第五話 最終試験
街の本屋には行列ができ、とても本が買えるようには思えなかった。
我先に精神が溢れ返っていて、醜くもあった。
私たちはシルフィの知恵を頼りに野草を集めた。
この試験の本質は、サバイバルの知恵だけではなく、こうしたコミュニケーション能力にもあるのではないかと感じた。
材料を集め、あっという間に夜になり、宿屋へと戻った。
もしかしたら明日死ぬかもしれない、そんな恐怖を抱きながら私たちは励まし合った。
次の日は、朝一から調合を始めた。
シルフィによると、この段階でも気を付けなればいけないことがあるという。
無事に調合を済ませ、試験会場へと戻る。
「貴様ら! 覚悟はしてきたろうな! さぁ、では早速だが、飲め!」
私たちは生唾をごくりと飲み込む。
「大丈夫さ! この僕が付いているんだ、どうってことないさ!」
シルフィは余裕そうに、後ろ足で毛づくろいをしている。
「飲め……!」
試験官の合図で一斉に飲み干した。
苦さ、青臭さが鼻腔を満たす。周囲を見渡しても、皆しかめっ面をしている。
数秒ほど我慢していると、体の底から力が沸き立ってくる。
戦士のような容貌のマリーナがシルフィを撫でた。
「シルフィ、君はすごいな! まるで力が沸いてくるぞ!」
得意げに微笑むシルフィの向こうに見えるのは、苦しみながら担架で搬送される人だった。
二次試験でマリーナとペアを組んだナディアが呟いた。
「あの人たち……もう……。それに調合した薬を交換するっていうのが、えげつないわよね……」
ナディアの言う通りだった。
自分が調合した薬を相手に飲ませ、その相手が苦しみだしたということは……。
この試験で五十人中、ほぼ半分が落ちた。
残ったのは二十人だった。
涙をこらえる人たち、泣きじゃくる人もいた。
午後からは力試しの試練「実践試験」がある。
試験官との演習で、実力を見せるというものだ。
お昼を食べるため、一度会場から出る。
気が重く俯きながら歩く。
すれ違いざまに若い試験官とぶつかり、転んでしまった。
「おっと、お嬢さん、大丈夫かい? うん、怪我をしてないみたいでよかったよ」
「あの、ありがとうございます……」
立ち上がり、会場から出る。
眩しいほどの太陽に照らされ、ふと我に返った。
「今の声、知ってる! あれは、兄の声だ――!」
君のお兄さんがいるはずない、とシルフィに言われながらも会場を探した。
やはり兄の姿はなかった。
その後、落ち込む友達たちと昼を囲んだ。
そして、午後の第三次試験が始まった。
三次試験の内容は簡単だった。
一人ずつ、試験官と勝負をする。
各々が得意とする武器を持って挑んでいる。
剣や槍、拳を扱う者もいる。
「ねぇ、アナ。弓を使おうよ~! 僕がさ、シャッ! ってしてさ、矢がブワッてできるからさ!」
シルフィの言う通り、本来であれば私も弓で参加したかったが、やめておいた。
あの厳しいハイマンとかいう試験官のことだ、弓を出した時点で不合格にしかねない。
そして、私の出番がくる。
「アナ! 頑張ってね! 帰ってきたら、チョコたくさん食べさせてね!」
「ありがとう、頑張ってくるわ!」
気合いを入れ直し、試験会場へと向かう。
「それでは、始め!」
開始の合図とともに、試験官のハイマンを狙った。
ハイマンは私の攻撃をいとも簡単にいなす。
「どうした! 精霊持ちが、その程度か!」
確かにハイマンの細剣捌きは見事だった。
負けてられないと少し本気を出し、徐々に押し始める。
ハイマンが若干よろけた隙を狙い、攻撃を当てる。
「えぇぇい!」
その瞬間――。
――ドォォン!
会場内で大きな爆発が起きた。
目の前にいるハイマンは焦ることなく状況を理解する。
「襲撃だ! 受験生たちは至急避難しろ!」
言われるがままに、避難した。
振り返ると、大小さまざまな魔物が会場を襲っていた――。
試験官や騎士たちが抵抗するも、敵は圧倒的な戦力だった。
避難するよう言われたが、私は戦場に戻った。
本気を隠している場合じゃない。
「シルフィ! いくよ!」
「待っていたよ、アナ! さぁ、僕たちの本気を見せてやろうよ!」
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