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全闘学園  作者: 在江
第三章 そんな長いことでもないので
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2 同性同士腹を割る

 美少年の群れは、抵抗を止めた妃美香を真ん中にして、移動した。


 「暴れると、鹿島彰に危害が及ぶぞ」


 と脅されたのである。その後、彰が結局昏倒(こんとう)させられた事を、彼女は知らない。


 どこをどう通ったものやら、囲まれた彼女にはわからなかったが、やがて彼らは何処かの建物に入った。

 さらに階段を上り下りした後、一つの部屋に到着した。(ようや)く囲みが解けると、妃美香の前に女生徒がいた。


 リボンの色から推すと、3年生らしかった。彼女はじっと妃美香を見つめていた。自信に満ちた瞳であった。


 「白飼妃美香さん、ね。お掛けなさい」


 派手な見た目に反し、しとやかな声音(こわね)仕草(しぐさ)に、妃美香の力が抜ける。彼女の指す先には、座りごこちのよさそうな椅子があった。


 「わたくしは綾小路弥生(あやのこうじやよい)、体育委員会の委員長です」


 妃美香が座るのを待ち、彼女は自己紹介した。


 「御存知かと思われますが、来月に学園祭が開催されます。わたくしは、その全体責任者です。学園祭は、生徒の協力なしには成り立ちません。そこで、皆さんに協力を仰いでおります。ところが、ごく稀に非協力的な生徒がおり、わたくし共の作業が(とどこお)って困惑しております」


 「まあ、とんでもない人がいるのね」


 妃美香は同調した。弥生は彼女から目を離さず、諄諄(じゅんじゅん)と説いた。


 「ええ。彼らにも個人的都合があるのでしょうが、年に一度しかない、咲寿賀(さすが)高校が一体となる行事を彼一人の為につぶしてしまうのは、余りにも残念だと思いませんか」


 「一体、どんな人なのです?」


 妃美香はすっかり弥生のペースに引き込まれて尋ねた。弥生の瞳が一瞬キラリと光った。


 「例えば、あなたの彼氏の鹿島彰くんとか」

 「彼氏だなんて、とんでもない! 単なるクラスメートです。で、鹿島くんが非協力的な生徒なんですか」


 妃美香は憤然(ふんぜん)としていった。弥生はその表情を素早く観察し、ちろりと舌なめずりをした。


 「ふふふ気の毒に」

 「あ、綾小路さん?」


 弥生が途中からぼんやりとして、くるくる表情を変えたかと思うと、突然舌を出して含み笑いを始めたので、妃美香は心配になった。

 椅子から覗きこむと、弥生はハッと我に返ったような表情になった。


 「ああ、ごめんなさい。最近そのことで疲れ気味なのです」


 ふうっ、と弥生は吐息を漏らした。妃美香は同情した。これほど大きな高校で全体行事の総責任者を任せられたのだ。いくら優秀でも、大変なことには違いない。


 「で、鹿島くんのお友達であるあなたからも、協力するように言っていただけないでしょうか」

 「もちろん。喜んで協力させていただきます」

 「ありがとう。あなたみたいな生徒ばかりだと、わたくし共、とても助かります」


 2人の女は微笑を交わした。


 「じゃ、わたしはこれで」


 妃美香が立ち上がると、弥生も立ち上がった。


 「お忙しいところをすみませんでした。図書当番の方は、連絡して明日の人と交代してもらうようにお願いしておきましたからご心配には及びません。ここは生徒会館です。お気をつけてお帰りくださいね」

 「はい、おじゃましました」


 妃美香は図書当番のことなど、すっかり忘れていたので、弥生の親切をありがたく思った。すると、今日はフリーになったのだ。どこへ出かけようか。

 もはや、彼女の脳裏から、美少年たちと出くわした当時の記憶は抜け落ちていた。



 「おーい、兄さん。起きろ。こんなところで寝ているんじゃねえ」


 顔をぴたぴた叩かれて、彰は目を開いた。

 鋭い目つきの男がいた。帯刀している。見回り中の風紀委員らしい。しかし何処かでみたような気がする。


 「お、首の後ろがちょっとアザになっているぞ。何かあったのか」


 頭を持ち上げられた。仰向けになっているのだ。彰は起きあがって、風紀委員の顔を見なおした。


 「戸隠(とがくし)さん」

 「そういえば、今日は白飼さんと一緒じゃないのか。彼女はどうした」


 光一郎の声が少し険しくなった。彰は頭に手を当てて、記憶を呼び覚ました。すぐに、先刻の事を思い出した。


 「と、戸隠さん。しら、白飼さんが、美少年隊に、(さら)われました」

 「げっ、綾小路弥生の手先にか。まさか、お前のせいじゃないだろうな」


 彰は答えられなかった。光一郎はチッと舌打ちをして、


 「ま、とにかく委員会室へ行こうぜ。目的を探りださなきゃ。歩けるか」


 と、彰に手を貸して生徒会館の風紀委員会室へ向かった。

 委員会室では、委員長の棟方史宣が独りで仕事をしていた。彼は光一郎たちの入室に、目を上げた。


 「委員長、大変です」

 「む、どうした」

 「美少年隊が、白飼さんを攫っていったそうです」

 「な……」


 史宣は書類を取り落とした。顔色が変わっている。彰はそれを見て、改めて自分のふがいなさを責めた。


 「すみません、棟方さん。僕のせいで、白飼さんまで巻きこんでしまって」


 史宣は、彰の方をちらりと見やったが、すぐに目をそらした。


 「いや、断じて君のせいではない。自分をあまり責めないで。とにかく、座って」


 無理に感情を押し殺したような声であった。何とか落ち着こうと努めているらしい。彰は胸が痛むのを感じた。と同時に、理事長としての義務感が湧き上がってきた。


 「美少年隊に攫われた女生徒は、どうなるのですか」

 「いろいろある。大抵は雰囲気が変わる。人格改造されたのではないか、という噂がもっぱらだ。その他、炎を吐くようになった生徒、ヘビメタになった生徒。数え上げればきりがない」


 と、光一郎が答えた。彰はゾッとした。炎を吐く白飼さん、なんて見たくない。史宣がすっくと立ち上がった。片手に刀をつかんでいる。


 「とにかく、綾小路体育委員長に掛け合ってくる」


 低い声で呟くようにいうと、ドアへ向かった。扉の前で、外からノックの音がした。


 コンコンコン。


 「おや、棟方くん。どこへ行くのかね」


 にこにこして現れたのは、神代琉緯であった。史宣は急に気が緩んで、崩れそうになった。


 「大丈夫?」


 琉緯が素早く支えて尋ねた。微かに頷く史宣。だが、動けない。光一郎が駆け寄る。生徒会長は彼と一緒に委員長をソファまで運んだ。


 「すみません。取り乱してしまって」

 「一体、何があったのか、聞かせてくれないかな」


 そこで光一郎が事件のあらましを説明した。琉緯は微笑を浮かべて聞いていたが、彼の話が終わると言った。


 「では、私が彼女と話をしよう。見たところ、棟方くんはお疲れのようだし、代わりに行かせてくれるかな?」


 史宣は迷う風であった。

 そこへ、妃美香が入ってきたのである。琉緯以外の一同は動揺した。

 彼女は五体満足で見たところ異常はなかった。但し、険しい顔をしていた。


 「白飼さん、無事だったの?」


 彰がおそるおそる尋ねた。妃美香はキッ、と彰を見据えた。


 「無事も何もないわよ。話は全部聞いたわ。鹿島くん、あなたって人は」


 知らないとはいえ、理事長を捕まえて頭ごなしに叱る妃美香を、史宣は呆気にとられて見ていた。当の彰もポカンとしている。妃美香は続けた。


 「綾小路さんの話だと、あなたは学園祭にちっとも協力しないそうじゃないの。年一回しかない咲寿賀高校の一大イベントに協力する機会を逃すなんて、生徒の風上にも置けないわ。しかも、体育委員長直々にお願いしているというのに」


 「ちょっと待ちなよ、白飼さん」

 「黙りなさい!」


 助太刀しかけた光一郎を、妃美香は一言で黙らせた。普段見ることのない迫力が、今の彼女には備わっていた。まるで、そう、綾小路弥生が乗り移ったかのようである。


 「学園祭の準備は決して楽なものではない、ということは認めるわ。図書委員との兼ね合いもあるし。でも、鹿島くんには頑張ってほしいのよ。図書当番の方は私に任せて、心置きなくいってらしゃい。じゃ、私はこれで帰るから。がっかりさせないでね」


 妃美香は、言うだけ言うと、委員会室から出ていった。


 一同ため息をついた。


 「あそこまで言われてしまったら、もう観念して囚われるより仕方ないですね。別に命をとられる訳ではなし。学園祭が終わる迄のことですし、何より実際に人助けなのですから。例のお仕事は、周囲に割り振れば何とかなるでしょう?」


 1人だけ笑顔の琉偉が引導を渡す。理事長の話は、光一郎の耳を憚ってぼかしたようだ。彰は妃美香に叱られたショックで虚になった瞳を、生徒会長へ向けた。


 「それはいいんですけど、僕が心配なのは白飼さんの方です。彼女、人格改造されていませんでしたか?」

 「彼女はいつも通りだぜ。綾小路弥生にうまく()きつけられた感はあるが、改造までは行っていないな」


 光一郎が答えた。それを聞いた彰は少し安心したようであったが、ふと気付いて史宣に目を向けた。


 「あの、棟方さん。参考のためにうかがっておきたいのですけど、綾小路さんにつかまると、どうなるのですか」

 「言いたくない。思い出したくない」


 史宣は苦悩の色を見せた。彰は追及しようかどうか迷った。そのとき、光一郎がそっと立ち上がって彰に目配せしたので、彰は彼の後について廊下へ出た。


 「もしよかったら、話してやってもいいぜ」


 と、光一郎は右手を差し出した。


 「ぜひ、お願いします」


 彰は紙幣を1枚渡した。


 「OK。じゃ、とりあえず外へ出よう」


 2人は建物の外へ出て、倉庫の方へ向かって歩き始めた。道々光一郎が語った。


 「簡単にいっちまうと、美少年隊は綾小路弥生に奉仕するために存在する。1人を除く隊員は、自主的に参加した者たちだ。残る1人がその年の(にえ)と呼ばれる。今年は、お前だ。贄の役割は、勿論彼女に奉仕することだが、そのやり方が半端じゃないってことさ」


「で、具体的にどんなことですか」


 彰は口を挟んだ。光一郎は肩をすくめた。


 「わからん」

 「え」


 あのお金は何だったんだ、と彰は思った。


 「まあ、めちゃめちゃ忙しいことは確かだ。去年、うちの委員長が選ばれた時には、実質1ヶ月間、風紀委員長が不在になったものな。授業も出られないらしいから、並の生徒には務まらないのも確かだけど。お前も図書委員だったよな? 仕事の引き継ぎは、ちゃんとしておけよ」

 「ご忠告、ありがとう」


 なるようにしかならない、と彰は覚悟を決めた。


 翌日から学園祭終了までの1ヶ月余、彰は行方不明になった。


 そして善統(ぜんとう)学園咲寿賀高校文化祭は、綾小路体育委員長の指揮下で、滞りなく開催された。

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