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初めての空くん一人称視点です。
僕は底辺だ。泥を這い蹲る者だ。
生まれついた時から、不運を呼び寄せる体質だった。
僕の周りにいると事故に遭ったり、病気になったり、それが重篤化して入院が必要になったり、事件に巻き込まれたりする。重い怪我をすることもあるし、もっと酷いと死んでしまう。
そして、それは大体、僕の身代わりのような形で起こる。
かといって僕が優秀かと言われればそんなことはなく、何をやっても上手くいかない。平凡な結果すら残せない。
いつしか『忌み子』『疫病神』として、今にして思えばその身に余る罰を受けるようになった。
周りに味方なんていなかった。
誰と会っても、蔑み疎まれ、畏れ嫌われる。
調ちゃんだけが無関心で、それだけじゃあ僕はこの世では笑えなかった。
『評議会』に来てからも、基本変わらなかった。
僕は『疫病神』。『忌み子』。
不運を呼ぶだけ呼んで、むしろ周りに迷惑をかけながら死んで、それなのに必ず生き残る。五体満足、何の後遺症もなく帰投する。大した戦果も挙げられない。ただ惨めに負けて生き残るだけなのに。
そうして死にたい僕は今日も息をして、生きたい人が明日を見失う。
『呵責』を自覚したのもその頃だね。
幸せを望んでも、夢を見ても、決して叶わない。逆の方向に実現する。
だから。
生きて欲しいと思った人は決まって早死する。
敵を殺したくてもトドメを刺しきれない。
情報を持ち帰ろうと思っても証拠を紛失する。
死にたいと思えば思うほど、どんどん死から遠ざかる。
勝てない。負けてばかりになる。
劇団『STELLA』の映像を見て、『主人公』なんてものに憧れても、僕には一生届かない。
そして一生、僕は僕の『価値』を認められないままだ。
そんなある日、『研究室』に移籍した。
そこで飛鳥ちゃんを初めて見た時、ーーー可哀想で可愛いと思った。
僕だけがどうしようもないんだって、いつも、ずっとそう思ってた。
周りばかりが綺麗で正しくてマトモで充実しているように見えた。
だけど、この子は僕と同じ。
死にたがっているのに死ねないんだ。
それだけで気が楽になった。
なんで強引に生かされ続けるのか、気になった僕は研究資料を盗み見した。
『聖杯』のことも『過負荷』のことも書かれてて……僕は、『解放』しようと思った。
『ようさん』が奇跡を飴みたいに配って、その結果『エリート』がポンポン生まれてる。飛鳥ちゃんのことも利用しようとしてる。
『エリート』も『ようさん』も全員に釘を刺せば、世界は平和だよ。僕も皆『底辺』に引きずり込めて、地を這わせられるから満足さ。
だから、『釘を刺した』。
そして死ねない僕を置いて消えようとしてる飛鳥ちゃんも、勝手に死なないように『二人ぼっちなら平気かな』なんて綺麗事で釘を刺した。
そうだよ。
だからさ。
僕のこととか、『二人ぼっち』とかもきれいさっぱり忘れて、もっと世界を広く知って、自分よりも不幸な奴も沢山いるってちゃんと知って、どん底の僕を笑ったって良かったんだよ。
寧ろ、その為に、僕に関する記憶に釘を刺したんだ。
飛鳥ちゃんは何も知らないまま、表で幸せになる。
僕は『ようさん』の計画に、徹底的に釘を刺す。
それができたら、僕はやっと『価値』を認められるから。
なのに、飛鳥ちゃんってば、僕の名前と姿は全く覚えてないのに、僕とのやり取りは鮮明に覚えちゃってるんだもん。
僕なんかを追いかけて、安泰だったはずの『軍』庇護下から抜け出すし、『JoHN』では100回断られても、僕を探しに行くためだけに土下座を続けた。
『二人ぼっちなら平気』なんて約束を守るために、馬鹿みたいに真っ直ぐに突き進み続けてさ。
あまりにもあんまりで霧乃ちゃんが折れて、僕を護衛につけるなんて条件で許可しちゃうし。
せめて嫌われようとしたのに、飛鳥ちゃんはどんどん心の距離を縮めてくるし、僕のことを忘れたままで信頼を寄せてくるし。
一点の濁りもない笑みを、僕の隣にいるのに、僕に向けてくるんだ。
今日死んだっていい。
いつだってそう思ってたのに。
『僕がいるだけで君が笑顔になるなら、さよならする理由なんて無ければいいのに』
なんて心が芽生えて、僕は、生きていたいと願うようになってしまった。
それが悪夢の始まりだった。
お陰で、分からないことだらけだよ。
こんなにも温かいのに、どう受け止めて、どう返したらいいか分からない。
飛鳥ちゃんのせいだ。
思い返せるほどの愛を飛鳥ちゃんから受け取ってしまった。
寄り添っていいほど心を許せてしまった。
分かり合えるほど言葉を話さなくても、飛鳥ちゃんは僕がいるだけで笑って、僕がいないと悲しそうにする。
今だってそう。
僕は今度こそ消えようと思ったのに……そんな顔したら、笑えない。相打ちで『ようさん』に勝っても『価値』だと思えなくなるじゃん。
ねえ、飛鳥ちゃん。
僕は、ずっと昔から『勝ち』たかった。『価値』が欲しかったんだ。
でも、できっこないってずっと諦めてた夢。
『エリート』に勝ちたい。
格好よくなくても、現海くんみたいに格好いい奴に勝ちたい。
正しくなくても、調ちゃんや智見くんみたいに正しい奴に勝ちたい。
綺麗じゃなくても、識名ちゃんみたいに綺麗な奴に勝ちたい。
才能に恵まれなくても、落ちこぼれでも、はぐれ者でも、才能に溢れた上り調子のつるんでる連中に勝ちたい。友達がいなくても、『友達』が多い奴に勝ちたい。努力出来ないまま、何もかも裏目に出るこの体質のまま、努力したら正当に報われる奴に勝ちたい。勝利できないまま、勝利できる奴に勝ちたい。『不幸』なままで『幸福』な奴に勝ちたい。
……『忌み子』でも、『疫病神』でも、底辺でも、『這いよる混沌』でも、惨めでみっともなくたって。
僕は主役を張れるって、証明したいんだ。




