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幼馴染との距離の詰め方  作者: 広晴
8/24

第8話 俺は走る。


 まずは現状を確認しよう。

 次の手をあれこれ思案する間に、あのデートから1週間が過ぎてしまった。

 教室で目が合うとちょっと頬を染めて手を振ってくれたり、離れにいる時は距離がさらに近くなって、だいたい体のどこかが接触してたりするので、意識させる、距離を縮める、という目標は達成されていると見ていい。

 とはいえ、人目のあるところで迫るのはやはりハードルが高いので、狙い目プレイスはやはり離れだろう。

 と、いうわけで。



 月曜日の離れ。

 いつもの定位置、長めのソファに並んで座って漫画を読んでいる俺たち。

 俺は普通に座ってアームレストに片腕を乗せていて、双葉は同じソファに仰向けの姿勢で横になり、俺に背中を預けて寄り掛かって漫画を読んでいる。

 もともとちょっとしたボディタッチは多めだったと思うが、最近こういうのが増えていて、うれしいやらちょっと照れるやらだ。

 今の態勢、これはこれで甘えられてる感じで最高に良いのだが、今日はさらに踏み込んでさらなる最高を更新するぜ!


 俺に寄り掛かった背中を倒れないように注意して支えながら、両手を双葉の首の左右から回して抱き着く。

 後ろからの形でハグしてみた。


「か、かなた?」


 びっくりして耳が赤くなってる双葉が顔だけこちらに向けようとするが、両腕を双葉の鎖骨あたりに回して抱き着いてるから、体の向きは変えられない。

 てか、体ほっそ! 肩柔らかっ! なんかいい匂いするぅ! サイコー!


「何読んでるんだ?」


 双葉の手元の漫画を覗き込みながら、知ってるけどあえて聞く。

 スパイと暗殺者と超能力者が家族になる漫画だ。俺もこういう素敵な家族を作りたいな。バイオレンスは無しで。

 耳元に口を寄せ、囁くように追撃だ。


「あ、それ、おもろいよな。読み返したいからページめくってよ」


「ふあ、あ、う、うん」 


 双葉は両足でソファのアームレストをふみふみして、俺を目だけでちらちら見ながら手にした漫画を開く。


「み、見える?」


「ああ、気にせず自分のペースで読んでていいぞ。勝手に見るから」


 ぺらり・・・、ぺらり・・・。

 双葉がページをめくる音が、やけに大きく聞こえる。

 漫画の奥さんも娘も可愛いんだが、もちろん今はもっと可愛い女の子に夢中で漫画なんかぜんぜん見てない。


 双葉、体温高いなー。

 あったけーなー。

 細いのになんか柔らかいし。

 髪からも身体からも別々のいい匂いがするし。

 あーやばいなーこれ、離したくねー。

 なんか頭がぼーっとしてきたなー・・・。

 知らず、腕に少し力が入る。


「あ、ひや、ふあ、あん」


 かわいー声。

 あー、押し倒したい。

 おっぱい揉みたい。

 服が邪魔。脱がしたい。

 見たい。ぜんぶ。


 ・・・もうゴールしてもいいかな・・・?


 イヤイヤ!まてまて!

 感動シーンみたいな言い方してもダメ!

 やろうとしてるの、エロいことだから!

 まずいまずい! ステイステイ!

 ちょっと話でもして落ち着こう!


「・・・なあ、双葉」


「ん・・・何?」


「イヤじゃないか? 俺に、こうされるの」


「ん・・うん・・・」


「我慢とか、してないか?」


「我慢なんて、ぜんぜん、してないよ・・・。なんか・・・あったかくって・・・どきどきして・・・しあわせかも・・・」


 双葉が俺の首元に頬を押し付けてすりすりする。

 か、かわっ、かわいっ。

 や、やばっ。

 頭冷やすために話しかけたのに、余計に頭がおかしくなる!


「あ、ふ、うん・・・やん」


 双葉の可愛い声が余計に俺の脳を焼く。

 知らない間にまた力が入っていたみたいだ。

 慌てて腕の力を抜く。


「・・・苦しかったか?」


「・・・へいき。・・・もっと強くても、へいき、だよ?」


 あああああ!

 わざとやってんのかなこいつゥゥゥ!

 ハグに慣れてからキスってちゃんと段階踏もうとしてるのに、犯されたいのかああああ!


「よっし! 今日はもう帰るわ!」


 双葉の両肩に手を置いて倒れないようにしながら立ち上がる。

 これは断じてヘタレではない! ないったらない!

 ちょっとこう、アレだ、気持ちの準備的なサムシングだ!

 準備運動なしで水に入っちゃダメ的なソレだ!


 腹のあたりに来る双葉の頭を最後にぎゅっとして、体を引き離す。


 双葉さん、ちょっと唇尖らせてるのなんなの?

 可愛すぎてちゅーしたいんだが?

 いまちゅーしたらケダモノさんを止めきれる自信ないんだが?

 もうこの天使、無防備過ぎじゃない?


 なんとなく離れがたくて、もう一度腹に双葉の頭を押し付け、そのまま双葉の頭と頬を撫でる。

 なでりこなでりこ。

 目を閉じて心地よさそうにする顔の可愛いこと。

 ・・・これ、俺の理性が溶かされるの、時間の問題では・・・?



 その日の帰りは遠回りして、全力で走って帰った。

 大声も出したかったがさすがに自重した。


 めちゃくちゃ走って少しは煩悩を発散できたが、姉に「汗臭っ」と罵られたので、しっかりめに風呂に入ってさっぱりしたものの、その日は悶々としてなかなか寝付けなかった。



◆◆◆



 朝日が眩しい。

 通学路を歩きながら俺は悩む。

 昨日はなんとか煩悩を押さえ切った。

 だが、このままでは俺はビーストと化して双葉を押し倒してしまう。

 けど離れに行かないなんてのは論外だ。寂しくて死ぬ。

 押し倒して、もし拒否られたら、俺、泣いちゃうんだが・・・?


 うぐぐ・・・。

 ・・・よし今週はハグウィークだ。

 めっちゃハグして、体の接触に対する拒否感をできる限りなくす。


 そして満を持して週末にちゅーする。

 するったらする。


 それまでケダモノさんにはなんとか我慢していただく。

 双葉を泣かせるなんてのは、姉に言われるまでもなくありえない。

 溜まったリビドーは・・・走って発散しよう。

 ・・・がんばろう・・・。



「おはよう彼方!・・・なんか疲れてる?寝不足?」


「おはよう双葉。ちょっと眠いけど大丈夫だ。双葉は元気そうだな。顔色が明るいし目もパッチリしててキラキラしてる」


「大丈夫?・・・手、繋ぐ?」


 ちょっと心配そうに俺の顔を覗き込む双葉。やはり天使。


「・・・んじゃお言葉に甘えるかな。でもただの寝不足だから大丈夫だぞ?」


 せっかくだし双葉の手をとって指が互い違いになるように絡める。

 このとおり、恋人繋ぎもできるようになった。

 まだ照れるけどな!


「・・・えへへ」


 双葉も照れてるけど、嫌がるそぶりはない。可愛い。

 うむ。攻略は順調だな!




 昼休みはいつも通り、野郎5人がいつもの体育館脇に集まるが、俺は寝不足で頭がぼーっとして、いつものアホエロトークにも上の空だ。

 双葉が居ないところではどうにも集中力が続かない。


「おい彼方、顔が死んでるぞ? 寝不足か?」


 俺の顔を覗き込んだアホの村田にまで心配された。

 双葉と同じような顔を覗き込むしぐさして俺の幸せな記憶を上書きすんな。腹立つ。


「アホの村田にまで心配された。そんなに俺の顔色悪いのか?」


「アホ言うなや。お前が女だったらお姫様抱っこで保健室へ連れてくレベルだぞ」


「キモ」


「キモイな」


「ああ、キモイ」


「どうやったら鶴田さんをお姫様だっこできると思う?」


「犯罪臭がするレベルでキモい」


「自首しろ」


「キモ田はおいといて、マジで顔色悪いぞ、彼方」


「そっか。寝不足の自覚はあるな・・・保健室でサボってくるわ」


「おう。先生には言っとく。あと、キモ田じゃねーし、自首もしねーから」


「井上、自首の説得含めて頼んだ」


「任しとけ。修正してやる」


「その説得、物理だよなあっ?!」



 そのまま保健室に行って保健の先生に熱とか計られ、なんかの名簿?に名前を書いてからベッドに横になった。

 「口うるさい」「厳しい」「まともに相手をしてくれない」で有名な保健の先生が何も言わずにベッドを使わせてくれるくらい、俺の顔色は悪かったらしい。

 横になるとすぐに睡魔が来た。

 俺の意識はあっという間に持っていかれた。




 目を開けると双葉がいた。

 天井うんぬんのボケをかます暇もなく、目を開くと目の前にどアップの双葉の顔があった。ここが天国か。


「ひゃぅわっ! 彼方?!」


「・・・双葉?」


 周囲を見回す。

 消毒液の匂い。

 ごわごわした寝にくい寝具。

 周囲を囲うカーテン。

 そうか保健室で寝てたんだっけ。


「お、おはよう彼方。もう顔色はよさそうだけど、体調は、どう?」


 体調を確かめる。うん。万全。

 そんなことよりも、このシチュ、寝てる間に双葉からキスされてたみたいな期待をしちまうな。

 何か感触が残ってるとかでも無いし、甘すぎる見通しと分かってるけど、それくらい好意を持たれてたら嬉しいなあ。

 それにファーストキスはやっぱり俺から決めたいな。


「おう。寝かせてもらったおかげで良さそうだ。いま何時だ?」


「もう放課後だよ」


「午後の授業は全部寝ちゃったかー」


「ノート取ってるよ。彼方の鞄も持ってきてる」


「ああ、助かる。ありがとうな」


 ベッドを下りて上着を羽織り、双葉から鞄を受け取る。

 保健の先生に礼を言って保健室を出ると、外の光はもうすっかりオレンジ色だった。


「本当にもう大丈夫そうだね」


「ああ、どうも寝不足がヤバかったみたいだ。心配かけてごめんな」


「ううん。今日はどうする?寄らないでまっすぐ帰る?」


「いや、今日のうちにノート写させてもらおう。借りなくて済むからな」


「りょーかーい」


 にひひっ、と嬉しそうに笑う双葉。

 俺と一緒に居ることを喜んでくれてる、と自惚れちまうな。

 俺だって一緒に居られる時間はできるだけ削りたくない。


 その日は必死にノートを写したのでハグはできなかったが、余計なことは考えずに済んだ。

 まあ、あれだ。毎日、双葉を過剰摂取するとなんかの血管とか切れて死ぬ。

 死因:可愛い過剰摂取による急性心不全、とかそういう診断になるだろう。

 だからハグウィーク2日目の今日は息継ぎ日だな。

 そして、今夜はしっかり寝るために、今日も走って帰った。

 明日からは、またアクセルベタ踏みで頑張るぞ!



◆◆◆



 ハグウィーク3日目。

 今日の体調は万全だ。

 いつも通りの水曜日を終えて、今日も2人で離れへ帰る。


「あの・・・彼方?」


「なんだー?」


「えと、いいんだよ? いいんだけどさ。その・・・今日もこの態勢で読むの?」


「うん。双葉にページめくってもらう楽さに気付いた」


「ボクはページめくりマシンかよー。いーけどさー」


「ほれ、次のページ」


「もー」


 口では文句言ってるけど、双葉の表情は笑ってる。

 今日もソファで後ろからハグして漫画を読む態勢だ。

 目の前に可愛い顔はあるし、あったかいし、柔らかいし、いい匂いだし、マジで最高だなー。

 持って帰りたいなー。


「体調はもういいの?」


「おう。全然平気だぞ」


「ならいいけど。無理しちゃ駄目だよ? しんどかったら・・・看病するし」


「それも悪くないけど、俺も看病してみたいな。双葉もその時は遠慮するなよ?」


「えへ。その時は甘えるね?」


「いやって言うくらい甘えさせてやる」


 双葉の肩に顎を乗せ、お腹の辺りで組んでる両手に少し力を入れて体を密着させる。

 よし。くすぐったそうにしてるけど、嫌がられてはいないな?

 少しはお互いにハグにも慣れてきたかな?

 もう少し続けて、離れではこの距離感が当たり前になるまで継続あるのみ。


「ふふ、病気になるの、楽しみになっちゃうかも」


「俺もだ。双葉のおかげだな」


「彼方のおかげだよ」


 こういう雰囲気で、くっついて過ごすのって、幸せだなー。

 ケダモノさんはちょっと静かにしてようね。


 その日も、俺は走って帰った。

 ハグウィークのおかげで俺は健康になりそうだ。


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