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全闘学園  作者: 在江
終 章
17/17

卒業式

 卒業式の日、棟方史宣は朝寝坊をしてしまった。

 カーテンを開けると、まばゆい光が、ぼろぼろになった窓枠の陰影をくっきりと照らし出した。


 彼は在校生代表として、送辞を読むことになっていた。

 目覚まし時計の不調を呪いつつ、急いで支度をする。タブレットには、着信が山のように記録されていた。中身を読む暇はない。

 部屋の扉を開けると、寮生のメモがたくさん落ちていた。


 「おきろ」

 「先行くぞ」


 メモを部屋へ蹴り入れる間も惜しく、寮を出る。

 シェアサイクリング置き場は、空っぽだった。バスの時間には半端だし、路面電車なら走ったほうが早い。


 史宣は全速力で会場の体育館へ向かった。送辞の原稿を懐に、左腰に刀の重みを感じつつ、ひたすら走った。

 天気の良い日であった。


 時間が遅いせいで、辺りに人影は見あたらなかった。



 不意に、目の前が真っ白になった。


 はっとして振り向くと、いつの間にかすぐ後ろに御門深蘭と神代琉緯が立っていた。2人は桜の花びらに取り巻かれていた。史宣と初めて出会ったときのように。


 「別れを告げに来た」


 深蘭が言った。風が彼女の美しい黒髪をかき乱し、耳元の勾玉をあらわにした。史宣は、思い当たって、ぎょっとした。

 生徒会に受け継がれる三種の神器の一、八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)。裏の生徒会長が持つ物だった。昼間のことで、一見したところで、ただの勾玉と区別がつかない。しかし史宣には、それが本物だと分かった。


 今日この時まで、裏長は後継を指名しなかった。だから史宣は、裏長は3年生ではない、と思っていたのだ。


 深蘭は勾玉を外して史宣に差し出した。反射的に受け取る。


 「言い残しておくことがある」


 琉緯が優しい微笑みを見せながら話しかけた。史宣は琉緯を見上げた。いつにも増して、神々しさがあふれていた。


 「君と白飼妃美香は、いずれ結ばれる運命にある。気長に構えて待つがよい」


 史宣は御託宣(ごたくせん)でも聴くように、自然と頭を垂れた。深蘭の声が遠く聞こえた。


 「では、さらばだ」


 顔を上げた時には、花びらも2人の姿も消えて、目の前に体育館があった。時計は開式の5分前を指していた。今にも会場へ入りつつある生徒の背中、扉を閉めようと待ち構える教師の姿も見える。振り向いてみた。

 さすがに誰もいなかった。


 やはり、狐か狸なのではなかろうか。そもそも寝坊したのも、彼らの仕業なのでは……?


 史宣は手を開いてみた。2つの勾玉と桜の花びらが1枚、彼の掌に残っていた。


 「やるか」


 彼は再びそれを握りしめると、会場の入り口へと足を踏み出した。

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