決戦
15
城の中には近衛団と騎士団の部屋が東西にあり、騎士団長室の執務室で団長が机の書類を読んでいた。
それは団員すべての経歴書である。
多数の団員を束ね、膨大な人数になるので過去を遡るのが一苦労であった。
すると執務室のドアを叩く音がした。
コンコン。
副団長のアイザックが入ってきた。彼は五年前に騎士団に入り、実力でここまで上り詰めた男だった。
俺とは違い男爵家の次男だ。
彼は机で見ていた書類に気がついた。
「どうかされたのですが?」
「いやなんでもない。調べ物と一緒に整理をしようと思ってな」
机にちらばる書類を集めて引き出しにしまった。
そして俺たちは、落ち着かなかった城内の話になった。
三日前の深夜、王太子が近衛団長たちとお戻りになった。
無事に帰還されたことを喜び、昨日俺たちは皆と部屋で飲んだ。
そして少し前に王太子に呼ばれたばかりだった。
アイザックは呼ばれた事について話があるのかと思ったのだろう。
机の前で立っていた。
「アイザック話がある」
ソファに座れと促し、彼は向かいのソファに座った。
「来週、王太子の帰還祝いで夜会を特別に行うことになった。そのため警備の配置を検討する」
二人で城の図案から人員の配置を話し合った。
しばらくすると近衛団長が執務室に訪れた。
「執務中だったか、では戻ろう。」
だがアイザックとの話はもう終えるところだったので、
「いや、もう終えるから入ってくれ」
そう伝え、部屋の中へ通した。するとアイザックはすっと立ち近衛団長に礼をした。
「いえ、団長と話は終わりましたので、問題ありません。私は当番がありますのでこれで失礼します」
そういい部屋を出た。
近衛団長はずっと彼が部屋をでるまで様子を見ていた。
近衛団長と俺は幼なじみだった。
俺の家は貴族ではなく商家で、近衛団長は伯爵家出身だった。
なぜかうまがあい、休みが合えばふたりで飲みにいく仲だった。
「守備はどうだ」そういって真剣な眼差しを俺にむけた。
「あぁ、とりあえず話した。まだ信じられない」
「そうだな、可愛がっていたしな。俺だって信じられない」
夜会当日
俺は結局残った。留学期間が終わるまで残ると自ら決めた。
夜会が行われるホールは、城の中で二番目に広いホールで庭園に隣接する。
庭園側のドアは全て取り払われて、庭園と一体となっていた。
城内の警備は、強化されているのがよくわかる。
庭園の警備はルークと騎士団長が指示し、城内は近衛団長が指示していた。
ルークはいつものように黒の上下を着ていた。彼は俺に通りすがりに声をかけた。
「殿下は帰国されなかったのですか」
「ああ、最後までいようと思って」
「そうですか」
「この間はすまなかった」
「いえ」
ギクシャクした話だけでその場を後にした。
その後、それしか会話をしなかったことを後悔した。
しばらくすると馬車が止まり始め、招待状をもらった貴族達が続々とホールに入ってきた。
ホール内に続々と煌びやかな人たちで埋まっていった。
今回は特別なため厳選された貴族たちが招かれた。
ホールに集まった貴族たちは王太子の姿を見て喜び、ホールが歓喜に沸き、華やかに夜会が始まった。
夜会の終わりが近づき、貴族たちがホールを後にしはじめた。
そのとき、庭園からガサガサと音がした。
それに気づいたルークと騎士団長は、すぐに近衛団長に連絡し、近衛団長は王太子と俺たち、まだ残っていた貴族たちを安全な場所に誘導させた。
闇の中から、黒い外套を頭まで纏う数人が向かってきた。
外に配置された騎士団長、団員、ルークが賊と向かい合った。
すると賊のひとりが言い放つ。
「やはりおまえか、生きていたのか」
「やはりここから来たな。だからわざと情報を流してやった。知っているのは団長と副団長だけだからな」
そういってルークは賊の中で一番後ろにいた者を睨んだ。
賊たちの後ろにはアイザックがいた。
つまりアイザックはあちら側だった。
警備の話合いをした際、庭園の一角だけわざと手薄にしておいた。
時は遡る。
騎士団長の俺は、早朝王太子の執務室に呼ばれた。そこにはすでに近衛団長とルークがいた。
昨夜は団員たちと飲んだので早朝が少し辛かった。
俺がソファに座ると直ぐに王太子が話を始めた。
「お前には辛い思いをさせるが、彼に罠をしかける。あいつに情報を流せ」
調べ上げた結果、アイザックは俺たちを裏切っていた。
妹王女の遠乗りも、今回の夜会の警備配置も仲間に伝えていた。
そしてルークはその頭に向かいあった。
「ずっと隠れやがって、お前があの時死んでいればよかったのに」
「殺せ!」
暗闇の中で怒号と、剣があたる音が鳴り響く。
そして俺たちも応戦してようやくかたがついた。
団員たちが賊を縛りあげようとした時、ひとり俺の方に向かって走ってきた。手にはきらりと光る物が見えた。
アイザックが抵抗して逃げだした。そして持っていたナイフを俺の方に向かい、振り上げ、力いっぱい下ろした。
グサと鈍い音と共に誰かが倒れた。一瞬わからなかったが、俺に向けたナイフなのにその痛みがなかった。
するとルークが膝を突き倒れ蹲った。俺を庇いルークが刺された。
彼の右肩に刺さったナイフから流れる血が止まらない。
「早く、担架を!早くしろ」
「おい、ルーク!ルーク!」
「しっかりしろ!」
ルークを起こした時、俺の手にべっとりと鮮血がついた。
朦朧としたルークの眼が少し開いた。それは昔見たあの少女と同じ赤い眼だった。
直ぐに王太子がルークを城の王宮医務室に運ばせた。
血が止まらない。
ルークは黒い服を着ていたため、流れ出る血が服に吸収されてわからなかった。
読んでいただきありがとうございます。
ブクマもありがとうございます。
もうすぐ最終になります。
最後までお付き合いいただければ幸いです。