表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

財布が落ちてた。

作者: ねーま

財布が落ちてた。

始めは「財布、誰か落としはったんやなぁ」くらいしか思ってなかった。お金に困ってない、ってわけでもないけど、落ちてる財布からお金盗ったろうとかそこまで落ちぶれてない。そのまま通り過ぎようと思ったんやけど、なんか振り返ってしまってん。それがアカンかったよね。今、思うと。


財布が落ちてた。

始めは「財布、誰か落としはったんやなぁ」くらいしか思ってなかった。でも、なんか振り返ってしまった。で、なんかわからんけど知らん間にその財布に近づいてずうっと財布を見つめてた。見つめてるうちになんか可哀想に思えてきて、家に連れて帰ってあげた。


財布が落ちてた。

可哀想やから家に連れて帰ってあげた。

外に捨てられてたから、汚いかなと思って玄関の所で「ちょっとここおっといて」って言って、洗面所で桶にお湯ためて、タオル持って来て玄関におる財布のこと拭いてあげた。そしたら財布が嬉しそうにこっち見てて、俺もなんか嬉なって「ごはん食べるか?」って聞いた。でも、聞いてみたものの財布ってなに食べるかわからんな、しかも、逆に食べたらあかんものとかもあるかもしれへん。一応、人様の財布やしなんかあったら責任取られへん。まぁ、でも相場はお金やろということで100円玉あげた。美味しそうに口に入れるの見て、「よかった、100円玉を美味しそうに食べる財布で」って思った。でも、一応「ごめんな、お札あげられへんくて、うち貧乏やねん」って言った。でもまぁほんまのことやからお札欲しい言うてごねられてもしゃーないんやけどな。そこから、お互いの孤独を埋め合うかのように追いかけっこしたり、ボールで遊んだりした。夜になってお母さんが帰ってきた。


財布が落ちてた。

可哀想やから家に連れて帰ってあげた。

ごはんあげたり、一緒に遊んだりした。

夜になってお母さんが帰ってきた。いつもより疲れてて、機嫌悪そうやった。だからいつもより元気に「おかえり」って言ってあげた。お母さん「宿題やったんか?」って、俺、「洗濯物畳んどいたから」って。宿題はやってないねんけどそれ言ったら怒られるからとりあえず良いことした方を報告する作戦やな。「なに、この財布どうしたん?」お母さん、聞いてきた。「道でな、拾ってん。可哀想やったから。なぁこの子飼っていい?」お母さん、機嫌悪いせいかな?「うちじゃ飼われへん。返してきなさい」ってめっちゃ怒られた。「いや、でも俺が面倒見るし、散歩も絶対俺が行くし、一生のお願い。」「アカン。財布なんか飼ってたらお金どんだけかかると思ってんの。うちは財布飼えるほど裕福じゃありません。もとあった場所に返してきなさい。」「こいつ、100円玉でも美味しそうに食べるねん。最悪1円玉で我慢させるから、面倒も俺が面倒見るからお願い。」「アカン。面倒見るゆうてもな、どうせお母さんに世話任せるねん。お母さんな、もう毎日いっぱい、いっぱいやねん。お母さんにこれ以上負担かけんといて。」俺、泣いてた。そのあと、財布連れてちょっと散歩して拾ったところに戻った。


財布が落ちてた。

可哀想やから家に連れて帰ってあげた。

ごはんあげたり、一緒に遊んだりした。

お母さんにこの子飼っていいか聞いたら、うちじゃ飼えないって。

財布拾ったところで、財布が悲しそうにこっち見てた。俺も悲しかった。親の反対を押しきれなかったこと。俺の無力さ。そして、こいつのこれから。俺たちはもっと仲良くなれたし、うちが貧乏でも愛してあげる誰かがいたらこいつは間違いなく幸せになれるのに。でも、俺は力がなかった。悔しかった。「ごめんな」俺は財布のこと撫でた。財布のチャックが風で揺れてた。俺は拾わんかったら絶対後悔する素敵な財布と書いた段ボールに財布をそっと入れた。お腹空かんように100円玉10枚入れてあげた。「1日1枚ずつ食べや。いっきに食べたらあかんで」もちろん俺のおこづかいからだ。来週のジャンプは買えそうにない。あと、家のクッションを段ボールの中に敷いてあげた。外でもゆっくり寝て欲しいからだ。家のクッションを持ち出したことについて後で、お母さんからめちゃくちゃ怒られた。「取りに帰れ!」って言われたけど、そこは2度と同じ悔しい気持ちを味わいたくなかったから抗えた。俺は財布のことを機に少しは強くなれたと実感した。財布との別れ際、「どっちがこれから幸せになれるか勝負や。負けたらあかんで。」って言って財布に背を向けた。振り返ったら絶対また家に持って帰ってまうし、涙が止まらへんようになってまうから。


そのあと財布がどうなったかはわからない。財布には悪いことをしたと思う。俺が拾うよりもっといい家の人に拾われていることを願う。俺はあの時、理解したことがある。優しくあるためには力が必要だと。そしてあの時、決意した。俺は強くなって、みんなに優しくできる人間になると。今の俺なら財布を拾っても幸せにできるだろうかと日々、自問自答している。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ