2−2
こんにちは。
今日も今日とてお盆休み。
東京の友人が福岡に帰省してるので、昨日からその友人とゲーセン巡りしてます。
久々にゲームできて良いストレス発散。
今回取り掛かることになった依頼『ロスト』。
最近、あらゆる市街地で時々観測されている現象について、その原因を究明してほしいという内容だ。
その事象が起こると、一定の範囲でドームのような結界が生じる。その結界の内部に立ち入ることはできるが、内部から戻ってきた者はいない。また、結界が無くなった際に、風景は元の状態のままだが、内部にいた人間は『消失』している。
中の人間が失われるから、この現象は『ロスト』と呼称された。
依頼主も『ロスト』が原因で家族が姿を消したらしく、せめて何があったのかを知りたいと追記されていた。
たしかに、大変心が痛む話だ。はやく解決してあげたい。『恩人』だって動くに違いないし。
志瑞も、実力だけはまあ、あるようだし。役に立たないことはないでしょ。
飛鳥は相変わらず自衛能力のない自分のことを棚上げにして楽観視していた。
だが、しかし、それとは別に気になることもある。
『ロスト』が発生する場所はランダムだ。
次の場所の予測はついているだろうか?
予測できていたとして、その原因を突き止められる保証はあるのか?
原因を突き止めることも儘ならず、脱出の機を逃して自分たちが『消失』してしまったら?
飛鳥の不安を他所に、志瑞と識名の間ではトントン拍子で話が進んでいるらしい。翌週に桜坂駅に集合だとか、集合時間は朝とか、志瑞からの簡易チャットで淡々と業務連絡が流れてくる。
たしかに、飛鳥は『依頼』解決にあたって霧乃から「秘書の仕事をする暇があったら志瑞とコミュニケーションを取っておけ。信頼関係は大事だぞ」と指示されたから、『依頼』関連のことをしている時以外は暇だ。暇を持て余しすぎて、『ポルターガイスト』を解決してから今までは志瑞と話すことも屡々あったほど。
その結果、当初に比べると志瑞が生理的に無理と思うほど毛嫌いすることはなくなっている。
もっとも、『ポルターガイスト』の一件や『呵責』の件で『善人かもしれない』と僅かながら思ったし、実力者であると認めたのも理由として大きいが。
それはさておいて、最早ニート、窓際社員のように時間が有り余っている飛鳥よりも、『国際魔術連合』幹部、情報屋として多忙な識名の都合に合わせた方が良いのは重々承知だ。
……だが、なんというか、気に食わない。
志瑞が『依頼』を選ぶ以上、どうしても彼が主導権を握る形になる。
しかし、本当はもっと飛鳥自身が主導したい。
そうすれば、報告書に書く内容に困るなどということにはならないし、『恩人』の情報だってもっと集まるはず。
間違っても『よく分からない間に事が解決していた』なんて事態は避けたいのだ。
「ということなんだけど、どうしたらいいと思う?霧乃ちゃん」
「……君は、私の仕事を邪魔しないと気が済まない病気なのか?」
翌日に『ロスト』の対応のための待ち合わせを控えたその日、飛鳥にそう尋ねられた霧乃は頭を抱えた。
「邪魔って……今手は空いてる?って聞いたらうんって答えたの霧乃ちゃんじゃん」
「建前さ。私に暇な時間など無いから、君からの相談ならばと無理やり時間を作ったまで。だがね、そんなクソどうでもいい案件で相談されるとは思わなかったよ」
「どうでも良くない!」
プンスコと憤慨する飛鳥に、「あーハイハイ。君にとってはどうでも良くなかったな、失敬」と手をはたはたと振った。
「だが、本当に私にはどうでもいいことさ。正直、私も彼に主導権を握っておいて欲しい……色んな意味で。ああ、だから正確にはどうでも良くないな。嘘を言うつもりはなかったが、すまなかった。悪いがこの件については飛鳥の味方になれそうにない」
「えー。何で?」
飛鳥は座り込んで、執務机から顔だけ出して霧乃を見上げた。霧乃は少し逡巡して、「なんで、か」と口を開いた。
「一つ。書類上の処理では、私はあくまで、君を『依頼の消化』の研修の為に外出を認めただけだ。志瑞が『依頼の消化』をするのを見学するということだな。依頼解決に君が介在する余地があってはならない。そうでないと、『軍事利用』したと言及されてしまう」
「……」
「二つ。飛鳥は対魔術師戦闘における自衛能力はない。それに世間知らず。裏の界隈において無力は、無知は罪だ。もっと積極的に参加したいなら、力と知恵をつけてくれ」
その言葉は、嫌に実感が伴っていた。
まるで、無力さ、無知蒙昧だった己を、酷く悔やむ過去があったように。
変な話だと飛鳥は首を傾げた。
だって、霧乃は識名と同様に、『最強』の名を恣にした魔術師なのだから。無力感に苛まれることはないと思うのだが。
飛鳥に構わず霧乃は続けた。
「何、焦ることは無い。志瑞についていけば、自ずと身につくさ」
「そうかな?知恵は兎も角、力は」
「それに、」
飛鳥の言葉など聞こえていないように、霧乃は話し続けた。
「ここからはただの妄想でしかないが。志瑞は、『依頼』に関して、君にはあまり関わってほしくないように思う」
「……ほえ?」
あまりにも想定外というか、解釈違いな言葉に飛鳥は目を点にした。
「それだけじゃない。そもそも、裏に関わってほしくすらないだろう。現に、顔合わせの後に色々抗議されてしまった」
「うん?」
「まあ、私なりの意見を言ってやったら彼は納得したが。君は、鳥籠の中から解放されてせっかく自由になれた『鳥』なんだ。自然の摂理になど負けずに自由に大空を羽ばたいて、謳歌してほしいじゃないか」
「……」
「……結論、志瑞なりに、君に対して思うところはあるということさ。彼を信じてやれといったのもそういう事だよ」
理解者面でそう彼を語る霧乃。
飛鳥は暫くぽかんと呆けていたが、やがて、ふ、と笑いが漏れ始めた。
そのまま肩を震わせていたが、ついに耐えきれなくなり、「あっはははは!」と手を叩いて爆笑した。
「ないない!それは絶対ない!」
「ふむ、なぜそう思う?」
「だって、志瑞だよ?私は初対面だし、アイツ胡散臭いし、何なら『目的?あー、ちょっと待って。今日中に考えとく』とか言いそうな人じゃん」
尚、飛鳥は実際にその言葉を一言一句違わず言われたことがある。休暇中に、暇つぶしに彼へ『今回なんで護衛の仕事を受けたの?目的は』と質問した時に、そう答えが返ってきたのだ。
だからソースは私。
そう胸中で付け加えた飛鳥を他所に、「ほお。短い付き合いだというのに、なかなかわかってるじゃないか」と感心したように霧乃は頷く。
いっそ清々しいまでに後方腕組み彼女面をしている霧乃へ、飛鳥は言葉を続けた。
「だから、私を護衛する理由とかもきっと大したことないよ。仕事だからとか、私をアイツが利用しようと企んでいるとかじゃない?」
「そうか。……まあ、強ち間違ってもいないな」
「でしょ?」
振り回されるだけの私じゃないのだよ。
ふんす、と鼻を鳴らしながらドヤ顔してみえた飛鳥に、霧乃は苦笑を浮かべる。
「兎に角。飛鳥、君は少しずつ『世界』を知っていけ。積み重ねろ。そうして身についた君の力、思いが誰かの支えとなる日もいずれ来るさ」
「ふーん?」
苦笑混じりで話すにしては、どこか真剣みも帯びていた声音。飛鳥はあまりピンとこない未来予想図にまたもや首を傾げた。
「それまでは、守られていてくれ。そのために『弱い人の味方』を『護衛』にしたのだから」
それに構うこともなく、霧乃から真摯に飛鳥を見つめてそう頼まれた。
少し考え込んで、飛鳥は首を振った。
「……やだ」
……横に。
霧乃は表情を一変させ、残念そうに眉を下げた。
「せっかく良いこと言ったと思ったが、駄目だったか」
「うわ、台無し……じゃなくて。私は今が良いんだよ」
飛鳥はあくまで今、主体的に動きたいのだ。
未来とはいうが、それでは『恩人』と再会を果たすチャンスを逃す可能性大である。
本命の依頼も無限にあるわけではないのだから。
「はあ……面倒だな」
「面倒ってひどいなあ」
「大体、今日で五徹目だぞ?なんでまた……志瑞もちゃんと構ってやれば良いものを。不器用すぎるだろう」
「心外。私が構ってちゃんみたいな言い草じゃん」
「そうだと言っている。……はあ、どうしたものか」
ウンウン悩んだ後、心底疲れたような顔つきで霧乃は「そうだな。じゃあこれはどうだ」と人差し指を立てて、提案した。
「志瑞が君を利用しているというのなら、君も彼を利用してやれ」
「……えっと、」
「『依頼』の中で、色々な人と関わるだろう?色々なものを見聞きするだろう?」
「……」
本当にそうなるかは、『ポルターガイスト』の一件で半信半疑だが、まあ確かにそのイメージがあることは否めない。
飛鳥は黙り込んだ。
「『依頼』なんてな、どうせ彼が解決する。だから、『依頼』は傍観に徹して、そこでつながった人たちに手当り次第に聞いてしまおう。もしかしたら志瑞視点ではどうでも良くても、君にとっては重要な手掛かりがあるかもしれない」
「え、」
飛鳥は思わず声をあげた。
だって、そんなサボり、他力本願のようなことを霧乃が認めるとは思わなかったのだ。
「至上命題のためだろう。何、事が悪く動いたら、『助けて』って素直に誰かを頼ればいいさ」
「……」
「未来とは『後悔』。最善の選択をしたって、後悔は必ずするのが人間だとも。それならば、やらずに後悔するより、やって後悔したほうがマシじゃないか」
霧乃がしみじみとそう話すのを聞いて、飛鳥は腑に落ちた。
「そう、だよね。……うん。わかったよ霧乃ちゃん」
「そうか」
「じゃあ、早速まずは桜乃さんを探して聞いてみることにするよ!じゃね!仕事頑張って!」
「え、あ、ちょっと待っ」
霧乃が呼び止めたのも飛鳥には聴こえておらず、そのまま執務室を足早に去っていった。
霧乃は飛鳥を止めようと伸ばした腕を引っ込めながら、複雑そうな表情で俯いた。
「……相手はやっぱ、選んでくれと言うべきだったか」
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