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プロメテウスの福音  作者: 怯間 無男
第1章
6/52

6.福音5

 やはり、『消えたい』そう思った。


 次の瞬間、目の前が真っ暗になった。何も見えない。目の前に広がっているのは延々と広がる暗闇。

 停電?真っ先に思い浮かんだのはそれだった。違う!あり得ない。今は真っ昼間だぞ!そう思い直して、考える。

 1つ思いあたることがあった。失明?視力を失った?その可能性が高い。あの薬、とんでもない劇薬だった可能性がある。


 そう思い、絶望感が打ち寄せて来る。どうすればいい、これではもう自死することもままならない。クソ!どうすれば。治弥は、自分が軽率に怪しい薬に手を出したことを呪った。


『世界が変わることを願っていますよ』


 そう言った男のことを思い出す。

 あの糞野郎!その時、目の前が真っ暗になった瞬間のことを思い出す。あの瞬間、目だけではなく、体全体に何かが広がる感覚があった。

 なんだ、何が引っ掛かっている!落ち着け、考えろ。そう自分に言い聞かせ、あの時の状況を思い返してみる。


『消えたい』


 治弥はハッとした。消えたいと思った次の瞬間に闇に包まれた。ということは……。

 そう思い、彼は体に意識を持っていく。そして、さっき身体中に広がったものを消し去るイメージをした。


 その瞬間、暗闇が消え、もといた部屋の景色が蘇った。ほっと安堵して、泣きそうなほどの嬉しさが込み上げてきた。彼は、心の中で神様に感謝したほどだった。


 しばらくして、落ち着きを取り戻すと、治弥は考えた。

 どういうことだ?部屋からどこかに移動したのか?わからない。

 試しに携帯端末のカメラで自分の姿を動画に納めることにした。端末をテーブルの上におき、微調整をして、自分の全身が写るようにした。


 あの時の感覚を思い出せ、全身に何かが広がる感覚を。そうして、イメージを作った途端、またしても視界は暗闇に覆われた。そして、再び体にまとったものを消し去るイメージをした。すると、直ぐに視界はもとに戻った。


 治弥は少しの安堵とともに、すぐさま録画した動画を確認する。

 すると、画面の中では、自分の姿が綺麗に消え、その後再び元通り現れたのだ。体だけではなく、身につけた衣服も綺麗に画面から消えていた。

 やはり、姿を消すことが出来るってことか?それは間違いなさそうだ。


 しかし、消えている間はどこにいたんだ?どこか別の場所、あるいは全く動いていない?どうにかして確かめられないか。考えをめぐらした。

 身につけたものも一緒に消える、か。彼の頭に、1つのアイデアが思い浮かんだ。


 早速、ダンベルを片手に持ち、カメラをまわし、またしても姿を消した。そして、ダンベルから手を離した。すると、ガンっと音をたてて、ダンベルは地面に落下したようだった。

 よし。後はダンベルに触れられるかだ。


 そして、暗闇の中を手探りで地面に落ちたダンベルを探す。

 あった。ダンベルらしきものを探し当て、手でつかんで持ち上げた。そして、再び姿を現した。


 また、すぐさま録画した動画を確認する。すると、まず先程と同じようにカメラから姿が消えた。それも手に持っていたダンベルごと姿が消えた。そして、ダンベルを落とした瞬間、空中にダンベルが姿を現し、そのまま床に落下した。

 続いて、そのダンベルが空中に浮いて静止した。これはつまり、自分はどこかに移動したわけではなく、同じ場所にいながら、姿を消したというわけだ。そして、ダンベルを持ち上げたときに消えなかったのは、自分を包んでいたものの内側にいないと消せないためだろう。


「自由に姿を消す能力か」


 治弥はそう呟いた。とてつもない嬉しさが込み上げてきた。しかし、少し冷静になると、この能力の問題点が直ぐに浮かび上がった。


 姿を消している間は、視界がゼロになるということだ。なんとかならないものだろうか?姿を消すことと、視界が無くなること、どういう関係がある?それはつまり、光だ!俺の姿が消えた後、後ろの景色が見えていた。つまり、俺の体をスルーして、そのまま光は進んで反射、そしてまた、俺をスルーしてカメラに向かっていった。そういうことだろう。


 そして、俺の目に対しても同じことが起こった。目に光が入らなかったんだ。だから真っ暗になった。

 まてよ、と言うことは……。

 治弥は閃いた。自分は全身に何かが広がるイメージをした。だったら、両目の部分は空けておくようにイメージすればいいんじゃないか?


 高揚感が沸き上がっていた。希望を手にした実感があった。

 俺は力を手に入れたんだ。この力を使いこなせれば、俺はきっと何だって出来る。この社会を、この国を、この世界を変えることだって。そう思った。


 彼は、再び神様に感謝した。その目に入っていたのは、窓から差し込む太陽の光だった。



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