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ヘタレ

 フェリーに揺られ数十分、俺たちは島に帰ってきた。

「今日は楽しかったねー!」

「詩葉ちゃんのおかげだよ!」

「楽しかったな」

 あの温泉は最高だった。今度また一人で行こう。

「じゃあ私こっちだから、また遊ぼうね」

「うん、詩葉ちゃん今日はありがと!」

「こちらこそー!」

 詩葉が去り際に「頑張れよ」とでも言わんばかりのグッジョブの手を見せてきた。

「じゃあ俺たちも行くか」

「そだね」

 そうして俺と奈希は展望台へ向けて歩き始める。

「あの温泉めっちゃよかったな」

「ほんとよかったね。ついつい長風呂しちゃったよ」

「また行きたいな」

「一人で入って退屈じゃなかった?」

「むしろ一人で良かったな。落ち着けるし。たまにはああいうのも悪くない」

「楓雅はほんと、一人が好きだねー」

「まあ、単純に落ち着くしな」

「それもそうだね」

「最近は奈希とずっと一緒にいて良い意味で疲れるから気分転換になったよ」

「良い意味って何さ」

「そのまんまの意味だよ」

 奈希のテンションの高さに振り回されてばっかりだけど、それが楽しい。疲れるけどな。

「ふーん」

「いつもありがとうな」

「急だね。何か企んでる?」

「いや、なんとなくそう思ったから」

「そっか。こちらこそいつもありがとうね。毎日楽しいよ」

「ああ、俺もだ」

「……最近、楓雅めっちゃ素直になったよね」

「そうか?」

「私のおかげかな」

「そうかもな」

 別に何も変わってないと思うんだけどな。

「ほら、そういうところ!前なら『そうかもな』とかすぐに言わなかったし!」

「そうだったっけか」

「そうだよ!」

「まあ前は前、今は今だ」

 奈希がそう言うのならそうなんだろう。

「なんか調子狂うなあ、楓雅が素直すぎる」

「なんで俺が素直だと調子が狂うんだよ」

 そこに因果関係はあんまりないだろ。

「今までだったら私が優位だったのに今じゃ逆だよ」

「一体何にお前は優位だったんだ」

「何に優位だったんだろうね?」

「なんでお前が俺に聞いてくるんだ。俺が聞きたいぐらいなのに」

「まあ、細かいことはいっか!」

「うん、俺は終始何を言いたいかがわからなかったけどな」

「それは楓雅の理解力が足りないだけ、あっ……」

 俺は咄嗟とっさにつまずいた奈希の手を掴む。

「大丈夫か?暗いから気をつけろよ」

「あ、う、うん。大丈夫。ありがと」

「良かった」

「……ね、道暗くて怖いからさ、その……手繋ぎたいなーって……だめ?」

 そ、そんな顔で見てくるな!いくら暗いつってもそんなに近いと表情がはっきり見えちまう…!で、でもこの機会を逃すわけにはいかないな……

「い、いいぞ」

 そう言うと奈希は俺の手をそっと握ってきた。

「……」

 なんだこれなんだこれ……!こんなの余計に緊張して雰囲気作りどころじゃない……!

「あ、そろそろ着くな……」

「あ…う、うん」

 ここを右に曲がればもうあの展望台に着く。

「……」

 結局、展望台に着くまであまり話せなかった。今の俺の顔は……あまり想像したくないな。

「綺麗だな」

「そうだね」

 景色は綺麗だ。だが、それ以上に俺はどう話を切り出せば良いんだ……!

 こういう経験が全くない俺にはわからない……

「……」

 そうして俺がもたもたしているうちに二十分ほど経っただろうか。

「今日はそろそろ帰る?」

 まずい……言い出せなかった……

「……そうだな。もう遅いしな」

「じゃあ帰ろっか」

「あ、ちょ、ちょっと待って」

「どうしたの?」

「……その、えっと、いつもありがとうな」

「なに?改まっちゃって。らしくないぞっ」

 そう言って奈希は俺の頭を撫でてきた。

「ちょ!急に撫でんなって!」

「いやーなんか可愛かったから」

「なんだよそれ」

「ほら、早く帰ろ」

 そう言って手を掴んで引っ張ってくる。

「ちょ、取れる取れる」

「大丈夫、取れないから。ほら、行くよー!」

「そんな走ったら危ないって!」

 結局、俺は告白できず、最終的に奈希に振り回されるのであった。


 ◇ ◇ ◇


 七月二十六日 火曜日 大崎楓雅


「えー!?結局言えなかった!?」

「はい……言えませんでした」

「え、なんで?絶対いける雰囲気だったよねそれ」

「いけませんでした」

「ヘタレだ……」

「やめてくれ……事実を俺に叩きつけるな……」

「完全にタイミングを失っちゃったわけだけど、どうする?」

「明日言うよ」

「呼び出して?」

「ああ」

「今度こそはちゃんと言うよね」

「次こそはちゃんと言うつもりだ」

「つもりじゃなくて断言して」

「はい。明日こそはちゃんと言います」

「よろしい。その覚悟は本当だね?」

「はい。本当です」

「本当の本当に覚悟は決まったね?」

「はい。本当に覚悟を決めました」

「よし。じゃあ私から言うことはなにもない」

「ありがとうございました」

「と、いうわけで小説の感想会でも始めようか!」

「急だな」

「とりあえず今は告白のことは忘れて小説に浸ろうじゃないか……」

「そ、そうだな」

「じゃあまずはこの前買ったやつから…………」

 その後数時間、お互いに小説の感想を言い合った。

「今日もなかなか話し込んだね」

「そうだな。もう慣れたけど」

「じゃあ、明日頑張ってね」

「おう」

「応援してます」

「ありがとう」


 帰宅後


 俺は覚悟を決めた。

「『明日、昼の十二時にあの展望台に来てほしい』っと」

 やっぱり告白はあの展望台でしたい。俺があいつと仲良くなったきっかけの場所でもあるからな。

 そして待つこと数分、連絡が返ってくる。

「また行くの?」

「伝えたいことがある」

「そっか。わかった。明日の十二時に行けばいいんだね」

「それで頼む」

「了解。おやすみ」

「おやすみ」

 よし、呼び出しには成功した。連日同じところに行くのはどうかと思うが……仕方ない。

 流石にここまでしたら勘付かれてるよな、多分。

「緊張してきた……」

 明日は絶対に想いを伝える。



 今度こそ覚悟を決めて言うんだ俺。

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