第5話「襲撃」
宿で一泊したショウタ達は、クエストへ出発するための準備を進めていた。
「オアシスまでは、そこまで離れていないし荷物も最低限で問題ないな」
サバトは、武器などの装備を整えて、いつでも戦闘態勢に入れるよう、重い荷物は置いていくことにした。
「これと、これと、あとこれも!」
ショウタは、必要になりそうな物を選別して、ペンダントに収納する。
「準備できたか?」
「うん!」
「よし、んじゃ待合所でサキ達と合流しようか」
宿で泊まる際に、男女で部屋を分けて泊まっていた。宿側から男女で部屋を分けるようにと話がでた時、ルナは、
「私は、ぼっちゃまと一緒の部屋が良いのですが」
と、納得しておらず、半ば強引にサキがルナを連れて行く形で部屋分けをした。
「サキさん!離してください!私は!ぼっちゃまと一緒に!ぼっちゃま!ぼっちゃまー!」
と、ルナは最後まで抵抗していた。
「昨日のルナさんはすごかったな」
「ルナのあんなとこはじめて見た、今までもルナと、はなれることあったけど、ねるときはいつもいっしょだったからかな?」
ショウタも、昨晩のルナの様子に驚いていた。
ショウタ達は、階段を降りて1階の待合所に到着したが、ルナ達の姿はなかった。
「お!おれたちが、いっちばーん!」
「ふふっ、そうだな、俺達が一番だ!そこのソファでサキ達を待つか」
「うん!」
ショウタ達がしばらく待っていると、ルナ達が階段を降りてきた。
「二人ともおまたせー」
「はっ!ぼっちゃまー!」
ルナが、ショウタの姿を見つけるとすぐさま駆け寄り、ショウタを抱きしめる。
「体調は大丈夫ですか?ちゃんと眠れましたか?」
「う、うん、大丈夫だよ」
ショウタは、少し苦しそうに返事をする。
「そうですか、ご無事で何よりです」
ルナは、落ち着きを取り戻して抱きしめていたショウタを離す。その様子を少し呆れた表情でサキが見つめる。
「サキ、昨晩のルナさんは大丈夫だったか?」
サバトがサキに近寄り、耳元で尋ねる。
「もお、大変だったよー、ずっとショウタくんの話をするんだもん、でもまぁ、それだけショウタくんのことが大事ってことは、すごく伝わったよ」
「なるほどな」
サバトは、気を取り直して皆に今日のクエストの内容を再確認する。
「よし、クエストに出発する前にもう一度確認しとくぞ、今回のクエストの目的は、東にあるオアシスで薬草と水の採取だ、ただモンスターの動きが活発化しているらしいから、いつもよりも警戒して進もう。モンスターの討伐が目的じゃないから、危なくなったらすぐに逃げる!いいか?」
今回の目的は、採取であることと、モンスターと対峙して危なくなったら逃げることを皆に伝える。
「うん!」
「はい、承知致しました」
「ま、危なくなったら私達がいるしね!」
「よし!じゃあ出発だ!」
サバトを先頭に、エースヴィレッジを出発して東のオアシスへと向かう。
───────────
オアシスへと向かう道中、できるだけモンスターとの戦闘を避けながら、慎重に進んでいた。しかし、あるモンスターがサバト達の前に立ち塞がる。
「ギシシシシ!」
「こいつらは、Bランクモンスターのデザートソルジャーか!しかも、5体!」
デザートソルジャーは、ゴブリン族の1種であり、知能が高く、オアシスの木を削って作った武器や防具を装備していることが多い。
「ゴブリン族!ぼっちゃま!」
ルナは焦った表情でショウタの方を振り返る。デザートソルジャーの姿を見たショウタの体が突然震えだし、蹲る。
「ショウタくん!」
「どうしたの、ショウタくん!大丈夫?」
サバト達が、ショウタを心配して近寄る。
「ぼっちゃまは、昔、ゴブリンの大群に襲われたことがあります。それ以来、ゴブリン族がトラウマになり、ゴブリン族を前にすると動けなくなるのです」
ルナが、ショウタの体が震えている原因を説明してくれた。
「そんなことが、」
「ショウタくん、大丈夫だよ、私達がいるからね」
サキは、ショウタを落ち着かせようと必死に声をかける。そして、ルナは、デザートソルジャー達を睨みつけた。
「すみません、ぼっちゃまをお願いします」
ルナは、立ち上がるとペンダントに両手をかざし、三又の槍を取り出す。
「ルナさん!?落ち着いて!」
「大丈夫です、ぼっちゃまのため、すぐに終わらせます」
ルナの目は殺気立っていた。
ルナは、槍を構えて全身に魔力を集中させる。ルナの体が雷のようなエネルギーで覆われた。
「武器スキル、迅雷槍撃!」
ルナが、武器スキルを発動した瞬間、一瞬にしてデザートソルジャー達の後に移動していた。雷が落ちたような爆音と共に、デザートソルジャー達を雷のエネルギーが遅い、撃破した。
「すごい、一瞬でデザートソルジャー達を…」
サバトは、一瞬の出来事についていけず、ただルナを見つめるしかなかった。
「ぼっちゃま、もう大丈夫ですよ」
ルナが、ショウタに近寄ろうとしたとき、一人の男が拍手をしながらルナ達の前に現れた。
「いやぁ、すごいね、お姉さん、デザートソルジャー達を一瞬で撃破するなんて」
「あなたは?」
ルナが、謎の男に質問する。
「いやぁ、しかし、情報どおりだなぁ、少年がゴブリン族を前にすると怯えて動けなくなる、その状態なら簡単に捕獲出来そうだ」
「こいつ!ショウタくんが目的か!」
サバトは、背負っている大剣に手を掛け、サキは、杖を取り出そうとローブの中に手を入れる。
「おっと、そんな焦るなよぉ」
謎の男が、指を鳴らすと地面からデザートソルジャーの群れが表れてサバト達を囲む。
「くっ!モンスターテイマーか!」
「そう、俺はモンスターテイマーのカイ、依頼を受けてその少年を攫いに来た」
カイの目的は、ショウタであり、先ほどのデザートソルジャー達もカイが使役していたのだと、サバト達は理解した。
「ぼっちゃまを攫うなど、させるとお思いですか?」
ルナは、すぐさま槍を構える。
「おっと、抵抗はしないほうがいいぜ」
カイが、指を差すとショウタの真下からデザートソルジャーが飛び出してショウタを捕獲した。
「しまった!真下にもいたのか!」
デザートソルジャーが飛び出した際の砂埃で、サキとサバトは反応が遅れてしまった。
「抵抗すれば、そのデザートソルジャーは少年を殺すぜ」
ショウタを捕獲したデザートソルジャーは、剣をショウタの首元に突きつけた。ショウタは、更に体が震えだし呼吸も苦しそうにしている。
「ぼっちゃま!」
攻撃を仕掛けようとしたルナの動きが止まった。
「そうそう、大人しくしてろ」
デザートソルジャーは、ショウタをカイの元へ運び始める。その間、サバト達は動けずにいた。
「そうだ、動くなよ」
デザートソルジャーが、カイの元へたどり着こうとした時、空から大型のドラゴンが勢い良く降りてきた。
「グオォォォォ!」
「なっ、なんで、こんな所にドラゴンが!」
カイは、突然のことで驚き、尻もちを付いた。ドラゴンが降りてきた衝撃でデザートソルジャーがショウタと共に吹き飛ばされた。
「ぼっちゃま!」
ルナは、すぐさまショウタの着地地点を予測して走り出し、吹き飛ばされたショウタを受け止めた。
「ご無事ですか、ぼっちゃま!」
「ルナ、うっ、うっ」
ショウタは、ルナに受け止められたことで緊張が溶け、目に涙を浮かべた。
「怖かったですよね、もう大丈夫ですよ」
ルナは、そっとショウタを抱きしめる。
「くっ!しょうがねぇ、ここは引くしかねぇ」
カイは、デザートソルジャーに命令し、砂埃を立てて姿を消した。
「逃げ足の早い奴、ショウタくんは無事?」
サキが、ルナの元へ駆け寄る。
「えぇ、得に大きな怪我はしていません」
「よかった」
サキは、ショウタの無事を確認し、胸をなでおろした。
「いや、まだ状況は良くないな」
サバトは、大剣を構えてドラゴンの前に立ち塞がっている。
「こいつは、Aランクモンスターのサンドラゴン、今の状況でこいつと戦うのは無理だ」
サンドラゴンは、砂漠の主と言われる超大型のモンスター。ガッシリとした両足に、鋭い爪が3本ある腕、毒の棘がビッシリと生えた尻尾の特徴がある。鱗は、砂漠に溶け込むために、砂漠と同じような色合いをしている。
「グオォォォォォン」
「そもそもなんで、こんな所にサンドラゴンが降りてくるの!」
サキも、ローブから杖を取り出しサバトの後につく。
「グオォォォォォン!」
サンドラゴンが、大きく体を横に振り、巨大な尻尾で攻撃を仕掛けてきた。
「まずい!」
サンドラゴンの攻撃は大振りで、避けることは簡単だが、サバト達が避けるとショウタを抱きかかえたルナに攻撃が当たってしまう。
サバトは、大剣を地面に突き刺し魔力を送り込む。
「武器スキル!守りの大盾!」
大剣からルナ達を守る大きな盾の様なエネルギーが展開され、サンドラゴンの尻尾を受け止める。
「くっ!サキ!」
「オッケー」
サバトが、攻撃を受け止めてできた隙に、サキは大型の魔法陣を展開する。
「魔法スキル!光り輝く光弾!」
大型の魔法陣から、光の弾が放たれて、サンドラゴンの顔に命中した。サンドラゴンの体制を大きく崩して視界を一時的に奪うことに成功した。
「ギャオォン!」
「今のうちに!」
サバト達は、サンドラゴンが動けないうちにその場から立ち去った。
───────────
「はぁ、はぁ、くそ!なんなんだよ!あのドラゴン!あと少しで、少年を捕まえることができたのに!くそ!何もかもうまくいかねぇ!」
サンドラゴンの襲来で即座に逃げたカイは、エースヴィレッジのはずれに避難していた。
「カイさん、やっと見つけましたよ」
「あんた、こんな所まで、」
カイの前に現れたのは、白髪で、タキシードを着た長身の男。
「どうですか、例の少年は見つかりましたか?」
「ああ、見つけた、逃したけどな」
カイは、ショウタを見つけたこと、デザートソルジャーが槍を装備した女に一瞬で撃破されたこと、そして、サンドラゴンに襲われたことを報告した。
「なるほど、それは災難でしたね、しかし少年を見つけたことは大きな進歩です」
「今回は、ドラゴンのせいでうまくいかなかったが、次こそは、少年を捕まえてやるからよ、報酬金準備して待ってろ」
「それはもちろん、約束ですので、しかし同じ手が通じる相手とも思えませんけど」
謎の男は、少し考えた後、何かを思いついたようにカイに質問した。
「そういえば、あなたはモンスターテイマーでしたよね」
「そうだ、それがどうした?」
「では、私が管理しているSランクモンスターをお譲りしましょう」
「は?」
「ご安心を、こちらで十分に躾つけておりますので、あなたのレベルでも簡単に使役できるかと」
カイは、少し考えた後、頷いた。
「では、宜しくお願いしますね、くれぐれも少年は生きて捕らえるように」
謎の男は、カイにメモを渡してその場から立ち去った。メモには、洞窟の場所と名前が記載されていた。
「ケルベロス、こいつがSランクモンスターの名前か」
カイは、メモに書かれた洞窟へと向かった。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
今回は、比較的サラサラと書き進められ個人的にお気に入りのエピソードになりそうです。
次の話も楽しみにしていただけると嬉しいです。
以上、猫耳88でした。