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5. エピローグ

読んでいただき、ありがとうございます。

誤字脱字報告ありがとうございます!

 二日間休校になり、学校へ行くとクラスの半分がいない。つまりクラスの半分がカンニングに加担していたという事だ。


 マリサは退学になり、その他の生徒は停学になったり転校したりした。奨学金を受けていた者は全て国への返還を言い渡された。


 マリサは自分が好成績を修めるために、売るときは一人に二教科の答案しか渡していなかったらしい。


「でもマリサは何故いつも2位だったのでしょう?全教科の答案があるのなら1位になれそうなのに」

「全ての解答を覚えられるだけの頭がなかったのだろう。僕は常に全教科満点を取っている」

「...」


 今日はいつもの契約履行の日だ。今日は公爵邸に来ている。本は持ってきていない。

 公爵邸の庭をリアンに案内されながら普通に話せている?ことに感動する。


 やがてガゼボに着き、テーブルには既にお茶とお菓子がセットされている。

 侍女が来て私達に紅茶を淹れてくれる。私の好きなアールグレイだ。


「ありがとう」


 私は侍女にお礼を言い紅茶を一口飲む。いつものようにとても美味しい。


「僕はイザベラのそういうところが好きだ」


 突然言われた言葉に固まる。そういうところって?


「我が家の使用人にも礼を言ってくれる。そんな優しいところがとても好きだ」

「そ、そうですか...あ、私はこのアールグレイが好きなんです」


 リアンの態度が変わりすぎて戸惑い、何て返したらいいのか分からなくなる。


「知っている。5回目に会ったときに言っていた」

「5回目...あ、このベイクドチーズケーキも」

「それも7回目に会った時に言っていたのでいつも用意している」

「そう、ですか。もしかして私が言ったことを全部覚えているのですか?」

「ああ」


 リアンは賢いと思っていたけど、こんな所にも活用されているのか。いや、回数は要らないよね?


「積乱雲が湧いて来ている。雨が降るから中に入ろう」

「はい?」


 リアンは侍女に指示を出すと私を誘導して家に入る。するとポツポツと雨が降り出したと思ったらあっという間に空が真っ黒になり土砂降りの雨になる。侍女はなんとかお茶セットを運び入れている。


「よく分かりましたね」

「強い鉛直方向へ向かう冷気をはらんだ風が吹いていた」

「...そうですか」

「サロンの用意ができるまで僕の部屋へ行こう」

「はい」


 リアンの部屋へ行くのは久しぶりだ。

 部屋は青系統のファブリックでまとめられ爽やかな印象だ。

 本棚が目に入り、気になる題名を見つける。これは私がクレアに借りた内容の濃い恋愛小説だ。なぜそれがここに?


「前回来た時に読んでいただろう。イザベラがどんなことに関心があるのか知るために読んだ」


 よく見るとその前に読んだ推理小説や今まで読んだ本が並んでいる。隠れて読んでいたはずなのに。


「恋愛小説は勉強になる」

「え?」

「こんな恋がしたいのだろう?」


 突然リアンが私に近づくので、私は思わず後退り本棚に背中をつける。リアンは本棚に両腕をつけ私の顔を挟んで上から見下ろす。無駄に顔がいいだけに至近距離で見つめられるとドキドキする。


「リ、リアン様?」

「イザベラ、キスをしていいか?」


 いいかと聞かれていいと答えられるわけがない。


 リアンの顔が近づいてくる。私の心臓はもう爆発しそうなくらい鼓動が速い。

 その時、扉をノックする音が聞こえる。


「リアン様、サロンの用意ができました」


 扉の向こうから侍女の声がする。


「わかった」


 リアンが至近距離のまま返事をする。私は内心助かったと思うが、そのままキスをされる。

 唇が重なり長い時間に感じるが直ぐだったかもしれない。

 唇が離れリアンの顔を見ると頬が赤くやけに艶っぽい。私も顔だけじゃなく頭まで熱い。


「サ、サロンへ行きましょう」

「もう一度」


 また角度を変えてキスをされて、頭は熱に侵されていく。小説にこんなシーンがあっただろうか?


 その後何度もキスをされ私はとうとう足の力が抜けて座り込んでしまった。


 しばらくソファで休んでから、なんとか立てるようになり二人でサロンへ向かう。もうリアンの顔がまともに見られない。


 また侍女が私達に紅茶を淹れてくれる。もちろんアールグレイだ。

 窓の外は雨が上がり晴れ間が出てきている。初夏の日差しを受けて雨に濡れた緑が輝いている。


 庭を見つめるリアンの横顔がとてもカッコ良く見えてしまう自分がおかしい。


「ずっとイザベラに庭を案内したかった」

「どうしてですか?」

「そうすれば僕を見てくれるかと思っていた」


 また顔が熱くなる。


「それならそうと言ってくださったらよかったのに」

「そうだったな」


 リアンが私を見て嬉しそうに笑う。もうだめだ。こんなの好きにならないわけがない。


「リアン」


 声がして振り返ると公爵夫妻がサロンへと入ってくる。

 私は立ち上がり、公爵夫妻へ挨拶をする。


「お久しぶりでございます」

「イザベラ、久しぶりだね。二人とも仲が良さそうで結構だ」

「お父様、いつ戻られたのですか?」

「さっき着いたばかりだ。また直ぐに王宮へ行かなければならないが、夜には戻れるだろう」

「そうですか」


 公爵は私を見ると申し訳なさそうな顔をする。


「イザベラ、伯爵から何度も手紙を受け取った。誤解があるようだが、私がリアンと君との婚約を望んだのは伯爵家の血筋のためではない。君のお祖父様にはとても世話になって何度も助けてもらった。その恩返しがしたかったからなんだよ」

「そうだったのですか」


 お祖父様は騎士をしていたと聞く。その時に公爵と縁があったのかもしれない。


「だが、君がこの婚約を負担に思うようなら考え直さなければならないと思っていたんだ」

「お父様!」


 リアンが大きな声を上げる。


「しかし、今の二人の様子を見る限り、その必要はなさそうだな」


 公爵は面白そうにリアンを見る。リアンはどこか怫然とした顔をしている。

 公爵夫妻は楽しそうに笑いながら去っていった。



「イザベラは夏休みは領地へ帰るのか?」

「そのつもりです」

「良ければ僕の領地へ来ないか?将来はその領地でも過ごすことになる。見ておいた方がいい。...いや違うな。僕が夏休みを一緒に過ごしたいからだ」


 本当にリアンは変わった。恋愛小説のおかげか?私の方がついていけないくらいだ。


「では、夏休みは私の領地とリアン様の領地、半分ずつ一緒に過ごしませんか?」

「いいな」


 こうして私達は初めて夏中を一緒に過ごし、楽しい時を過ごした。




 また学園が始まり、生徒が減ったためクラス替えのためのテストが行われることになった。私はリアンとクレアと一緒に猛勉強して、なんと10位に入ることができた。


 1位はもちろんリアン、そしてなんと2位はクレアだ。


「クレア!おめでとう!」

「イザベラも10位入りおめでとう!お互い頑張ったわね!そうそう、マリサのその後なんだけど聞いた?」

「いいえ、マリサはどうしているの?」

「子爵家に降格になって、年配の伯爵の後添えに入ったそうよ」

「そう」


 自分が悪いのだから仕方ないが16歳で後添えとは少し可哀想だ。いや、散々リアンは可哀想と私に言っていたんだ。いい報いだ。




「イザベラ、帰ろう」

「はい」


 最近はリアンが家まで送り迎えをしてくれている。

 馬車に乗り込むと二人で横に並んで座る。

 すると直ぐにリアンが私を抱きしめてキスをする。

 何度もキスをしてからようやく離れると、私の頬を両手で包み込む。


「ああ、早く結婚したい」

「後1年半なんて直ぐですよ」


 私達は卒業と共に結婚することになっている。

 するとリアンは拗ねたような顔をする。


「僕だけがイザベラに焦がれているようだ」

「私も、好きですよ」


 途端にリアンが笑顔になる。


「そういえば、リアン様はいつから私が好きなんですか?」

「初めて会った時からだ」

「それは嘘です」

「なぜ?本当だ」

「私は一目惚れされるような美人ではありません」

「イザベラは可愛い。だが君を好きになったのは違う理由からだ」


 可愛いと初めて言われた。地味に嬉しい。


「公爵邸で初めて会った時、僕が勧めたパンを君は嫌いだと言っただろう?」

「...覚えていません」


 初めて会った時にそんなことを言ったのか、私は。


「君はそのパン屋にいつもパンを卸してもらっていたが、家が傾いた途端、見向きもされなくなったと怒っていた」

「それなら言ったかもしれません」

「それからは違うパン屋に卸しを頼んで、素朴な味だが何より店主がいつも笑顔で配達してくれるので余計に美味しく感じると言っていた」

「今もそのパン屋さんに配達してもらっています」

「僕はパンの味に人柄は関係ないと思っていた。味が変わるわけがないと。しかしその話を聞いてから毎日のパンが美味しく感じられなくなった」

「それは申し訳ありませんでした」


 どこら辺で私を好きになるのか、見当もつかない。


「そして君はうちの使用人にいつも礼を言ってくれる。僕がただ通り過ぎるだけなのに、一人一人に笑顔を向ける」

「はぁ」

「当たり前に享受され当然だと思っていたことが、人の心で変わるんだと君が教えてくれた。君といると使用人の顔が優しくなる」

「そうですか?」


 いつもそうだと思っていたから気がつかなかった。

 でもそれって普通のことだと思うんだけど。


「君に会って見えなかったものが見えるようになった。もう君なしでは何も見えない」

「...」

「だから君に、僕の話は難しくて分からない、会う時は本を読もうと言われてショックだった」

「...も、申し訳ありませんでした」

「君と話したくてもなんと言ったらいいのか言葉が出てこなくなってしまった」


 私が全部悪かったの?私ってかなり酷いよね?


「ま、まだ子供だったのです」

「そうだ。でももう大人だ。こんなこともできる」


 そう言うと、リアンはまた私にキスをする。




 完



最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

ざまあを書きたいと思ったのですが、ざまあされる?話になってしまいました。

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[気になる点] リアンはキスを覚えた。この後、怖いね。子どもたちがいっぱい出来そう
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