9.はじめの第一歩3
「確証はないが……」
そう前置きを置いて、彼は話した。
「この力を俺達に与えた連中は、俺達がこの力をどう使って、それがこの社会にどんな影響を及ぼすのかを知りたいんだ。きっとそうだ。つまり、これは一種の実験で、俺達はモルモットと言うわけだ」
「そうか。だとすれば、あんまり良い気分はしないな」
そう男が言った。
「何を言ってる!人間を超越した能力を得た俺達の秘める可能性は無限大だ!奴等は俺達が何をしようと止める術を持たないだろう。いや、何人もだ!この社会も、世界も!」
そう言って彼は両手を広げ、空を仰ぎ見た。
つもりだった。しかし、その目に映ったのは、人工物の鉄橋だった。
「不自由だったよな」
彼はそう呟いた。
「さて、今日は御開きにしようか」
そう言うと、彼は高架下から出ようとした。
「なぁ、よかったら、連絡先を交換しないか?今後もお互い相談とかできたら良いと思うんだが」
男が提案した。
「あぁ、いや、その必要はない」
次の瞬間、男の体に風穴が空いた。それは、まるで胸に見えない太い杭を打ち込まれたようだった。
「あんた……俺より年上なんだろうが、けっこう子供っぽいよなぁ。何て言うか、夢を持ってるんじゃないか、この社会に」
目の前の男を見て、少年は呆れ顔で言った。
「俺は到底あんたみたいなのと組む気にはなれない。もっと、確固たる意志を持ったやつでないと」
彼は淡々と冷酷に言葉を続けた。
「もう俺の方から言うことはない。あんたはどうだ?うん、無さそうだな。心配ない、この世はもうすぐ、あんたが抱いている夢よりもっと大きな夢が見れる世の中になる」
少年が目の前にした男は、胸を貫いた何かに吊るされたように力なくぶら下がっていた。吹き出した血は地面に水溜まりを作り、淀みとなっていた。その男の顔には既に生気がなく、絶望の表情で固められていた。男がその場に崩れ落ちた。吊るしていた何かが消えたようだった。
少年は意識を集中し、目の前のなにもない空間に火をイメージした。すると、瞬く間に炎が上がった。イメージを止めると、その途端に炎も消えた。
よし、火を起こすことが出来るようになったぞ。それにしても、俺の能力はイメージをしている間しか力を維持できない。他の能力者も同じかと思ったが、どうやらそうでもないらしい。
お前のお陰で、得難いものを得た。そして、お前の能力によって俺の可能性を伸ばすことができた。
それに、火を起こして維持するのにもイメージが必要だが、その火を何かに着火してやれば、そのまま火は持続するんじゃないか?
少年はそう思い立つと、目の前の男の遺体とその周りに意識を集中した。その場所にイメージしたとおりの大きな炎が上がった。少し時間を置いて、少年はイメージを止めた。
すると、炎は消えることなく、持続していた。それを確認すると、少年は考えた。
これは使える。僅かなイメージでも、大きな戦果を期待できる。そして、彼は満足した。
くるりと向きを変え、煙を上げ燃え上がる炎が照らす薄暗い高架下から、明るい日の光のもとへと足を踏み出した。その光の暖かさを感じとりながら、少年は目を輝かせていた。