第3話「葛城家」
サバト達は、順調にエースヴィレッジへ歩みを進めていた。かなりの時間歩いたようで、あたりは薄暗くなってきている。
「この辺りで、一旦休憩にしよっか」
サキが、伸びをしながらショウタ達に提案する。
「そうですね、ぼっちゃまもお疲れでしょうし」
ショウタは大きなあくびをして目を擦る。今にも寝てしまいそうだ。
「それじゃ、テントの準備をするか」
サバトは、背負っていた大きなリュックからテントの設営セットを取り出す。
「私もお手伝い致します」
「ありがとうルナさん、助かります」
「じゃあ、私はショウタくんと見学してるー」
サバトとルナが協力して、テントを立てていく。
ペグを地面に打ち込む様子を興味津々にショウタが見ていた。それに気付いたサキが声をかける。
「ショウタくんもやってみる?」
「いいの? やりたい!」
サキはショウタにペグとハンマーを渡す。
「この辺かなぁ、よし、ここにハンマーでコンコンしてみよう!」
「うん!」
ショウタは、一生懸命ペグを打ち込む。その様子を微笑ましそうにサキとルナが見守る。
「よし! 完成だ!」
皆が協力し、丈夫なテントが完成した。
「ぼっちゃまも頑張りましたね」
「えらいぞー、ショウタくん」
サキとルナがショウタを褒める。
「…ふわぁ」
ショウタの眠気はかなり限界だった。
「かなり眠そうだね、先に寝ててもいいぞ」
サバトは、テントの入り口を開けてショウタの方を向く。ショウタは小さく頷き、テントに入る。
「すみません、私も一緒にに入ってもよろしいでしょうか、ぼっちゃまのそばにいたいので」
「もちろん!ショウタくんもその方が安心だろうし、外は私とサバトが見張ってるから、気にしないで」
サキは、まかせてと自分の胸をぽんと軽く叩く。
「ありがとうございます。では、お先に失礼致します」
ルナもテントに入る。テント内でルナはショウタと共に横になり、ショウタのお腹をぽんぽんと優しく叩きながら寝かしつける。
テントの外で、サバトとサキがそれぞれの寝る場所について話していた。
「ねぇ、サバト、アンタは寝るときは外で寝袋ね」
「は?何でだよ」
「テントは一つしかないし、私とルナさんが無防備に寝てるんだよ? アンタ、何するかわかんないし」
「別に、何もしねぇよ!」
ルナは、テント内で微笑ましく二人の会話を聞いていた。
「仲が良いのですね、私も二人のようにぼっちゃまと…なんて」
ルナは、ショウタの隣で眠りにつく。
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翔太達がエースヴィレッジへ向かっている最中、和国の葛城家の館では、翔太の父、葛城太陽と翔太の母、葛城彩翔が食事をしていた。
「まずい!」
太陽が、料理の乗った皿を放り投げる。
「翔太とルナはまだ見つからないのか!」
館のメイドであるアリスに太陽が問いかける。
「申し訳ございません!3週間ほど和国中を探しましたが、手掛かりも何もなく、恐らくもう、和国内にはいないかと」
「だったら国の外を探させろ!俺は忙しいんだ!」
太陽は、席を立ちアリスに近寄る。
「いいか? 翔太を連れ戻さなかったら、お前らメイドは全員クビだからな、わかったらさっさと連れ戻せ!」
太陽は、アリスを突き飛ばし自室に戻った。アリスを心配して彩翔が駆け寄る。
「アリス、大丈夫ですか?」
「奥様、私は大丈夫です」
彩翔はアリスを優しく抱きしめる。
「ごめんなさい、いつもあの人を止めることができなくて」
アリスを抱いているその手は、太陽への恐怖心で震えていた。
「大丈夫ですよ奥様。ぼっちゃまにはルナさんが付いているんですから、きっとご無事です。すぐに見つけて来ます」
アリスの言葉を聞いた彩翔は、少し不服そうな顔をして答えた。
「そうね、あの子は強い子だもの、待ってるわ」
(あの子が戻ってきたら、きっとまた、あの人に工房に閉じ込められてしまう、でもあの子に会いたい、この首輪がなければ今すぐにでもあの子に会いに行くのに)
彩翔は、首輪を指でなぞり涙をこぼす。
太陽は、自室で頭を抱えていた。
「くそ!翔太、いったいどこに! あいつがいないとアレが完成しない! くそ!」
太陽は、天才的な才能を持つ翔太を欲していた。太陽が作れなかったものを作ることができたからだ。だからこそ、太陽の計画には翔太が必要だった。
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サバトが目を覚ますと、キンッ!キンッ!と金属同士がぶつかる音がしていた。
「お、起きた?」
サキが気付いて声をかける。
「これ、なんの音だ?」
「あれ、見てみ?」
サキが指を指した方を見ると、ショウタが剣を持ち、ルナが短剣を持ち戦っていた。
「あれ、ショウタくんの特訓らしいよ」
ルナが、ショウタの懐に素早く飛び込んで攻撃、ショウタがギリギリで剣で受け止める。
「その調子ですよ、ぼっちゃま! 相手の動きをよく見て、予測し、避けるべきか受けるべきか、判断するんです」
「くっ! わかった! もう一回!」
一度ルナが距離を取り、短剣を構える。
「では、行きますよ、ぼっちゃま!」
二人が特訓している様子をサバト達は、見守っていた。
「なるほど、ルナさんはかなり素早い攻撃が得意なんだな、そのおかげで昨日のガジットの動きにも冷静に対応できたのか」
再びルナがショウタに攻撃を仕掛ける。ショウタは、剣の尖った刃の間で、ルナの短剣を受け止め、そのまま剣を地面に突き刺してルナの追撃を止めつつ、地面を強く蹴って飛び上がり、右足でルナの顔めがけて蹴りを入れる。ルナは、左腕を顔の横に構えて蹴りをガードする。
「良い攻撃です、武器だけに頼らず体術での攻撃、素晴らしいです」
ショウタは、うまく地面に着地する。
「今回はこの辺にしておきましょう、サバトさんも起きたようですし」
ショウタは、サバトたちの方を向く。おはよーと右手を大きく横に振りながら駆け寄る。サキも手を横に振る。
「ねぇねぇ、どうだった?」
「うん、いい動きができてると思うよ」
サバトが答えるとショウタは右手でガッツポーズをする。
「それじゃ、そろそろ出発するか」
サバトが立ち上がり、伸びをする。ショウタ達はテントを片付けて身支度を済ませ、出発する。
エースヴィレッジへ向かっている道中、サキがショウタに問いかける。
「ねぇ、ショウタくん。そのペンダントってすごく便利な魔導具なのに売ったりしないの?」
「うん、売らないよ、てか売れないんだ、このペンダントにはまだダメなところがあるから」
「ダメなところ?」
ショウタは、ペンダントを握りしめてペンダントの欠点について説明を始めた。
「このペンダントは、べんりだからこそ、はんざいにもつかわれちゃうんだ。おみせのものをかんたんにぬすめたり、ぶきをしずかにとりだして、人をころしてからしずかにしまえば、しょうこものこりにくい」
ペンダントが簡単に犯罪に使われてしまうことを恐れて、ペンダントは商品にしないことを説明した。
「だから、このペンダントは、本当にしんらいしてる人にしかあげないって決めたんだ」
ショウタのペンダントを握る手にさらに力が入る。
「なるほどね、ペンダントはショウタくんからの信頼の証でもあるんだね、じゃあさ、いつか私達にも作ってよ、ショウタくんが心の底から信頼してる証として、ね」
サキはショウタの話を聞いて、ショウタに信頼してもらえるよう頑張ろうと決めた。
それから、数日間、休憩をしながら歩みを進めていくと、周辺の草木に元気がなくなってきているのをショウタが気付いた。
「あれ、なんか、かれてる木がおおくなってきてる」
「この辺りは雨があまり降らないからな」
「てことは、さばくがちかいってことだね」
「お、正解、砂漠に着いたらエースヴィレッジが見えてくるはずだよ」
サバトがショウタにそう伝えると、ショウタの歩く速さが少し速くなる。
「ほら、みんなもはやくはやく!」
はしゃぐショウタを追いかけるように、サバト達も早足になる。エースヴィレッジまであと少しだ。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
今回は、葛城家の内情に少し触れてみました。次回はエースヴィレッジでの話を書いていきたいと思っていますのでよろしくお願いします。
以上、猫耳88でした。