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残念ながら、僕達は  作者: 桜油
二部五章『聖杯と呵責』
105/110

5-7

こんにちは。

今日からラスボス戦です。

私が戦闘体勢をとったのを見て、古白は鼻で笑った。


「まだ『魔弾』の効果、続いてるでござるよね。100年前に幻の魔術サークル『放蕩の茶会』が作成して『軍』に寄付したという、魔術師殺しの『魔弾』。……今でこそ下界では開発データが失われて生産ができないけど、私も開発に携わったから、私が個人的に作成する分には問題無いんだよ」

「あっそう。で?」

「本来なら1時間で効果が切れるのを、1週間に延長したのは儂じゃよ」

「だから?それって今の盤面に関係なくない?どうでもいいからさっさと始めようよ」


本当にどうでもいい。

魔術が今使えなくても、私は全力で足掻くだけ。

それに変わりがないんだから。


「あっそう。喋りながら戦う方が好みなんだけどにゃあ……」


古白はしょぼんと寂しそうな表情を一瞬浮かべた後、「まっいっか」とあっさり真顔に戻り、術式を起動した。

弾幕がこちらへ向かってくるので間を縫うように躱すと、間を空けずにビームが次々と放たれる。そしてその隙間からは投剣が多数飛んできた。攻撃の出が早いけど目で追い切れるので、そちらも安全圏を見つけて避ける。


「でも暇だし。オイラは喋りたい気分だし。ずっと喋っとくっぺ」


さいですか。

どうせ的外れなことしか言わないんだろうな。


術式からクロス型で放たれたビームをくぐると、途端に身体にかかる重力が重くなり、思わず目を瞠る。

『循環』……識名さんのように時間に干渉するのが特別なだけで、本来はベクトル変更で使われることが殆どのこの魔術を、重力に適用したらしかった。

そして巨大な壁が迫ってくる。これは『土遁』……地形を変える魔術。

正確には術式だけれど、機序が違うだけで、効果自体は魔術と全く同じだ。それなら、術式の書き換えはできなくても、演出を見て対策は取れるかもしれない。

そう考えながら目前まで迫った壁を思いっきり蹴破り、私一人が通れる穴を作って抜けた。


「私も昔は思ってた訳ですよ、『人は予想を超えてくる』って」


うん、全くもってその通りだと思うけど。

そこからなんで、こんなに人をぞんざいに扱えるようになるわけ?

あー、また腹立ってきた。落ち着け私、乗せられたっていいことないから。無視だ、無視無視。


術式が展開される。

今度は……演出を見る限り『稲光』だ。

術式が展開された場所の真下に雷が落ちる傾向にあるので、術式の座標を目視して反復横跳びで躱す。


すると、横からレーザーが飛んできた。

それを見て少し身が固くなる。

未留山で、古白から攻撃された時に調さんが庇ってくれたことを思い出したから。

あの時は斬撃だったけど、色が全く同じ橙。

……見た通りの軌道なんて信じちゃ駄目、でしたよね。調さん。


敢えて逆方向、当たりに行くように動くと、不思議なことに攻撃がすり抜けていった。

そのことに安心しながら、私は次の攻撃を確認する。


「実際、人類は自力で術式を開発した。とんでもねーデメリットがあったせいで世界は消えたけど、それも御厨愛知が術式で再生しやがった。人間は『天秤』を凌駕しうる。古白はそのように考察しました」


まるで自分は人間じゃないとでも言いたげだ。

……まあ、寿命とか、科学力とか、『過負荷』をポンポン配れる時点で確かに人外なんだけど。


『稲光』が多数展開され、『魔力撃』の弾幕が張られる。

隙間を縫って避ける最中に、足元に『土遁』術式が出現する。


「っ!」


柱が勢いよく飛び出してくるのを既のところで右に躱すも、速度が急過ぎて左肩が少し掠る。

肉が抉れる感覚がした。

……大丈夫。ジンジン痛むけどまだ動ける。

柱を足で蹴って折り、折れた柱を手に取って棍棒のように構えた。


「やからね、人間に『実現』の『過負荷』を付与してみたっちゃん。魔術も教えたし、きっと凄いもんになるって思ってたとよ」


すかさず飛んでくる投剣の嵐を柱で捌く。

その直後、投剣で視界が塞がれていた範囲から『魔力撃』のビームが四方八方から飛んできたので柱で防いだ。


「どうやら果実は甘すぎたらしい。『実現』は私欲に溺れた。人間は『異常性』……我々の言葉で言うなら『特性』に目覚め、『実現』を封印した。なのに、馬鹿だよねー。また欲を掻いた人間が『実現』を利用しようとして、結果、また世界はめちゃくちゃになった。こんなはずじゃなかったのになー」


……。

『土遁』の壁で私を挟み撃ちにするのを蹴破りつつ、空から降ってくる『魔力撃』のビームをひたすら左右に躱す。


「それの尻拭いをしたのは結局、『決意』の『特性』を持った『ダークマター』。しかも、『アイ』なんてシロモノを生み出した。……人間は何も出来なかった」

「だから、人間に期待をしなくなったと?」


初めて、まともに返答した。


「そうだよ」と頷く古白に、私はため息を着いた。

やっぱり的外れだ。

古白が人間に好き勝手干渉したからそうなっただけ。

勝手に期待して、勝手に干渉して、勝手に失望しているだけだから。

そもそも、人間は何も出来なかった、なんて言うけどそれも嘘だ。

城月怜は『アイ』で世界を救った。

城月怜がどんな価値観の人か私は知る由もないけれど、『アイ』が『I』でも『Identity』でも『愛』でも、人は独りでそれを自覚することはできない。

喜びを喜び、悲しみを悲しみ、一緒に命を生きてくれる誰かが、城月怜にもいたから『アイ』が出来たんだ。

霧乃ちゃんが生まれたのが、その証拠のはずだから。


「被害者妄想もいいとこだね。やっぱりやり方が間違ってるよ。古白がそう思ってるうちは、貴女の目的は決して果たせない」

「……なんで、そんな酷いこと言うの?」


古白の化けの皮が、めくれた。


「酷い?酷いのはどっちなんだか。というか、『主』とか『天秤』だの言ってるけど、そいつも人間を振り回して悦に浸るタイプなの?悪趣味だね」

「……」


私の返答に心底気に入らないと言った様子で古白は鋭く私を見つめて、やがて深くため息を着いた。


「あーあ。もういいや、本当にめんどくさい」


そして、攻撃がパタリと止む。

持っていた柱も消滅した。

でも、何となくわかる。これは次の攻撃の準備だ。

その予想は正しかったようで、古白は口角を歪めた。


「ねえ、なんで『結界』で君らを分断したと思う?壁で良かったのに」

「……」

「それはーーー君を甚振って、祈りたくさせる為だよ」


瞬間、真っ黒だった空間が一気に色づく。

廃れた教会。空いた天井には仄暗く分厚い雲が空を覆っていて、酷く曇っていた。


「遅ればせながらーーーようこそ、我が胎内へ」

「……」

「君もすぐに『聖杯』らしく生まれ変われる。ふふ、素敵なことでしょう?」


全然素敵じゃないけど。

術式がまた多数展開される。『魔力撃』の弾幕だ。

いつも通り軌道を見てから躱そうとしてーーー痛みが走った。


「っ!」

「今のうちに言っとくと、避けても無駄だよん。オレの攻撃は全て『命中』するというルールだから。反撃も無駄だぜ?君の攻撃は絶対『外れる』から」

「……」

「そして、ここからが大事なとこ。『命中』すること前提で行動しても、私の攻撃が君に当たったという結果、君の攻撃が外れたという結果を確定し続ける空間だから。何をどう工夫したって無駄って訳なんですわ」

「……なるほどね」


冷や汗が滲む。

今までの戦法すら通用しないってことか。

『ダークマター』の自然治癒すら宛にできない今、果たしてどこまで耐え切れるだろう?

『命中』してしまうなら、せめて比較的ダメージが浅くなるところで受けるか、もしくは受け身をとってダメージを軽減するしか無いけど。


古白は続けた。


「コレがワタシの『特性』……じゃなかった、『異常性』。だからずっとこのままの環境で在り続ける。君に勝ち筋なんて何一つもないッス」

「……」

「あっ、1個だけ解決策があるよ?君が『聖杯』になれば、ボクのこの結界なんて簡単に割れる。そのままうちを殺すこともできるやろな」

「問題ないよ。『聖杯』にならず、私は乗り切ってみせる」

「あらそう。『聖杯』にならないなら……このまま、死ねばいい」


その言葉と同時に、夥しい量の術式が展開された。

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