暗雲2
11
平穏かつ穏やかに過ごしていた矢先のことだった。
国王陛下が倒れた!
王室専属医師たちがかけつけ、すぐに対応した。食事をした後に突然倒れた。
どこの国の王室でも食事の毒見役がおり、食事はすべて毒見を行う。
いつものように毒見を行った毒見役は、何事もなかった。
その結果、医師たちが最近の体調不良が原因とし、大事をとりしばらくの公務をすべて取りやめに決めた。
今後はすべて王太子が代行することが決まった。
しかし、王太子は領地に行っていてしばらく帰れない。
そのため一時的に宰相に一任することになった。
宰相、武官、文官、上級貴族などが集まり、今後の検討をした。
以前、妹王女が遠乗りに行く際の事故も、まだ解決していない。
少し不満がでた。
若い王太子のためか、中には意にそぐわない古狸の貴族が多くいた。
これはどの国でも同じだ。
尋ねると、この国の王位継承権第一が王太子、次に姉王女、妹王女。バークレイ公爵、ドレッド公爵と続く。
しかし、血筋からすると別の公爵の方が王室に近かったが、公爵は随分前に王都を離れており、継承権も放棄しているそうだった。
また、姉王女は、体が弱く表に出たこともなく、妹王女は成人していない。
そのため二人の公爵が浮上した。だが、どちらも悪い噂が絶えなかった。
お陰で王宮内の雰囲気が沈むように感じる。今では図書館でルークとの話合いもなかった。
この間は、庭園を散策した祭、思わず昼寝をして飛んだ目にあった。
散策をしながら城の横側を通る。
この城は、庭園側に王族の住む私室があり、その下には地下室が備えられていた。
昔、火事がおこり城の一部が焼失してしまったので再建した。その時、貴重な絵画や美術品などが焼失していまった。そのためあまり城内には飾らずに、地下室に保管することになった。
しかし、長く地下に入れておくと、劣化の恐れがあるので、季節ごとや行事ごとに入れ替えをしていた。小さい国ながら、大国なみに保管していた。
庭園を歩いていると、前から誰かの話声が聞こえた。しかし、周りを高く壁のような生垣で覆われていたので、顔はわからなかった。向こうも俺が歩いているのを気づかず、だんだんと話声が近づいてきた。そして立ち止まった。
どうも数人の男たちだった。
(?)
一旦その話声が止まり、茂みがガサガサと揺れた。
「誰もいないな、王太子はまだ戻らないな」
「あぁ、そうだな」
「そろそろ頃合いだ。始めるか」
次の会議に・・・・と話が聞こえた。
俺は反対側の垣根に蹲っていたが、その場を離れようと立ち上がり歩き始めたとき、細い木の枝があるのに気づかず踏んでしまった。
「バキッ」
(しまった!)
すぐに前にある木に隠れた。
話をしていた男たちが、ガサガサと枝を手でかき分けて、顔と体を出しこちら側に踏み出した。
野兎が垣根の下から顔をだした。
「なんだ、兎か」
「ちっ、誰もいな、脅かすなよ」
そういうと男たちはその場を立ち去った。
木の根元に隠れた俺は、そこを動けずにいた。
危うく見つからずに済んだが、その男たちの声に聞き覚えがあった。
(なぜ?)
背中に冷たいものがすっと流れた。すぐに王太子に知らせないとと、俺はその場を後にして城に走り出した。
だが、俺は王太子にその知らせを伝えることができなかった。
その日の夕方、王太子一行が視察中に襲われ、行方不明になったと一報が入った。
そしてさらに悪い事が続いた。
国王陛下の毒殺を企てたとして、宰相が投獄された。
それもルークが投獄を命令した。
深夜に大広間で会議が開かれた。
国王、王太子不在のためこの国の舵取りがいない、さっきまで宰相が行っていたのに。
しかし、深夜ながらすでに面子が揃っていた。
その場でレニヴァンス公爵が先頭に立ち、会議を自分の方に有利に持っていき周囲を抑え込んだ。
後から聞いた俺は、苛立ちを隠せなかった。
廊下で会ったルークを見て思わず睨みつけた。
俺の顔を見た彼は、何事もなかったように歩きだした。
「ーールーク、お前・・・」
苛立った声で彼を呼び止めた。
立ち止まった彼の前まで行き、この間の庭園での事を聞こうと思った時だった。
騎士団長が俺を呼びに走ってきた。
騎士団長が来たため俺は黙ってしまい、その場は何ともいえない空気が流れた。
その空気を破って、ルークが踵を返してその場を後にした。
俺はなんとしても犯人を捕まえてやる。そう心の中で叫んだ。
騎士団長は何か感じとったのかそわそわしていた。
「殿下、すみません、イルヴァニア国王陛下からお手紙を預かっております」
「父上から?」
急用か。もうすぐ留学も終えるのに。今更手紙を寄越すなんて。国で何か起こったのか?
「あぁ、ありがとう」
騎士団長に礼をいい、俺は部屋に戻った。そしてテーブルにあるペーパーナイフで封を開け手紙を開いた。
開いた手紙は短く一言だけ書かれていた。
ー留学を終えて帰国するよう。
それだけだった。
読んで下さりありがとうございます。