1日目その1
生まれたこの方、誰よりも裏方に徹していたと私は主張する。
幼稚園、小学校の劇では背景の木の役を貫いた。中学、高校では男児ながらあらゆる部のマネージャーを兼部し、そのすべてを卒業まで勤めあげた。
いくら私が役目を果たそうとも私の存在が学校や世間で取りざたされることはなかった。残念無念とは感じない。ただ、裏方として正しい道――これを私は敬意をもって裏方人生と呼んでいる――を進めたとして自画自賛するだけだ。
そんな私は今では代書屋として生計を立てている。
それは何かというと、他人のラブレターやらファンレターやらを代筆するのである。手紙が中心だが、それ以外のものも、できそうであれば受け付けている。
つまり何が言いたいかというと、今変わらず裏方の仕事であるのだ。どんな人をも魅了する恋文を書いたところで、恋愛大臣に表彰されるわけでもなくただ依頼者の恋が実るだけだ。
悲観することではない。むしろこれぞ理想的裏方人生、とまだ道を踏み外していないことを誇りに思うだけだ。
まあしかし。こんな依頼が来るなんてことは思ってなかったわけで。
住んでいるマンションで私は真っ白な四百字詰め原稿用紙を前にうんうんと唸っていた。これがうら若い少女のラブレターや人生に疲れたリーマンの辞表なら既に完成しているころだ。
あとがき、を代筆してほしいとの依頼だった。おそらく皆さん後存知の小説などの最後の方にある、あのあとがきである。ようはゴーストライターになれということである。それもあとがき専門の。