第9話「固有スキル」
「なるほどねぇ、つまりショウタくんたちは家出をしていると」
サキ達は、カイの襲撃の後、エースヴィレッジの宿のサバトの部屋でルナの話を聞いていた。
「あのカイって男は、ショウタくんのお父さん、タイヨウ・カツラギに雇われてたわけですね」
「はい、おそらく」
サバトの問いかけにルナが答える。
「今後もカイのような者たちがぼっちゃまを狙ってくる可能性は高いでしょう」
今後、どう行動していくか、三人が頭を抱えている時、ショウタが気持ちを伝えようと口を開いた。
「おれ、もっとつよくなりたい、ゴブリンにもたちむかえるように、つよくなりたい!」
両手を握り込み涙ぐんだ目で強く思いを伝えたショウタに、三人が感化される。
「そうですね、私もぼっちゃまをお守りできるようもっと力をつけなければなりませんね」
「そうと決まれば、皆で修行でしょ」
「だな」
サバト達は、身支度を整えて宿を出る。宿の入口辺りでサキがショウタに話しかける。
「修行の前段階として、まずショウタくんのスキル鑑定をしよっか」
「スキルかんてい?」
「その人の得意なスキルとか不得意なスキルを見るためのものでね、スキル鑑定をすることで自分にあった修行法を見つけることができるの」
サキの説明を聞いたショウタは目をキラキラさせている。
「本来は、基礎スキルをある程度身に付けたあとに、職業選択ができるCランクのランクアップ前に受けることが多いんだけどね」
「ショウタくんは、すでに武器スキルを使えるし、鑑定結果を見てから修行方針を決めようと思ってね」
サキとサバトがそう言うと、ショウタは大きく頷く。
「わかった!スキルかんていたのしみ!」
サバトが先導して、皆でスキル鑑定所に出発する。鑑定所は、冒険者ギルドの近くにあり少し歩く程度の距離だ。
鑑定所にたどり着くと紫のローブを身に纏った老婆がカウンターに立っていた。
「いらっしゃい、スキル鑑定をしにきたのかい?」
「はい、この子の鑑定をして欲しくて」
老婆の質問にサバトが答える。
「はいよ、奥に入りな、料金は後払いだからね」
老婆に案内され、ショウタ達はテントの中に入る。中には、横長の机とその机を挟むように二つの丸い椅子が置かれていた。
「そこに座りな」
老婆は、入り口の方の椅子を指差した。
「はい!」
ショウタは、老婆に言われたとおりに椅子に座る。ショウタの身長では、床に足がぎり届かない。
「あんたらは、その辺に立っときな」
老婆は、そう言うとショウタの向かい側の椅子に座る。サバト達は、ショウタの後ろに立ってスキル鑑定の様子を見守る。
「んじゃ、始めるよ」
「はい、お願いします!」
老婆は、右手の人差し指と親指で輪を作り、その輪を通してショウタを見る。
「職業スキル、鑑定」
スキルを発動すると、ショウタの情報が老婆の脳内に流れ込んでくる。その中からスキルに関する情報だけを閲覧する。その他の情報は、個人情報に当たるため身勝手に見る事はできない。
「なんと!」
老婆が目を見開き驚く。
「お主、技巧スキルと武器スキルの適正が異常に高い!それに、魔法スキルの適正も前の二つに比べれば劣るが、それでも常人以上の適正がある。こんなもの初めて見たぞ」
老婆の言葉を聞いて、サバト達も驚く。
「技巧スキルと武器スキルの適正はあるだろうと思ってたけど、まさか魔法スキルまで適正があるとは」
サバトは、魔法スキルに適正があることに驚いていたが、老婆は別のことに対して驚いていた。
「武器スキルと魔法スキルの両立は、まだわかる。しかし、戦闘系スキルと技巧スキルの両立は見たことがない!魔力コントロールが根本的に違うはず!」
老婆は、今にもひっくり返りそうな勢いだ。
「お主!両親は、なんの職業だ!これは、遺伝としか考えられん!」
「うぇ?、あ、えっと…」
ショウタは、カツラギグループのことを隠さないといけないため、返答に困った。その様子を見ていたルナがカツラギグループであることを隠しつつ端的に説明をする。
「ぼっちゃまのご両親は、元冒険者のお母様と魔導具技師のお父様でございます。お母様の職業は、騎士だったと聞いております」
ルナの返答を聞いた老婆は、少し落ち着きを取り戻した。
「ふむ、騎士と魔導具技師の子か、本来であればどちらかの魔力性質のみを受け継ぐはず、しかしその二つの性質を受け継ぐとは、突然変異か?もしくは…もう少しお主のスキルについて見てみてもいいか」
ショウタは、不安そうな表情でルナの方を見る。ルナが大丈夫ですよと頷くとショウタも頷く。
「それじゃ、もう少し詳しく見てみるぞ」
老婆は、再び鑑定を始める。
「やはり固有スキルを持ってるな」
「固有スキル?」
ショウタは首を傾げる。
「固有スキルは、その人しか持っておらん唯一無二のスキルのことだ、生まれた時から持っていたり、後天的に目覚めたり、詳しいことは解明されてないがな」
老婆がショウタの疑問に答える。
「固有スキル、サバトお兄ちゃん達は持ってるの?」
ショウタが後ろを振り返り、サバト達に聞く。
「俺は、持ってないかな」
サバトが少し悲しそうな表情で答える。
「私は持ってるよ、多重詠唱っていう固有スキル。二つ以上の魔法スキルを同時に使えるんだよ」
サキは、自慢気に答える。それを聞いたショウタは、目を輝かせて老婆の方を向く。
「ねぇ、おばちゃん!おれは?おれの固有スキルはどんななの?」
「そう慌てるな今から伝える。お主の固有スキルは、条件さえ達成すれば発動する、自動型スキルで間違いない。発動条件は、お互いに信頼し合った状態になることで、効果は、その相手の魔力性質を自分の物の様に扱うことができるスキルだね」
老婆の説明を聞いた4人は、あまり理解していない様子。
「まぁ、簡単に言えば魔力性質のコピーだね」
スキルには、自動型スキルと発動型スキルの2種類が存在している。大きな違いは魔力の有無であり、条件さえ揃えば発動するのが自動型スキル、魔力を消費して発動するのが発動型スキル。固有スキルは、自動型スキルに該当することが多い。
「それで、スキル名はどうすんだい?」
「スキル名つけられるの!?」
「そうだよ、基本的にスキル名は、初めて発現させた人がつける権利を持ってて、他の人につけてもらうこともできるよ。私の多重詠唱は、名前考えるの苦手だったからサバトにつけてもらったし」
驚いていたショウタにサキが説明をする。
「そうなんだ、うーんと、どうしよかな」
ショウタは、腕を組み深く考える。
「なかよくなった人の魔力せいしつをコピーするから、仲良魔力複製ってのはどうかな」
ショウタが名付けたスキル名に、老婆は大笑い、サキとルナは、かわいらしいとにこりと笑った。
「わかりやすくて良いと思いますよ」
ルナがショウタの側に寄り添い褒める。
「はぁ、こんなに笑ったのは久々だね、お主、ほんとに、それでいいのかい?」
さっきまで笑い転げていた老婆が聞く。
「うん、仲良魔力複製にする!」
「わかったよ、スキル登録は、こっちでやっとくから安心しな」
ルナとショウタは、頭を下げて礼をする。サバトが代金を払い、鑑定所を後にした。
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「仲良魔力複製か、いつか俺達の魔力性質も使えるようになるかもな」
サバト達は、エースヴィレッジ付近のモンスターがあまり出現しない場所に向かっていた。
「てかさ、お互いに信頼し合ってる人のをコピーするんでしょ?だったら、ルナさんの魔力性質、すでにコピーしてるんじゃない?」
サキが、ショウタとルナの方を見て話しかける。
「そうかもしれませんね、そうだったら、ぼっちゃまに信頼されていることになるので、とても嬉しいのですが」
「じゃあさ、最初は、ルナさんのスキルをショウタくんが使えるか試してみようよ」
サキが、皆に提案をする。
「おれが、ルナのスキルを、うん、やってみたい!」
「決まりだね」
数分後、エースヴィレッジ付近、モンスターがあまり出現しない場所に到着した。ルナとショウタは向かい合わせに立ち、サバト達は様子を見ていた。
「まずは、私の魔力性質についてお話しましょうか」
「うん!お願いします」
ショウタは深くお辞儀をする。
「私の魔力性質は、雷属性です。なので使用するスキルも雷属性のものがほとんどですね」
ルナが自分の魔力性質について話す。
「ぼっちゃまは、雷の性質を持っていないため本来であれば雷の耐性を持っていないのですが、ぼっちゃまの魔力性質は無属性、つまりすべての属性に耐性を持つことができます。まずは、雷属性がどういうものなのか身体に覚えさせましょう。ぼっちゃま、手を出してください」
「わかった」
ショウタが、右手を出すとルナが両手でその手を包む。
「ぼっちゃまの安全のため、初めは、出力をかなり抑えますが、痛かったら仰ってくださいね」
ショウタが頷くと、ルナは少量の魔力をショウタの手に流す。
「うわっチクッてした!」
ショウタは、弱い静電気を受けたような痛みを感じた。
「これが、一番弱い雷の痛みです、少しずつ出力を上げていきます。雷の痛みに慣れることができれば、ぼっちゃまも雷属性のスキルを扱えるようになれるはずです」
「うん!がんばる!」
ルナが少しずつ流す魔力の量を多くしていく。ショウタの身体に流れる魔力量が多くなるほど痛みが大きくなる。
「くっ!うぐっ!」
「ぼっちゃま!」
「大丈夫!まだ、たえられるよ!」
ルナは、心配そうな表情を浮かべながら続ける。
ショウタの全身が強い痛みに襲われ、苦しそうな表情を見てられなくなったルナは、中断した。その瞬間、ショウタは、力が抜けたように地面に座り込む。
「ぼっちゃま!」
「はぁ…はぁ…大、丈夫、なんとなくわかった気がする」
ショウタは、立ち上がりルナの手を握る。
「ぼっちゃま?」
「やるよ、しかえしだ!」
ショウタの左目が黄色くなる。
「こ、これは!」
ルナの身体にショウタから雷属性の魔力が流れる。
「どうだ!」
「すごいです!さすがです!ぼっちゃま!」
「あれ、あんまり効いてない?」
「すみません、私は、雷耐性が高いので」
「そんなぁ」
二人のやり取りを微笑ましく見ていたサバト達が、ショウタの元に近寄る。
「ショウタくんすごいよ!あんな短い間に、自分のとは違う魔力の使い方を覚えるなんて」
「あぁ、さっそく武器に魔力を流してスキルを使ってみようか」
「わかった、やってみる」
ショウタは、ペンダントに両手をかざして暗黒剣を取り出す。
「召喚!暗黒剣!」
剣を構えて、雷属性の魔力を流す。
「!やっぱり、雷属性の魔力を使うとき左目が黄色になっている」
サバトがショウタの目の変化に気が付く。
「よし、武器スキル!横一閃!」
近くの木の幹に向かってスキルを放つ。木は横方向に真っ二つに切られ、その断面は焦げた跡のようになっていた。
「うん、いいね!横一閃は、属性を付与できるスキルの一つ。このスキルが雷属性として使えたってことは、他の雷属性のスキルも習得できるよ」
サバトが、ショウタの頭をなでて褒める。
「ルナさんの魔力性質が使えることがわかったし、次は、魔法スキルの練習をしよっか」
サキが、ショウタに提案をする。
「いつかは、私の魔力性質も使えるようになるかもだし、その前準備としてね」
「魔法スキル!うん、やってみたい!」
ここまで読んでくださりありがとうございます。
今回は、スキルについての話でした。次の話からショウタの修行をメインに書いていくつもりですので、よろしくお願いします。
以上、猫耳88でした。




