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コンピュータにはハートがある。

作者: さきら天悟
掲載日:2021/12/18

男を怪訝な顔を上げ、正面に座るしょぼくれた中年を見つめた。

無礼にも自分より確実に年上の男へ。

男は視線を落とし、資料を見つめ、もう一度、中年の男に視線を合わせた。


「大丈夫ですか?」

男は心配そうに中年に問うた。

もちろん健康のことではない。


「はい、以前、働いていた会社で経験しています」

中年男は自信に満ちていた。


「本当に」

男は額に眉をひそめる。

もし、ウソだと分かれば男の責任になる。

多少、経歴を盛って面接に来る人物はいるが。


「はい」

中年男は満面の笑みを浮かべる。


「うちIT企業ですよ」

面接官の男はため息交じりに漏らした。


「はい、インフォーメーション・テクノロジー」

中年の男は流ちょうな英語で答えた。

普通の老人ならインターネットと思いがちだが。


「コンピュータ、大丈夫ですよね。

本当に」

面接官は念を押した。


「中学生の時からコンピュータを扱ってます」


「えッ」

面接官を驚いて、視線を端末の履歴書に落とす。

年齢から計算すると40年以上?


「ベーシックからMSーDOS、95、98、ME、2000から、

今までずっとPCは手放せません。

もちろんMacも。

あなたたちの世代じゃあ、WORD、EXCELは、

Macのソフトだったことご存知でないでしょう」


「そうなんですかッ」

面接官は驚きの声を上げた。

「知らなかったです。

それにしても、コンピュータってずいぶん進歩しましたよね」


中年男は少し首をひねった。

「中学生の時はカセットテープにプログラムを保存していました。

メモリとか、速度は進歩しましたが・・・」

と言葉を濁した。


さすがに多くの人を面接しているので、見逃さずに言った。

「進歩してないってことですか」


「コンピュータの基本的な仕組みはまったく進歩していません。

ただ、ディープラーニングはちょっと分かりませんが」


面接官は予想外に自分より知識の上の中年男に言葉を失った。


「コンピュータって、ハートがあることをご存知ですか」

中年男は英語のアクセント発音で言った。


「ふッ」と面接官は息を漏らした。

「心って人工知能ですか」

男はドキッとした。


「人工知能のことではありません。

一般的なPCにもハートがあります」

中年男はまたハートを英語風に言った。


「PCに心があるわけありませんよ」

面接官は少し警戒した。

ハッタリをかましているのかと。


「ハートというより心臓です。

コンピュータには心臓があります。

少しコンピュータに仕組みをレクチャーしましょう。

心臓いわゆるクロックのことです。

リセット時、クロックを0からカウントします。

そのカウント値をアドレスとしてメモリからデータを読み込みます。

そのデータがMPUのレジスタにセットされプログラムが実行されます」


「クロックですか」

面接官は納得しながら2度3度頷いた。

コンピュータにはハートがある、これはどこかで使えそうだと思いながら。

唾の飲み落ち着こうとした。

さっきドキッとしたのは、

極秘プロジェクトで、感情をもつAIを開発していたのだ。

感情により処理速度が速くなることを期待して。

お役所仕事を見れば分かるだろう。

感情がないから、作業が滞り、たらい回しにされる。

もし、感情があり人を助けたいという心があれば作業が優先されるのだ。

そう、感情による作業の優先を組み込んだAIの開発。

面接官は正面に座る頼もし気な男を見て頷いた。

視線を動かさず、時計を確認した。

もう30分を過ぎていた。

「今日はどうもありがとうございました。

採用はおって、メールで連絡します」


中年男は一礼して、部屋を出た。

ニヤリとする。

でも、ソフト作ったことないんだよな。

彼はコンピュータのハードには詳しかったが、

ソフト、プログラムやアプリ設計は経験したことがなかった。

ガラ携からスマホに変えたのもつい最近だった。

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