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詩を知る印  作者: デュマ
7/11

私はどこから来たのか、何者か、どこへ行くのか。



僕はその日空に登りたくて東京タワーに来ていた。


もう地上にいたくない。 へばりついて、狭いところに入り乱れて、建物に人をおびただしく詰め込んで、そのくせ空虚で。


都市は夢幻と幻想から創られている。

からくりだらけだ。


ああ、うんざりだ。人と人との無意味な合成。芋しかないのにスパゲッティーを作ろうとしている。どの組み合わせでも実現できない「組織」を造ろうとしている。


オイルサーディンのように詰め込まれた電車は可能積載量の実験でもしているのだろうか。奴隷船より多く早く。その目的は達成されている。それ以外の目的なんて無い。


コンクリートの四角い箱。独房の方が集中して仕事ができるのかもしれない。なぜ集める必要があるんだろうか、眺めていたらパスタがはやく茹で上がるのだろう。


東京タワーには多くの外国人観光客がいる。エッフェル塔の下手くそな真似と言われていようが、なかなか集客力はあるようだ。ああ、人は天に登りたいのだ。


蜘蛛糸が切れると分かっているのにエレベーターに殺到している。僕は堅実だから階段で上がることにした。人がいないところに行きたいのに、そこにも人が集まる。なんとも救いがない。


インターナショナルオレンジ色に何度も塗装されてきた鉄骨を見ながら登る。幸せなことに人はほぼいない。全ての建物に階段はあるのに、エレベーターやエスカレーターだけしか使えない新人類が最近は増えているらしい。科学的にも明らかだ。


美しいおぼろづきよ。中秋の名月。

鉄の網目から香っても、ライトが喧しくても、喧騒の風景が地上に見えても、排気ガスが悪い舌触りでも、月は優しくうつくしい。


エッフェル塔を見たくないならエッフェル塔に行け、とは良い着眼点だ。

僕は都市を見たくないから都市を眺めることにした。空の星は消えて久しいが、地上の満天の星々は夜景に映えている。



見えないからこそ美しい。


人は小さく粒となりどことなく可愛らしく。


車はおもちゃのように。


ビルは輝きにまたたいて綺麗な幾何学模様を描く。


においもこない。


タワーマンションが流行るのもむべなるかな。


でも振り向くと、展望台にはたくさんの人の群れ。小さな都市がまたここに在る。



ゴーギャンが都市の繰り返しに辟易しタヒチに赴いた理由がよくわかる。彼は成功した株式仲買人であった。景気とは都市の虚空のことなのだ。なにもないから膨らんだり萎んたりする。荘厳な寄生の現れ。景気が悪いと胃袋もしぼんじゃうんだろう?ああ、だからパスタはあんなに太さや長さが違うのか、イタリアの景気変動が激しかったからだな!



もっと上に登りたい。


しかし、ニーチェが言うように、我々は重力の奴隷なのだ。地球に縛られ、いくら登ろうともいつかは地面にへばりつかなくてはならない。バベルの塔はこの暗喩なのだ。


天に落ちていきたい。


かぐや姫は煌々と輝く月に落ちていった。天人なら重力に縛られない。人はついには月にたどり着いたが、重力がなければ体調を崩していくことに戦慄したに違いない。地球はなんとも嫉妬深い。



結局、地上から逃れられないのなら、人同士で集まり、凝集力を発揮し、人の間の万有引力を試す必要はないのだ。それは天体同士の高等なゲームなのだ。ヒトが、いくら組織を、建物を、塔を建てても虚ろであり言葉は分裂していく。いつかは崩れることが運命付けられており、人はごく一部の間でしかジャーゴンを維持できない。



自然に還れ。



田舎に行き、山に登ろう。

誰もいない山から見下ろす月はきっとまことにうつくしい。




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