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残念ながら、僕達は  作者: 桜油
一部一章『ポルターガイスト』
10/76

1−8

こんにちは。

今日からまた仕事です。

寝不足だなあ……。

そう思いながら予約投稿の設定中。


では、続きです。どうぞ。

『釘を刺す』。

そう言って戦い始めた志瑞は、透明人間相手に一歩も引かなかった。

自身の特性を尽く利用して、魔術を駆使して彼を仕留めようとする透明人間の攻撃は、どれも志瑞の命を絶つことができなかったのだ。

否。正確に言えば、確実に彼の命を刈り取ってはいる。

しかし、志瑞は何度殺されてもすぐに復活した。何事も無かったかのように透明人間を嗤う。

飛鳥に向いていた筈の狙いもいつの間にか志瑞に集中していて、飛鳥はおろか、現海にさえ攻撃がこなくなっていた。

飛鳥は、固唾を呑んでその戦いを見届けていた。

これが、霧乃ちゃんが『懐刀』と称するほどに強く信頼する人物、志瑞空の実力。

『負け戦なら百戦錬磨』。

現海が教えてくれた、志瑞の二つ名の一つだが、負け続けて、それでも生き残り続けたという意味だけが独り歩きしている。

しかし、正しく彼の実力を把握している、ある情報屋はこの二つ名をこのように解釈していた。

曰く、『負け戦と思われた盤面をひっくり返せる』のだと。

無論、世間知らずで裏の界隈に無知な飛鳥がこの評価を知る由はないのだが、彼女は知らずともその目、耳、肌でひしひしとその意味を感じ取っていた。


盤面がどれほど拮抗しただろうか。

何度目かも分からない志瑞の復活の時、特に息切れした様子もない彼が、いつもの笑顔を崩すことなく口を開いた。


「さて、透明人間ちゃん。その分不相応な『力』を、自分で解除するんだ」


相対している敵からは何も返答がない。

否、聞こえるはずもないのだが、志瑞は肩を竦めた。


「無理?それもそうか。だって、君のその力は取り返しつかないし」


うんうんと腕組みして大袈裟に頷いてみせた彼は、すっと目を細めた。


「じゃあ、僕の方で君の『チート』は封じさせてもらうぜ」


志瑞がそう言い放った途端、ひゅんひゅん飛び交っていた鋏が勢いを失い、次々と落ちていった。

それだけではなく、誰かが持っているかの如く宙に浮いていた鋏まで自然に落下し、展開されていた魔術式もその効力を失って薄れていった。


「一体、何が」


困惑する現海に、志瑞はなんでもないように言葉を発した。


「透明人間ちゃんの魔力を、無かったことにした」

「え、」


魔力を無かったことにする……つまり、全く魔術が使えなくなるということだが、魔術が使えないくらいで鋏を持てなくなるんだろうか。

そう首を傾げた飛鳥に視線を送ることなく、志瑞は続ける。


「『異常性』ではこうはならないよ」

「『異常性』は先天的なものだ。DNAに刻まれている、言わば個性ともいえるもの。故に、どこまで使うと危険か、本能で理解できるから、使いすぎることはない。意図してその域を超えたら、記憶とか、存在とか、本人の根幹に関わるものを喪う仕様になっている」

「魔力を失った、魔術を使えない。それだけで、ものを持てなくなるーましてや、意識を保ったままで現世への干渉力を失うことなんて不可能だよ」


それは、飛鳥への説明というより、目前にいるだろう透明人間に対しての解説のようだった。

それほどまでに、志瑞の語調は悪意に満ちていた。


「一体誰が、どんな理由で『透明人間』なんて力を望んだのかは分からない。僕たちに分かるのは、そんな力を望んだこと、そしてその願いがエスカレートした結果、ものも魔術の補助なしに持てなくなってしまったということだけさ」


どろりとした悪感情が、彼の胡散臭い雰囲気から滲み出ている。


「ああ、勘違いしないでおくれ。僕が何もしなかったとしても、いずれはこうなっていたんだ。そしてそう遠くない将来、重力や引力すら作用しなくなって、まともに歩けなくなっていた筈だよ」


だから、と一拍置いて、志瑞は宣告した。


「僕は悪くない」


張り詰めた空気の中、ゆっくり、ゆっくりと歩を進める志瑞だったが、その前に一人立ち塞がった。

現海だ。『透明人間』の魔力がなくなったことで、『影縫』が解除された為に動けるようになったのだ。

とはいえ、謎の魔術封じは未だ効果を発揮している。故に、魔術が使えない只人でしかないのだが、それでも志瑞の行動をみすみすと見逃す訳にはいかないと判断した。

魔術が使えない状況を想定して、体術でもある程度戦闘できるように鍛えられているという自負もあった。


「……現海くん。どういうつもりかな?」

「そういう君こそ。もしや、彼女を殺すつもりではないだろうね?」

「……へえ?」


途端に、今まで『透明人間』に向いていた溢れんばかりの敵意が現海へも向けられる。

飛鳥は背筋が凍るようだった。冷や汗が流れる。現海の擁護をしたいのに、勇気が出ない。

悪感情を向けられた当人の現海は一切怯むことなく、口を開く。


「悪徳魔術師なら庇う道理も無かったんだけど、『異常性』所有者……いや、一般人。それならば、オレたち『軍』が守るべき民だね」

「罪人だとしても?」

「罪を犯したのは事実。しかし、だからこそそれ相応に、法で裁かれるべきだよ」

「戸籍もないのに法なんて適用できるかな?」

「たとえそうだとしても人権を保証するのが『軍』という組織だよ」


現海のその言葉に、一瞬だけ志瑞の雰囲気が揺らいだ。

え、と志瑞の表情を窺うも、変わりなく悪意を現海に傾けるばかりだし、現海も厳しい目で志瑞を警戒しているだけ。飛鳥自身も気の所為だと片付けた。

それに、と現海は続けた。


「戸籍ならある。調べがついている」


そう言うや否や、彼は懐から書類を取り出して志瑞へ見せる。

差し出されたそれに志瑞が目を通す様子はないが、現海は構わず話を続ける。


「紋司沙和。八遠町で生まれ育った。一般的な中流家庭の長女。将来は魔術師志望で、地元の高校の魔術科に進学。しかし、数年前に就寝のために自室に入ったのを最後に消息を絶ち、未だ痕跡すら見つかっていない。捜索願は出されていたが、……現在も未解決のまま。依頼主も転勤を理由に昨年転居してから音沙汰がない」

「……」

「ところで、『ポルターガイスト』は数年前から発生している事象だ。……ちょうど、紋司沙和が失踪した頃にね」


そこまであたりをつけていたとは、さすが現海さん!

そう手放しに賞賛できる空気でもなかったが、さっきから話に全く入れていない。

飛鳥はその紋司沙和とやらのことを考えてみた。

元気な体、健やかな心。家族や友人などの大切な人たちが笑っている。そんな平穏で平和で素敵な日々。

何がきっかけかは分からないが、突如として『透明人間』になってしまい、その大切な人たちから……否、世界中から一切認識されなくなる。

ものを動かすくらいしか存在をアピールできなくて。でも、ものを動かしても誰も『自分』を見つけてくれない。

なるほど、確かに寂しい。孤独で気が狂うかもしれない。情状酌量の余地はありそうだ。

けれど、どうしてだろう。どこか、ピンと来ない。

『異常性』でも魔術でもないとしたら、どうして透明人間などになったのか?

それが肝なのかもしれない。

そう思索に耽る飛鳥を脇に、現海はまとめに入った。


「『透明人間』になった彼女は、何者かの手でそのような体質になってしまい、その結果人生が狂ってしまった。それを殺すしかない?救いようがない?そんなことないと思うね」


現海の話を黙って聞いていた志瑞は、「ふうん」と呟いた。


「随分感動的な話だね」


いや、全く感動しているように見えないんだけど。


表情を微塵も変えずに感想を漏らす志瑞に、飛鳥は内心で突っ込んだ。

しかし、それも束の間。


「でも」という言葉と共に、またおどろおどろしい雰囲気でその場が満たされた。


「『透明人間』になって相手してもらえないからって、奪ったり壊したりした物や人は二度と元の形に戻らない」

「それは、そうだけど」

「ましてや、『透明人間』でいたいと願ったのは君だろう?『透明人間』ちゃん」


え、と飛鳥も現海も固まる。

その隙をついて、志瑞は現海の脇を抜けた。


「あ、」


現海が即座に振り返って腕を掴もうと手を伸ばしたが、飛鳥が咄嗟に現海の反対側の腕を引いた。

瞬間、現海の目の前に身の丈程の釘が大量に生える。第六感を働かせた飛鳥が腕を引いていなければ、現海は抵抗の術もなく釘刺しにされて、魔術が使えない以上ロクに回復すらできず事切れていたであろうことは想像できた。


ひゅ、と息が漏れる中、志瑞は嗤った。


「やだなー現海くん、飛鳥ちゃんに庇われちゃって情けない!でも大丈夫だよ現海くん、落ち込まないで?世間知らずで甘ちゃんで正義の英雄気取るくせに取りこぼしなんてまったく意識してない偽善者。それが君のかけがえない個性だから。それを誇りに思って、自分らしくいこう!君は君のままでいいと思うな!」

「ちょっと、志瑞!現海さんを侮辱しないでよ!っていうか今私が停めてなかったら死んでたんだけど!?この人殺し!」

「ま、まあまあ。怒ってくれるのは嬉しいけどオレは大丈夫だから」

「止めないで現海さん!私、今コイツに鉄槌を下さないとなの!はなして!離すったら離すの!HA☆NA☆SE!」


ムッとして暴れようとした飛鳥だったが、何故か怒る様子のない現海にどうどうと取り押さえられた。

志瑞は続ける。


「さて、『透明人間』ちゃん。そんな平凡な人生を送って、刺激が欲しくなって禁断の果実に手を伸ばしたのが実際の経緯だと思うけど。そんな君に一つ教訓を贈ろう」

「そもそも志瑞!アンタはさっきから知ったようにものを話すけど、何がわかんの?紋司?さんも迷惑でしょ」

「分かるといえばそうだし、分からないと言えばその通りだね」

「はあ……?」


いまいち要領を得ない返事に呆然とした飛鳥を横目に、志瑞は言った。


「そう。後天的に特別な力を得たいだなんて、僕にはさっぱり分からない」

「だけれど、確かに言えることはある」

「受け入れることさ」

「虚構、虚像、虚言、虚名、虚勢、虚礼、虚栄、偽悪、偽善、不毛、不当、不幸、不運、理不尽、不合理、不条理、裏切り、二次被害、流れ弾、堕落、イカサマ、格差、不遇、巻き添え」

「その全てを、受け入れる。そうすれば、僕みたいになれるよ」


誰も志瑞みたいになりたい人なんていないじゃん!


飛鳥はそう反論しようとしたが、現海に口元を抑えられ、むー、むーという意味をなさない音だけが漏れた。

彼は続ける。


「だからね、紋司沙和ちゃん。平穏を失ったのは、特別な力を願ったのが原因なのさ。平穏を願うなら『透明人間』になりたいと『アレ』に願うべきではなかった。『アレ』に願いを捧げるのなら、平穏は掃いて捨てる覚悟をすべきだった」

「つまり、僕は悪くない。君が悪い。きみが悪くて、いい気味だ」


瞬間、また身の丈程の釘が地面から生える。どこからか赤く血生臭い液体が飛び散った。


「……本当、なんなの?」


こんなにも平然と人を殺せるし、何度死んでも平気そうにしてるなんて、おかしい。何もかもが分からない。

そう思った飛鳥の言葉に、志瑞は現海への悪意の篭った言葉遣いでも小馬鹿にしたような表情でもなく、よくぞ聞いてくれました!と言わんばかりの満面の笑みで答えた。


「僕はただのしがない『異常性』所有者だよ。そして僕の『呵責』は『現実』を『虚構』にする」

1章はあと2話で終わります。

そしたら、アフタートークをXで実施してから、2章公開です。

なお、2章は現時点で4割しか完成してないので、公開は8月頃の見込み。


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