10話ー終わった戦争特需
世栄玲奈は戦争特需が終わってしまったので、少し困っていた。
戦争は良くないし、双方に犠牲が出た。
しかし、有事でない平時では魔法ラジオの受信機をわざわざ直す人が少ないのだ。
しばらくしてお店の戸が開いた。
在川浩二が来たのだった。
世栄玲奈は立って「いらっしゃいませ」と言う。
在川浩二は前線で戦った事もあって階級が少将から中将になっていた。
在川浩二は「このラジオ、直せるかな?」
それはこの前に世栄玲奈が直した在川浩二のRD-1280CFだった。
世栄玲奈は「やっぱり、前線で情報収集しようとして使うと魔法石が早く痛むんですかねぇ…。直近で使われる予定はありますか?」と訊いた。
在川浩二は「出来れば早めに欲しいが、しばらくは私用でしか使わないからちょっとくらいなら遅れても大丈夫だと思います」と答えた。
世栄玲奈は言う。「契約のサインを書きながらで良いんですが、魔法界民主化の状況はどうですか?」
在川浩二は「まぁ五分五分かなー?強硬派がたまーにゲリラ戦をしていたりするけど…、それ以外は至って平和に進んでいるよ?」
世栄玲奈は「まぁ、どこにでもいますよね…。新時代に馴染めない旧時代の人と言いますか…」と呆れた様子だった。
在川浩二は言う。「そういえば、さっき言った前線で使うと魔法石が痛むって話、心当たりがあるんですか?」
世栄玲奈は「うーん、僕の知り合いの斗南華のRD-1280CFも正常に受信が出来なくて、ここに送り込まれて…、使用状況が似ていたのでつい…」と答えた。
世栄玲奈は続けて「RD-1280CFのルビー魔法石はダイヤ形ですし、しかも規格品より小さいので入る魔法の量がちょっと少ないってのもあるかもしれないですが…、質量保存の法則と言うか…」と言う。
在川浩二は「そうなんですね…。魔法と科学近い存在なんですね…」と言う。
世栄玲奈は「魔法と科学って、相容れないカテゴリなんですけどね。実は結構近い存在なんです。僕もつい最近になって気づいたんですよね?」と言った。
在川浩二は時計を見て「あ、ごめん。行かないと」と言ってお店から出て行った。
世栄玲奈は修理のために工房に入った。
世栄玲奈はRD-1280CFのルビー魔法石に魔法が残っているかを見た。
やっぱりというか、魔法が枯れていた。
この前、発注したRD-1280CF用のルビー魔法石を填めて、枯れた魔法石はリサイクル用のゴミ箱へ捨てた。
そして魔法石の魔法込めて魔法ラジオの受信が出来るか試してみた。
しっかりと受信が出来たので同調回路は壊れていない様子だった。
世栄玲奈はお昼頃、在川浩二に電話を掛けた。
在川浩二は「もしもし、在川です」と電話に出る。
世栄玲奈は「ラジオ修理工の世栄ですが、依頼されていたRD-1280CFが直りました」と言った。
在川浩二は「じゃあ、今日の夕方に取りに行きます。それで幾らくらい掛かりますか?」と言う。
世栄玲奈は「えぇ…っと、特殊魔法石の故障なので2万リベルですね。今日の夕方ですね?お待ちしております」と言って電話を切った。
在川浩二は夕方ちょうどに取りに来た。
世栄玲奈は「お待ちしておりました」と言う。
在川浩二の隣には妻の在川花海がいた。
世栄玲奈は思った順調そうで何よりと。
在川浩二は控えを出した。
世栄玲奈は「お待ちください」と言って奥へと行った。
そして、紙袋に入れたRD-1280CFを渡す。
在川浩二は1万リベル紙幣を2枚出した。
世栄玲奈は「ちょうど頂きます」と言って1万リベル紙幣2枚をレジスターへとしまった。
在川浩二と在川花海はカウンターに腰を掛けた。
世栄玲奈は「どうしたんですか?」と言う。
在川浩二は「この街から引っ越すことになった。赴任先は魔法界の旧都ペラスデールだから、しばらくこっちのラジオ修理工房には来られないかもしれない…」と言った。
世栄玲奈は「治安の悪化したペラスデールに治安維持として、派遣されるんですね…」
在川浩二は「あぁ、そういうことだ…」と答えた。
世栄玲奈は「どうか、お気をつけて」と言った。
在川浩二は「あぁ、どうか生きて再会が出来ることを願っているよ。花海のためにも」と言った。
世栄玲奈は在川浩二が店を出た後に少し泣いたのであった。
長期赴任なるのは分かっていたから、しばらくどころか10年以上は会えないだろう。
魔法界旧都ペラスデールはそれほどに荒れていたのであった。
世栄玲奈は時間が来たのでお店を閉めて、家へと帰った。
世栄玲奈は次の日も、いつも通りの時間にお店を開けた。
相変わらず戦争特需が終わって客足は遠のいていた。
世栄玲奈はあまりにも暇だったのでテレビを付けた。
ペラスデールで一般界陸軍の軍人がゲリラの奇襲にあって殺されたとのニュースがやっていた。
世栄玲奈は悪い予感がしたが、それは外れたので安心した。
在川浩二は現地指揮官として、テレビに出ていたからだ。
在川浩二は「一般界と魔法界の平和を脅かす、強硬派ゲリラは掃討しなくてはならない!!!!」と語気を強めて語った。
その後、ペラスデールは一般界陸軍が強力に要塞化を推し進める事になった。
世栄玲奈はテレビを消した。
お客は相変わらず来なかった。
ちょっとウトウトとしているタイミングにドアが開いた。
世栄玲奈は口元のよだれを拭いて、立ち上がる。
「いらっしゃい」
顔なじみでは無い新しいお客さんであった。
その女性は「あのー。ここって魔法ラジオは直せますか?」と聞いてきた。
世栄玲奈は「僕に直せないラジオはないので」と言い修理契約書を一枚ちぎって持ってきた。
その女性は鞄から、ポケットタイプの小さい魔法ラジオを取りだして言う。
「他の店だと、魔法ラジオは無理って断り続けられて、ここなら出来るかなっと思って最後の望みなんです」
世栄玲奈は「その契約書よく読んでからサインしてね?あと、魔法石の故障だと1万リベル以上は確実に掛かってしまうから、それでもいいかな?」と言った。
その女性は「問題無いです」と言った。
その女性は契約書にサインをして、世栄玲奈に渡した。
世栄玲奈は契約書の上を剥がして、カーボン転写された控えの方を女性に渡した。
その女性は「直るのはいつ頃ですか?」と聞いてきた。
世栄玲奈は「早くて、明日。遅くて明後日くらいだと思いますね。直ったら電話をするから、ちゃんと出てね?」と言った。
その女性は「分かりました…」と言ってお店を後にした。
世栄玲奈は工房に入って、早速依頼品のラジオを見てみた。
魔法石が割れていた。
世栄玲奈は同一サイズの円柱型ルビーに魔法を込めて魔法石にして、ラジオに組み込んだ。
そして、受信が出来るかどうかを確かめた。
ちゃんと受信が出来たので、受話器を取って電話を掛けた。
夕方くらいだった。
「はい、川原です」女性の声だった。
世栄玲奈は「川原さんの電話でお間違いないですか?」と尋ねた。
川原まゆみは「そうです、川原で間違いないです」と言った。
世栄玲奈は「ラジオ修理工の世栄ですが、依頼のラジオが直ったので都合の良い日に取りに来て下さい」と言う。
川原まゆみは「いくらくらい掛かりますか?」と聞いてきた。
世栄玲奈は「一般的な魔法石の故障だったので、1万リベルです」と答えた。
川原まゆみは「分かりました、明日取りに行きます」と答えた。
世栄玲奈は「分かりました。お待ちしております」と言い受話器を置いた。
世栄玲奈は今日もテレビを付けた。
軍縮派と現状維持派が国会では争っていた。
世栄玲奈は「クーデターとか起きなきゃいいけど…」と呟いた。
軍縮派がクーデターを起こそうと未遂に終わる。
その所為で菅原涼華も現状維持派に傾いたのであった。
皮肉なことに、自身の行動で軍事力の有用性を証明してしまった軍縮派だった。
斗南華がラジオの修理工房に来た。
世栄玲奈は言う。「いらっしゃい、今日は何の修理?電子機器なら大体やるけど…」
斗南華はカメラ用の記録メディアを握ったまま何故か震えていた。
世栄玲奈は冗談で「監視カメラに宇宙人でも映っていたのか?」と笑いながら言う。
斗南華は「もっと怖いものが…」と言って、鞄からパソコンを取りだして世栄玲奈に映像を見せる。
その映像には暗闇の中、オーヴらしきモノが映っていた。
世栄玲奈は「ホコリとか塵とかが暗闇で舞っているだけよ…。こういうのは」と溜め息を吐いた。
斗南華は「いやいや掃除は毎日しているし…」と反論する。
世栄玲奈は「毎日しても取り切れないホコリだってあるから…、そもそもそんな心霊なんて非科学的だよ」と言った。
斗南華は納得してないらしく、「部屋で変な音がすると思ったらこれだったからすごく怖くて…」と言った。
世栄玲奈は「僕は幽霊は信じていないし、除霊なんて出来ないから、他を当たってくれ」と言う。
斗南華はシュンとした様子で「分かった…」と言って店を後にした。
次の日、いつも通りに店を開けた。
朝一で川原まゆみが来た。
世栄玲奈は「お待ちしておりました」と言って、店の中へ案内する。
そして、修理完了したラジオ見せて受信が出来ることを確認してもらった。
世栄玲奈は「一般的な魔法石なので1万リベルですね」と言った。
川原まゆみは財布から1万リベル紙幣を取り出した。
世栄玲奈は「ちょうどいただきます」と言って、レジスターにしまった。
川原まゆみは「この店、いい雰囲気ですね?」と言う。
世栄玲奈は「ありがとうございます」と答えた。
川原まゆみは「ありがとうございました」と言ってお店を後にした。
世栄玲奈は「またのご来店をお待ちしております」と言ってドアを閉めた。
世栄玲奈はお店でノートPC開いて現金の出納表を作っていた。
相変わらず戦争特需が終わってお客がほぼ来ない時間が続いた。




