挨拶?
七月二十九日
「おはよ~楓雅」
「おはよう奈希」
「じゃあ早速行こっか」
「乗り遅れたら大変だからな」
俺たちは朝一のフェリーに乗って本土へ向かう。
「あ、ねーねー」
「どうした?」
「横浜着いたらさ、行きたいお店があるんだけどいいかな?」
「いいけど、何の店なんだ?」
「それはついてからのお楽しみ。食べ物だよってことだけ言っとくね」
「そりゃ期待値が上がるな」
「今回は期待しちゃっていいかもね」
そんなに期待させてくるなんてどれだけ自信があるんだ。楽しみだな。
「いやーネット予約は便利だね」
「当日に券を買わなくていいから楽だな」
俺たちは今、船上のテラスで優雅に座っている。
「ここの椅子からだと景色がよく見えるね」
「そうだな」
「なんか貴族になった気分」
「特等席だな」
二人して流れていく景色を眺める。
しばらくぼーっと景色を眺めていると到着を知らせるアナウンスが流れる。
「当船はまもなく着岸いたします。着岸の際に揺れる場合がありますのでお気を付けください」
「もうすぐ着くらしいぞ」
「じゃあ降りる準備しよっか」
「そうだな」
「結構すぐだね」
「まあ三十分ぐらいだしな」
俺たちは降りるための準備をして出口に向かう。
「もうこの船も慣れっこだな」
「何回も乗ってるもんね」
「前ならこんなこと絶対なかったのにな」
「私が連れまわしてるからね~」
「迷惑なぐらいな」
「迷惑って良い意味?悪い意味?」
「どっちもだな」
「悪い意味もあるんかい!」
「ああ、あるな」
おかげで最近は勉強がおろそかになっている。
「でも、それが楽しいんだ」
「どゆこと?悪い意味なのにそれが楽しい……?」
「まあ、そんな深い意味はないから安心しろ」
「うーん、まあいっか」
適当だな。
「ほら、降りるぞ」
「あ、ごめんごめん」
奈希の手を取って前へ進む。
「楓雅いつのまに手つなぐの平気になったの?」
「別に最初から平気だったけど」
すみません全然嘘です。全く平気じゃなかったです。
何なら今もめちゃくちゃに緊張してます。
「私は気が気じゃなかったんだけどなぁ。なんか残念」
「なんで残念なんだよ」
「女慣れしてそうな感じがするから」
「それに関しては絶対ないから安心しろ」
「浮気したら刺すよ」
「怖い怖い」
「冗談だって」
さっきの顔が冗談じゃない顔をしてたんですが、気のせいだと思っていいですか。
「俺にそもそもそんな人脈はないから安心してくれ」
「だろうね」
「だろうねって……失礼だな」
そういえば初めて会った時からこいつは失礼な奴だったな。
「だって事実だし」
「っう……」
図星。
「大学でいっぱい友達作ったらいいよ。高校は……諦めよう」
「結構バッサリだな……まあ印象最悪すぎて高校じゃもう友達は作れないだろうな。詩葉と友達になれたのは奇跡みたいなもんだ」
「あはは、だね。大切にしなよ」
「お前も大切にするんだぞ。高校の友達は奈希も詩葉しかいないだろ」
「ギクッ……」
「それ口に出して言うやつ初めて見たわ」
「いや、なんか言ったほうがいいかなと思って」
「なんだそりゃ」
「そういうもんだよ」
「そうか」
ちょっとよく分からない。
「で、次は何でどこに行けばいいんだ」
「電車乗ってとりあえず横浜まで行くよ」
「わかった。じゃあ駅のほうだな」
「そだね」
「時間は大丈夫そうか?」
「うーん、結構余裕見てたはずなんだけどカツカツだね」
「走るか?」
「走ろう!」
俺たちは今日も慌ただしく街を駆ける。
「なぁ、俺たち…いっつも…こうじゃないか?」
「あれ、もう疲れてるの?」
「そりゃ、そう…だろ」
こちとら十年ひきこもりやってたんだ、そりゃきつい。
「女子に負けるなんてみっともな~」
「ち、ちょっと…!待って……」
「はぁ、仕方ないな~。ちょっと休憩ね」
「はぁ……はぁ……」
「体力無いな~」
「……そりゃそうだろ。ひきこもりやってたんだ、勘弁してくれ」
「こりゃ受験勉強と並行して体力作りをしないとね」
「したほうがいいかもな、これは」
「よし、駅まであとちょっとだよ、急ごう」
「そうだな。ちょっとは手加減してくれよ」
「分かってるって。ほら行くよ!」
そう言うやいなや、またしてもこいつは全力で走り始めた。
「あ、おい!まてぇぇぇ!」
「ひゃー!襲われる―!」
「なぁ、手加減しろって言ったよな」
「えー?言ったっけ?」
「……」
「ちょ、ちょっとごめんって!無言で頬つつかないでー!」
ぷにぷにだ。
「も、もういいでしょ!恥ずかしい……」
「ぷにぷにだな」
「太ってないし……」
「いやそうじゃなくてぷにぷにしてて触り心地が最高だ」
「だからって触っていいわけじゃないんだけど……」
「じゃあやめる」
「あっさりやめた」
「なんか嫌そうだったから」
「家でだったらいいけど……外はナシ!」
「人目気にするんだな」
「私を何だと思ってるの?」
「子供」
「……」
「無言で背中をたたくな」
「うるさい」
「ほら、早く行かないとだろ」
「ちょっと!私の扱い適当じゃない!?」
「気のせいだろ多分」
「その発言が適当だよー!」
「ほらどれに乗るんだ」
「私の話を聞きなさいー!」
俺は子供みたいに駄々をこねる奈希の手を引っ張って、おそらく東京方面に向かう電車に乗り込み、横浜まで向かった。
「電車これで合ってたみたいだな」
「分からずに乗ってたの……?」
「いや、駄々こねてたから仕方なく」
「それはごめんだけど、楓雅が悪いねこれは」
「まあ、ちゃんとたどり着けたんだからいいだろ」
「まあ、それもそっか」
「で、行きたいところあったんだろ」
「あ、そうだった。こっちきて、結構近くだから歩いても行ける距離だから」
「期待していいって言ってたから楽しみだな」
「多分びっくりすると思うよ」
「すごすぎてか?」
「まあある意味そうかもね」
ある意味?まあよくわからんが着いたら分かるだろう。
そうして歩くこと数分、奈希の言っていた場所に着いたみたいだ。
「寿司……?」
「そうです!お寿司です!」
「高そうだな」
「安心してください。お金を払う必要はありません!」
「え、そんなことある?」
そんな無料なんてことないだろ……
「じゃあ、お父さんお母さん出てきてー!」
え……?お父さんお母さん?
え?
「あらー!この子が楓雅君?」
「君、身長高いな。俺より高いじゃないか」
「あ、えーとそうです。大崎楓雅です」
とりあえず挨拶はしておくけど……
「じゃあとりあえず中入って!」
「お、おう……」
寿司屋に来たと思ったら、なんか奈希の義両親が出てきたんだけど……え?




