王女とし2
俺はクリストファー王太子の配慮で、城に一週間滞在することになった。
つまり、この一週間で王女を口説き落とさなければならない。
そして王女の部屋で、俺は積年の思いを王女に話した。
王女と出会った頃の話から、今まで王女を探していたことを。
また、この二年間の我が国の発展を話した。
黙って聞く王女は、まさにあの時の彼だった。
王女のお陰で発展したからだ。
海産物の収益が出始め、アーモンドの苗木を植え、今では実もよく取れた。
保存したり、加工したりと様々に使えた。
そしてその花を見に観光客が来ることも。
最終日、俺は王女を遠乗りに誘った。
以前、馬が暴れ、皆で妹王女を助け、当時は、ゆっくりと湖を見て周ることが出来なかった。
季節がら花が咲き、風もなく、遠乗りをするにはよい日だった。
王女の装いは、白いシャツに黒のズボン、同じ黒のロングブーツ。
クリーム色のオーガンジーで作られたケープを纏っていた。
纏うケープを留めるブローチは、薄紫色でパールで作られた花の形をしていた。
以前のように、すべてが黒色の装いではなかった。
相変わらず馬上の王女は綺麗だった。
ふたり乗馬を楽しみ、走り着いた湖は、水面が七色の光で輝く。
馬から降りて近くにある木に手綱を括る。馬を休ませ辺りを二人散歩した。
横に歩く王女を見ると、俺は思わず緊張で赤面してしまう。
やはり美しすぎる。
歩きながら王女に話をし始めた。
「国同士の政略結婚ではあるが、俺は君に初めて出会ってから、ずっと君のことが好きだった。
君は覚えているかわからないが、あの後から俺は、君をずっと探したんだ」
王女は横で俺の話を黙って聞いていた。
「でも、いくら探しても君は見つからなかった。だが、またこうして出逢えたことを嬉しく思う。
以前留学して、君と話合った時に思ったんだ。ずっとこの時間が続けばいいと。
あの時言った言葉は嘘ではない。俺の国に来て、俺の側にずっと一緒にいてくれないか。
ーあ、いや俺と一緒にいて欲しいんだ」
立ち止まり俺の方を見て、王女はゆっくりと口を動かした。
「殿下、ありがとございます」
短いは彼女の真剣さが窺える。
そして更に話した。
「殿下は、兄から聞いていると思いますが、私は当時のことを覚えておりません。
火事の記憶も。私を助けるために、当時の公爵とその息子が亡くなりました。
だから私は、公爵家の人間として生きていこうと思いました。
公爵家に償おうと思ったのです。
あなたを助けたのも、償いのためです。
もしあそこで死んでも私は後悔しなかった。
あの時のあなたの顔は忘れていません。
それは以前の私と同じ負い目を感じる目でした。
でも今の言葉で違うことがわかりました。
私はあの火事で背中と肩に火傷の傷痕があり、とてもドレスなど着ることできません。
もし、殿下と結婚をして、王太子妃としての責務を果たすことは私にはできないと思うのです」
そう話す王女を見て、俺は今更離すことができないと思った。
「いや、そうではないんだ。たしかに俺を助けて君が倒れた。そんな目をしたかもしれない。
しかし、先ほども話したように俺は、あの広場のからくり時計を一緒に見て、甘いキャンディーをくれた君と一緒にいたい。怪我で傷があることは知っている。それなら問題ない。火傷でドレスが着れないなら着なければいい。
だから俺と結婚してほしい。これから先、俺は絶対君を離しはしない。君をずっと守る。だから俺の側にいてほしい」
「殿下、私はわがままですが、それでもいいのですか?」
「ああ、構わない。俺の側ずっとにいてくれるなら」
真剣な眼差しで王女を見た。
そういい片膝を折って彼女の手の甲に口づけをした。
王女は黙りこんだ。
しかし次に発した言葉は俺の心を躍らせた。
「参りました。殿下、私の負けです。
こちらこそ、宜しくお願い申します」
俺に向けた顔は、あの時のあの笑顔だった。
思わず立ち上がり、そしていきなり細い王女を強く抱きしめてしまった。
俺は慌てて力を抜いた。
「すまない。大丈夫か。力を入れすぎた」
再度ゆっくりと王女を腕の中に包む。あの柔らかい彼女を。
そして微笑んだ王女は、ゆっくりとその両手で俺の背に回した。
そよ風でサワサワと風に流れる花の匂いが甘く感じた。
いつの間にか二つの影が一つになったように見えた。
沢山の投稿の中読んで頂き、ブクマ、評価ありがとうございます。
とても嬉しいです。
誤字の報告もありがとうございます。
最近「伯爵令嬢は王太子との結婚を回避したい〜その結婚は熨斗をつけてお返します〜」の投稿を始めました。
お時間があればそちらも読んで頂ければ幸いです。