5.福音4
目を覚ますと、光の中にいた。
と思ったが、しばらくすると、いつもの見慣れた天井が目に入った。窓からは太陽の光が差し込んでいる。
この様子だと、今は正午近くだろうか。
そう思って目をやると、まさしく時計の針は11時50分頃を指していた。
よく寝た。それが最初の感想だった。次に沸き起こったのは怒りだった。
「クソが!」
そう言って、頭に手を当てて目をつぶった。少し落ち着きを取り戻し、冷静に考えた。
まず、注射器とアンプルを確認した。結果として、どちらもベッドの上に転がっていた。
どうやら、男に会って薬品を打った所まで全て現実らしい。そうすると……。
治弥は失望した。
騙されたんだ。安楽死の薬だと言って渡されたものは、偽薬だった。おそらく鎮静剤か睡眠薬みたいなものだったんだろう。どうりで直ぐに意識を無くさなかったわけだ。社会ってのがああいう奴等の溜まり場だということは知っていたはずだ。死体に群がるハゲ鷹め。彼は落胆したが、なんとか持ち直した。
しかし、ぐっすり眠れた。日付を見ると、意識を失った日から変わっていない。
昨日、注射を打つ前に確認した時間が0時20分頃だったはずだ。12時間近く眠っていたのか。
きっと、死んだように眠っていたに違いない。これだけよく眠れたのはいつぶりだろう?
そんなことを思った。それにしても。
「ぐっすり眠れる薬が2本で三万円とか、割りに合わねぇよ」
治弥はそう呟いた。
体を起こし、ベッドに腰掛け、足を床につけた。
これからどうするんだよ。そう思うと再び陰鬱な気分になった。