生涯青春ここにあり!
桜咲く春。入学間もない学生たちがこれから始まる学生生活に胸を膨らませて瞳を輝かせていました――
「森田君、ネクタイがちょっとまがっているよ」
「え? そんなつもりなかったけどなぁ」
「ほら、直すから」
「あ、ありがとう」
森田君は同級生の籠村さんにきちんとつけてないネクタイを直してもらって、頬を赤らめました。
「何か余計に曲がった気がするけど……」
「そんなことないよ、私得意なのだから」
「うん、あ、チャイムが鳴った。急がないと」
「え? チャイム鳴ったの?」
「うん、ほら、急ごうよ」
「あ、うん、ありがとう」
森田君は籠村さんの手を引いて、教室へと急ぎます。今度は彼女が彼の優しいエスコートに頬を赤らめてしまったようです――
ここは田舎町の街外れに設立した「健康長寿学園」。中学でも高校でも大学でもない学校です。80歳以上で学に志のある人が入学できる学園です。
1年C組、朝のホームルーム、白髪の皆様に髪の毛が1本もない人もあつまってワイワイ話し合っています。
「失礼な!」
あ、髪の毛がちょっと少ない人も。
「同じことだろうが!」
えっと、スタイルがバッチシでダンディなおじ様もワイワイしています。
「それでよろしい」
これでいいのかよ? たいへんに失礼しました。さぁ、担任教師の先生がやってきました。これからオリエンテーションを受けて、生涯青春を駆け抜ける学生達が入学式に臨みます。
健康長寿学園で学ぶものは中等教育~高等教育のレベルで各科目になります。経験ある彼らにとって、もはや復習なのかも。国語が好きな生徒、体育で運動に励む生徒、各々が各々の青春を味わい、金の汗を流します。
「金の汗なんかでないわよ」
「そもそも汗がでるほど頑張るワケないし」
「ねぇねぇ、それより聴いて欲しい話があるの」
「え? どうかした?」
「隣のクラスの小林君のお孫さんを見た事ないなって思っていたらね、こないだお家からお相撲さんみたいな体型の若い男がでてきたのよ~」
「え? それってもしかしてニート?」
「かもしれないわよね~」
「ヤッバイ」
余計なお世話です。ちゃんと近所のデイサービスで働いている……らしいけど。近所の五月蠅いおばちゃんが延長しているね、このお二人は。そんな感じで朝と夕方のホームルームまえはお話好きな男子と女子でワイワイしております。
いっぽうでこっちのクラスはとっても静か。こちらのクラスは「特進クラス」というクラスで入試試験にて高得点をとった人達が集まるクラスです。こちらの皆さんは若かりし頃に学校教師やお医者さん、会社の社長からなんと国会議員になった生徒もいるという精鋭中の精鋭が集まったクラスであります。
もう授業が終わったというのに、皆さん熱心に本を読んでおられますね。あの男子は本の中にハ〇ンチな本を重ねていますけども。あ、担任教師がきました。
「はい! それでは朝まで生クラス会始めますよ!」
お、皆さん急に机と椅子を移動させて輪を作られましたね。担任は田原先生ということですが、なるほど。そういうことでしたか。まさか朝までするのですか? 皆さん若くないのだからほどほどにね。
さて、このあたりでは学級崩壊があるとのこと。ちらっと覗いてみましょう。
「お~い! 麻雀持ってきたぞ!」
遅刻してきた生徒。遅刻しただけでなく、とんでもない事を発言しています。
この教室は雑談が止みません。それどころか裕次郎のレコードが流れていれば、テレビで競馬中継が映っています。あ! あの席では遂に牌を揃えて男子4人で麻雀を始めました。お酒もとりだして意気揚々です。
「ヤハァ、イレハハホレヒャッタ。ホッヘ(やだ。入れ歯がとれちゃった。とって)」
嫌です。貴女がとりなさいよ。あ! 担任教師が遂にテレビとレコードを切りました! そうかと思いきやDVDプレーヤーを設置! これは今時のアイドルでしょうか? 急にハイカラな音楽番組が始まりました。
お! 担任教師がギャル3人組に叩きまわされています。ていうか普通に授業しないさいよ、貴方。ここにいたら僕も巻き込まれそうなので離脱します――
「どうだよ? バッチリだろう」
「いや、最後のダメでしょ。思いきり生徒会に睨まれるぞ」
「籠村さんの補聴器が外れていたじゃない。教えてあげなさいよ」
「イチイチうるさいな。もう撮り直しなんかしないぞ。腰痛いし」
「ワシだって腰痛いわ。文句言うでない」
「ていうか、このタイトル何とかならないの? 古臭くてセンス悪過ぎだわ」
こうして「健康長寿学園・放送部」の3人は今日も楽しく和気あいあいと番組製作に励んでいました――
∀・)読了ありがとうございました!ボク主催の「学校になろうコン」エキシビジョンで提出させていただいた作品になります。ええ、まあ、もしかしたらすごく不謹慎かもしれませんが、日本中の魅力的なおじいちゃん、おばあちゃんたちの楽しさが伝わればと思います。「青春」は年齢によるものではありません。あなたがそこに青春を見いだせば、そこに青春はあります。令和の世も楽しく駆け抜けていきましょう!