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残念ながら、僕達は  作者: 桜油
一部一章『ポルターガイスト』
12/67

1−10

こんにちは。

今回で1章は終わりです。


では、どうぞ。

報告書を送って数刻後。

霧乃からの着信に、飛鳥は応答した。


「……霧乃ちゃん?何の用?」


一人で考えを整理したかったのでぶっきらぼうに答えた。


『何の用も何も。報告書に目を通したから連絡したまでだが』

「下っ端にはそんなことしてないじゃん?」

『一人一人にはそこまで時間を割くことはできないさ。君は曲がりなりにも幹部だし、『懐刀』との様子も知りたくてね』


しかし、あまりにも意に介さず返答する霧乃に、思わずため息をつく。

霧乃は続ける。


『しかしだ、飛鳥。あまりにもあの報告書には情報量が少なすぎる。再提出か追加で資料を添付してほしい』

「よく言うよね。志瑞のせいでよくわかんないまま解決したんだけど」

『ふむ。まあ、それはそうだろうな』

「確信犯じゃないですかヤダー」


軽口を叩きあっている間に少し平静を取り戻した飛鳥は、一息ついてから口を開く。


「……私視点で何がどうなって解決したのかは説明できるよ。『ポルターガイスト』の背景については全く説明できないけど」

『それで結構。元より、飛鳥にはそっちの報告を期待しているんだ。何より、背景については志瑞から軽く説明を受けているから問題ないぞ』

「アイツ、霧乃ちゃんに説明してるってことくらい私に一言言いなさいよ……」


報告書に何を書こうかとウンウン悩んだ時間が勿体なさすぎる。

というか、それなら日記とか報告書とか、飛鳥から提出した資料は霧乃視点、新しい情報を得られない代物ではないか。やっぱり勿体なさすぎる。


そういうことなら、と気持ちを切り替えて、飛鳥が「じゃあ報告書書くから切ります」と通信を切断しようとしたところ、待ったと声がかかった。


「まだ何か用で?」

『報告書など不要だ。君の口から、思う存分私に語って聞かせてほしい』

「……そんなんでいいの?というか時間の余裕が無いんじゃ」

『大丈夫だ。何か不都合あっても権力で黙らせる。何より報告書に目を通すのも疲れる。飛鳥のエピソードトークで気分転換にはなるだろうさ』

「さいですか」


書かなくていいなら確かに楽だし、何より本件で悶々としていた気持ちもそのまま吐き出していいのなら、渡りに船なのだが。そんなあっさりと、ぽいぽい例外を作っていいのだろうか。

腑に落ちないが、だからといって反論するようなことでもないので、飛鳥は言葉に甘えて語った。


えー。まずは……八遠町には現地集合だったか。それで、待ち合わせに志瑞が来ないから待ちぼうけを食らって。


『待て。……現地集合?独りで向かったのか?』

「え、うん。志瑞が気持ち悪かったから」


霧乃が頭を抑えながら、続きを促した。

飛鳥は、じゃあ何で途中でとめたのかと思いながら続きを話した。


あまりに来ないから、資産を増やすついでに情報を集めようと思ってパチンコして。


『待て』


また止められた。


『情報収集は確かに大事だ。しかし、なんでパチンコ?』

「人が集まるし、噂話とかも聞けるかなって」

『不確実にも程があるだろう。それより、聞き込みとか、情報屋を頼ればいいのでは?』

「……」


その手があったか。

飛鳥は思わず手槌を打った。


『その手があったか、みたいな顔しているだろう。……全く。佳糸に連絡しておくか……』


霧乃の呟きに、思わず飛鳥が眉を顰める。

識名佳糸。霧乃の旧友にして、評判のある情報屋だ。『国際魔術連合』の幹部でもある。飛鳥にとっては苦手意識が消えない人だ。

彼女に連絡するということは、即ち識名と接する頻度が高くなるというわけで。


「い、いやだ!後生だからそれだけは!」

『じゃかあしい!私は君をそんな子に育てた覚えは無い!その性根を叩き直して貰わねば!』


飛鳥の必死の懇願虚しく、次の仕事で彼女が打ち合わせに顔を出すのが確定してしまった。

閑話休題。

志瑞とも連絡つかないし、パチンコも一段落ついたからとゲームセンターを出たら、現海さんに会った。彼とその辺の飲食店で情報交換や近況報告をしていたら、『ポルターガイスト』の現場に遭遇した。

たしか、店主さんが、盗られた競馬のチケットかなんかを追っかけていたはずだ。


霧乃は、先程までとは違って、『……悠には後で一言お礼でも入れておかないと』という呟きこそあったものの、途中で止めることもなく静かに話を聞いていた。


しかし、その店主を『国際魔術連合』の下っ端?の桜乃為心という人が追っかけていたと話すと、また『待て』と声がかかった。


怒りや呆れではなく、純粋な疑問のようだった。


『『国際魔術連合』がそこにいたのか?』

「そうだけど……」

『桜乃為心、という名前だったのか?自称下っ端?』

「……そんなにおかしい?」

『……いや、大丈夫だ。止めて悪いな。話を続けてくれ』


何この意味深な反応。

そこまで言われたら寧ろそっちが気になるんですけど。

しかし悲しいかな、飛鳥にとって霧乃とは上司である。上司の命令に逆らうわけにはいかないのだ。

内心を押し殺しながら、何とか続けた。


その後を着いて行ったら、いかにもストリートチルドレンがいそうな拠点っぽいとこがあって、そこの探索をしてたら鋏が飛んできまして。

咄嗟に現海さんが庇ったけど、なんか手練らしくて、魔術は使えないわ『影縫』?で身動きはとれないわでピンチになって。

そしたら、志瑞が現れて、ハサミがめっちゃ急所に刺さったのに無傷で生き返ったり、『アレは取り返しがつかない』とか意味不明なことを言ってたり、魔力をなかったことにした?とか、あと釘で透明人間をぶっさしたりしてました。


今整理しながら説明してみても、何が何だかさっぱりという状況だと飛鳥は思った。

しかし、こんな支離滅裂な説明でも霧乃には理解できたらしい。『十分理解できた。ありがとう』と返された。


「今のでわかったの?」

『ああ。色々想像できたから面白かったぞ』

「……」


どこに面白い要素があったのか甚だ謎である。

霧乃は、『しかし、彼は自分の力については明かしたのか』と感想を漏らした。


「まあ、そうなるのかな?正直、皆目見当もつかないけど」

『それはそうだろうとも。初見では、その仕組みは分からない』

「じゃあ説明しといてよ」


そうしたら、最初から実力くらいは信用できたのに。

『そう不貞腐れるな』と苦笑気味に霧乃が宥めた。


『彼との約束だからな。こちらから打ち明けるという訳にはいかなかった』

「でも、」

『だが、まあ、彼が君に見せたというのなら、その約束も無効だろう。私が理解出来ている範囲で良ければ、説明しようか』

「……うん」


説明しなかった理由については納得できなかった飛鳥は、しかし今からでも説明をされるならと口を噤んだ。

それを合図に、霧乃は、ゆっくりと話し始めた。


『志瑞空は『呵責』という『異常性』の所有者だ』

『『呵責』を持つ者は『負』を引き寄せる体質になる。そうすると、不運、不幸、不条理といった『負』が所有者自身を襲う』

『その『負』を、彼は誰かに反射する……否、押し付けることが出来るのさ。よりイメージしやすいように『釘を刺す』のだけれど』

『蘇生できる原理も同じさ。『負』を引き寄せる、つまり『本気で望んでいるものとは真逆の結果』を得る。そして、その結果を誰かに押し付ける』

『『死』という結果で『釘を刺す』という訳だ』

『故に、志瑞空が死ぬことは基本ありえない。彼の心の在り方、根本が変わらない限りだ』

『ああ、あと、無かったことにするのはその派生だな。『負』で誰かの『正』を打ち消すという原理らしい』


『おっと、仕事を処理せねば。それではな。次の依頼はちゃんと行動を共にするように』という言葉の後、つー、つー、という切断音が流れる。


飛鳥は通話画面を閉じながら、つい先程受けた説明を思い浮かべる。


志瑞空の力。死、不幸、不運、不条理を誰かに押し付けることができる『異常性』、『呵責』。

彼自身の『負』は押し付けようと思えば押し付けられるはずだが、初めて会った日のことを鑑みるに不幸体質のままだ。

つまり、実際の理由は分からないが、自分の『負』を誰かに擦り付けないようにしているのではないか?

しかし、死にたくないから、仕方なく世界のどこかのだれかが死ぬのを許容して生き返っているということか。


そういうことなら、志瑞が誰にも能力の詳細を明かしたくなかった理由がわかるような気がする。

依存するなら他人が良く、知人に心配をかけたくなかったのか。

何だ、分かりにくいだけで善人なのかもしれない。


飛鳥は少しちょろかった。


そして、『透明人間』の件について、志瑞が『殺すしかない』と判断した理由とは?

『透明人間』を無かったことにできなかったからだろう。

なかったことにさえ出来れば、救いようはあったのだ。『呵責』で『透明人間』の力を無くせないのなら、紋司は終わりのない地獄を永遠に味わうしかなかった。その最後の救いに、殺して無理やり終わらせたとか?

やっぱりいい人かもしれない。


飛鳥はかなりちょろかった。


良い人、で思い出したことがあった。

現海曰く、志瑞は昔『評議会』に居たらしい。

元々から聞いてみようとは思っていたが、色々あってまだ確認できていなかった。

第一印象で胡散臭い人だと思っていたし、平然と、ヘラヘラと殺していたからその確認もダメ元だと考えていたが、善人なら少しくらい絡みはあったのではないだろうか。


そんな期待を込めて、意を決して飛鳥は志瑞に初めて、音声通信をかけた。

ワンコールで志瑞が応答したのを見て、顔がホログラムで分かるように設定をササッと弄り、瞬間、いつもより少し嬉しそうに見えないこともない彼の顔が映し出される。


『飛鳥ちゃん。どうしたんだい?』

「現海さんから聞いたけど、昔『評議会』にいたんでしょ?」

『そうだけど……?』

「じゃあ、『評議会』を潰した魔術師って知ってる?」


飛鳥の質問に、少し考えこんで、志瑞は自信満々そうに返答した。


『さあ?』


やっぱコイツ使えねー!


飛鳥はそう思いながら通信を雑に切ったのだった。

今週末にXで1章アフタートーク投稿します。

お盆くらいに2章公開予定なので、お楽しみに。


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