17話ー不正解と正解
世栄玲奈に取っての普通の日常が戻ってきた。
隣のパン屋だった店は空き店舗のままだ。
夕方くらいに斗南華が世栄玲奈の工房にやってきた。
世栄玲奈は言う。「あぁ、いらっしゃい」
斗南華は珍しく何も言わない。
世栄玲奈は「今日はどっちの修理?」と聞いた。
斗南華は言う。「本当に、このままで良いの?」
世栄玲奈は「姫路怜奈のことかい?」と言った。
斗南華は「そうよ。本当にこのままで良いの?」
世栄玲奈は言う。「あんな別れ方だったから、本人から手紙は貰ってないけど…。秀島さんから聞くには物わかりも良いし、利口で来月から魔法界の一般人学校に通うことが決まっているらしいよ」
斗南華は「謝ったら?姫路怜奈に」と言う。
世栄玲奈は「今さら、謝っても…、こっちに戻られても困るし…」と言う。
斗南華は「まぁ、いいわ。そんな話をしに来たわけでも無いし、これ修理依頼して良い?」と言う。
それは魔法ラジオだった。
世栄玲奈は「華は散々聞かされていると思うけど、一応言うわ。魔法石の故障だと、1万リベル以上は確実に掛かるけどいいかな?」と言い同意を求めた。
斗南華は「そうね。問題無いわ」と言う。
世栄玲奈は「じゃあ、これにサインしてね」と言い、斗南華にサインを求めた。
斗南華はサインをして、それを世栄玲奈に渡す。
世栄玲奈はカーボン紙で転写された控えの方を斗南華に渡した。
世栄玲奈は「じゃあ、直ったらいつもの番号に連絡をすれば良い?」と聞いた。
斗南華は「それで問題無いわ」と答えて工房を後にした。
世栄玲奈は深い溜め息を吐いた。
あの別れ方は良くないと分かっていた。
しかし、あの時はああするしか方法が無かった。
世栄玲奈はラジオの故障の原因を探りながら、姫路怜奈の事が頭の中でぐるぐるしていた。
世栄玲奈は一旦、原因を探るのをやめて。
万年筆とノートを取り出して、日記を付けた。
その後で、ノートPCを開いてゲームをして気分転換をした。
そして、あらためて原因を探った。
同調回路が壊れていたので、半田ごてでハンダを溶かして同調回路を新しいのへと取り替えて、受信が出来るのかを確認した。
無事、受信が出来たので世栄玲奈は電話をしようと受話器を手に取ってから、時計を見た。
もう工房の営業終了時間が迫っていた。
それでも、世栄玲奈は斗南華の電話番号をダイヤルした。
斗南華は「はい」と言って電話に出た。
世栄玲奈は「電子機器などの修理をしている世栄です」と名乗った。
斗南華は「あぁ、玲奈ね。ラジオが直ったの?」と言う。
世栄玲奈は「はい、直りました。同調回路の故障なので3000リベルで大丈夫です」と言う。
斗南華は「ありがとう、明日取りに行くわ。でも、玲奈がぎりぎりの時間に電話を掛けるなんて珍しいじゃない。いつもは次の日にするのにね?」と言った。
世栄玲奈は「早く取りに来たいのかな?と思ったので…。僕なりにこれも気を遣った結果です」と言った。
斗南華は「そうね。ありがとうね。じゃあ明日。3000リベルを用意して行くわ」と言って、電話が切れた。
世栄玲奈はお客の来る気配が無かったので、お店の看板を片付けて鍵を閉めてシャッターを閉じた。
そして、いつもの地下鉄駅へと向かった。
終電が間近ということは無いが、回送列車が通過した。
その後、帰る方面の行き先を表示した列車が来たので、それに乗る。
地下鉄の車両に揺られながら、世栄玲奈は本を読んだ。
降りる駅に着いたので本を鞄にしまって、列車から降りた。
そのまま地上へと向かい階段を上る。
定期券で改札を出て、世栄玲奈は久しく聞いてなかったラジオを聞く。
小型のカードタイプのラジオで一般界の平文放送を聞くことにした。
今日もたわいも無い事がラジオから聞こえてきた。
世栄玲奈は少し笑みをこぼしながら、自宅の鍵を開けた。
中に入り、ドアを閉めてチェーンまで鍵をしっかりと掛けた。
相変わらず、ラジオはたわいもない話を耳元で流す。
世栄玲奈は冷蔵庫にあった残り物で野菜炒めを作った。
それを食べ終えてから、お風呂に入った。
世栄玲奈は日記帳を開いて、色々と書いた後に一枚の手紙を書いた。
それは出す予定の無い、姫路怜奈への懺悔だった。
便箋3枚からなる懺悔を机の引き出しにしまった。
世栄玲奈は布団に入り、眠りに就いた。
いつもより少し早く目が覚めた。
世栄玲奈は朝食の準備をする。
トースターにパンを入れて紅茶を淹れるためにお湯を沸かす。
世栄玲奈は溜め息を吐いた。
あの別れは正解だったのか…。
そんなことがずっと頭をぐるぐるとしていた。
そして、気を紛らわすために魔法ラジオを受信可能なBCLラジオの電源を入れた。
この前、動作確認をしたときのままの周波数だったので、魔法ラジオでしかも旧魔法界の声の周波数だった。
魔法界が滅んだ今、番組は普通の中波ラジオ放送に近くはなっているが…。
受信局を一般界の平文放送へと切り替えた。
世栄玲奈は一般界の平文放送の特に中波が好きだ。
世栄玲奈は「旧魔法界の声は以前の放送設備を受け継いでいるからねぇ…。まぁ、そのおかげで壊れた魔法ラジオを動作確認をするのには重宝するが…」と独り言のように呟いて、お湯が沸いていたので火を止めて、茶葉を入れた急須にお湯を入れた。
お湯がお茶になるまでの間に、パンにバターを塗る。
そして、時間が経ったので急須からカップにお茶を淹れる。
紅茶の色はしっかり出ていたので、世栄玲奈は一安心した。
世栄玲奈は角砂糖を一個。
紅茶に入れて溶かした。
世栄玲奈は再び溜め息を吐いてから、紅茶をすすった。
そして、トーストを1枚食べる。
紅茶を全部飲んで、カップを水につけた。
そのまま無言で家を出て、地下鉄の駅へと向かう。
そして、いつも通りに仕事場を開けた。
まぁ、独りでラジオを修理したり、オーダー通りにPCを組む立てるだけなので。
作業中は至って気楽だった。
それでも、喧嘩別れをした姫路怜奈のことが何度も頭をよぎった。
世栄玲奈は「早めに休憩にしますか…」と言って、お店を一時的に閉めて。
外に煙草を吸いに行った。
「はぁ…」と溜め息を吐いた。
煙草の煙はいつもに増して、白かった。
もう一回、火の付いた煙草をゆっくりと吸った。
短くなった煙草を灰皿に押し当てて消した。
世栄玲奈は2本目に手を伸ばそうとしてやめた。
そして深く深く溜め息を吐いてから、そのまま工房へと戻った。
夜八時になった。
世栄玲奈は閉店の時間になったのでお店の施錠をして、地下鉄の駅へと向かう。
世栄玲奈はそうたいして働いていないのに、どっと疲れた気がしていた。
そのまま布団に直行したいのを押さえて、シャワーだけは浴びた。
そして、寝間着に着替えて布団に横になった。
姫路怜奈が居なくなったので、久々に布団で寝ることが出来る。
でも、それもなんか寂しい気がした。
それでも、自分の健康と生活優先と自分に言い聞かして、眠ることにした。
いつもより30分を早く目が覚めた。
世栄玲奈は溜め息を吐いてから用意を始めた。
いつも通りにパンをトースターに入れて、珈琲を沸かした。
珈琲をカップに入れた頃、トースターから焼けたトーストが飛び出してきた。
トーストにバターを塗ってから、いつも通りに食べた。
いつもより30分早いけど。
そして時間調整をすることなく、世栄玲奈は家を出た。
時間があったので、世栄玲奈は行きつけの煙草屋に寄った。
世栄玲奈は顔見知りの店員に「いつもの1カートン」と言った。
煙草屋の顔見知りの店員は「1カートンだなんて、景気が良いけど儲かってるの?」と聞いてきた。
世栄玲奈は「あぁ、儲かってはないけど吸う量が純粋に増えただけさ」と言って、お金を払ってそのままお店を後にした。
世栄玲奈はほぼいつも通りの時間に自分のお店に着いたので、そこから開店準備をした。
お店を開けてから、20分くらいしたときだろうか?
煙草屋の顔見知りの店員がきた。
世栄玲奈「いらっしゃい」と言って迎え入れる。
煙草屋の顔見知りの店員は「世栄さんって、男前ですよね?」と言った。
世栄玲奈は心の古傷が抉られながらも平静を装い言う。「よく言われます」
続けて、煙草屋の顔見知りの店員は「私の名前は知ってますか?」と聞いてきたので、世栄玲奈は今朝の煙草のレシートを確認しようとする。
煙草屋の店員は「やっぱり知らないですよね…」と何故かショックを受けていた。
世栄玲奈は全く身に覚えないところで、好感を持たれていたことに驚いた。
煙草屋の店員は「私、ヘラって言うの。せめて覚えてて欲しかった」と言った。
続けて、煙草屋の店員ヘラは「私は世栄さんの下の名前を知りたいの」と言った。
世栄玲奈は拒む理由もないので「僕の下の名前か?玲奈って言うけど、覚えてて何の得になるんだい?」と言った。
煙草屋の店員、ヘラは「私はね?下山ヘラって言うの。玲奈さんが男前だから、お付き合いしたくて…」と言ってきた。
世栄玲奈は「あのさぁ…。いくら僕が男前だからと言っても。もっと他に良い相手が居るでしょ?」と言った。
世栄玲奈は続けて「あと、男前、男前。と言って僕の古傷を抉らないで…」とも言った。
煙草屋の店員、下山ヘラは「私、初めて見たときからずっと玲奈さんの事が好きでした、その後の喋り方を見て…。もっと好きになったんです…」と言った。
世栄玲奈は困ってしまった。
世栄玲奈自身、白馬の王子様は求めているが、ドレスのお姫様はお呼びでないのだ。
世栄玲奈は今までのように、きつく別れを強いると今までのようにあの煙草屋には行けなくなってしまう。
世栄玲奈はすごく困ったのであった。
少し間を開けて世栄玲奈は、「本当にごめんなさい…。僕はあまり同性に興味はないんです…」と正直に話した。
それでも下山ヘラは「もしかしたら興味を持てるかもしれないから…、付き合ってみて欲しいわ」と言う。
世栄玲奈は「僕には無理なんです…」と言う。
下山ヘラは「何が無理なの?無理じゃないわ?あなたならきっと…」と言いかけてやめる。
世栄玲奈は「その気のない僕と付き合っても、きっと楽しくないよ?」と言った。
世栄玲奈はこんな事になるのならば、次回から煙草屋を変えようと決断する。
無言の時間が長く続いた。
無言の時間が辛くなったのか、店主に呼び戻されたのか、お昼を食べに行ったのか。
下山ヘラはお昼頃には工房から出て行った。
世栄玲奈は溜め息を吐いた。
そして一言。
「これじゃ、幸せは逃げ放題ね…」
世栄玲奈はお店を一旦閉めて、お昼を食べに行った。
こういう日に限って、お弁当を作っていないのだった。
時間があったのに。
世栄玲奈は下山ヘラが居なさそうな、お店を選んでお昼を取ることにした。
幸いお昼の最中に出くわすこともなく、平和にお昼を終えて工房へ戻った。
世栄玲奈は工房を再び開けてお客を待った。
お客は全く来ないまま、閉店時間になったので世栄玲奈はお店の施錠をして、
家へと帰るために、地下鉄に乗った。
地下鉄から降りて地上に出た。
そして、家に入ってPCの電源を付けてから煙草を吸った。
灰皿に煙草をくすぶらせながら、新しく買ったキーボードとワープロソフトで色々と書類や自分だけが見る小説などを書きながら、色々としていた。
その後にお風呂に入ってそのまま眠ることにした。
目覚ましが鳴っていつも通りに目が覚めた。
自分の吸ってる銘柄の煙草がどこで売っているからを調べてから、いつもと違う煙草屋へと向かった。
その煙草屋でもワンカートンで買ってから、お店へと向かった。
世栄玲奈はお店へと遠回りで向かう羽目になっていた。
いつもの煙草屋が使えないからだ。
世栄玲奈は溜め息を吐いた。
自分のお店の前だった。
裏に回って鍵を開けて中に入る。
そして表のドアの鍵を開けて、シャッターも上げた。
いつも通りの開店準備だった。
お客を待っていたが、全然来なかった。
閉店間際、慌てた様子でデスクトップPCを抱えて女性がやってきた。
世栄玲奈は「いらっしゃい」と言って立ち上がった。
その女性は「起動しないのですが…。直りますか…」と言った。
世栄玲奈は「今日はもう終わりの時間だから、取りあえず預かって明日以降に連絡ってなるけど、それで良いかな?」と言う。
その女性は「データ無事ですか?」と言う。
世栄玲奈は「症状を見てみないと、なんともね…。ただ見たところ相当な年代物だから買い換えをオススメするよ。ここでBTOをしているから明日、注文していくかい?」と言った。
世栄玲奈は修理依頼の伝票を出して言う。「コレ書いて?取りあえず、詳細は明日以降に見るから」
その女性は伝票に名前と電話番号を書いた。
世栄玲奈は「指定が無ければ、明日の昼か夕方に掛けますが」と言った。
その女性は「PCがコレしか無いので仕事も出来ず一日、暇なのでいつでも問題ありませんわ」と言った。
世栄玲奈は「なるほど、了解です」と言った。
その女性はお店を後にした。
世栄玲奈はお店を厳重に戸締まりした後で、家へと向かった。
家の外で煙草をふかして、一服した後に家へと入った。




