9話ー戦争と魔法界の降伏。
世栄玲奈はいつも通りに店を開けて、お客を待った。
一般界側が魔法界に向けて、プロパガンダ放送として魔法暗号放送を始めてから一ヶ月が経とうとしていた。
魔法界が一般界に対して先制攻撃をくわえたのだ。
一般界側はこれに応戦、大規模な戦争へと発展した。
軍籍のある斗南華は魔法界に軍事攻撃をする部隊の指揮を執ることになった。
斗南華や世栄玲奈は魔法の攻撃を無効化する対魔法兵器の開発に成功していた。
円柱型のルビー魔法石を使うタイプの兵器だった。
そのおかげで、魔法界は苦戦に苦戦を重ねていく。
その中、斗南華に思わぬ連絡が入った。
魔法界の政府関係者が一人。
捕らえられたと言うのだ。
魔法界では高級装備であったタイプライターを持っていて、文章の署名などから政府関係者である事は明白であった。
斗南華は処刑の前に文章を読ませて欲しいと懇願した。
しかし、無情にも処刑は既にされていた。
手元にあるのは魔法界の言葉で書かれた、早期講和の為の文章であった。
斗南華は「花立ミカの名誉を回復するように」と自分の娘である大統領、菅原涼華へ文章を宛てた。
斗南華は後悔する。
私がもっと早くこの情報を仕入れていれば、早期講和が出来たかもしれないと…。
一般界は魔法界側の役人は全員強硬派で穏健派、現実派は居ないと思い込んでいたのだった。
しかし、魔法界と一般界では文字の違いが激しすぎて、魔法界の文章だと一般界の人は読めない。
しばらくして魔法界は強硬派がさらに台頭し無謀な突撃を繰り返し、どんどんと兵士を損耗していった。
魔法界、斗南清二は王宮陥落直前に講和を結ぶと決断した。
斗南清二は白旗を王宮に掲げるように指示。
それにより、斗南華が率いる小隊が銃を構えたまま、王宮へと入った。
斗南清二は王宮の中心部にいた。
華が入ってくるのを見るなりこう言った。「久しぶりだな…。華…」
斗南華は「今はそんなことどうでも良いわ。本当に降伏するの?しないのなら、私がここであなたを撃ち殺すわ」
斗南清二は「あぁ、もう戦争はごめんだ…私の大事な配下が大勢死んだ…」
斗南華は「それがあなたの総意ね…。分かったわ、これ以上、王宮を攻撃しないように砲兵部隊に伝えるわ」
斗南華は「大統領である私の娘が、こっちに来て講和のための文章にサインするわ」と斗南清二に伝えた。
世栄玲奈はラジオの修理工房で忙しくラジオや対魔法用魔法無効化兵器を直していた。
すると、電話が掛かってきた。
世栄玲奈は「はい、ラジオ修理工房、世栄です」と出た。
電話の相手は一般界の大統領で斗南華の娘、菅原涼華だった。
「世栄さん、今暇ですか?私は大統領の菅原涼華と言いますが、私の護衛を頼みたいのですが…」
世栄玲奈は言う。「それなら涼華さん、あなたの母親に頼んだ方が良いかと、僕は軍籍は無いですし、訓練も受けていません」
菅原涼華は「私の母、斗南華は今、魔法界の王宮で斗南清二と会談をしているので、頼めるのは玲奈さん。あなたしかいないんですよ…」と言う。
世栄玲奈は「分かりました。僕で良ければあなたの護衛を致しましょう…」
世栄玲奈はハンダごての先端をハンダでコーティングして酸化しないようにして、ラジオ修理工房を一旦閉めて、待ち合わせ場所へと向った。
何人もの護衛係がいる大広場。
菅原涼華はこっちに歩いてきた。
菅原涼華は言う。「世栄さん、お久しぶりです」
世栄玲奈は言う。「こちらこそ、ごぶさたしております」
菅原涼華は言う。「私は一般界で育ちました。なので降伏文章を魔法界の言葉に翻訳して貰えませんか?」
世栄玲奈は「ちょっと工房に戻っていい?魔法界文用のタイプライターが工房にあれば出来ると思うわ」
世栄玲奈は慌てて工房に戻った。
そして、魔法界から持ち込んだ魔法界文用のタイプライターを大広場へと持ってきた。
世栄玲奈は「移動中に文章は読みます。なので先を急ぎましょう」と言って、軍用トラックに乗り込んだ。
菅原涼華もそれに続く。
世栄玲奈は菅原涼華に渡された、一般界文の降伏文章を魔法界文へと魔法界文用のタイプライターを使い魔法界文へと書き換えていった。
そして、斗南華が待つ王宮へと向かった。
魔法界の王宮に着いて、翻訳した文章を斗南華へと渡して最終チェックをしてもらった。
一般界から魔法界への要求は主に5つであった。
1.斗南清二の公職追放。
2.魔法界役人の公職追放。
3.新しい農地及び、領土の割譲。
4.魔法教会の解体。
5.民主化
それらの要点をまとめ文章を斗南清二へと渡した。
斗南清二は「私は戦争犯罪者として、処刑される覚悟は出来て居る…」と小さく呟いた。
斗南華は「お父様にはまだ、生きて償ってもらわないといけないことが、沢山ありますので…」と言った。
最終的な戦争終結のための魔法界側の降伏文章の調印は一般界の戦艦、解放1号で調印が行われた。
魔法界側にとっては屈辱であった。
斗南清二は自分の娘に降伏文章の調印をさせられたのだから、しかもその国の指導者は自分の孫であるのだから…。
斗南華は今回の戦争での功績を称えられて大将になった。
世栄玲奈のお店は戦争の特需が終わって閑散としていた。
斗南華は世栄玲奈の工房へと足を運んだ。
斗南華は言う。「玲奈いるー?」
世栄玲奈は「居るけど何?」と答えた。
斗南華は「何やら疲れた顔をしているけど、どうした?」
世栄玲奈は「戦争が終わって、軍隊で酷使された魔法ラジオの修理が来なくなったり、キャンセルされて…。返送作業などで、今、超絶忙しいのにお金にはならないから、げっそりしていた所…」と言った。
斗南華は「今日はラジオの修理を頼もうかなって思ってね…」と言った。
斗南華はこの前、世栄玲奈が直したRD-1280CFを出した。
世栄玲奈は「あれ?この前、直したやつじゃん。もう壊れたの?」
斗南華は「この前まで、戦場での情報収集に使っていたから、通常より魔法石の魔力の消耗が激しいのかも…」と言った。
世栄玲奈は「RD-1280CFはダイヤ型のルビー魔法石で規格品より少し小さいから…ここに在庫が無いと、たぶんまた特注になるから、料金が掛かってきちゃうけどいいかな?」と言った。
斗南華は「問題無いわ。じゃあ頼んだから」と言って、お店を後にした。
世栄玲奈は小さめのダイヤ型ルビー魔法石の在庫を探してきた。
幸い一個はあったが次も頼まれる可能性を考慮して、いつも人工ルビーを円柱型に切り出してくれる会社に5つ注文した。
届くのは流石に三日後らしい。
世栄玲奈は預かったRD-1280CFの魔法石を見ていた。
魔力は既に枯れていた。
なので古い魔法石をリサイクル用のゴミ箱に落として、在庫の最後の一個を填めて魔法を込めた。
そして、受信が出来るかを確認した。
無事、受信が出来たので斗南華へと電話を掛けた。
斗南華は「いくら掛かる?」と聞いていた。
世栄玲奈は「魔法石が枯れていただけなので2万リベルですね」と答えた。
斗南華は「じゃあ、今日の夜取りに行くわ」と言って電話を切った。
なにやら忙しそうだった。
夜になった。
閉店時間のギリギリで斗南華は走ってきた。
世栄玲奈は言う。「お待ちしておりましたよ」
斗南華は財布から2万リベルを取りだした。
「これでちょうど。だよね?」と言った。
世栄玲奈は「はい。ちょうどいただきます」と言ってレジスターにしまって、斗南華から預かったRD-1280CFを紙袋に入れて渡した。
斗南華は「良かった…直って…」と言って、お店を後にした。
世栄玲奈は「またのお越しをお待ちしております」と言ってお店のドアを閉めて、シャッターも閉めた。
次の日、世栄玲奈は体調不良からお店を開けること無く家で休養をしていた。
世栄玲奈の携帯に電話が掛かってきた。
在川さんからの電話だった。
世栄玲奈は鼻声で「世栄です、どうしましたか?」と言って咳き込んだ。
在川浩二は言う。「大丈夫?風邪気味ですか?玲奈さん」
世栄玲奈は「えぇ、風邪を引いてしまって…。明日には治してお店を開けますから…」と言った。
在川浩二は「無理だけはしないで下さいね…」と言った。
次の日、世栄玲奈は風邪薬を飲んでお店を開けた。
お店に小さめのダイヤ型のルビー魔法石が配達されるからだ。
配達の業者が来た。
世栄玲奈は「いつもありがとうございます」と言い段ボールを受け取った。
そして、リサイクル用のゴミ箱からルビー魔法石だったものを段ボールに入れて梱包して、宅配業者に渡した。
宛先は人工ルビーを作る会社だ。
世栄玲奈は宛先をボールペンで書いた。
「ありがとうございます。頼んだよ」と配達のお兄さんに世栄玲奈は一礼をした。
次の日、世栄玲奈はお店をいつも通りに開けたが、お客の来る気配は無かった。
世栄玲奈は溜め息を吐く。
世栄玲奈は「戦争特需なんて、本当に一過性ね…」と言った。