1−9
こんにちは。
もう少しで1章は終わりです。
そんな1−9です。どうぞ。
後日談。
『透明人間』こと紋司が志瑞に『釘を刺されてしまった』ので死亡し、それ以降『ポルターガイスト』は発生しなくなった。
飛鳥が全く訳も分からないままに依頼が解決してしまっことになる。
一番困ったのは飛鳥だ。どういった形であっても『依頼』は『依頼』。解決したのであれば、トラブルの原因や解決に至った経緯、事の顛末を報告書にまとめて、全権代行の霧乃や依頼主に提出する義務がある。
しかし、重要参考人の『透明人間』は死亡してしまった。死人に口なしとは言うが、……今は、死人と会話できる魔術や『異常性』が喉から手が出るほど欲しい。
仮に生きていたとして、声は聞き取れない、筆談するにも『透明人間』が魔術を使わないと物を持てないし、チャットを利用しようにも、視認できないならステータスはおろかフレンドコードも確認できないことになるから、チャットしようが無いのだが。
それはそれ、これはこれ。
話を戻すと、他に何か知っていそうなのは志瑞だが、彼は黙秘権を行使して何も語らない。更に、別件の対処に行くと言って聞かない。
情報屋に頼ることも考えたが、正直どの情報屋を利用したらよいか飛鳥にはイマイチ分からない。霧乃を頼れば伝手がないわけではないのだが、その情報屋と昔会った時の印象から、飛鳥は彼女に苦手意識を抱いていた。正直、あまり頼りたくない相手である。
そういった事情からほとほと困り果てていた飛鳥に手を差し伸べたのは、他でもない現海だった。
彼が、「報告書を書くのは初めてだろうけど、情報量少なくて困るよね。オレの資料でよければどうぞ」と簡易チャットで資料を送ってくれた時、飛鳥には現海が神に見えた。
これではもはや神様仏様現海様。今日も現海がデスマーチをしているだろう『軍』本部へ敬礼、更に崇めまでした。
現海が報告書作成の資料にと送ってくれたデータだ。なるべく有効活用したい。
さて、その見つかった資料とは紋司の日記のことだ。
『軍』が事後処理のために彼女が拠点としていた場所で入手したらしいそれだが、外見、そして最初の数十ページは何の変哲もない日記でしか無かった。
学校で何を習ったとか、誰とこんな会話をしたとか、あそこに出かけたとか、そんな出来事があったとか。
少し卑屈っぽいところがあったり、香ばしいポエムが書かれていたりもするが、それも青春の一ページである。十年経って見返せば、黒歴史だなんだと言いながら笑える代物だっただろう。
一般的な高校生の日常生活がそのまま綴られていた。
「へー。普通の高校生ってこんな感じなんだ」
「何これ。ビックリマーク?さいん、こさいん、たんじぇんと?」
「っていうか、舞月財閥って八遠町にも私立の学校建ててたの?」
「映画……遊園地……楽しそうだなあ」
「劇団『STELLA』ってそんなに有名なのかな?学校に来ただけでそんな喜ぶかなあ」
所々感想を漏らしながら読み進めていた飛鳥だったが、ふと手が止まる。
『透明人間』になれた、と喜色を顕にして書かれていた。
『我、透明人間になった也。バンザイ!』
『何でもかんでもやりたい放題だ!何しようかな?』
『あ、お母さんたち探してるなあ。まあ、手紙でもあとで書いとこう』
「ノリが軽いなあ」
どこか楽観しているような、達観にも感じられるような、そんな感想が並んだ。
日記ならどういう経緯で透明になったか分かるかと期待していたが、全くそれが書かれていなかった。残念。
苦笑しつつも頁を進めると、数日後、日記に書かれる内容が一変した。
『あの子、ああいうふうに私のこと思ってたの?聞きたくなかった』
『あの人に彼女がいた。キスまでしてた。忘れたくても忘れられない。目に焼き付いてる』
『やめてって言ってもやめてくれない。透明だからか。たしかに意味ないなあ』
徐々に暗い言葉が並ぶようになる。
『私だけが友達って思ってたみたい。一方通行って悲しい』
『世界一無害で傍若無人なゴミになる』
『私がいないってことに皆気づかなくなってきた。私がいない方が当たり前だったのか』
『私だけがいない街。なんてね』
『悪い癖をやめてみた。どうせ誰も見つけられないから意味ないや』
それでもまだポエムらしい何かを作る気持ちの余裕はあったらしい彼女だが、親の転居について淡々と書いた後は、壊れてしまった。
『私のこと知らない顔して楽しそうに生きるのやめて』
『独りじゃ笑えない』
その他にも呪詛ばかり綴られていたし、ぽつぽつと染みもあったし、ものも持てなくなったからと魔術で対処を図る時には魔術式がぐちゃぐちゃと紙面いっぱいに描き殴られていた。
残りのページも僅かになった時、急に今まで乱れていた字は整っていた。
『私の悪口を久々に聞いた。最近は全く聞かなくなっていた。私のことを、両親も、兄弟も、親戚も、教師も、親友も、友人も、知人も、先輩も、後輩も、誰も思い出す様子がなかったから。私は忘れられたと、居なかったことになってしまったと思っていた。私がまだ誰かの記憶にいると思うと嬉しい。内緒の悪口ありがとう』
……飛鳥は、次の頁を開いた。
『そうだ。目立つようなことをすれば良いのか。皆に噂されれば、私に関する記憶は褪せない。
手っ取り早く目立てるのはやっぱり犯罪か』
『お願い。大嫌いな私をどうか忘れないで。街のすみっこでいいから居させて』
どんな犯罪をしたという記録がしばらく続き。
そして、志瑞が彼女を殺した日の午前ー飛鳥がゲーセンに籠ってパチンコをしていた時。
『交差点、人混みの中を急いでる様子の男性が、すれ違いざまに確かに私を避けた。
今、私はここにいる』
そこで、日記は終わっている。
「あー……」
想像していたよりも重い内容に、思わず詰まっていた息を吐き出して、居室のベッドにぼすんと仰向けになった。
……本当に、殺すしか無かったのか。
もっと他の、最善策があったのではないか。
だって、紋司は認知されたくて罪を犯したのだ。それなら、『見える人』……彼女の日記に書かれていた男性のような人を探せば良かったのでは?
否。そんなことでは解決しないと、飛鳥は理解していた。
見えるその誰かにも自分の人生がある。透明人間にずっと寄り添えるわけではない。中途半端に離れたら、依存してしまった透明人間は逆戻りしてしまう。もしかしたら、もっと酷い末路を迎えていたかもしれない。
酷な環境で飼われている鳥を良かれと思って解放しても、野生ではその鳥は生きていけないように。
「あー、うー、」
でも、やっぱり納得できない。納得できてたまるか。
というか、志瑞のあの力は何?『呵責』?それこそチートで、取り返しのつかない力じゃないか。人のこと言えたものじゃないでしょ。
そして、霧乃ちゃんも知ってて敢えて何も言わなかったのムカつくし。
っていうか、あまりにもあっさり解決したから『恩人』のこと探す暇も無かったし……おのれ志瑞。
それに日記は読んだけど、目新しい情報そんなに無いし。寧ろ中途半端に知ってしまった分複雑な気持ちになったし。おのれ志瑞。
兎にも角にもまず報告書を仕上げて、それで文句を言ってやる。飛鳥はそう決意して、報告書のテンプレートを開いてただ勢いに任せて入力していった。
『『ポルターガイスト』。
八遠町在住の高校生、紋司沙和が何らかの要因で『透明人間』となり、精神衛生を大きく乱し、自身の存在をアピールする為に行った違法行為が、外目から見て心霊現象に映ったが為に、この騒動はそう呼ばれた。
現場や素性を調査し、第三者の魔術、紋司自身の魔術や『異常性』、その他あらゆる科学技術でも事実再現性はないものと推測。
紋司の遺品を確認したところ、本人が望んだ結果『透明になれる体質』を後天的に会得したと日記に記載があった。当初は喜んでいたが、周囲からの放任、陰口、『透明人間』化による生活面の大きな変化に伴い、徐々に心身疲弊していくのが読み取れた。追い詰められた結果、数々の違法行為を行ったのだと結論づけられた。
尚、本件は紋司沙和本人を『JoHN』幹部の志瑞空が終了処分して以降、『ポルターガイスト』は発生しなくなった為解決している。
終了処分とした理由について志瑞空は、『取り返しがつかない』と説明しているが、その判断に至った理由は黙秘している。彼から情報が得られ次第、加筆修正する予定である。
担当者:七世飛鳥』
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