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雪だるまを作ろう

ホーンノースでは1年の半分が雪に覆われる。

「だから、雪だけはありあまるほどあるわよね。」

ミリアは目の前のただ雪で覆われた白いだけの庭を眺めてつぶやいた。

ホーンノース公はミリアがホーンノース公の城:北壁と呼ばれる自分の城に滞在することを許した。


直接あの銀髪碧眼のホーンノース公から聞いてはいない。

北壁についたその日、泣きながら眠ってしまったミリアが次の日起きたら、スラーがそう言ったのだ。

「ミリア殿はローンデント公の代理として、北壁に滞在していただきますぞ。」

それを聞いて、ミリアはホッとしたのだ。

しばらくは、ご飯とベッドがある生活ができると。


「とはいえ、ただ飯というわけにはいかないわよねぇ」

ミリアは考える。

身長は120センチにも満たない、小さな子どもはこの北壁ではお荷物でしかない。

剣も銃も扱えない。

重いものも持てない。

北壁に必要なのは魔物を屠ることのできる戦士か、戦士を援護することのできる人間だけだ。


そのため、スラー以外はミリアに声をかけるものもいない。

この庭に出てくる前に見かけた人々はほぼ、ミリアを無視していた。

ただ、子供好きそうな人だけが、ちょっと憐れんだ目を向けてくるだけ。


ミリアは手袋を脱いだ。

そして、素手で雪をつかみ、おにぎりを握る要領で雪を丸くしていく。

ミリアの小さな手の中で雪がキュキュと音を立てた。

冷たさがジンジンと手のひらから体中に伝わっていく。

「冷たいよー」

ミリアは叫びながらも雪をキュキュと握った。

どのくらいそうしていたのか、

ほぼ、手先に感覚がない。

でも、我慢のかいがあって、野球のボールくらいの雪玉が10個できていた。

誰かに壊されないよう庭の一番奥へとその雪玉を移動させた。


「これ以上やったらたぶん凍傷になるなぁ」

ミリアは立ち上がって、腰を上した。

「お腹が空いたからご飯貰いに行こうっと」


ミリアは庭を後にして、城に入り、厨房を探しにいった。

煮汁の匂いを追っていけばよかったので、厨房はすぐにどこにあるか分かった。


そっと、空いているドアから中を伺うと、

人々がせかせかと鍋や食材のあいだを動き回っていた。

「おい、セルガ、さっさと雪を溶かして水にしろって!さっき言ったろう!」

大きな体の男が急にミリアのほうに振り返り怒鳴った。

ミリアは自分が怒鳴られたかと思い、一瞬体全体が強張った。

でもそれは勘違いだった。ミリアから一番近いところにいたまだ、少年のような感じの男がその声にこたえていた。

「へーい。でもさっきは、さっさとイモを洗えっていったのは(おさ)っすよねー。」

「なんだ、口答えすんじゃねぇ。」

「口答えじゃないっす。聞いてるんでー。イモと水どっちが先っすかー。俺、体一つなんでー両方は無理っす。」

ミリアにとっては訛った口調に思えるが、

よく通る声だと思った。

この地域の人の特徴である白銀の髪を編み込んで腰まで伸ばしているのも北壁の戦士と一緒だった。


「……水持ってこい!」

長と呼ばれる男は若干最後は声が小さくなっていた。

セルガと呼ばれた人物はくるっとミリアのほうに体を向けてミリアがいるドアに近づいてきた。

やはりこの地域の特徴である青い瞳を持っている。


ミリアは邪魔にならないようにドアから離れた。

セルガはミリアに気づいたようだ。

ミリアと視線を合わせてきた。

と思ったのだが、ふい、と視線をはずして、ミリアの脇をそのまま通りすぎていった。


ミリアは台所の殺気だった雰囲気に

(うん。スラーさんがご飯に呼びにくるまで、部屋にいよう。)

と決心した。

(ごはんください、っていったら長って人に怒鳴られそう…。)

ミリアはとぼとぼと自分の部屋に帰った。

夜になり、今日は夕飯抜きなのか、と思った時間にスラーが夕飯を

持ってきてくれた。具の少ない豆スープだったが、ミリアの小さな体には十分だった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ミリアは次の日も庭で雪玉を作った。

「雪、雪、雪、雪、雪玉ー♪」

ミリアは鼻歌を歌いながら、

昨日と同じように雪を握る。

ミリアの小さな手よりちょっと大きいくらいの球体なった。

「よし!20個完成!」


1日10個程度の完成がどうやらミリアの小さな手的には丁度良いらしい。

ミリアが作っているのはただの雪玉ではない。

魔力入りの雪玉なのだ。

昼間でさえ薄暗いなかで魔力を込めた雪玉は

表面がまるで鏡のようにツルツルしていて、磨かれている。


「そうそう!みんな大好き泥団子の雪バージョン!!」


1週間もすれば素敵な雪玉が100個ぐらいは用意できそうだ。

元日本人でこの世界では幼児な年齢のミリアは団子を作るというのが楽しくてたまらなくなってきていた。


「これは雪だるまも作るべきじゃない?」

ミリアふと思い立った。完成していた雪玉をポトッと目の前の新しい雪の中に投げ入れた。

はいつくばって、ころころとその雪玉を転がしていく。

ミリアの魔力の詰まった雪玉はミリアの意図をよく理解しているらしい。

転がせば転がすほどに雪がくっついて雪玉は大きくなっていく。


「もっと大きくするよ!」

ミリアは自分の腰ほどの大きさになった雪玉をよいしょよいしょと転がして

ついには自分の胸あたりまでの大きさにしてしまった。

「次は顔を作らなきゃ!」

再び雪にはいつくばって雪玉を転がすことに夢中になった。

雪玉は腰当たりまで大きくなったので、

ミリアはそれをもう一つの雪玉に乗せようと抱え上げようとするが、

さすがに重くてもう一つの雪玉に乗せることができなかった。

(ああ。。私に魔法が使えれば。。。)

ミリアは非力な自分を突き付けられた気がして、途端にテンションが下がってしまった。

さっきまでの楽しさが嘘のように消え失せて、

悲しいような悔しいような思いだけが残ってしまった。


「お前、何してんの?」聞いたことがあるような声が降ってきた。

振り返ると、食堂にいた少年、セルガだった。


素直にミリアは答える。

「雪だるまの顔が胴体に乗らないの」

「雪ダルマって?なに?」

「え?知らないの、これが雪だるまでしょ。」雪玉をぺしぺしするミリア。

「雪なのはわかるけど、ダルマってなんだ?」

そういいながらセルガは小さいほうの雪玉を抱え上げ、、大きいほうの雪玉の上に乗せた。

雪ダルマの完成だった。

ミリアはすっかり嬉しくなって

両手を握りしめて叫んでしまった。

「久しぶりにみる雪だるま!そうだ!顔と手を作らなきゃ!」

といっても周りには雪しかない。

ミリアは雪を使って目と鼻を作ってあげた。

ミリアと同じ背のテンプレ雪だるまの完成だった。

「手を付けてあげられないのは残念だけど。!」

「やったー!できたよ!雪だるま」

ミリアは手をたたき、歓声を上げた。

思わず、雪だるまの周りをスキップしそうになったが、

セルガの不思議そうな視線を感じ、

脳内でかって大人だった日本人ミリアがストップをかけた。

ミリアは万歳していた腕を下におろし日本人らしく、意味もなくごほんと咳をついてみた。


「どうもありがとうございました。」

とセルガにぴょこっと頭を下げた。

セルガは「ああ。」と返答を返して、そのまま離れていった。


手持ち無沙汰になったミリアもなんとく、そのまま中庭から

自室へ戻ってしまった。


なので、雪だるまがプルっとわずかに動いたことに二人とも気づくことがなかった。


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