市井の政策
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俺の留学もそろそろ終盤に入ってきた。
図書館での方も随分形になってきた。そろそろ市井を見に行こうと思っていた。
市井のことを王太子に話すと護衛に騎士団長を同行し案内させるといわれた。
俺はこの国が医療や教育にも力を入れているのを知って、案内を得られるのが何よりだった。
馬車の中で騎士団長から今から行く場所の話を聞いた。
市井は区域で分けられ、区域内一つに教会が建てられていた。
今回、騎士団長が案内してくれたのは、その中でも一番大きな教会だった。
馬車から降りると、教会前の庭では、数人の子供たちが遊んでいた。
親のいない子供、事情があるためここにいる子供などが共同生活をしている。
この教会には、下は赤子から上は15歳までいた。
尋ねたその日は文字を教える日だった。
教会の中に入るとシスターが子供に薄い紙とペンを渡し、自分の名前の文字を教え練習していた。
その横を通り、俺たちは院長に会うため院長室に向かった。
通された部屋には年配のシスターがいて、俺たちに挨拶をした。
「お久しぶりです。院長、こちらは隣国イルヴァニア王国のエドワード王太子殿下です。
この度、市井の視察のためこちらに伺いました」
「これは、このようなところにようこそいらっしゃいました。初めましてエドワード王太子殿下」
深々と礼をした。そう言って部屋の奥にあるソファに俺たちを促した。
「いや、突然の訪問ですまない。少し話を聞きたいのだが。こちらでは、子供たちに学ぶ機会を与えていると聞いたのだが、どのようにしているのだ」
「ええ、貴族のお嬢様方などが本の寄贈やバザーなどをしております。その一部でペンや紙を買い、読み書きを教えております。
子供たちは、いずれここをでなければなりません。ここを出て仕事が見つかることが出来る者はそうはおりません。
しかし、読み書き出来れば、仕事が見つかる可能性が高くなります。
それに道を誤らずに済みます。
これもルーク様のお陰です」
たしかに、いずれ教会を出て行かなければならない。すぐに一人で生活なんて出来ない。
しかし仕事が見つかれば露頭に迷う心配はない。
やはりルークか。あいつの考えはすごいな。
次に向かったのは教会から少し離れた場所だった。
広い公園の中に大きな建物が立ち、建物の外観は白く、病院か博物館のように見えた。
「団長、ここには何があるんだ」
馬車を降りて公園を通り、建物の玄関に向かった。
「ここは医療の一番重要を担うところです。
ここはルークが、今一番力を入れております。殿下が仰っておりました医療の研究をしているところです」
ドアを開けると中も白く清潔感があり、独特の匂いがした。すると奥から白衣に白い帽子を被るものが出てきた。
どうやら案内人らしく、挨拶をして俺たちを迎えて医療長の部屋に通された。
部屋はそれぼど広くなく、机と応接セットがあるだけだった。
ソファに座るとすぐに医療長が入ってきた。
「はじめまして、私がこの建物の責任者をしております。
ここは病院とは違い、病気を未然に防ぐ研究をしている場所です。
疫病などが出た時、すぐに対応できるように作られた機関とでもいえばよろしいでしょうか」
俺は彼の話を真剣に聞いた。
以前、近隣諸国で疫病が蔓延した。幸いなことに我が国には来ずに収束した。
しかし、このロワール王国は近隣諸国の中で被害が大きく、多数の国民が亡くなった。
「ええ、今思い出しても最悪の事態でした。当時、まだ私も医者になったばかりで何も出来ませんでした」
「では、どのようにして収束できたのだ」
医療長の話はとても重いものだった。
疫病が蔓延した時はまだこの機関はなく、街には病人が溢れた。
国王は、国中の医者を集め原因を調べさせた。その中の一人が、このままだとさらに病人が広ると言い、病人を一箇所に隔離するため教会に集めました。そこで集中的に治療をおこなったそうだ。
しかし、なかなか治療しても治ることがなく困っていた時、ある公爵が、近隣諸国にいる友人たちに手紙を出して助けを求めた。公爵の友人の一人がいる国で、その疫病に効く薬があるとわかり、その友人が国王陛下と交渉したそうだ。しかし、薬はとても高価だったので、国はもとより、公爵様自身が購入の資金を出してた。
おかげで病人全てとはいかなかったが、軽症の者はその薬で助かり徐々に収束した。
残念なことに、この疫病に公爵様もかかり亡くなった。亡くなる前に公爵家がこの医療機関を作り、そして公爵家の寄付で運営していた。
「公爵家はどうなった」
「わかりません。たしかグロブナール公爵家には、ご子息がいらっしゃたと思いますが、ご子息も亡くなったと聞いております。
今の公爵家がどのようなのかわかりません」
話が終わり、医療長は俺たちを内部を案内してくれた。一通り見回り城に戻ろうとした時、すれ違った者に眼が行った。同じように白衣に白い帽子と、そして鼻から下を白い布で覆っていた。
大きな深い碧色の眼が印象的な女性だった。
すると俺の後ろにいた医療長が彼女に話かけた。
「今日もいらしていたのですか」
するとその女性が立ち止まり挨拶をした。
「お久しぶりです。医療長様。しばらく来ておりませんでしたので、様子を見に来ました」
医療長が彼女に俺たちを紹介した。
「こちらはイルヴァニア王国のエドワード王太子殿下です。今、留学されてこちらに視察にいらっしゃいまして」
するとその女性が俺たちに挨拶をした。
「初めまして王太子殿下、この機関に勤めておりますルイーサと申します。
申し訳ありませんが、今急いでおりますので、これで失礼致します」
城に帰る馬車の中で、今日の視察は大変有意義だった。
早速、国王陛下に話、我が国でも検討しようと思った。
今回の留学が得たものが多く有意義だ。
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