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幼馴染との距離の詰め方  作者: 広晴
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第3話 俺たちの初デート。


 金曜日の帰りに伝えておいた通り、午前中、時間通りに春日家へ双葉を迎えに行った。

 コーディネートは姉と母任せ。黒の綿パン、白Tシャツの上に父のシックなグレーのパーカー。背伸びし過ぎない感じだそうだ。分からん。

 父の整髪料で髪も整えたが、ちょっとクリームみたいなのを塗ってさっと撫でただけな感じ。

 今日は絶対に髪に触るなと言われた。分からん。


 双葉は寝坊してまだ準備中とのことだったので、おばあちゃんに本宅のリビングへ案内され、待つ間、お茶をご馳走になる。

 久しぶりにおばあちゃんと2人で話す。

 おばあちゃんは時々笑顔のまま圧が出ておっかないけど、普段は優しくて、話しやすくて、温かいおばあちゃんだ。


「今日は特にかっこいいわねえ、彼方君」


「ありがとうございます。双葉に恥をかかせたくなくて、家族に相談しました」


「あらまあ。それでデートコースは決まってるの?」


「大まかですが。選択肢を出して、双葉と話して決めようと思ってます」


「うふふ、初デート、頑張ってね。遅くなってもいいわよ」


「は、はい。いえ、遅くとも夕食までには帰ってきます」


「彼方!待たせてごめん!」


 リビングへ駆け込んできた双葉は、深い緑の長袖トップス、白黒ストライプの膝下スカートで、手には小さな白いバッグを持っていた。可愛い。

 髪は片側だけ編みこまれていて、赤い細いリボンが絡まっている。可愛い。


「ごめんなさいね彼方君。昨日すごく遅くまで離れの明かりが点いてたのよ。双葉ったら遅くまで何をしてたのかしらねえ」


「お、おばあちゃん! しー!」


遅くまで準備してくれてたのか・・・それにしても双葉かわいいな・・・。


「双葉。服、すごく似合ってる。可愛い。髪型もすごく可愛い。控えめに言って天使」


「てんしっ?! か、彼方も! その、髪も服も、似合ってる。・・・かっこぃぃ・・・」


 だんだん小声になって真っ赤になって俯くの可愛い。

 コーディネートも好感触! 母よ、姉よ、ついでに父よ、ありがとう!


「ふふふ、お似合いのカップルよ。気を付けて行ってらっしゃい」


 おばあちゃんに見送られて、俺たちは外へ出て丘を下り、駅へ向かって歩く。

 お似合いのカップル!

 お世辞でもうれしいなあ!


「ゲーセンデートのつもりだったけど、どっか行きたいとこある?」


「か、彼方にまかせるっ」


「おっけー。んじゃまずゲーセンね。離れんなよー」


 双葉の手を引いて歩く。

 平気そうなふりをしているが、俺も双葉も顔が真っ赤だ。


 電車に乗って繁華街へ移動。休日のこの時間らしく、席は埋まってるが、混んでるという程でもない。

 2人で開かない方の乗り口近くに陣取って、壁とポールに寄り掛かる。

 立ったままだったが、2駅だからすぐに着く。

 移動中、周囲の目線がたまにこちらへ向けられてる気がする。

 どうだ可愛いだろう、俺の彼女(予定)は!


 目的地の駅前ゲーセンはそこそこ賑わっていた。

 手前はクレーンゲーム類とプリントシール機がずらり、奥からはリズムゲーの音が聞こえてくる。

 俺は時々いつもの五人組で来たことがあったが、双葉はどうだろう。

 音がうるさいので双葉の耳元に口を近づけて話す。


「双葉はゲーセンは来たことある?」


「ふへぇっ!?」


 耳に少し息がかかったようで、双葉の背筋がピンと伸びる。


「あ、悪い。音がでかくてこうしないと聞こえづらいから、勘弁な」


 聞こえづらいから仕方がないよね!(心のゲス顔)


「あ、う、うん。そうだよね。うるさいもんね。えと、な、無いよ。女子はこういうとこあんまり来ないし、それ以外はいつも彼方と一緒だし」


「おう、そっか。じゃあ、クレーンゲームでも眺めてみようぜ。気になる景品があったらやってみよう」


「う、うん」


 いちいち顔を近づけて話すのに慣れない双葉だったが、すぐに色とりどりの様々な景品に目を奪われる。


「うわー!いろいろあるねえ!あ!ヨ〇シーのぬいぐるみ!かわいー!」


「ホントだ。狙ってみるか?(お前の方が可愛いよ!)」


「やるやる!えーとこのボタンでこうか!ふむふむ!」


 操作説明を一生懸命読む双葉。

 500円を入れて6回プレイするも、なかなか取れない。


「もー!力弱すぎるよ!なんでー?!」


「簡単に取られたらゲーセンも儲からないしなあ。どれ交代だ双葉」


「むー。」


 とはいえ、俺も上手いわけじゃない。

 新たに500円を投入して聞きかじったコツを頼りにクレーンで押すようにして少し動かすことができたが、トカゲめは2本のバーに挟まって動かなくなってしまった。


「これじゃ取れないよー?!」


「そうだなここは裏技だ。店員さーん!」


 近くで掃除していた女性の店員さんにお願いして、ハマったぬいぐるみを動かしてもらう。

 取りやすい位置に動かしてもらったおかげで、さらに追加500円で緑のトカゲをお迎えできた。


「やったー!彼方ありがと!」


「取れて良かったわー。他も見てみようぜ!」


「うん!」


 その後、たこやきタイプで豪運を発揮した双葉が、500円で黄色い電気ネズミも追加でゲットし、ほくほく顔だ。ぬいぐるみを抱きしめて喜んでる双葉マジ天使。

 さらに奥の方へも回って、リズムゲームやガンシューティングゲームなど、双葉が興味を持ったゲームは大体やった。


「えい! えいえい! わ! ちょ! はやい! 無理! あー!」


「うわうわうわ! ゾンビきしょい! 寄るな! オラオラ!・・・しゃあらー!」


 双葉はおおはしゃぎのニッコニコだ。

 連れてきて良かった。


「楽しー! ・・・あ、ボクばっかりやりたいの言っちゃってごめんね。彼方は欲しいのとかやりたいのとかない?」


「んーそうだな・・・。あ、あれ、今日の記念にどうだ?」


 俺はプリントシール機を指さす。


「あれ写真撮るやつ?彼方は撮ったことあるの?」


「いや、無い。野郎同士で撮るのもアホ臭いからな。今日の双葉と、一緒に撮りたい」


「あ、う、うん。じゃあ、あの、撮ろうか」


 照れてぬいぐるみで顔を隠す可愛い双葉の手を引いて、ビニールの垂れをくぐって中へ入る。

 中は狭いので自然、くっつかざるを得ない。仕方がないのだ。(心のゲス顔その2)


「これ押して、3回撮れるんだな、よし、行くぞ双葉!」


「お、おう!ばっちこい!」


 カシャリ!

 プリントシール機にあるまじき掛け声かも知れないが勢いが大事だ!


「次、2回目だ!もう少し寄れ双葉!」


「お、おう!」


カシャリ!


「3回目!」


「おうよ!」


 グイっと双葉の肩を寄せて、互いの頬をくっつける。

 カシャリ!


「ふひゃわひゃあ!?」


 双葉が騒いでるが、俺は平常心だ。クールだクール。


(ほっぺたやべえすげえ柔らかかった!おもちかな?残念!天使のほっぺでした!つっつきたい!もみたい!)


 頬は残念ながらすぐ離れたが、肩を組んでるし狭いから双葉が暴れてもあまり距離は離れてない。


「ふー。結構、緊張するもんだなあ。あ、なんか書き込みとかできるみたいだけど、どうする双葉?」


「にゃにが?!」


「や、シールへの書き込みどうする?」


「知らないよぅ!好きにしなよ!」


 目がぐるぐるしてる。

 これ撮影結果見れてないな。

 3枚目ひどいけど、記念だしまあ全部印刷でいいか。あとでシール渡すし。


「んーとじゃあ、『初デート記念』っと。『盛る』とか分からんからこのままで。よしOK」


 まだぐるぐるしてる双葉の手を引いて外へ出て、出来上がったシールを半分こにして渡す。

 渡されたシールを見てでっかい目を見開き、ぷるぷる震えだす双葉。


 表情が硬く、2人の距離が遠めな1枚目。

 肩を寄せていい感じの2枚目。

 頬をくっつけて、緊張で顔面がこわばった俺と、驚きで目と口が『O』になってる双葉の、互いに変顔になってる3枚目。


「か、か、か、かーなーたー!!」


「ハハッ!いい出来だなこれ!」


「ぼ、没収だー!」


 俺のシール目掛けてぴょんぴょん飛び跳ねる双葉、シールを持った手を高く掲げてディフェンスする俺。


「絶対にごめんだね! 我が家の家宝にして額に入れて飾るわ!」


「やや、やめ、止めろぅ!」


 ゲーセンの一画でわちゃわちゃする俺たちは、完全にバカップルに見えてたに違いない。

 周りのお客さんにも迷惑だったはずだが、ニヤニヤ生暖かく見守られてた気もする。

 双葉が落ち着いてから、逃げるように2階のコインゲームコーナーへ移動して、壁際のベンチに腰を落ち着ける。


「・・・もうこのゲーセン来れないじゃん・・・」


「いやー。店員さんも笑ってたし大丈夫じゃないか?」


「恥ずかしいんだよ!彼方のせいで!」


「俺は楽しかったぞー。双葉は楽しくなかったか?」


「・・・楽しかったけど・・・」


「そか、良かった。じゃあどっかで昼飯食って、その後どうしようか?」


「んー・・・」


 言い淀んでちょっとしかめっつら。目をこすってる。

 あ、これ、おねむサインだ。


「・・・ちょっと疲れちゃったから、お家でのんびりしたい。だめ?」


「いいや? またいつでも来れるだろ? 昼もなんか買って帰って離れで食べるか?」


「・・・うん・・・。うん。ごめんね彼方。せっかく誘ってくれたのに」


 俺は笑いながらしょんぼりする双葉の頭をそっと撫でる。


「また来ようぜ」


「・・・うん!」


 うん、そうやって笑ってろ。



 結局その日の昼飯はテイクアウトのハンバーガーで、えらく早く帰ってきた俺たちを、おばあちゃんがちょっと呆れて、でも笑いながら出迎えてくれた。

 それからいつも通りな感じで離れで昼飯を食べ、ソファに2人並んで漫画を読んでるうちに双葉は船を漕いで寝てしまった。

 昨日遅かったって言ってたし、ゲーセンであんだけはしゃいだしなあ。


 俺は眠る双葉を抱えて部屋の隅のベッドへ移してやる。

 ぐっすり眠り続ける双葉にけしからんことをしたい欲求がむくむくともたげてくるが、必死でそれを我慢する。

 でもちょっとスカート捲ってパンツ見るくらいはセーフでは?

 んなわけあるか。ていうかパンツ見たら絶対そこで止まれんわ。

 静まれー、俺の悪魔、静まれー。


 眠る双葉は無防備で、無邪気で、すごく可愛い。

 ベッドの脇に腰を下ろし、端にもたれて、肘をついて可愛い寝顔を見つめる。

 寝顔を見るなって言って後から怒られるかもしれんが、けしからんところを触るのも見るのも、必死で我慢したんだ。これくらいはご褒美をくれ。


「好きだよ。双葉」


 ぽろりと言葉がこぼれる。

 今日一日の双葉を思い出す。

 可愛かった。世界で一番可愛い。好きだ。愛してる。

 好きって気持ちが溢れて溺れそうだ。

 絶対、俺以上に双葉を好きな奴はいない。


「誰よりも好きだ。愛してる」


 瞼が重くなってきた。

 実は俺も昨日の夜は楽しみ過ぎて寝付けなかった。

 ゆっくり意識が落ちていく。

 心地いい睡魔が俺を包む。

 ・・・ちょっと俺も寝るわ。

 おやすみ双葉。


 ・・・。


「彼方? もう寝た?」


 ・・・。


 もそもそ。ファサッ。


「ボクも大好きだよ。彼方。世界で一番、愛してる」


 チュッ。


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