報網を持ち合わせ、裏の事情に明るい。

交渉はそこまで難しくなかっただろう。


「正直、『ロスト』とかいう胸糞現象が解決してさえくれれば何でもええんよ。そういうわけや、頼むで」


そう言って、志瑞へ頭を下げた識名に、志瑞は「ふーん」と右の口角を上げた。


「ふぅ、しょうがないなぁ。識名ちゃんのお望み通り、思う存分『釘を刺そう』」


かくして、作戦は始まった。

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