第7話「3つのペンダント」
翔太の傷が完治した日から、また魔導具を作らされる日々が始まる。ルナは個室に監禁され、翔太と彩翔には、館を抜け出さないよう首輪型の魔導具が付けられており、館から出ようとすると、首輪から「魔法スキル強睡眠」が発動され、深い眠りにつく。太陽から逃げることは困難となった。
太陽が、翔太を工房の前へと連れて行く。
「いいか翔太、これからは、今までにない新しい魔導具を作るまで工房から出るな、工房の本棚に今まで俺が作ってきた魔導具のレシピがあるから、それらを参考にして作るんだ、いいな!」
太陽は、そう言うと翔太を工房に閉じ込めた。翔太は、必死にレシピを読んだ。読めない字がたくさんあったが、必死に意味を考えて理解しようとした。
「うーん、よめない…わかんないよぉ…」
しかし、字が読めず、肝心なところがわからない。レシピ本にぽつり、ぽつりと涙が落ちる。もう工房から出られないと思ったとき、太陽の言葉を思い出した。『身近な人のことを考えるといいかもしれないな』
「みぢかなひと...そういえばルナがかいものしたとき、にもつがおもくてたいへんっていってた」
翔太は、涙を拭いて、レシピ本を机に置いて周りを見渡す、そして魔力石と呼ばれる魔導具に使われる特殊な力を持つ石が保管されている戸棚を見る。
「うーん、これぜんぶつかったことあるやつだもんなぁ、なにかよさそうなのないかな、おもいものをかるくするとか...」
しばらく戸棚の周りをみていると「用途不明」と書かれた引き出しを見つけた。
「このなかに、なにかあるかな」
引き出しを開けるといくつか魔力石が保管されていた。
「これ、どれもつかったことないやつだ、このなかにいいのがあるかも」
引き出しの中に保管されている魔力石をいくつか取り出す。
「たしか、まどうぐにつかわれるいしは、まりょくにはんのうするんだっけ」
翔太は、取り出した魔力石に魔力を流し、どんなことができるのか観察する。白い魔力石に魔力を流したとき、白い光が広がったが、特に何も起きなかった。
「ん?なんだこれ、よくわかんないや」
翔太は、取り敢えず白い魔力石を机の上に置く。すると白い光が机の上にあったハンマーを包み、みるみる小さくなる。
「うわ、すごい、このいし、ものをちいさくするんだ、つかえるかも」
他の魔力石にも魔力を流し観察する。
「うーん、どれもよくわかんない…」
結局白い魔力石以外、用途がわからず、机の上に並べて指でコロコロと転がす。
「いけそうなきがしたんだけどなぁ…」
翔太が、青い魔力石になんとなく手をかざすと、青い光が広がり、光の中からペンなどの小物が出現した。
「なんかでてきた…これって、まえにおとうさんがなくしたっていってたペンじゃ…もしかして」
翔太は、青い魔力石を持ち上げて、魔力を流して青い光をペンに向けて出す。すると、光に包まれたペンが姿を消した。
「そうか、このいしは、ものをしまったりとりだしたりできるんだ」
再び青い魔力石に魔力を流して、青い光を近くにあった魔炎灯に当てる。しかし、今度は何も起きなかった。
「あれ、しまえない」
右手を顎に添えて、少し考えた。
「もしかして、ちいさいものしか、しまえないのかも」
白い魔力石を持ち上げ魔力を流し、魔炎灯を小さくする。
「よし、これで」
再び青い魔力石に魔力を流す。すると、ちいさくなった魔炎灯が姿を消す。
「やっぱりそうだ、ちいさいやつならしまったり、とりだしたりできるんだ!このふたつのいしをつかえば!」
白と青の魔力石をそれぞれ適度なサイズに切断、削って、同時に魔力を流すことができる構造を作る。
「よし、これで」
試しに二つの魔力石に同時に魔力を流すと青白い光が広がり、レシピ本を包む。光に包まれたレシピ本は、小さくなり姿を消す。
「うん、いいかんじ...あと、ちゃんととりだせるかどうか」
二つの魔力石に手の平をかざして魔力を送る。すると青白い光が広がり、レシピ本が姿を現す。
「うん、うん!できた!…よし!あとは、これをもちはこびやすくしよう」
魔力石の力が失われないギリギリのサイズに調整する。その後、ペンダント型の枠を作製してそれに埋め込む
「できた!これで、こうぼうからでられる…わけないよね、きっとこれをりょうさんしろ!っていわれる」
新しい魔導具ができたことに一瞬喜んだが、工房から出られる可能性が低いことに落ち込む。
「これはルナのペンダントにしよう、たしかまりょくをきおくするいしがあったはず」
魔力石が保管されている戸棚から記録石を探し、取り出す。記録石は、一度流した魔力を記憶して、記憶した魔力以外を受けつない魔力石。
「えーと、あった!これをつかえば、ルナしかつかえないようにできる!」
翔太は、さっそくペンダントを改良する。
「いいかんじ、ちゃんとうごくかたしかめないと」
もう一度、レシピ本を対象にペンダントに魔力を送る。
「うん、ちゃんとうごいてる…あっ、しまった、これおれのまりょくがとうろくされちゃった…たしかまだいしはあったはず、ルナのぶんとせっかくだしおかあさんにもつくってあげよう!」
翔太は、残りの魔力石を使い切り、ルナ、彩翔のペンダントを完成させた。
「できたけど、どうやってわたそう」
翔太は、椅子にもたれ掛かり天井を見上げる。
「うわっ!」
椅子に体重をかけすぎて後ろに倒れる。地面に倒れた衝撃で本棚の上の方から1冊の本が翔太の頭に落ちてきた。
「いてっ!なんだ?」
それは、「催眠の首輪」と書かれたレシピ本だった。表紙には首輪のような絵も書かれている
「これ、おれがつけてるやつだ」
翔太は、レシピ本を開き目を通すが、やはり何が書いてあるかわからなかった。
「だめだ、やっぱりよめない!…でも、これがよめればくびわをなんとかできるかもしれない」
翔太は、レシピ本をかき集め、自力で字の勉強を始めた。
───────────
翔太が字の勉強を始めてから3日後、太陽がルナの元に訪れていた。
「ルナ、お前の分の首輪もできた。これを着ければ館内では、今まで通り過ごしていい」
ルナは、太陽を睨みつける。
「そう睨むな、なんだったら翔太に会いに行ってもいい、ドア越しになら話しても構わん」
「なぜ、今更そんなことを」
「単純な話だ、どうやら俺は、お前以外の料理を受け付けなくなってしまったようでな、他のメイドが作るものをおいしく食べられないんだ」
ルナは、少し考えた。太陽に従っておけば、翔太と彩翔が逃げ出す隙を作れるかもしれないと思ったからだ。
「…わかりました」
太陽は、ニヤリと笑いルナに首輪を着けた。
「それじゃ、今まで通り料理担当をお願いする、今晩楽しみにしているよ」
太陽は、そう言って部屋から出ていった。
ルナは、彩翔の安否を確かめるため、寝室へと向かう。寝室には、弱り果てた彩翔が横たわっていた。両手両足には、拘束された痕があり、左手首に管のようなものが繋がっていて黄色い液体を体内に注入されていた。
「奥様…」
ルナが、彩翔のそばに近寄る
「ルナ…あなたも首輪を付けられたのね」
「奥様…これはいったい」
ルナが、彩翔に繋がれた管を見つめる。
「これは、魔力を抑える液体だとあの人が言っていたわ、私は魔力で身体能力を底上げするから、それを抑えておくためでしょうね」
「そう…なのですね…」
「そんな顔しないで、私は大丈夫。それより、翔太は?あの子は、大丈夫なの?」
「ぼっちゃまのところは、これから行くつもりです」
「そう…翔太のこと、よろしくね、今はあなたが一番信頼できるから」
「はい…失礼します…」
ルナはそっと立ち上がり、部屋を出て工房へと向かった。
工房の扉を2回ノックする。
「ぼっちゃま、私です。ルナです」
「ルナ!?」
翔太が扉の前にドタドタと駆け寄ってくる足音が聴こえた。
「ひさしぶり!いままでどうしてたの?」
「ご心配をお掛けしてすみません、今は、首輪をつけてられてしまいましたが、館内を自由にして良いと言われたので、もう心配はいりません」
「そっか、ルナもくびわを…でもね、ルナこそあんしんして!もうすぐなんだ!もうすぐで、くびわ、なんとかできそう!」
「そうなのですか!?さすがですね!ぼっちゃま!」
翔太が扉の前で嬉しそうな顔をしているのが想像できる。
「っと、そうだルナにわたしたいものがあるんだ」
「私にですか?」
「うん!おとうさんには、ないしょだよ」
すると、扉の隙間からペンダントと紙が渡された。
「これは…」
「おれがつくった!それは、ルナせんよう!つかいかたは、かみにかいてるからよんで!」
紙を開くと、ぐにゃぐにゃの文字で説明が書いてあり、翔太の頑張って伝えようとする気持ちが伝わってくる。
「ふふっありがとうございます、大切にしますね」
ルナは、ペンダントをぎゅっと握りしめた。
「あのね、ルナ、お願いがあるんだ」
「はい、私にできることであれば」
「おれ、ぼうけんしゃになりたい!」
翔太は、力強く発言した。
「おれね、まどうぐつくるのたのしいんだよ、でもね、いまは、なんか、たのしくないんだ。だからいろいろかんがえたんだ、あのときたすけてくれたひとみたいになりたいって、だからね、ここからぬけだして、ぼうけんしゃになりたいんだ!おかあさんは、もともとぼうけんしゃだったから、おかあさんとルナといっしょにここをでて、おかあさんにいろいろおしえてもらいたいんだ!」
ルナは、翔太の話を聞いて、覚悟を決めた。
「…わかりました。まずは、奥様と一緒にここを出ましょう。しかし、ここを出るための準備が必要なので、かなり時間がかかりますが、よろしいですか」
「うん、だいじょうぶ。ルナのじゅんびができるまで、おれは、くびわをなんとかするから、まかせて」
「わかりました、では、また」
「うん、おたがいがんばろう」
ルナは、館を出るための作戦を考えるために、翔太は、三人の首輪をなんとかするために決意を固めた。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
前回から過去編を書いています。過去編って書くの楽しいですね、葛城家のことを知ってもらうにもこの話は大事だと思っています。もともとは、2話で過去編は書ききろうと考えていたのですが、もう少しだけ続きそうです。次回も頑張って書いていきます。
以上、猫耳88でした。




