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残念ながら、僕達は  作者: 桜油
二部五章『聖杯と呵責』
100/110

5-2

桜坂市、『軍』本部の医務室。

気を失ったままの空くんをベッドに寝かせていると、背後からノック音がした。


どうぞ、と声に出して入室を促すと、現海さん、識名さん、会長という世にも奇妙な組み合わせの三人がそこにいた。


「どうしたんですか?」

「どうしたんですか、ちゃうわ!」


先陣を切ったのは識名さんだった。

そのあまりの迫力に唖然とする中、識名さんは続けた。


「聞いたで、現海から。志瑞は意識失っとる上に深い切り傷……『回復』でもどうにもならんとかようわからん傷拵えるし、七世もなんや魔術が一時使えんとか、何があったん?」

「ごめん、識名には安静にするように伝えたんだけど……居てもたってもいられなくて、ここまで突撃してきちゃったんだ」


ああ、なるほど。

現海さんが識名さんに話したら、識名さんが飛び出しちゃったのか……。

その光景がありありと浮かんで、苦笑いが出た。


桜坂市に着陸した後。

空くんが目を覚ますまでにちょっとくらい傷の手当をしたかったから、治療できる場所として『軍』の医務室を選んだ。

現海さんに連絡を取り、何とか部屋を用意して貰えたんだけど……識名さんに話しちゃったかぁ。いや、そりゃ話すに決まってるよね。

私は全てを話した。


未留山に調さんがいるという情報を空くんが掴んだこと。

智見さんからの調さん捜索依頼を解決するために向かうと、智見さんと調さんが一緒にいて、戦闘になったこと。

魔術を使えなくなったものの辛勝したこと。

空くんが調さんにトドメを刺そうとしたところで、智見さんが庇って亡くなったこと。

『ようさん』こと古白曜が現れて、こちらの消耗は酷く、空くんも酷く動揺していたので退却せざるを得なかったこと。

調さんは自ら囮を買って出て、……犠牲になったこと。


「……そうか」

「……」


現海さんも識名さんも、調さんと智見さんの訃報にショックを隠せない様子で閉口した。

私よりも、二人に対して色々と思い入れがあったはず。現海さんと識名さんがそれぞれ、今何を想うのか。


やがて、今度は会長が口を開いた。


「俺は今日、舞月憩について報告があると聞いたからここまで足を運んだが、一つだけ確認させたまえ。……これは、最終報告か?」

「はい」

「そうか。憩がこの場にいないということは、……そういう事か?」

「……はい」

「……覚悟はできた、報告してくれたまえ」


そう促され、今度は会長へ、舞月さんのことを報告した。

未留山で色んなことがありすぎて、遠い昔のことのように感じるけど、なるべく鮮明に、伝えられるだけのことを全て。

淡々とそれを聞いていた会長だったけど、目尻に光るものがあった。それを私は見て見ぬふりした。


報告を一通り終えると、会長が徐に口を開く。


「……依頼の解決、誠に感謝申し上げる。報酬を支払おう」

「いえ、いりません。私は特に何も出来てませんから。舞月さんのこと、連れ戻せませんでしたし」

「問題ない。依頼内容は真相究明、ただそれに尽きる。……憩が何を想っていたか、居所、その結末を知ることができた。これで、せめて弔える」


それは、識名さんや現海さんも、同じ気持ちだろうか。

それとも、悔いが残る結末だろうか。


……ああ。

舞月さんも、調さんも『過負荷』とか『神』なんかのせいで滅茶苦茶になって、周りにいる人達まで苦しんだ。

やっぱり、こんなの間違ってる。

そんな人をこれ以上増やしちゃいけない。


涙がじわりと滲みそうになるのを何とか抑えていると、会長はさらに続けた。


「気に病むな。本当に、情報だけでも持ち帰ってくれたことが幸いなのだ。色々思うところがあるかもしれないが、せめて心ばかり、金という形だけでも、礼をさせてくれ」

「……分かりました」


渋々、いつの間にか送付されていた巨額の電子マネーを受け取った。

さすが財閥。こんなどうしようもない結末だったのに、簡単に数億円支払ってくる。本当にいいのかな……?


「ちなみに、それは次の依頼の前金も入れてある」

「えっ、」


会長の言葉に、思わず声を漏らした。

次の依頼なんて言われても、今は古白をどうするか考えないとだし、空くんのことが一番気になるし、色々無理なんだけど。

それでも、会長は続ける。


「え、ではない。問題が残っているだろう」

「えっと……」

「散々娘を、『過負荷』なんて人の弱みに漬け込むような卑怯な代物で振り回してくれた輩。……古白曜、といったか?そいつに、どう落とし前を付けてくれようか」

「あ、」


会長が怒りを露わに、拳を強く握りしめていた。

血が滴り落ちて、医務室の白くて清潔な床を赤く濁す。


「舞月財閥会長として。次期会長を奪われたという事実に対して、徹底的に然るべき対応をする。なに。幸い、志瑞一族と婚姻を結んだ当時の記録がここには残存しているからな。全て提供しよう。だから……憩の人生に、意味をくれ」

「会長……」


それは、激励だった。


「せやな」


次に声を上げたのは、識名さん。


「霧乃も、調も、『神』を打破したがっとった。その『神』がノコノコ正体を現してくれる上に狙いがあんさんとか、寧ろちょうどええわ。うちらの想いを全部持って行って、その『神』とやらを一発ぶん殴ってきぃや。ちょうど、智見がうちに『国際魔術連合』全権代行の座を一昨日ぶん投げてきよったさかい、昔の記録は持ち出し放題やで?」


そう言って、識名さんは手をワキワキとさせた。


「オレも乗ったよ、その話」

「現海さんも?」

「そう。『軍』は長年『JoHN』と提携してきたから、消えた記録もこっちなら保管してあるよ。それに、伊達に世界最古の魔術組織じゃないから」

「現海……お主もワルよのォ?」

「そっちこそ。職権乱用の時間ですってか?上等だよ。そんな悪趣味な神がいたら、クソッタレな世界もマシにならないっての」


現海さんも名乗りを上げて、識名さんと顔を合わせては悪巧みをしているような笑みを浮かべた。

私は思わず唖然としてしまった。

皆、悲しんでると思ってた。

いや、悲しんでたのは本当なんだと思う。

けど……何倍も、何十倍も、心が強い。

すぐに前を向いて、自分にできることを提案して、実行しようとしてくれてる。

そうして、荊棘の道を明るく照らすんだ。


調さんの言葉が脳裏をよぎる。


『人の意思は脆い』

『けど、人の希望は強い』


……そうだよね。

私は、託された。遺された。

私が落ち込んでちゃ、何も始まらないよね!


頬を叩き、気持ちを切り替える。


「うん。その依頼、受けます!」


その言葉に三人とも頷いた。


「じゃあ、オレは『軍』の資料を片っ端から漁ってくるよ」

「ほなら、うちは、色んな魔術組織に照会かけるわ」

「そうか。俺は先程も言った通り、『志瑞一族』『実現の魔女』『異常性』に注目して調べよう」

「私も、今までに見聞きしたことをまとめて思考を整理してみます。なにか分かったらチャットで教えてください」

「「「了解」」」


私の言葉を聞いて、三人は離散した。

私は空くんの寝顔を見る。

……空くんが何を抱えているのか、その全容はまだ分からない。

けど、『ようさん』に勝ちたいってずっと思ってたことだけは分かるから。


「私、頑張るよ」


頑張って、『ようさん』への勝ち筋、希望を必ず見つけるから。

待っててね、空くん。

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