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うつけとたわけ  作者: 井川左近
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バテレン坊主

「や~いバテレン爺~!火あぶりの刑であの世行き~!」


「バテレン爺の着物臭いぞ~」


老人は子供にからかわれながらも笑顔を絶やさずに手を合わせていた。


「私はバテレンではありませぬ。神、仏様は一つなのです。宗派は関係ありません。手を合わせて祈りを捧げるだけで救われるのです。今までの私に御免なさい。申し訳御座いませぬ。そう言うだけで良いのです。」


民家から飛び出てきた大人達に急いで引き剝がされる子供達。関わるだけで民も拷問されてしまうという恐れなのか、誰も関わろうとしない。


「大変申し訳ありませぬ。申し訳御座いませぬ。」


念仏の様に謝罪の言葉を言い、周囲の民に頭を下げる。周囲に誰もいなくなっても、老人はまた念仏の様に謝罪の言葉をかけながら歩きだした。


気持ちの良い天気である。


「南無釈迦牟尼仏…南無釈迦牟尼仏…」


かなりの老齢のせいか、足取りは軽くはない。70は優に超えているのではないだろうか。時折立ち止まり、虫や蛙の音色に耳を傾けている。


すすや誇りにまみれ、僧衣はお世辞でも綺麗に保たれているとは言えない。所々ほつれや破れなども目立ち、質素な生活が伺える。


そんな老人を横山康玄は虫けらを見るような目つきで見ていた。


何故大殿はこの様な老人を屋敷に呼びつけるのか、バテレン追放令が発令されて久しくもないのに、前田家存続危機なこの状態で何故遠ざけないのか。康玄には到底理解が出来なかった。


「和尚よ。」


「南無釈迦牟尼仏…南無釈迦牟尼仏…」


耳が遠いのか全く聞こえた様子がない。


「和尚よ!!!!」


「…これはこれは…道場の生徒さんでしたかね?」


「このなまくら坊主めボケたか!加賀藩富山城代国家老の横山康玄じゃ!」


「…おおこれはこれは…鬼瓦の横山様でしたか」


「ふんっ、大殿が呼んでおる。何かと厄介事がある為、おのれと一緒におるのを見られとうない。わしは先に行く故、大殿の屋敷まで来い。日数はかかっても良い。」


そう言うと康玄はそそくさとその場を後にした。


「鬼瓦様は常に怒っていらっしゃいますなぁ…どれ、この爺でも呼ばれたからには喜んで行くとしましょうか。南無釈迦牟尼仏…南無釈迦牟尼仏…」


老人は表情を変えず、重い足取りを先に進める。


「…前田権中納言利常様。ますます御父上に似てきた事でしょうなぁ。ほっほっほっ。」


そう呟くと老人は幾分背筋が伸び、足取りが軽やかになって歩を進めたのであった。

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