20話ーアラベル・クエン最後の悪あがき。
世栄玲奈が工房でお客を待っていると電話が鳴った。
「はい、世栄です」
電話の相手は在川花海だった。
「なんか、栄生真澄を名乗る男が謝ってきたのだけど…。玲奈さん事情を知らない?」
世栄玲奈は答える「たぶん、魔法界での文字改革を扇動した学生の一人だったらしいよ?栄生真澄こと世栄真澄」
在川花海は驚いた様子で「あの人、玲奈の親戚だったの!?」
世栄玲奈は「あぁ、遠縁ではあるがね」
在川花海は「弾んだ声で、そういえば主人の任期が終わって一般界に帰るけど、なんかお土産とか欲しい?」と言う。
世栄玲奈は「コーヒーがあれば、一般界でも買えるけど、魔法界の方が安いしお金は払うからさ。買ってきてもらえない?」と言う。
在川花海は「わかった。買って帰ってくるね」
世栄玲奈は「ありがと、じゃあまた」と言って、電話を切った。
一般界の軍出張所は大幅縮小になること、それに伴って多くが年金暮らしに入ること。
そして、出張所の新しい司令官は秀島透大将であること。
世栄玲奈は知っていた。
世栄玲奈は秀島透が少将から大将になったこと。
在川浩二が最終階級大将でそのまま退役すること。
元帥や国防相になる道を選ばなかったこと。
後は家族みんな一般界で楽しく暮らすことだろう。
娘と息子が一人居るので家族四人で一般界に移住するだろう。
娘、在川望は成人し、息子、在川孝介は既に魔法界で一般人向けの教育を受けているので、転校や転職することになるだろう。
いつものように世栄玲奈はお店でお客を待っていた。
すると、ドアが唐突に開いた。
世栄玲奈はいつものように「いらっしゃい」と言う。
相手は在川浩二と在川花海だった。
世栄玲奈は「あぁ、在川さんね」と言って、冷やしておいていた紅茶を出した。
在川花海は「これが頼まれていたコーヒー」と言って世栄玲奈に渡す。
世栄玲奈は約束通りにお金を払おうとする。
在川花海はその動きを止めて言う。「玲奈さんには、感謝しているの。だから、お礼が出来たらと思うの。だから、ささやかだけど受け取って…」
世栄玲奈は「僕、そんなお礼をされるような事をしました?」と言う。
在川花海は「こうやって、浩二さんとの仲を取り持ってくれたのも玲奈さんだし…」と言い。
世栄玲奈は「でも、この等級の珈琲をこの量…。流石に3万リベルは払うよ」と言う。
在川花海は「いいの。私は玲奈さんに幸せな生活を見つけてもらったようなモノだから…」と言った。
世栄玲奈は「でも、在川浩二さんの赴任先が魔法界になったとき。僕、ぞっとしたよ…。花海さんが魔法界に良い印象を持っていないのを知っていたから…。早く帰りたいのも知っていたし…。だから、僕がお礼をされる筋合いはないと思うんだ…」と言う。
それでも在川花海は「良いから、お礼させて。魔法界に行く事が決まったタイミングで、夫の姓に変えた方が良いって助言をくれたのも玲奈さんだし」と言う。
世栄玲奈は「僕、そんなこと言いました?」と言う。
在川花海は「東姓のだと、素性がバレるので在川にかえた方が良いって…」と言う。
世栄玲奈は「なんか、言ったような…。言ってないような…」と言った。
在川花海は「主人である、浩二さんの計らいや他の軍人の方の計らい。さらに苗字を在川にかえたおかげで、ほぼバレなかったし、だから、ほんのささやかだけどお礼がしたくて…」と言う。
世栄玲奈は「でも、流石にこんなに貰ってしまうのは不釣り合いな気がするけど…」と言う。
在川花海は「私の気が済まないから…。いいから、受け取って」と言った。
世栄玲奈は「本当にいいのかい?僕がこんなに受け取ってしまって…」と言う。
在川花海は「いいわ。感謝しているし」と答えた。
その頃、魔法界の奥地の城で幽閉生活を強いられていたアラベル・クエンは一部の信頼できる配下と一緒に、魔法界と一般界。
その両方に仕返しをするべく、行動をしていた。
その中には、本来はアラベル・クエンを監視する役目の魔法が使える女性の役人も含まれていた。
城の責任者は知っていたので、その役人に警告をした。「あまり、アラベル・クエンに肩入れをしない方が良い。いずれ痛い目を見るのは君だよ」と、しかしその忠告は聞こえていないようだった。
好んで僻地に来たがる人は居ない。
その所為でいつも人手不足で、解雇すれば運営が回らなくなる。
城の責任者は悩んでいた。
魔法界の旧都にある、一般界陸軍の魔法界出張所に緊急の回線から電話が入った。
それは僻地にある城からだった。
秀島透は受話器を取り「もしかして…」と言う。
城の責任者、柴原圭治は「大変申し訳ございません、そのもしかです…。アラベル・クエンが城から抜け出しました。城にあった非常時用の魔法ラジオを持ち出して脱走をしました」と言う。
秀島透は「それでアラベル・クエンの現在地は」と言う。
柴原圭治は「城の周りは森が深く、捜索が困難です。なので町へと出た頃を見計らって、捕まえた方が人的資源を有効活用出来ると思います」と言う。
秀島透は「それでもし、住民に被害が出たらどうするつもりだ」と平静を装いながら言う。
柴原圭治は「宛てはあるので問題はありません」と言い電話を切った。
秀島透はかつて部下から聞いた。
アラベル・クエンは一般界で一度大暴れをするも、謎の女性が魔物を討ち取り、それ以降は一般界に唯一ある魔法ラジオの修理工房を出禁になって、その工房は今でもアラベル・クエンの関与が疑われるラジオを直さないらしい。という話だった。
秀島透はそのラジオ工房に心当たりがあった。
在川浩二から引き継いだ執務室で電話の登録ボタンを見る。
一般界ラジオ修理工房、世栄玲奈。
そう書かれた、登録ボタンを見た。
秀島透は迷わずにそのボタンを押して、世栄玲奈に電話を掛けた。
その頃、世栄玲奈の工房では暇に暇を持て余し、世栄玲奈はコーヒータイムを楽しんでいた。
コーヒー飲み終えて、次は紅茶を淹れようとコンロに火を付けようとしたときだった。
電話が鳴った。
コンロのレバーを火が付く前に消火位置にして、電話に向かう。
世栄玲奈は「電子機器などを修理している世栄です」と電話に出た。
「一般界軍人の秀島です。少し伺いたいことがございます、お時間大丈夫ですか?」と秀島透は言った。
世栄玲奈は「時間なら問題ありません。しかし、わざわざここに電話を掛けるって事はよほど深刻な問題が起きたようですね」と言った。
秀島透は「単刀直入に伺います、アラベル・クエンの倒し方を知っていますか?」と言った。
世栄玲奈は少し考えてから「放たれる魔法は通常の魔法を無効化する装置で何とかなります、しかし、あの怪物の物理攻撃はそれで防げません。今日中に秘密兵器を開発するので、夕方に使者を向かわしてもらえませんか?」と言う。
秀島透は「使者を向かわせるのは良いけどさ…。あと話は変わるけどアラベル・クエンの怪物を倒した謎の女性を知らない?」
世栄玲奈は「知っていますよ。倒すところをほぼ目の前で見ましたし、もしかしたらあなたもよく知っている人ですよ」と言い笑う。
答えを急かすように秀島透は言う。「それは一体誰なんですか?」
世栄玲奈は答える。「それは、旧姓、東。今は結婚して在川花海になった在川浩二の奥様ですよ」
秀島透は驚いた。
そんな話、本人からもその夫である在川浩二からも語られたことが一切無かったからだ。
世栄玲奈は魔法を全く込めていない魔法石。
すなわちただの円筒型のルビーを魔法無力化装置に組み込んで回路を工夫した。
その上でそれを10個作った。
空の魔法石は簡単に交換出来るカートリッジ式にして、空の魔法石の予備を30個用意した。
夕方には慌ただしい様子で、使者が来た。
世栄玲奈は使い方と原理を説明した。
今までの魔法を無効化する装置は、魔法を無効化する魔法を魔法石から出すタイプの装置だったのに対して、今回のは近くにある魔法全てを吸い取る有限のブラックボールみたいなモノだった。
使者の人はそれをそのままメモして、再び魔法界へと出発した。
世栄玲奈は一段落してから、在川花海に電話を掛けた。
「もしもし、玲奈さん?玲奈さんが私に電話を掛けてくるの珍しいわね?」と在川花海は言う。
世栄玲奈は「アラベル・クエンが城を脱走した、もしかしたら魔法石から出た魔物の退治を頼むかもしれないけど…いい?」
在川花海は聞く。「どうして私なの?」
世栄玲奈は「僕は魔法は使えるが、物理攻撃は苦手なので…。魔法が使えて、その上で物理攻撃。もとい剣術の出来る花海さんに頼りたくてね…」と正直に答えた。
在川花海は「わかった。考えておくわ」と言い電話を切った。
その頃、魔法界ではアラベル・クエンが1つめの魔法ラジオに入った魔法石から、怪物を生成し暴れ回っていた。
城の管理者の当ては外れたのだった。
その所為で村が一つ全滅してしまった。
アラベル・クエンはスーツケースに隠れて、旧都ペラスデールに向かっていた。
今は司令官が交代した上、多くの軍人が平和になったこともあり一般界に帰っていた。
なので、狙うなら絶好のタイミングだったのだ。
アラベル・クエンを隠したスーツケースをガラガラと牽いて行くのは、一応まだアラベル・クエン幽閉城官吏として籍があるけど、戻ったらアラベル・クエン脱走に協力したということで、クビになることが確定している島原唯花という官吏だった。
一方その頃、在川花海は在川浩二とレストランでディナーを楽しんでいた。
在川浩二は言う。「なんか悩んで居るみたいだけど、どうした?」
在川花海は答えた。「やっぱり、そう見える…」
在川浩二は言う。「それで悩みって言うのはなんだ。教えて欲しい。力になれることなら、いくらだって力になる」
在川花海は重々しく口を開き「魔法界でアラベル・クエンが幽閉城から脱走したらしい…。それで玲奈が“アラベル・クエンが魔法石から出した魔物を退治するために協力をして欲しい”って言っててね…。私、協力するべきかな…。迷っているの」と言った。
在川浩二は一般界陸軍の魔法界出張所で働いているときに噂話や多くの証言などから、アラベル・クエンがどれだけ危険な人物かを知っていた。
異端で禁忌の魔法を使える上に、禁忌の魔法を使うことに一切ためらいも躊躇もない。
そんな人物との戦いを手伝って欲しい。
在川浩二はそんなことを言った世栄玲奈に腹を立てた。
在川浩二は言う。「世栄玲奈もわがままになったもんだな…」
在川花海は「それは違うと思うわ…。玲奈は魔法は使えるけど、剣術は苦手だと言っていたわ。だから、かつてアラベル・クエンの生み出した魔物を退治したことある私に藁にもすがる思いで、協力を頼んだのだと思うわ…」と言った。
その頃、世栄玲奈は男性の教育を受けさせられた過去のことを思い出していた。
剣術を教えられたのだったが、体が小さく、力も無かった世栄玲奈は男子の生徒にボロボロにされるわ、先生には怒られるわで散々な記憶が蘇ってきた。
世栄玲奈は「はぁ…」と溜め息を吐いて、「明日、在川浩二さんに謝罪の電話を入れるか…」と言った。
次の日。
世栄玲奈は在川浩二の携帯電話の番号に電話を掛けた。
在川浩二は明らかに不機嫌に「はい、在川ですが…」と言う。
世栄玲奈は「大変申し訳ございませんでした。奥様から聞いているとは思いますが、奥様に話したあの話はなかったことにして下さい。僕一人で何とかするので…。あとこの事は奥様、花海様には伝えないで下さい。ただ、“協力はしなくて良くなった、他の人を見つけたので。”とだけお伝えください」と言って電話を切った。
その後、ひっきりなしに在川浩二から電話が掛かってきたが、無視をして。
そのまま魔法界へ行く為に荷物をまとめて、工房を出発した。
工房では、まだ固定電話が鳴り続けていた。
携帯電話も鳴っていたので、それも置いて別の携帯電話を持って、魔法界へと向かう。
高速列車に乗って、魔法界の国境へと来た。
アラベル・クエン騒動で一般界では入国審査が魔法界では出国審査が厳しくなっていた。
世栄玲奈は一般界の出国審査所に入る。
白髪の審査官は言う。「なぜ、この時期に魔法界へ?今、魔法界は色々とあって混乱している。本当に観光目的ですか。あなた。」
世栄玲奈は「えぇ、観光目的ですよ。時間が無いので早く終わらせてくれるかな?」と言い審査官を急かした。
審査官は「この前も観光目的だった、今回は何か別の目的があるだろ。素直に答えるまで通せないんだ…」と言う。
世栄玲奈は言う。「母の慰霊碑が魔法界にあるんだ。だから、そこへと行き花を手向けたいんだ。通してくれないか?」
審査官は言う。「慰霊碑の場所は?」
世栄玲奈は「シテイムの郊外にある。花は魔法界で買う予定だ。いい加減、目的もちゃんと言ったはずだ。通してもらいたい」と言う。
審査官は渋々といった様子でゲートを開いた。
審査官は静かに落ち着いた口調で「あなたの真の出国理由を私は知っています。アラベル・クエンとその魔物を倒すために魔法界へと行くのでしょう」そう言う。
世栄玲奈は「その話、誰から聞いたんだ!!!!!」と審査官のネクタイを掴み掛かり言う。
世栄玲奈は「言わなきゃ、ここで魔法をぶっ放すぞ」と脅す。
審査官は「言いますから、落ち着いて下さい…」と至って冷静だ。
世栄玲奈はネクタイから手を離した。
審査官は乱れた服やネクタイを整えつつ言った。
「在川浩二、元大将からお聞きしました。在川浩二様は世栄様の事をひどく心配しておられました。だから、在川様の奥様の準備ができるまで、足止めして欲しいと…」
世栄玲奈は言う。「申し訳ないが、今さら言われても事態はもう既に動き始めているんだ。だから、在川浩二にただ一つだけお伝え下さい。“もう、遅い手遅れだ”と」
一般界の出国審査所を出た後、魔法界の入国審査所へと来た。
魔法界では特に止められることもなく、そのまま通過して駅まで来た。
世栄玲奈は魔法を節約したかったので、列車を使うことにした。
一般界の出国審査で予想外の足止めを食らったので、列車の時間はギリギリ。
既に発車前の銅鑼が鳴らされていた。
世栄玲奈は列車に飛び乗り。
座席に座った。
そして、秀島透に「今から、向かいます。在川浩二の協力は得られませんでした」そうメールを送った。
世栄玲奈はペラスデールに着いた。
まずは一般界陸軍の出張所に行き、執務室で秀島透に挨拶をする。
世栄玲奈は「遅くなり、大変申し訳ございませんでした。」と言った。
秀島透は言う。「色々な情報の解析などから、アラベル・クエンはもうペラスデールの何処かに居ることは分かっているが、住民の混乱を避けるために敢えて公表はしてない」
世栄玲奈は「明日は新月です。明日の深夜、ここにアラベル・クエンは来るでしょう。アラベル・クエンは新月の日に一番強い力を出せるようになるので」
秀島透は「分かった、できる限りの用意をする。協力して欲しいことがあった言って欲しい」と言った。
世栄玲奈はいくつか作戦を秀島透に伝え、明日に備え執務室近くの仮眠所で眠ることにした。
その頃、在川花海は一人で高速列車に乗って魔法界への国境付近へと向かっていた。
アラベル・クエンは明日の夜を待っていた。
明日は自分の能力が最大化する、新月の夜だからだ。
魔法ラジオのストックは10個もあった。
アラベル・クエンは不気味な笑みを浮かべて言う。「魔法界と魔法界に出張している一般界の陸軍をめちゃくちゃにして全てを終わらせるのじゃよ。はははは。はははははははは」
その頃、在川花海は一般界の出国審査所へ。
50代前半くらいの白髪の審査官は「在川花海様、お急ぎ下さい。ペラスデール方面への終列車の時間が迫っております」そう言って手荷物の検査すらせずに、出国のゲートを開けた。
魔法界側にもほぼ何も言われず、そのまま通過する事が出来た。
在川花海はペラスデール行きの終列車に間に合った。
在川花海は列車の中で眠ることにした。
夜行列車になるので朝にはペラスデールへと到着しているだろう。
朝になった。
列車はペラスデール少し手前のシグメムの駅で止まっていた。
先を走る貨物列車が脱線をした影響で、線路が片方しか使えなくなっていたのだ。
一般界との国境付近へ向かう列車が一本シグメムの駅を通過していった。
その後、分岐器が切り替わり上り夜行列車は下り線を逆走しながらペラスデールへと向かった。
そういうトラブルもあり、在川花海のペラスデール入りは夕方になった。
世栄玲奈は出張所の門の上で、戦闘態勢を整えと新しい魔法無力化装置をいつでも、使えるようにしていた。
深夜零時になった。
スーツケースを牽いた女性が一般界陸軍の魔法界出張所の門の前へと来た。
世栄玲奈は魔法を無力化する装置のスイッチを入れた。
スーツケースを牽いた女性は入り口の警備をしている警備員を一瞬で魔法を使い眠らせようとする。
しかし、魔法がいつまで経っても効かないし、魔法を放っても明後日の方へと飛んでいくのだ。
世栄玲奈は門の2階から降りてきた。
腰には日本刀を帯刀し、手には拳銃を持っていた。
世栄玲奈はスーツケースを牽いた女性に対して、「スーツケースの中身を見せな」と言う。
すると、スーツケースのファスナーがひとりでに開いた。
「我に用か」と言い、スーツケースから出てきたのはアラベル・クエンだった。
スーツケースを牽いていた女性は「クエン様、出てこなくても」と言う。
アラベル・クエンは「唯花、いいのじゃよ。こういう姑息な手を使う奴には我にも考えがある」と言い魔法ラジオを2個出した。
魔法ラジオの側を突き破り魔物が2体出てきた。
世栄玲奈は日本刀を鞘から抜き、魔物を切り倒そうとする。
しかし、その魔物には傷ひとつ付かなかった。
アラベル・クエンは言う。「この魔物は魔法による攻撃しか、効かないのじゃよ」
アラベル・クエンは「前回の魔法無力化装置は結界型。今回は吸引型か。おぬしもよく考えるな。よく出来てはおるが対象が無差別じゃこうやって自分の首を絞めるのじゃよ」と言い、魔物は世栄玲奈を突き飛ばした。
秀島透は仕方ないので、魔法無力化装置のスイッチを切った。
世栄玲奈にはわずかな動作音が消えたのが分かった。
世栄玲奈はその隙にラジオを突き破って出てきた魔物の一体に心臓めがけて魔力を放った。
魔物は消えた。
しかし、まだ魔物は一体、残っていた。
世栄玲奈は魔法は得意な方だった。
独りの英雄が居ようとも、能力が低くても大勢集まれば倒されるように、世栄玲奈も同じ状況に陥っていた。
しかし、あの魔物は物理攻撃が効かず通常兵器を跳ね返してしまう。
世栄玲奈は鋭利な槍の形をした魔法を魔物の心臓めがけて放ち命中させた。
魔物は消えた。
アラベル・クエンは「お見事じゃ。これはどうじゃ」と言い更に魔物を三体出した。
これも魔法ラジオに使われる、魔法石を核とした魔物だろう。
世栄玲奈は攻撃魔法を放つが、魔物も攻撃魔法を世栄玲奈に向けて放つ。
回避をしなければひとたまりもない。
どうしても、急所から外れて当たってしまう。
しかも、三体も居る。
どう考えてもまずい。
その時だった。
三体の魔物が真ん中から光を放ち上下に割れて消えた。
アラベル・クエンは「この前も、お前に邪魔された。またお前か。おぬしと我の魔法は相性が悪いのじゃ。苦労して具現化した魔物をどうしてくれるのじゃ」
後ろには在川花海がいた。「どうするも何も、あなたの首を討ち取るまでよ」
アラベル・クエンは背中から羽根を出して、空へと飛び上がる。
その羽根はまるで吸血鬼のような羽根だった。
在川花海は「あなた、ここで死ぬつもりだったの?」と世栄玲奈の頬を平手打ちした。
世栄玲奈は「えぇ、僕は奴の危険性を一番よく知っているからね。だから、どうせ援軍が来なくても、世界を守るために精一杯時間稼ぎはさせてもらうつもりだったさ」と言った。
在川花海は「浩二が心配していたよ。玲奈は精一杯、世界の秩序を守ろうとするだろう。だけど秀島透は魔法が使えないし、玲奈とアラベル・クエンの魔法は近い性質を持つから、アラベル・クエンには効きにくい。だから二人とも戦った際に討ち死にしてしまうんでは無いか。ってね」
世栄玲奈は言う。「電話を掛けたとき、在川が明らかに不機嫌だったから僕は一人で戦うって決めたんだ…」
在川花海は「そんなことは良いから、今は目の前の戦いに集中して」言った。
アラベル・クエンは羽根をばたつかせて、悠々と塀を越えようとする。
それに気付いた、秀島透は魔法無力化装置のスイッチを入れて魔法を無効化する。
その所為で、飛べなくなったアラベル・クエンは地面に叩き付けられた。
そのタイミングを見計らって、再び魔法無力化装置のスイッチを切った秀島透。
アラベル・クエンに駆け寄る島原唯花。
「クエン様、大丈夫ですか」と島原唯花は心配そうにアラベル・クエンを見つめる。
アラベル・クエンは「ちょっと落ちただけじゃ、大丈夫じゃよ」と言い立ち上がった。
在川花海はアラベル・クエンを狙って、攻撃魔法を撃つ。
アラベル・クエンは小さくすばしっこかった。
世栄玲奈は島原唯花から魔法ラジオを奪おうと攻撃魔法を何度も放つ。
在川花海がアラベル・クエンに渾身の一撃を加えようと、追尾の強力な攻撃魔法を放った。
アラベル・クエンはニヤリと笑って、島原唯花の後ろに隠れた。
比較的精度に優れた追尾タイプの魔法だが、アラベル・クエンへと直撃する直前に島原唯花が盾にされた所為で、島原唯花へと強力な攻撃魔法が直撃。
アラベル・クエンが島原唯花を押さえたこともあり、島原唯花は攻撃が直撃して、大量の血を吐いた。
島原唯花は何度も血を吐きながら、「クエン様…。私は最後まで生きて残しておく部下で無かったのですか…。私が不注意で轢かれそうになった時。助けて下さった、あの時の言葉は嘘だったのですか」そう言う。
アラベル・クエンは「あれは社交辞令じゃよ。まさか、本気で受け止めるとは思わなかったのじゃよ。あと、あの時と今では状況が違うから。悪く思うんじゃないよ」と言い、押さえていた手を離し島原唯花を地面へと投げた。
島原唯花の表情は絶望色に染まっていた。
在川花海は堪えきれない怒りを感じた。
その直後、十体の魔物が魔法ラジオの受信機を突き破り現れた。
在川花海は魔力を込めた日本刀で具現化直後で横一列に並んでいた魔物を真っ二つにして、その後ろに居たアラベル・クエンも真っ二つにした。
世栄玲奈は叫ぶ。「アラベル・クエンは再生するから、確実に息の根を止めるんだ」
在川花海に迷いは無かった。
アラベル・クエンの上半身は地面に転がっていた。
在川花海は魔力を込めた日本刀でアラベル・クエンの心臓を一突きにする。
アラベル・クエンは「お前を地獄で待つ」と言いそのまま息絶えた。
在川花海は日本刀を鞘にしまうと、そのまま倒れ込んだ。
世栄玲奈は在川花海に駆け寄った。
在川花海は疲れて気絶しているだけだった。
一応、世栄玲奈と秀島透で一般界陸軍の魔法界出張所にある医務室へと運んだ。
在川花海は幸い数時間で意識を取り戻した。
世栄玲奈は安堵した。
死んでいなくて良かったと。




