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話合い

8


午後、俺はいつものように図書館にいた。

机の上に開いてある本の内容は頭に入らず、なぜかルークの姿が思い浮かんだ。

遠乗りからしばらく彼の姿を見ていなかった。


するとこちらに近づいてくる足音が聞こえてきた。

段々と足音が近づき、並んだ本棚から姿を現し、俺の前にたった。


顔を上げると目の前にルークが立っていた。

俺は驚愕し、思わず椅子からずり落ちそうになったが、なんとか体勢を保ち、そして自分を気持ちを落ち着かせた。

ルークはいつもの美貌をこちらに向けたが、少しだけ顔色が悪いように見えた。


「殿下、この間は大変申し訳ありませんでした」

俺は動揺を隠しつつ、すまして話した。

「い、いや、皆怪我もなく幸いだった。そういえばあれから会わなかったがどうかしたのか?」

するとルークは頷き俺を見た。

「ええ、急用で王都を離れておりました。殿下に説明せず大変失礼致しました。

 宜しければお話の政策などにつきましてお伺いしたいのですがいかがでしょう」

そう言って俺の前に座る許可を伺った。


久しぶりに間近で見る彼は、白い肌がいつもよりも白く、透き通るようだった。美貌は相変わらずで、彫刻のよう完璧な顔。眼鏡の奥の眼が鋭く見えるが、ふと微笑む顔はそれを取り払う。天井の明かり取りの光が銀髪に当たり輝く。


「殿下、今回の留学の目的は随分果たせましたでしょうか」

「あぁ、こちらの図書館の蔵書のおかげで、大分達成した。後はどのような政策が我が国に合うかだな」

それを随分考えてはいるのだが、まだ見つけることが出来なかった。


「ではどのようにお考えですか」ルークが直ぐに聞き返した。


王太子の考えを隣国の文官に話すことはまず無いが、彼なら正直に話してもいいと思った。

「他国より広い国土ではあるが、農地の作付けがあまり良くないな。そのところを改善したいし、自国に合う作物や新しい産業を見つけたいのだが、未だもって見つけられない」


そう話した俺の顔を真剣に見ていた彼は、しばらく考えから立ち上がり、奥の棚に向かった。

戻ってきた彼の手には地図を握り、そしてその地図を机に広げた。

広げた地図は隣国が全て描かれていた。

そして二人向かい合で座り、その地図を見渡した。

彼は顎に手を添えて考るようにじっと地図を見た。

「そうですね、たしかに」

地図には国土の大きさ、森、湖などの標示があるだけだった。


「殿下、殿下の国は国土が北までありますね。北には海があります。港は整備されておりますか。

そうであれば、その地域の港ではどのような物がとれるかご存知ですか」

尋ねられた俺は彼の問に答えられなかった。


するとルークが話始めた。

「もし、安定的にとれる海産物があるのでしたら、それを王都で販売するのはどうでしょうか。生で運ぶことは流石に難しいですが、港で加工して売るのはどうでしょう。しかし、皆が各自で加工すると、味や形のバラつきがでてしまいます。そのため品質が悪くなってしまうでしょう。


そこで組合を作るか、または商人を入れて作業は決まったところで行うのがいいでしょう。軌道にのれば種類を増やすのです。現地で販売をし、ここでしか買えないとなれば、人はここまでやってきます。人が来るとまた別の物も見たりとお金を落とします。人が動けばそこがまた栄るでしょう。その地域でも産業や新しい仕事の雇用が生まれます。

王都で買う場合は、現地より少し値段を上げて売るのです。

 しかし、真似て粗悪品もでてきます。それを防ぐのに、例えば王室御用達として特別許可を与えるなどの契約(ライセンス)や特許などを取る方法もあります。

また、海産物がとれるからと言って取りすぎては継続ができなくなります。取る期間を決めることが重要でしょう。

そうすれば枯渇も防げますし、排卵期間を知ることが出来れば養殖も可能かと、そこは研究しなければならないでしょうが」


こいつ天才かよ。

俺は彼の話を聞けば聞くほど興味深く、とても楽しかった。思わず深く頷いた。

するとルークが笑った。

「殿下はとても素直な方なのですね」

それを言われた俺は思わず赤くなった。

「そ、そんなことはない。君との話はとても楽しいし勉強になる。君は歳下だがとても博学だ。いったいどうすればそんな考えが浮かぶのか」

さらにルークが笑って言った。


「では作付けの方はどうでしょう。土壌の改良など土地改良をしたらいかがでしょうか。そうすれば今より随分作付けが良くなると思います。そういえば殿下はアーモンドという物をご存知ですか」

「アーモンド?」

「ええ、木になる実です。私もまだ聞いただけですが、その実はとても栄養価が高く、保存がきくそうです。

 多分、殿下の国の気候に合うかもしれません」

「そんなものがあるのか」

「ええ、たしか、ターリア王国にあったと思います。あの国より多分気候が適していると思います」

 俺は感心した。是非手に入れたい。

「それに、実をつける前の花がとても美しく素晴らしいそうですよ。薄いピンクや白色の花が咲き、とても綺麗らしく、私も見てみたいと思っているのです」

「では、国に帰って苗を植え花が咲いたら、君を我が国に招待するよ。そして一緒にその花を見よう」

 俺は真剣に言った。

真剣な話をしていても、そのキラキラだけ彼から滲みでていた。

それだけはなんとかならないかと俺は苦笑した。


「俺はクリストファー王太子殿下がうらやましいよ。ずっと君のような人が側にいるのだから」

するとルークはなぜか少し寂しそうな顔したように見えた。


「いえ、ずっとはいれないでしょう」

その返事を俺は驚いた。


えっ!

思わず眼を見開いて彼を見た。すると彼が言った。

「約束したのです。そしてその日がきたらこの国を出ようと」


約束?

だれと?

王太子と?


「私がここにいるのは約束を守るためです。それが果たせたら旅にでも出ようと思います」

そう言って部屋を見渡した。

なぜか刹那そうで俺は思わず言ってしまった。

「では俺の国に来ればいい。俺の側にいればいい」


俺の突然の言葉にルークは一瞬驚いた顔をしたが、何も発しなかった。


旅に出ようと言った時、俺はなぜか幼いころの家庭教師を思い出した。

そういえば彼はその後どうしたのだろう。今なぜか彼を思い出していた。

俺は、短期間の家庭教師だった彼のおかげで、今の俺がいると思っている。



ルークは俺に少しだけ自分のことを話してくれた。


彼は幼いころ父親の仕事で諸国を見て回ったという。文官になったのはその影響だと。連れられた国々で語学、歴史、経済を勉強し、その後国に戻り寄宿学校に入学した。優秀だったらしく飛び級して卒業後、王宮に入ったらしい。文官の仕事が合うのか能力を発揮し、今は王太子の右腕だ。

王太子にさえも自分の意見を言う。急速な革新は保守的な貴族たちには反発があるだろうが、国に利益が出ればぐうの根もでないだろう。味方も多いが敵も多くなる。あまりにも改革を急ぐと悪い輩もでてくるし、そんなことはわかりきってるだろう。


彼との話が尽きなかったが、騎士団長がルークを探していると騎士が呼びにきたのでこの話を止めた。


その後俺は早々に自国に合う作物を探すため本に目をやった。



読んで頂きありがとうございました。

また、ブクマありがとうございます。

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