第2話「サンドイッチ」
翌日、サバトがソファで目を覚ます。
「あのまま、寝落ちしてたのか」
ショウタのことが気になり、ソファから立ち上がり、奥の部屋に様子を見に行く。
「入ってもいいですか?」
扉をノックして、返事を待つ。
「はい、どうぞ」
部屋に入ると、ベッドの上でショウタが眠っており、そばでルナが椅子に座り、見守っている。
「ショウタくんの様子は?」
「今は、気持ちよさそうに寝ています」
「よかった」
サバトは安心した表情を浮かべ、ルナの隣にしゃがみ込む。
「昨晩、少し考えたんですけど、やっぱりショウタくんの願いを叶えてあげたくて、取り敢えず形だけでも」
サバトは、眠っているショウタを見つめながら話す。
「俺が、何か簡単な依頼を受けてきます。そこにショウタくんとルナさんも一緒に、それで少しでも冒険者の気分を味わってもらえたならと、もちろん俺とサキでお二人のことは全力でお守りするので」
ルナは少し考えたあと答えた。
「そうですね、それならきっとぼっちゃまもお喜びになると思います」
しばらくすると、入り口の方で扉が開く音がした。
「サバトー、いるー?」
どうやらサキがやってきたようだ。
「俺、ちょっと行ってきます」
サバトは部屋を出て、サキの元へと向かった。サバトが部屋をでた物音で、ショウタが目を覚ます。
「ん、おはよう、ルナ」
「おはようございます、ぼっちゃま。お加減はどうですか?」
「大丈夫、元気」
「それならよかったです」
サバトがサキを連れて部屋へ戻ってくる。
「ショウタくん、起きたみたいだね」
サバトがショウタに微笑みかける。
「おはよう、ショウタくん。体調大丈夫?」
サキが駆け寄り、様子を聞く。
「うん、大丈夫」
ショウタが答えると、ぐぅーっとショウタのお腹が鳴る。
「ルナ、お腹空いたぁ」
「ふふ、食欲があるなら大丈夫そうだね」
サキが安心したように微笑む。
「そうですね、さっそく朝食の準備を致しましょう。少し、キッチンをお借りしてもよろしいでしょうか」
ルナが立ち上がり、サバトのほうを向く。
「もちろんです、でも食材がなにかあったかな?」
サバトが答えると、ルナがペンダントを取り出す。
「ご心配なさらず、食材は、このペンダントに保存してありますので」
サバトが感心した目をする。
「そのペンダント、かなり便利ですね」
「えぇ、ほんとにぼっちゃまには驚かされてばかりです」
ルナはペンダントを見つめて嬉しそうに話す。
「では、キッチンお借りしますね」
「案内しますよ」
ルナとサバトは、キッチンの方へ向かった。
キッチンに到着すると、ルナはペンダントの前に両手をかざした。するとペンダントから青白い光が放射状に広がり、パンと野菜類が出現した。その光景を興味津々にサバトが見ている。
「なるほど、ペンダントに保存する時はペンダントを握り込み、取り出すときはペンダントに手をかざすんですね」
「はい、もちろん他の魔導具と同じく魔力を送り込むことも必要ですよ」
サバトはなるほどと感心しながら頷く。それから、キッチンに並べられた野菜の中で、赤くて丸い物に興味を示す。
「これも、野菜ですか?」
「はい、そちらはトマトという野菜です。ここに並べた野菜類はすべて和国から持ってきたのですが、トマトはこの辺りにはないのですか?」
「そうですね、初めて見る野菜です」
「そうなんですね、トマトも、とても美味しい野菜なんですよ」
ルナは、サバトの質問に答えたあとさっそく料理に取り掛かる。取り出したパンを三角形に切り、野菜類を手頃なサイズに切り分け、パンに挟んでいく。
「サンドイッチですか」
「はい、ぼっちゃまはサンドイッチがお好きで、朝食にはサンドイッチを食べることが多いんです」
ルナは手際よく、4人分のサンドイッチを作り、ペンダントからお皿を取り出し盛り付ける。
「すごい手際の良さ、あっという間に盛り付けまで」
「そんな、ありがとうございます」
ルナは頬を赤らめ、照れている。
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ルナがキッチンで朝食を作っている間、サキはショウタと会話をしていた。
「ねぇ、ショウタくん。ショウタくんの好きな食べ物って何?」
サキはショウタと他愛のない話をしていた。
「うーんとね、ルナのつくったりょうりがすき!ルナね、りょうりがすごくうまいんだよ!」
「そうなんだ! 私も食べてみたいかも」
すこしして、ルナが部屋のドアをノックして、扉を開ける。
「ぼっちゃま、朝食の準備ができましたよ、サキさんもご一緒にいかがですか?」
「お、噂をすれば! ぜひご一緒させていただきます」
ショウタ達はリビングに移動し、長机を囲むように座る。
「やった!ルナのサンドイッチだ!」
ショウタは、ガツガツとサンドイッチを食べ始める。サバト達は、サンドイッチを一口、味わって食べる。
「ん、おいしい!」
ルナのサンドイッチは、とてもおいしいようでサキは黙々と食べ始める。
「すごい、野菜も新鮮ですごく美味しいです。それにトマトも不思議な触感ですが美味しいです」
「この赤いやつトマトって言うんだ! サバト詳しいね」
サキもトマトに興味を示す。
「和国でとれる野菜らしい、さっきルナさんから聞いたんだ」
「へぇ、トマトかぁ、私好きかも」
「お口にあったようでよかったです」
ルナもサバト達に続いてサンドイッチを食べ始める。
朝食を食べ終えると、サバトからこれからのことについて相談される。
「これからについて、ルナさんには話しましたが、俺的にはやっぱり、ショウタくんの夢を叶えてあげたい。その一歩として、俺が軽い依頼を受けてそこにショウタくんとルナさんに同行してもらう。それで少しでも冒険者の気持ちを味わってほしいなと考えています」
サバトは、ルナとショウタの方を見ながら真剣な表情で説明する。
「うん、いいと思う。ただ─」
サキが、サバトの提案を聞いて答える。
「この街では依頼を受けないほうがいいかも、ここに来る途中でもカツラギグループの子供がこの街に来てるってすごく騒ぎになってたから、もしかしたらショウタくんがお金目当てのやつに狙われるかもしれない」
サキは、ショウタが襲われる可能性があることを心配している。
「そうですね、まずはぼっちゃまが安全に冒険できるように環境を整えるべきかもしれませんね」
サキの話を聞き、口元に手を当てながらルナが答える。
「なら、この辺りで冒険者ギルドがあるのは─」
サバトが地図を取り出し、確認しながら考える。
「ジャックスタウンとクイーンズヒルズ、あとエースヴィレッジか」
「エースヴィレッジなんてどう?ここから結構離れてるし、知り合いも多いし」
サキが地図のエースヴィレッジを指差しながら答える。
「そうだな、よし! エースヴィレッジはここから南、砂漠地帯にある。長旅になるから、準備をしっかりしてから向かおう」
サバトがサキの提案を受け、目的地をエースヴィレッジに決めた。各自、出発の準備に取り掛かる。ルナはメイド服が目立つため、サキの服を借り冒険者のような出で立ちに、ショウタは街を出るまでは顔が隠れる服装で、サバトとサキは買い出しに、出発の準備を整えていく。
「ショウタくんには、少しお願いが」
「ん?」
「カツラギの名前は出さないようにしてほしい、昨日みたいな騒ぎがまた起こるかもしれないからね」
「うん、わかった、きをつける」
サバトは、ショウタに名前を伏せるようお願いして、ショウタは真剣な表情で頷く。
「よし!んじゃ、出発だ!」
サバトは大きなリュックを背負い、サキは小さなカバンを肩からかける。
「そんな大荷物、本当に、お一人で大丈夫ですか?」
ルナは一度、荷物をペンダントに仕舞い持っていこうかと提案したが、サバトは断った。
「大丈夫ですよ、普段から荷物係は俺なので、もう慣れっこです」
サバトは余裕な表情をするが、ルナは少し心配そうな顔だ。そして、ショウタは尊敬の眼差しを送る。
それから家を出て、周りに気付かれないよう、慎重に街の南側から出発する。
「なんか、ちょっとわくわくする」
ショウタが満面の笑みで楽しそうに歩く。
「こっちの方はランクの低いモンスターばかりだし、変に遠回りしなければ問題なく、エースヴィレッジにたどり着けるだろう」
サバトは、先頭に立ち、周りを警戒しつつ移動する。しばらく歩いていると、草むらから小型のモンスターが飛び出してきた。
「ガルルルル!」
「あれは、ガジット。Ꭰランクのモンスターだな」
ガジットは、鋭い牙が特徴の黄色いネズミのモンスター。すばしっこく、小さいため動きが読みづらい。
「ねぇねぇ、ここはおれにやらせて!」
ショウタがやる気に満ちた表情で前に出る。
「ふふ、ぼっちゃまは、昨日手に入れた武器を試したくて仕方ないようですね」
ショウタは、ペンダントを取り出し両手をかざす。
「召喚!暗黒剣!」
ペンダントから青白い光が放射状に広がり、ショウタの両手に暗黒剣が姿を表す。
「おお、かっこいいよ!似合ってる!」
サキが後ろからショウタを褒める。
「ペンダントから武器を取り出すとき、セリフが必要なんですか?」
サバトがルナに質問するとルナはくすっと笑い答える。
「あれは、ぼっちゃまがかっこよく見せるために言っているだけで、本来は他のものと同じく、ペンダントに両手をかざし魔力を送り込むことで取り出すことができますよ」
その会話が聞こえていたショウタは少し恥ずかしそうにする。
「なにそれ、かわいい!」
サキには、好評のようだ。
ショウタは、目の前のモンスターに集中するため深呼吸をして、魔力を武器に流し込む。その隙を狙うかのように、ガジットがショウタに飛びかかる。
「来るぞ!ショウタくん!」
サバトが心配そうに叫ぶ、だがショウタは冷静に剣を構え、ガジットの攻撃に合わせて、剣を大きく横に切り払う。
「武器スキル!横一閃!」
「な!?武器スキルだって!?」
ショウタが放った斬撃は、見事にガジットに命中し撃破する。
「やった!」
「すごいな、ショウタくん。武器スキルまで使えるなんて」
スキルを発動するための魔力コントロールは魔導具を制作するためのものとは扱いが違うため、本来であれば両立することは難しい。しかし、ショウタは魔導具制作の腕も、武器スキルの発動も容易にこなす、いわゆる天才だった。
「ふふん!まだ、横一閃しかつかえないけど、でもおれだってたたかえる!」
サバトたちは呆気にとられていた。彼らはショウタに武器の扱い方さえ教えれば冒険者になってもやっていけると思っていた。しかし、スキルを使えるとなると話は変わってくる。ショウタは、もしかしたらSランク冒険者になれる逸材かもしれない。
ショウタが勝利の余韻に浸っている中、草むらから次々とガジットたちが飛び出してくる。かなりの数だ。
「まずい、仲間がいたのか」
「ここは、私に任せて」
サキがローブから杖を取り出し、前へ出る。
「見ててねショウタくん、お姉さんのかっこいいところ」
ショウタは、頷き期待の眼差しをサキに向ける。
サキが杖を前に構えると、杖の先を中心に複数の小型の赤い魔法陣が展開される。
「魔法スキル、連続火炎弾!」
展開された小型の魔法陣から次々と火の玉が発射され、すべての玉がガジットに命中し、50数体いたであろうガジットの群れはあっという間に撃破された。
「どうよ!」
サキは笑顔でピースサインをしながらショウタの方を向く。
「すごい!かっくいい!サキお姉さんって魔法使いだったんだ」
「ありゃ、言ってなかったっけ」
ショウタは目を輝かせながらすごい!すごい!とピョンピョン跳ねる。
「うし、この調子でどんどん進むか!」
ショウタ達は、エースヴィレッジを目指し歩みを進めていく。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
今回は、ペンダントの機能だったり少し戦闘描写を書いてみたりしました。次回も完成したら読んでくださるとありがたいです。
以上、猫耳88でした。