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残念ながら、僕達は  作者: 桜油
二部五章『聖杯と呵責』
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5-5

初めての空くん一人称視点です。

僕は底辺だ。泥を這い蹲る者だ。

生まれついた時から、不運を呼び寄せる体質だった。

僕の周りにいると事故に遭ったり、病気になったり、それが重篤化して入院が必要になったり、事件に巻き込まれたりする。重い怪我をすることもあるし、もっと酷いと死んでしまう。

そして、それは大体、僕の身代わりのような形で起こる。

かといって僕が優秀かと言われればそんなことはなく、何をやっても上手くいかない。平凡な結果すら残せない。


いつしか『忌み子』『疫病神』として、今にして思えばその身に余る罰を受けるようになった。

周りに味方なんていなかった。

誰と会っても、蔑み疎まれ、畏れ嫌われる。

調ちゃんだけが無関心で、それだけじゃあ僕はこの世では笑えなかった。


『評議会』に来てからも、基本変わらなかった。

僕は『疫病神』。『忌み子』。

不運を呼ぶだけ呼んで、むしろ周りに迷惑をかけながら死んで、それなのに必ず生き残る。五体満足、何の後遺症もなく帰投する。大した戦果も挙げられない。ただ惨めに負けて生き残るだけなのに。

そうして死にたい僕は今日も息をして、生きたい人が明日を見失う。


『呵責』を自覚したのもその頃だね。

幸せを望んでも、夢を見ても、決して叶わない。逆の方向に実現する。


だから。


生きて欲しいと思った人は決まって早死する。

敵を殺したくてもトドメを刺しきれない。

情報を持ち帰ろうと思っても証拠を紛失する。

死にたいと思えば思うほど、どんどん死から遠ざかる。

勝てない。負けてばかりになる。

劇団『STELLA』の映像を見て、『主人公』なんてものに憧れても、僕には一生届かない。


そして一生、僕は僕の『価値』を認められないままだ。


そんなある日、『研究室』に移籍した。

そこで飛鳥ちゃんを初めて見た時、ーーー可哀想で可愛いと思った。


僕だけがどうしようもないんだって、いつも、ずっとそう思ってた。

周りばかりが綺麗で正しくてマトモで充実しているように見えた。


だけど、この子は僕と同じ。

死にたがっているのに死ねないんだ。

それだけで気が楽になった。


なんで強引に生かされ続けるのか、気になった僕は研究資料を盗み見した。

『聖杯』のことも『過負荷』のことも書かれてて……僕は、『解放』しようと思った。

『ようさん』が奇跡を飴みたいに配って、その結果『エリート』がポンポン生まれてる。飛鳥ちゃんのことも利用しようとしてる。


『エリート』も『ようさん』も全員に釘を刺せば、世界は平和だよ。僕も皆『底辺』に引きずり込めて、地を這わせられるから満足さ。


だから、『釘を刺した』。

そして死ねない僕を置いて消えようとしてる飛鳥ちゃんも、勝手に死なないように『二人ぼっちなら平気かな』なんて綺麗事で釘を刺した。


そうだよ。

だからさ。

僕のこととか、『二人ぼっち』とかもきれいさっぱり忘れて、もっと世界を広く知って、自分よりも不幸な奴も沢山いるってちゃんと知って、どん底の僕を笑ったって良かったんだよ。


寧ろ、その為に、僕に関する記憶に釘を刺したんだ。


飛鳥ちゃんは何も知らないまま、表で幸せになる。

僕は『ようさん』の計画に、徹底的に釘を刺す。

それができたら、僕はやっと『価値』を認められるから。


なのに、飛鳥ちゃんってば、僕の名前と姿は全く覚えてないのに、僕とのやり取りは鮮明に覚えちゃってるんだもん。

僕なんかを追いかけて、安泰だったはずの『軍』庇護下から抜け出すし、『JoHN』では100回断られても、僕を探しに行くためだけに土下座を続けた。

『二人ぼっちなら平気』なんて約束を守るために、馬鹿みたいに真っ直ぐに突き進み続けてさ。


あまりにもあんまりで霧乃ちゃんが折れて、僕を護衛につけるなんて条件で許可しちゃうし。

せめて嫌われようとしたのに、飛鳥ちゃんはどんどん心の距離を縮めてくるし、僕のことを忘れたままで信頼を寄せてくるし。

一点の濁りもない笑みを、僕の隣にいるのに、僕に向けてくるんだ。


今日死んだっていい。

いつだってそう思ってたのに。


『僕がいるだけで君が笑顔になるなら、さよならする理由なんて無ければいいのに』


なんて心が芽生えて、僕は、生きていたいと願うようになってしまった。

それが悪夢の始まりだった。


お陰で、分からないことだらけだよ。

こんなにも温かいのに、どう受け止めて、どう返したらいいか分からない。

飛鳥ちゃんのせいだ。

思い返せるほどの愛を飛鳥ちゃんから受け取ってしまった。

寄り添っていいほど心を許せてしまった。

分かり合えるほど言葉を話さなくても、飛鳥ちゃんは僕がいるだけで笑って、僕がいないと悲しそうにする。

今だってそう。

僕は今度こそ消えようと思ったのに……そんな顔したら、笑えない。相打ちで『ようさん』に勝っても『価値』だと思えなくなるじゃん。


ねえ、飛鳥ちゃん。

僕は、ずっと昔から『勝ち』たかった。『価値』が欲しかったんだ。

でも、できっこないってずっと諦めてた夢。


『エリート』に勝ちたい。

格好よくなくても、現海くんみたいに格好いい奴に勝ちたい。

正しくなくても、調ちゃんや智見くんみたいに正しい奴に勝ちたい。

綺麗じゃなくても、識名ちゃんみたいに綺麗な奴に勝ちたい。

才能に恵まれなくても、落ちこぼれでも、はぐれ者でも、才能に溢れた上り調子のつるんでる連中に勝ちたい。友達がいなくても、『友達』が多い奴に勝ちたい。努力出来ないまま、何もかも裏目に出るこの体質のまま、努力したら正当に報われる奴に勝ちたい。勝利できないまま、勝利できる奴に勝ちたい。『不幸』なままで『幸福』な奴に勝ちたい。


……『忌み子』でも、『疫病神』でも、底辺でも、『這いよる混沌』でも、惨めでみっともなくたって。


僕は主役を張れるって、証明したいんだ。

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