4.福音3
世界が変わる?これから死ぬというのに。
それとも、あの世に行くという意味かな?どっちにしろ、この世から苦しまずにおさらばできるのだから。
「悪くない」
そう呟くと、治弥はニヤっと笑い、久しぶりに嬉しくなって足取り軽く、帰り道を歩き出した。
自宅に帰ってから、水をコップ一杯飲んだ。最期に口にするのは水が良かった。自分の意識が驚くほどクリアに感じた。今ならさくっとやれる。そう思った。
小箱を開けると、中には液体の入ったアンプルと注射器が1つずつ入っていた。
それを取り出して、ベッドの上に移動した。これなら、意識を失った後、ベッドに横たわって息絶えることが出来ると考えたからだった。
そうして、左腕のポロシャツの袖をめくった。次に、アンプルに注射針を差し込み薬品を吸いとった。そして、左腕の肘裏の血管にプスリと注射針を差し込んだ。
さようなら。
そう思ってシリンジを押して薬品を体内に入れた。
驚くことに、直ぐに意識は失わなかった。注射針を引き抜いて、しばらくじっと待った。
『世界が変わることを願っていますよ』
そう言った男の言葉を思い出していた。願いか、そうだな、最期に願うなら。
『消えたい』
その瞬間、ぱったりと意識が無くなった。