新しい友達
六月十九日 月曜日 如月奈希
「ん〜、もう朝か……」
昨日は楽しかったな。
「金曜日はサボっちゃったから今日は行かないと」
ただえさえ授業をちゃんと聞かないとついていけないのに、受けていなかったらもっと大変なことになる。
「それに楓雅にも会いたいし」
正直に言ってしまえばこっちの目的の方が大きい。いやむしろ、これが目的。
私はさっさと準備を済ませると、家を出た。
「うーん」
私は悩んでいた。
「一緒に行きたいなあ」
いくら付き合えないとはいえ、一緒に学校に行くとか、デートに行くとかはいいよね。うん。付き合っていない男女でもそういうことぐらいするよね。
……まあそう自分では思っていても、それは私が自分自身の行動を正当化するための言い訳みたいなものなんだけどね。
あれこれ考えているともう学校の前まで来ていた。
「楓雅、いっつもギリギリに来るから早く着いてもあんまり意味ないんだよね」
正直、今の学校は退屈だ。友達もまだいないし……うーん、
「今日は勇気を出して話しかけてみよう!」
友達を作ることにしてみた。いつまでも楓雅とばっかりいるわけには行かないしね。
私は教室に入り、暇そうな人を探してみる。
そうだな……いつも自分の席に座って本を読んでる椛詩葉ちゃんに話しかけてみよう。私、こう見えて小説を読んだりするのは好きなんだよね〜。話が合うかも。
「あ、あの〜」
「ん?どうしたの?」
「その本って最近流行ってるやつだよね。私もそれ読んでるんだ」
「え、如月さんもこれ読んでるの?」
「うん!まだ半分ちょっとぐらいしか読めてないけどね」
「その、今日よかったら放課後に本屋さん一緒に行かない?色々おすすめしたい本とかあるんだ〜」
「うーん、楓雅ももしかしたら一緒に来るかも」
「風雅って大崎楓雅くんだよね……いつも如月さんと一緒にいる顔怖い人……」
楓雅、やっぱりそんなふうに思われるんだ……中身はめっちゃいい人なのに。
「あはは、確かに顔は怖いけどめっちゃいいやつだよ〜」
「そ、そうなの?」
「うん!気遣いもできるし、人のために動くところとかまさに紳士って感じ!」
「そうなんだ……じゃあ一緒についてきても大丈夫だよ、多分」
「あ、でも人見知りっぽいから最初は感じ良くないかも」
「うーん、それは私もそうだから、大丈夫」
「そうかな?全然そんな感じじゃないよ」
「そうかな……なら、安心した」
「あと奈希って呼んでくれていいから!そのほうが話しやすいでしょ?」
「う、うん!じゃあ奈希ちゃんって呼ぶね」
「よろしく詩葉ちゃん!」
「よろしくね奈希ちゃん」
「じゃあ、放課後下で待ってるね」
「うん。分かった」
ちょうど話が終わると同時に楓雅が教室に入ってきた。
「あ、おはよー楓雅!」
「おはよう奈希」
「今日もギリギリだね〜」
「いいだろ別に」
「あはは、ほら早く席つかないとホームルーム始まっちゃうよ?」
放課後本屋さんに行くことは、後で言えばいっか。
そうして授業が始まって行き、昼休みになった。
楓雅と私はいつも通りあの階段へ向かう。
「奈希友達できてたじゃねえか」
「あ、そうなの!あの子、私が好きな小説読んでててね、話が合うかなーって思って話しかけたら仲良くなれたの!」
「よかったな」
「あ、あと放課後あの子と一緒に本屋さん行くから楓雅も来てね!」
「え、なんで俺まで……」
「楓雅、多分クラスの人たちから怖がられてるから少しでもその誤解が解けたらいいなーと思って」
「そんなの別に気にしてないから大丈夫だぞ」
「私が気にするの!」
そりゃあ、好きな人がそんな風に思われてたら解決してあげたいに決まってるよね。
「そ、そうか。まあ別にいいが」
「じゃ、放課後来てくれるよね」
「奈希がそう言うなら、まあ」
「じゃあ決まり!ささ、お昼ご飯早く食べよ!」
「ああ」
そうしてお昼ご飯を食べた私たちは、中庭にいる詩葉ちゃんに話しかけに行くことにした。
「別に今話さなくても……」
「時間あるからいいじゃん〜」
「まあ、そうだけど……」
「見た目とは裏腹に結構人見知りだよね、楓雅って」
「お前が初めて話しかけてきた時はグイグイ来られて困ったわ」
「ごめんってば」
じゃないと楓雅、話してくれなさそうだったし。
「あ、詩葉ちゃーん!」
「どうしたの奈希ちゃん」
「放課後会う前に楓雅とあっといたほうがいいと思って連れてきました!」
「別に同じクラスだからわざわざ探しに行かなくてもよかったろ……」
「でも、ここなら人もあまりいないし、人見知りの楓雅でも話しやすいんじゃない?」
お互い話したことないだろうから三人だけの空間の方が多分、話しやすいよね。
「大崎くん…だっけ?去年も同じクラスだったけどあんまり話す機会はなかったよね」
「そう言うそっちは、椛詩葉だったっけ?」
「うん、そうだよ。私の名前は椛詩葉」
「俺の名前は大崎楓雅。よろしくな」
「よろしくね」
「……なんで去年同じクラスだったのに今、自己紹介してるのー!?」
一年以上同じクラスにいてそんなことってあるんだ……
「だって俺、友達いねえって言っただろ」
「私もそんなに自分から行けるようなタイプじゃないし……」
負と負のオーラがお互いにすごい……!
「あ、その椛さんが持ってる小説、俺も読んでるぞ」
「え、ほんとに!大崎くんも小説好きだったりするの?」
「家で暇だから結構読んでるぞ」
「え、楓雅もこの小説好きなの!?楓雅って小説読むんだ。意外」
「意外ってなんだ意外って」
「だってそういうのあんまり好きそうな見た目してないじゃん」
「私も大崎くんがこの小説好きだなんて思わなかったよ」
「俺ってそんな見た目怖かったりするのか……?」
思ってたよりそこ気にしてたんだね、楓雅。なんかごめん。
「うーん、正直言うとめっちゃ怖いね。目つきとか」
「うん。怖い。けど一年生の時大崎くん私のこと助けてくれたよね。覚えてる?」
「俺助けたことなんてあったか?」
「大崎くんは忘れちゃってるかもだけど、帰り道に子供が転けちゃってて私が何していいか戸惑ってた時に、大崎くんが全部してくれて何も言わずに行っちゃったんだよ」
「うわ、楓雅かっこいい〜!」
「……あ〜そんなこともあったかもな」
「あの時はありがとう」
「人として当たり前のことをしただけだ」
「カッコつけちゃって〜」
楓雅ってやっぱりそういう所あるんだよね。ほんとかっこいい〜!惚れちゃう!
って、もう惚れてたんだった。
「そんなんじゃねえよ」
「あはは、だから大崎くん見た目はあれだけどいい人だなって、思ったよ」
「なんか複雑な気分だな。褒められてるのか褒められてないのか」
「これに関しては褒めてるのほうが大きいね」
「何様だお前は」
「あはは。ってな感じで楓雅いいやつだから詩葉ちゃんも可愛がってあげてね!」
「なんで可愛がられるんだよ。こいつの相手してて疲れないか?」
「あはは。別に大丈夫だよ。話しかけてくれて嬉しかったし。あと、大崎くん下の名前で呼んでもいい?」
「ああ。じゃあ俺もそれでいいか?」
「うん、いいよ。改めてよろしくね楓雅くん」
「ああ。よろしくな詩葉」
案外すぐ仲良くなっちゃった。楓雅も話しかけに行けば絶対いっぱい友達できるのになあ。
でも、あんまり女の子の友達は作ってほしくないな。今回は私が紹介したからいいけどね。勝手に作ってたら……ね?わかるよね。
「あ、そろそろ戻らないと授業始まっちゃうよ!」
「あ!ほんとだ!早く戻ろ!風雅も走って!」
「お、おう!」
私たちは授業が始まるギリギリに入り、なんとか遅刻せずに受けられた。
午後の授業が終わり、私たちは約束通り本屋さんへ向かった。
「ここ島で唯一の本屋さんだけど、品揃え微妙なんだよね……」
「俺もたまにくるが、品揃えは本当に悪いな」
「今度本土の本屋さん行ってみる?」
本土なら多分欲しいやつは大抵あると思うけど……
「それならネットで買ったほうが良くないか?」
「それがね楓雅くん、今読んでるこの小説の最新巻、ネットでまだ発売してないんだよ〜」
「そんなことあるのか」
「よくある話だよね。店頭で先に出してからネットで発売するやつ」
ネットで発売日が同じだったとしても配送で日数もかかるから結局すぐには読めないんだよね。
「そうなんだな。別に俺は時間あるから本土まで行ってもいいぞ」
「うーん、でもまだ途中までしか読めてないしまだいいかな」
「それもそだね」
まだ今ある分を読み切っていないのに、買いに行っても意味ないもんね。
「奈希、詩葉、この小説面白いから読んでみろよ」
そう言って楓雅が見せてきた本は、恋愛小説だった。
「え、こういうの読むんだ。意外すぎるんだけど」
「うん、意外」
「男だからって恋愛小説は読まないとかっていう偏見はやめてくれ」
「でも、あらすじ見た感じ結構面白そうだね」
「楓雅くん私と趣味合うね。これ私読んだことあるんだ」
「お、そうなのか?登場人物が結構個性豊かで面白んだよなこれ」
「そうそう!それが一番の推しポイントかなーって思うかな、私は」
「二人がそんなに言うなら私も読んでみようかな」
私も話に入りたいし……
「おう。ぜひ読んでくれ」
「また感想聞かせてね」
「じゃあ、これ買ってくる!」
会計を済ませ、私たちは店を後にした。
「あ、そういえば詩葉ちゃん何か見たいものとかあったんじゃないの?」
「いや、いっつも私本屋さんに来て、いい感じのがあったら買うことにしてるから大丈夫だよ」
「そっか。なら何でもない」
「じゃ、私こっちだからまたね!楓雅くんと奈希ちゃん!」
「おう、また明日な」
「じゃーねー!」
詩葉ちゃん結構明るい感じの子で話しやすかったな。
「楓雅は詩葉ちゃんのことどう思った?」
「どうも何も、友達になれてよかったよ」
「初めての友達なんじゃない?」
「小学校以来の友達だな」
これまでずっと一人で過ごしてきていることを考えると、その精神力に尊敬すら覚える。
「でも、よかったね。これで私がいない時でも暇じゃなくなったよ」
「ああ、そうだな」
少し間をおいて楓雅が言う。
「これから俺、もっと他人と関わって生きていこうと思う」
「うんうん、いいと思うよ!絶対そのほうが楽しいし」
「あ、でも、女の子とばっかり関わるのは禁止ね!」
「そもそも怖がって逃げていくから心配すんな」
「それもそっか」
仮にそうなったとしたら、絶対私嫉妬しちゃう。でも、人のことにあんまり口出しするべきじゃないのかな。
「ちょっとは否定してくれ」
「だって怖いんだもん」
「……まあいい。じゃ、俺こっちだから、また明日な」
「うん!また明日!」
楓雅と別れ、私は早足で家に帰り、ベッドに飛び込む。
「嫉妬しちゃう自分が嫌だー!」
「友達になったのはいいことだし、そもそも私がそうなるように仕向けたから当然の結果なんだけど、何で嫉妬しちゃうのかなあ」
自分が本当に馬鹿らしい。そもそも付き合うことなんて絶対にできないのに。
「近いうちに、話切り出さないとな……」
楓雅は私と兄妹なんだよって。元々、楓雅と仲良くなろうとしたのも、兄妹って打ち明けた時にすぐに馴染めるようにって思ってだけど……それが裏目に出ちゃった。ていうか、自爆しちゃった。
「如月奈希はなんてバカなんだー!」
それから数時間は、自室で感情を叫びまくっていた。




