王女として1
16
ずべてが終わった。やるせなさだけが残った。
俺はじっと部屋で待っていた。ひとり部屋で待つ時間が、長いか短いかがわからなくなっていた。
部屋で待つ俺に王太子と近衛団長が訪れた。
俺がルークはと言おうと思った時、俺を見てすぐ王太子が首を降った。
王宮医務室に運ばれたが、あまりにも出血が酷かった。確かに彼が倒れたところが血だらけたった。
倒れた姿で気づけなかったが、彼がいつも黒い上下の装いのため、血の色が良く見えなかった。
それは敵を欺くため、または味方に怪我をわからせないため。彼が着ていたその色は、返って今回のことを後悔せざろう得なかった。
夜会後、俺は帰国した。
後日、公爵家がルークを引き取り公爵家で弔ったそうだ。
帰国から俺は彼を忘れるかの如く、精力的に国の政務をおこなった。北に行き海を調査し、海産物を調べ、工業を興した。その後、王都に次ぐ都市になった。南の隣国、ターリア王国に自ら出向き、アーモンドの苗木を購入できた。確かにターリア王国より、我が国の方が気候が合い、著しく成長して実をつけだした。そして接木をして増やしていった。また、開花する花が綺麗なことから、開花時期に花を愛でる人々が観光として訪れ、新たな産業ができた。
すべて彼のお陰だった。
こっそりと市井の様子を視察にいけば、馬車から見る市井は人々で賑わい、路地も整備され、以前のような細く薄暗い場所は今は無い。あの広場には今も時計台と噴水がある。今のからくり時計は、一刻ごとに仕掛けが出てきた。
ここで出会った。蘇る記憶が悲しさを思い出させた。
忙しい日々で段々と忘れて行ったが、一つだけ絶対に忘れることはなかった。
国王から呼ばれた。
帰国後は多忙だったため結婚相手の話が頓挫していたが、二年がたち、結果自分で見つけられなかったとして、国王が相手を決めた。
承諾したのはロワール王国の王女だった。
「こちらは承諾済みだ。相手方も是非にという話だ」
妹王女か。まだ彼女は成人していなかった。歳が離れていようが政略結婚なのだから仕方がない。
そして一ヶ月後に迎えに行くこととなった。
馬車の中で、俺は留学中のことを思い出す。あの図書館での楽しかった時間を。
登城すると、すでに王太子が待っていることに驚いた。
にこやかに出迎え、隣には近衛団長、騎士団長が並んでいた。
王太子自ら出迎えてくれたことに感謝し、貴賓室に案内された。
以前は国王陛下に謁見したが、今回はそのまま貴賓室に行く。国王陛下はあれから回復したそうだ。
部屋に入るとあの頃を走馬灯のように思い出す。ソファに座り対面に王太子が座る。
あの時はその後彼と会った。
「この度は結婚の承諾をありがとうございます」
「いえ、お若いから寂しさがつのると思います。こちらもそのようなことがないよう努めます」
「いえ、そうではありません。殿下の承諾は得ておりますが、実はまだ本人には伝えていません。ですから殿下自ら話合いをしていただきたい」
全く理解ができなかった。
「では部屋を移動しましょう」
そして王太子と俺は貴賓室を後にした。
廊下を歩き以前泊まった部屋を通り過ぎる。たしか奥の部屋は姉王女の部屋だったな。
すると王太子はその彼女の部屋の前で止まり、ドアと叩いた。
ドアを開け、中に入る。そこは驚くべき光景だった。
まさに王室図書館だった。壁一面隙間なく本が並ぶ。二間続きなのに奥も同じだった。奥には申し訳なさそうに寝台、机、応接セットだけで、王女の部屋とは思えなかった。
するとその奥の本棚に脚立に登って本を読む人がいた。
「アシリア、エドワード王太子がいらしているのだぞ、」
それに気がつき俺たちへ振り向いた。
あぁそうだ、その顔だ。あの月の女神のような。彼女だ、ルークだった。
王太子は後から来た近衛団長にお茶の用意を頼んだ。
アシリア王女は軽やかに降りて俺の前にたち、淑女の礼をして笑った。
そう、その微笑みだ。そしてあの眼だった。
だがその姿はルークそのものたっだ。違うのは白のブラウス、首元にフリルがありリボンを締めて、下はクリーム色ズボン、黒のロングブーツ。
呆然とたつ俺に王太子がソファに座るよう促した。
「「エドワード王太子殿下?」」王太子とアシリア王女が二人同時に俺を呼び、ふたりで微笑んだ。
「エドワード殿下、大変失礼いたいしました。驚かれて当然です」
ドアが開き、近衛団長が妹王女を連れ、その後ろから侍女がお茶を運んできた。
妹王女が嬉しそうにアシリア王女に飛びついた。
「姉様、エドワード殿下がびっくりしてるわ」
王太子とアシリア王女が並んで座り、妹王女その横のソファに座る。その後ろに近衛団長が立つ俺はその対面に座った。侍女は運んできたお茶をテーブルに置き部屋を下がった。
アシリア王女がカップを持ち飲む。
「エドワード殿下、足はちゃんとありますけど」そう言い笑った。
まさにあの時のルークだ。あの顔だ。今の姉王女はあの時と同じ眼の色だった。
「君の目は?ルークの眼の色は確か薄紫だったが」
「よくご存知ですね。種明かしをしましよう」そういいカップをテーブルに置いた。
「私があなたと会うのは必ず午後、または半日でした。それには理由があります。
この眼の色は目立つでしょう。そのためルークの時は色を変えなければなりません。変える薬の持続性がもって半日なのです。もうお分かりでしょう」
つまり、薬が半日しか持たないのでルークとして会うときは決まって午後、または半日。以前の遠乗りをした場合は午前中だけの予定だった。だがあの時すでに昼近くになり、湖に落ちたので薬が切れてきた。慌てて王太子が上着を上から被せ隠したのだった。
そして、あの夜会、確かに刺された。しかし対応が早かったことと、ルークとしての姿は、体を大きく見せるように、何十にも体に布を巻いていたのが功を奏した。またルークとして助かると問題が起きると国王陛下、王太子、宰相が相談し、ルークを亡くし王女を表に出すことを考えた。病弱とし今まで表に出さなかったので、王女として生きるより自由にさせることも考えた。しかし公爵に相談した時、公爵が俺を思い出した。王女を知り、そしてにわかに彼女を思っているという感じだと妹王女が王太子に話をした。そして一度父上に相談し、俺の様子を見てこの話を承諾したのだった。
そのため彼女がよければと俺に話が行った。
だから俺が口説けと。
なぜなら彼女は一筋縄ではいかないからだ。
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