2−1
お久しぶりです。
やっと二章完結したので、今日から一話ずつ投稿します。
『ポルターガイスト』解決してから数週間が経過した頃。
世間はゴールデンウィーク真っ最中。家族、友人、恋人と過ごす者、一人で専ら趣味に打ち込む者が外には溢れている。
桜坂市は一世紀ほど前に『STELLA』というショーユニットが結成された頃から音楽活動が盛んであり、駅には誰でも自由に見世物やライブ等催しができる広場がある。その広場からそれほど遠くない『JoHN』本部にまでその歌声が聴こえてくる。ストリート系、ショー系統の音楽、バンドと様々なジャンルのミュージシャンが、人の多く集まるこの時期に『自分の音楽を聞け』とばかりに独自の旋律を奏でていた。
舞月財閥が経営している名門の私立高校『桜坂学院』も魔術科、普通科とは別に芸能科を置いている。単位を気にせずとも実績があれば卒業できる仕組みが、多忙な魔術師や芸能人には便利すぎた。
まさにここは『音楽の街』。巷でそう噂される桜坂市の一角、密談にうってつけの老舗の喫茶店『ソーサリータクト』にもまた音楽が聴こえてきていた。
とは言っても、正直、飛鳥に現在推しのユニットはいない。
志瑞もそれは同じなのか、飛鳥が次に取り組む『依頼』の相談を持ちかけても特に惜しむ様子なく応じた。
「何でよりによって今日なん?ゴールデンウィークくらい休まへんと、うちみたいな社畜なるで?」
……話し合いに急遽参加となったこの女性、識名佳糸だけ、渋々。
否、未だに未練がましく、「あーあ。今頃、『STELLA』のショーを見れるはずやったのになあ……」と拗ねているし、なんなら配信映像をチラ見している。
「業務に集中しろ」「そんなに見たいならとっとと帰れ」「なんなら勝手に参加してくるな」と言いたいのは山々だが、そういう訳にも行かない。
飛鳥が情報収集の方法について霧乃に口を滑らせた結果、この女性が打ち合わせ段階から参加することになってしまったからだ。
識名は『国際魔術連合』幹部というだけあって実力派だし、霧乃、つまり飛鳥の上司の親友だから雑に対応もできないし、そもそも昔会った時から飛鳥は彼女が苦手だ。
もっとも、飛鳥が識名を苦手とする理由は至って単純。過去にあったとある出来事がトラウマになっているからである。
それは昔、まだ飛鳥が霧乃に対して、『単独』で『依頼』消化をさせてくれるよう頼み込んでいた時のこと。
護身能力はあるかと問われて自信満々に是と答えた飛鳥に、霧乃が『彼女に勝てたら考えてやろう』と対戦相手に指定してきたのが識名だったのだが……結果は散々であった。
先を読まれている感覚。まるで心を読まれているーというよりは、未来そのものが見えているような動き。
何より、素の状態で人外並の身体能力を誇る飛鳥を軽くいなしてみせる戦闘技術。
児戯のように対応されること数分。飛鳥は遂に体勢を崩して転倒し、立ち上がろうとした矢先に首元にナイフを突きつけられた。
そして、識名に凄まれた。
『ぴーきゃーぴーきゃー喧しいわ。うちみたいな凡人に遊ばれるようじゃ、犬死して終わりやで?』
天狗のように高くなっていた鼻っ柱が折れた瞬間だった。
尚、第三者が知れば、呆れ返ること間違いなしである。
どんなに優れた身体能力を一般人が持っていても、ある程度戦いに慣れている魔術師であれば『身体強化』さえ付与してしまえば、あとは技術だけで充分勝ててしまう。
また、霧乃のつけた条件もなかなか無謀。なんせ、戦闘面でド素人の少女が一時期は『最強』と噂された識名佳糸に勝利するなどできようはずもない。
そして、識名が自身を凡人とするのも、少し裏について知っているものが聞けば『何言ってんだコイツ』案件である。凡人とか厭味だろうと。
もはや飛鳥に対し同情を禁じ得ない場面だが、世間知らずな飛鳥はそんなことを知る術もなく、一般的な魔術師のレベルは識名くらいなのだと誤認するようになった。
結果、『恩人』は更にもっと強いのだろう、と飛鳥の中でのハードルは天元突破しそうになっている。
それはさておいて。
そういったわけで飛鳥は識名に対して強く出られないのだが、志瑞は違った。
「識名ちゃん。ミーティングなのに配信見ながらなんて良くないよ」
「志瑞……」
彼にしては珍しくーもっとも、珍しいと言えるほどの付き合いは無いのだがー正論。私とも気が合うじゃないか。飛鳥は感心した。
そうだそうだ。なんとか言ってやれ。
飛鳥は柄にもなく内心、彼を応援した。
彼は続けた。
「ちゃんと打ち合わせ内容聞いてほしいんだよね。ちょっと複雑で、馬鹿にはわからないと思うから」
「フンッ!」
「ごば、」
……撤回。志瑞にものの言い方を期待した私が間違っていた。
飛鳥が頭を抱える中、その脇では機嫌を損ねた識名が志瑞を殴り飛ばし、志瑞は回避せずに後ろへ倒れ込んだ。
が、それもつかの間。ぐぐ、とやっぱり何度見ても不自然な起き上がり方をした。
「いったーい。右腕は動かないし呼吸もなんだか苦しい、鎖骨が折れて肺に刺さったに違いないナー」
棒読みで症状を訴える彼を取り乱す様子もなく眺める識名と、そんなに言うならとっととお得意の『呵責』で傷でも癒やしとけと冷めた視線を送る飛鳥に構わず、志瑞は続ける。
「これは一生後遺症残っちゃいそうかなー。あ、でも痛くなくなってきたし治るかな?壊死かもしれないね。知らないけど、どっちでも似たようなもんだよね」
「……それはどうでも良いけど、」
「どうでも良くないだろ」
話を進めようとした識名の言葉が気に食わないのか、今度は識名の足元から大きな釘が生える。
志瑞の主な武器は『釘』だ。『釘を刺す』という彼の決まり文句に由来したものだとは思うが、どこからその釘を取り出したり刺したり生やしたりしているかは、飛鳥が志瑞との短い付き合いで抱いた疑問……七不思議の一つである。
ただ、特に足元から釘で刺してくる攻撃は初見殺しに等しいものだと感じている。
つまりはほぼ殺す気で撃たれたであろうそれを難なく避けた識名と、それに詫びるでもなくヘラヘラと見ている志瑞、更にはそれを識名も咎めずに「せや、たしかあんさん『STELLA』創立者の子孫やろ?ほんなら、あんさんが代わりに踊ってくれたらええやん」「遠慮するよ。僕はそんな『プラス』な存在じゃないからね」と雑談する様子。
「ええ……」
何勝手に味方同士で殺し合って、それで和気藹々としているのか。やっぱり魔術師には頭がイカれた奴しかいないらしいと飛鳥は実感していた。
否、正確には志瑞は魔術師ではないので、『裏の界隈にはマトモな人がいない』……現海さんと『恩人』は違ったや、失礼。
このやり取りを見ているだけで正気が削がれそうな上に疲れた飛鳥は深くため息をついて、ぱん、ぱん、と手を叩いた。
「はいはい。識名さんはショーを見たいんでしょ?じゃあ話をさっさと終わらせましょうよ。その後にじっくり味わったらいいじゃないですか」
「……まあ、せやな。さっさしよか」
「ほら、志瑞も。さっさとこのリストの中から選んで」
「仕方ないね」
飛鳥の言葉に両者ともに肩を竦め、志瑞は飛鳥が前もって送っておいた依頼リストに目を通し始める。
そして、さほど時間を要さずに「ああ。うん、良いの見つけたよ」と選んだ『依頼』を飛鳥の簡易チャットに共有した。
「もう見つけたんか。うちにも後で送っといてーな」
「識名ちゃんにも既に送っておいたよ」
「おおきに。細かい日程も後で頼むで。ほいなら」
足早に喫茶店を後にした識名を横目に「今回は早いじゃん」と飛鳥は簡易チャットを通知から開いた。
そして、僅かに目を瞠る。
選ばれた『依頼』のタイトルは『ロスト』。
『ポルターガイスト』と同じく、飛鳥が目をつけていた『依頼』の一つだ。
「何か問題でもあったかな?」
「いや、ないけど。……ちなみに、どういう基準でこれ選んだの?」
飛鳥の質問に対する返答は早かった。
「いやー。なんもかんもぶっ壊せるのってエリートっぽいじゃん。エリートを皆殺しにすれば世界は平等で平和になるよね」
……。
「あっそ」
その返答にどう答えようか少し悩んだが最適なものは思い浮かばず、素っ気ない返事になった。
よろしければ、評価、感想、ブックマークなどお願いします。




